リュート腹黒疑惑?
合間を見つけ、ポチポチ書いてます。
ガラケーな私は、いつ使えなくなるんだろとドキドキです。
亀より遅い筆の進みですが、書くことは止めてないので。
(食べ過ぎた〜……)
(ぷぅ〜……)
「まさか、部屋の家具一式、出てくるとは思いませんからねぇ……」
そんな事を話しながら、私達は本日の野営場所を目指し、歩いていた。
ま、リュートが、だけど。
私とルーは、相変わらずリュートの肩で落ち着いている。
食べ過ぎたのは気分で、食べろと言われたら、私もルーもまだまだ食べられると思う。
私もルーも、食べたというか、吸収したモノは、魔力とかに変換してるっぽいし?
途中某黒光りする害虫出現で、ちょっと修羅場ったけど、某黒光りする害虫は、すぐにルーが美味しそうにモグモグ溶かしてた。
私は生き物を吸収出来ないけど、ルーは問題なく吸収出来るから、心強いよねぇ。
嫌悪感なく微笑ましく見ていられる辺り、私の思考はもう完全にモンスターなんだろう。
人だった頃なら、アレの姿を見ただけで悲鳴上げてたし、生き物を生きたまま溶かして食べるなんて! みたいな薄っぺらい同情もしたかもしれない。
話は変わるけど、私とルーがお腹いっぱい風なのは、割れた皿とかを綺麗に片付けた私達を見たおばちゃんが、使えてない部屋を片付けてくれと頼んできたから。
入ってみてビックリしたけど、その部屋は嵐が通り過ぎたみたいにぐちゃぐちゃだった。
全ての家具が傷だらけで再起不能。
たぶん、剣とかで斬りつけたっぽい。
砕けてるから、戦斧とかなのかもしれない。どっちでもいいけど。
「これは、いったい……」
リュートが思わずといった風に呟き、私は無言で部屋を見渡す。
意味がわからない。
血とかは無いし、モンスターの襲撃とかではなさそうなんだけど。
「まぁ色々あってね。ちょっと家具を片付けたくなったんだよ」
「あー、そうなんですか」
あからさまに嘘っぽいおばちゃんの言い訳にも、リュートはニコニコと笑って納得している。
ん? でも、何かいつもよりキラキラ感が少ないような?
「ハルさん、ルー、大丈夫ですか?」
(大丈夫だよ、任せて)
(じょぶ、せてー)
一瞬リュートへ抱いた違和感は、ルーの拙い口調の愛らしさで何処かへ消えた。
可愛いは正義だと思う。
で、頑張って壊れた家具を片付けた私とルーは、お腹いっぱいになったという訳だ。
「でも、あの部屋一体何があったんでしょうね」
(明らかに誰か暴れた……って、気付いてたの!?)
あまりにビックリし過ぎてリュートの肩から落ちそうになったけど、リュートがキャッチしてくれた。
「危ないですよ? ……一応冒険者の端くれですから、武器で壊したのぐらいは見てわかりました。でも、おかみさんは触れて欲しくなさそうでしたから」
やんわり困ったような笑顔のリュートも可愛い……じゃなくて、リュートが気遣いの出来る素直ないい子に進化した?
「俺の勘違いかもしれませんが」
(私もそう感じたし、そうなんじゃない?)
自信無さそうなリュートに同意しつつも、私は内心混乱中だ。
いや、混乱中なのはともかく、リュートは元々気遣いの出来る子だから。
ただ、いい子過ぎて、色々と空気とか、悪人のお約束とかスルーしちゃうだけ……じゃなかった?
もしかして、演技完璧な真っ黒ちゃんだったとか?
ハルさんもそうおっしゃるなら云々……そんな事を言ってるリュートの笑顔は相変わらず可愛らしく、真っ黒な要素は見えないんだけど。
ぴろん。
女神様からの緩い着信音で、ハッとした私は、慌てて半透明のウィンドウに浮かぶ文字を追う。
『大丈夫よ。リュートは野性の勘で、自分に悪意のない善意の嘘を見抜いただけだから。
ただし、ハルが言ったなら、どんな荒唐無稽な話でもリュートは信じると思うわよ』
安心した。
安心したけど、どうせなら自分へ悪意を向けてる嘘も、野性の勘で見抜いて欲しい。
「ハルさん?」
動かなくなった私を、小首を傾げて見つめてくるリュート。
うむ。問答無用に可愛いし……じゃなくて。
(……私だって、たまには嘘吐くかもよ?)
