めそめそからのサスペンス。
二時間サスペンスのBGMが流れそうな後半なんで、少々流血注意です。
真夜中テンションで惨殺しすぎて、書き直したので、何処か変だったら教えてください。
しばらく、私のもふもふな髪に顔を埋めていたリュートだったが、
「起こすって約束してくれたのに……」
と、拗ねた表情で恨めしげに訴えてきた。
うむ、可愛い。
衝動のまま、リュートの頭へ腕を回して、胸へと抱え込んでみた。
せっかく腕があるし、活用しないとね?
「お、俺、怒ってるんですからね?」
なんかリュートがゴニョゴニョ言ってるけど、それより周囲の視線が痛い。
そりゃ、そうか。
シリアル……シリアスな場面だったのに、バカップルみたいな事すれば、驚かれるよね。
反省しつつ周囲を窺うと、確かに見られていたが、視線の色というか、雰囲気が想像と違う人物がちらほらいる。
縛られて動けない下卑組は、当たり前だけど憎々しげな視線がほとんど。
リーダーな下卑Aは、相変わらずそういう感じな目で私を見ている気がするけど。
想像と違うのは、孫娘ちゃんとトラブルくんだ。
孫娘ちゃんは恋する乙女みたいなうっとり顔でこちらを見てるし、トラブルくんは美少年顔が台無しなギラギラした顔で見てきている。
うん、トラブルくんキモい。
あと、美少年顔っていっても、リュートの方が美少年だし? 可愛くて強くて優しくてカッコいいし!
誰も聞いてないだろうけど、内心で叫んでおく。
トラブルくんが見てきている理由は何と無くわかるけど、絶対嫌だから。理解なんかしたくない。
鳥肌が立ってるし、全力で逃げたくなる。
「ハルさん?」
もぞもぞしてたら、リュートを心配させちゃったみたいだ。
「なんでも……」
「あぁ、トラクですね? ……目を抉りますか?」
なんでここで急に察しがよくなるかなぁ。
一応リュートも男の子だし、理解しやすいのか? 違うか、私が関係するから、危機察知的な感じで察したのかな?
まさか、子供はコウノトリが……とか思ってないだろうし。
ぴろん。
『正解よ。ハルをイヤらしい目で見てるのに気づいたのね。あと、さすがにそういう行為に関して、多少の知識はあるんじゃない? 元お仲間に、お色気担当みたいな子もいたし』
いたね。リュートを狙ってたね。で、完全スルーされてたね。
リュートみたいな美少年なら、夜のお姉さん方からご教授って可能性もありそうだよね。
女神様からの相槌に気をとられていたら、リュートから頬を撫でられた。
「ハルさん? そんなに嫌なら、早速抉りますか? それか、戻りますか?」
「抉るのは却下だとして……戻るのはありかな」
抉るのを却下したら、リュートがしょぼんとしちゃったので、思わず許可しそうになるのをこらえ、私はもう一つの提案を口にする。
ケダマモドキな私にその気になる可能性なんて、約一名ぐらいしか思いつかないし。
(でも、どうやって離れ……)
「トラク、あとは任せた。俺は急用があるから、そいつらはトラクの好きにしてくれ」
しょぼんからの直球来たね。トラクも驚いてる。けど、すぐいい笑顔になったから、キモ怖い。
「あ、あぁ、こいつらの処分は任せてくれ」
あー、そういう事か。賞金首だってわかってるから、素直に頷いたんだね。リュートがしっかり縛ったから、抵抗もしないだろうし。
女(私)より金か……そういえば、女といえば、取り巻き三人は捕まってるんじゃ?
(リュート、仲間の女性陣はどうしたか気になるんだけど)
リュートにだけ聞こえるように、こっそり念話しておく。
初対面な私が突然質問したら、絶対怪しまれるよね。
「……そうですね、あとで確認しておきます。今はハルさんが優先ですから」
無駄にキリッと決め顔をしたリュートは、トラブルくんを振り返る事なく歩き出す。
私がちらりと目線だけを送った時には、トラブルくんは下卑達を立たせようとしてるとこだった。
ま、あそこまでリュートがお膳立てしたんだし、問題は起きないよね。
――ふりじゃないないからね?
(本当に、ふりじゃないって……)
私はリュートの肩でへたりながら、目の前の光景を見つめて、呆然と呟くしかなかった。
村の近くまでリュートに抱えられて戻った私は、そこで元のケダマモドキの姿へ戻る。
バレるとエヴァンに怒られちゃうから、トラブルくん達からはかなり距離をとらせてもらった。
それこそ、声も聞こえないくらいの距離を。で、トラブルくんのお仲間のことも気になったから、引き返してもらったんだけど。
まず、下卑達逃げていた訳じゃないよ?
きちんといたよ?
ただ、生きてなかった……ちっ、生きてるか。血塗れで気絶してるだけっぽい。
縄は解かれてて、逃げられただろうに、そのまま事切れてた。
『ハル、一応まだ死んでないわよ?』
ゆる女神様がゆるく突っ込んでくださるが、スルーしておく。
「ハルさん、見ない方が……」
(ありがと。でも大丈夫。私は一応モンスターだからね)
嘘とか誤魔化しじゃなくて、本当に大丈夫なんだけど、リュートは心配そうだ。
確かに血塗れで倒れている姿は衝撃的だけど、それだけ。死体じゃないし。
あれが、大事な相手……リュートとかエヴァンなら、うん、ヤバイな想像したくもない!
「ハルさん……」
(るーだいじ、ない?)
あ、駄々漏れたらしく、リュートがじーんっとした表情になり、ルーが悲しそうにぷるぷるし始める。
(もちろん、ルーも大事だよ! でも、ルーは血塗れにはならないからね)
血塗れルーは、想像したくても浮かばなかったよ。
返り血とかならあり得そうだけど。
(まま、るーすき?)
(もちろんだって! 大好きで、大事だよ)
もふ、むぎゅ、と抱き合う(?)私達を、リュートがほのぼのと眺めて――って、そんな場合じゃなかった!
(ねぇ、死体(未遂)の数が合わないんじゃない?)
ルーをむぎゅむぎゅしながら、私は周囲を見渡して、リュートを仰ぎ見る。
「え? あぁ、確かにそうですね。……トラクもいないし、あの少女もいないみたいですね」
(それと、下卑Aもいないみたいだね)
「げびえー?」
おっと、リュートには通じないか。
(私に変なことしようとしてた、悪いヤツのリーダー格)
「あぁ、俺が殺し損ねた相手ですね」
リュートがきらきら笑顔で殺意をばら蒔いてるんだけど、どれだけ恨まれてるんだよ下卑A。
と言うか、私愛されてるねー。
内心棒読みでやけくそ気味で呟いてみた。
私には怒れないから、怒りの行き場がないんだよね、きっと。
あとで、いっぱい甘やかしてあげるから、機嫌を直して欲しい。
(あいつ、魔物使いらしいから、モンスター呼んだのかな?)
とりあえず、目の前の状況へリュートの興味を移そうと、思い出した事実を告げてみる。
「魔物使い……で、急に増えたゴブリンの襲撃……もしかしたら、襲ってきたゴブリンは……」
私の言葉を聞いてハッとした表情になったリュートは、ぶつぶつと呟きながら私をガン見してる。
リュートの推理は、私も的を射てるんじゃないかと思う……って、なんでガン見されてるんだろ。
「ハルさん……」
唐突にギュッと抱き締められた。
意味不明なり。
しばらく、もっふもふと顔を埋めてきたリュートに匂いを嗅がれた。
さらに意味不明だよ、リュート。
「……ごめんなさい」
数分して、ようやく私から顔を上げたリュートは、少し泣きそうな顔をしていた。
「魔物使いだって聞いて、俺と違って本職なら、ハルさん盗られちゃうんじゃないか、って不安になりました」
(……そっか、でも心配しないでいいのに。私はリュートが好きだから一緒にいるんだよ。あんなヤツについていこうなんて、世界が終わってもあり得ないから)
「良かった……」
私を見つめて笑うリュートを、今度は私がガン見しちゃったよ。
どうしよう、きゅんきゅんで悶え死にしそう。
涙目で儚く笑うなんてスキル、何処で覚えてきたの、リュート。
恐ろしい子って……まぁ、冗談は置いといて、リュートの機嫌も直ったみたいだし、血生臭い現実と向き合おう。
(……まさか、トラブルくんと下卑Aが手を組んだとか?)
「トラクに利益はありそうですが、トラクは犯罪には手を貸さないと思いますよ? そういう点は真面目みたいですし」
そういう点は真面目って。リュートが言ったんじゃなければ、嫌みだな、これ。
「それに、手を組んだとしたら、彼らが殺された理由がわかりません」
私に釣られて、リュートも下卑組死んでる扱いだね。
突っ込む必要はないかと、気にせず私はリュートの意見に体全体で頷いて同意しておく。
(そっか、そうだよね。皆で仲良く逃げ出せばいいだけだもんね。あ、じゃあ、俺の女に手を出しやがって、みたいな感じでトラブルくんが……)
「それはありえそうですが、今度は縄が解けてる理由がわかりません。トラクが縄解いたなら、抵抗されそうですし、やっつけた後に縄解く必要はないような気が……」
(あー、そうだね)
見た感じ、剣で斬ったから解けた感じじゃないし、下卑組達はまるで安心したとこを襲われたみたいに、抵抗した気配がない。
あーでもない、こうでもないと私とリュートが話していると、ルーがぷるぷると高速で震え出す。
(まま、たべう、らめ?)
死体予定を見て、食べたくなっちゃったか。
スライムって、もともとそういう生態だから仕方ないけど……。
(あれは駄目。もう少し我慢出来る?)
(ちあうのー、ごぶりー、たべう!)
聞きました? うちの子、頭いいでしょ? 私があんまり人間を食べて欲しくないって学習したんですよ?
我慢を覚えたルーが可愛くて、内心でゆる女神様へ向けて叫んでたら、反応が遅れた。
(って、ええ? リュート、ゴブリンいるみたい!)
慌ててリュートへ伝えるが、すでにリュートは剣を抜いていて、ルーもぶぶぶと戦闘準備バッチリだった。
「残念ながら、もう気付かれてるみたいですね」
美少年顔に似合わない男らしい表情で笑ったリュートは、私へ軽く頬擦りをしてから、気配を感じるらしい方向へ剣先を向ける。
その凛々しい立ち姿に油断はない。
男前でちょっとドキドキしたのは内緒だ。
女はギャップに弱いから仕方ないよね?
あ、ちなみに、ゴブリンがいくら来ようが、リュートとルーがいるんで、まーったく恐怖はないんで!
私はいつも通りリュートの肩にしがみついときます。
そろそろ本気でガラケーから移行しないと不味いかな、と思いつつ、ガラケー打ちやすくて離れたくないんですよね。
感想いつもありがとうございます。
返信は出来ませんが、全て目を通させていただいてます。
これからもよろしくお願いいたします。