無邪気なリュートが、何と無く恨みがましくなってしまい、私は少しだけ意地の悪い台詞を呟いて――。
リュートの言葉を聞いて後悔する。
「ハルさんが言ったなら、どんな嘘だろうと俺にとっては真実ですから」
信頼が重くて、嘘とか冗談とか言える空気じゃないよね。
これが計算じゃないとこが、リュートのすごいところだよね。
普通の神経を持った人間なら、罪悪感とかで絶対リュートを騙したり出来ないよ。善意ならともかく。
それを普通に騙して唆して罵倒し続けたボンボンって、ある意味強者かもしれない。
一ミクロンぐらいは感心したよ。
一ミクロンがどれくらいかはわからないけど。
(……この辺でいいんじゃない?)
ボンボンを思い出したらムカムカしてきた私は、一瞬感心しちゃった自分を心中でぶん投げて、何事もなかったようにリュートへ提案する。
「そうですね。真新しい柵ってことは、ここが破られた場所みたいですし、民家とも離れてますから、村の方を巻き込む心配もなさそうですから」
キラキラとした眼差しで感動してくれるところ悪いんだけど、実は適当に言ってみただけなんだよね。
リュートの丁寧な説明聞くと、ちょー納得って感じなのが怖い。
私のモンスター的な野性の勘でも働いたか?
言われてみれば、木で出来た柵は真新しいし、民家とも離れてて、数本生えた木は、いい感じで村側からの目隠しの役目をしてくれている。
畑らしき場所もあるんだけど、踏み荒らされてるし、襲撃を受けた場所であるのは明らかだ。
ゴブリンの狙いは主に食べ物らしいし、まだ作物があるこの辺は狙われる可能性が高い……ような気もする。
畑の脇には、小さなボロい小屋。
ボロいけど小屋には破壊された様子はなく、中に畑を耕す用具ぐらいしか入ってなかったから、ゴブリンにスルーされたのかもしれない。
その小屋の陰にリュートは身を隠し、キョロキョロと周囲を確認している。
「ここなら目立たないですし、周りも見易いですね」
(そうだね)
私もリュートを真似て、キョロキョロしてみる。確かに、リュートの言う通りだ。
「じゃあ、ここにしましょう」
私も異論は無いので、ボロい小屋の陰で、私達は見張りをすることにした。
特に何事もなく陽は傾き、辺りは夜の帳に包まれた。
トラブルくん達は帰ってきたのか、あおか……げふんげふん……まだ肉体言語で会話中なのか、まぁどうでもいい。
さすがの私とルーでも、声は聞こえないし。確かめたくもない。
と、周囲を警戒してると、私を抱いたリュートがうつらうつらしているのに気付く。
(リュートは少し休んでていいよ。私とルーで見張ってるから)
「でも、それじゃ、ハルさんとルーの負担が……」
(私とルーなら平気だよ、昼寝したし)
ね? とルーに振ると、ルーはぷっと短く鳴いて、気合十分なようだ。
(ゴブリンなら、ルーは負けないし、人間とか対処出来ない相手が来たらリュートを起こすから。休める時に休んどかないと、いざという時動けないかもよ?)
「……少し休んだら交代ですからね?」
私を説得するのを諦めたのか、リュートはしゅんとした表情で念押しして、ボロい小屋に背を預ける体勢で座り込んだ。
(ん)
気が向いたらね、と心中で付け足した私は、まだ不服そうなリュートの顔を、もふっとお腹辺りで覆ってしまう。
「……は、はるさん、らめれす」
リュートの抗議の声は、あっという間に聞こえなくなり、やがて穏やかな寝息へ変わる。
パブロフのわんこ的な条件反射なんだろうけど、少しリュートの将来が心配になった。
(何か、簡単に誘拐出来そう……って、違う違う! 勘違いだからね?)
で、思わず心の声を駄々漏れさせたら、寝落ちしたリュートが私誘拐案件発生かと瞬時に狂戦士モードで覚醒してしまい、私は大慌てで全力否定する羽目になった。
(私とルーが見張らなくても、リュートなら何とかしそうだよね、ルー)
(ぷ。りゅ、つおい、ちょとこあい)
リュートをもう一回パブロフのわんこしてから、私とルーは見張りをしつつ、もふもふぷぅぷぅと小声で会話中だ。
小声でって言っても、念話な私達には気分的なものでしかないけど。
ま、見張らなくても大丈夫な気はする。
リュートなら何とかしそうなのもあるけど、さっきリュート殺気全開になったせいか、周囲がとんでもなく静かなんだよね。
野性動物の声も気配もない。
ましてやゴブリンの影も形もないんだ、これが。
昨日は大活躍だったルーも、物足りなさそうにぷるぷるしてる。
平和で何より……って、何か、聞こえる?
女の子が泣いてるような?
一瞬、トラブルくん達があはんうふんな事してる声かと思ったが、本当に泣いてるみたいだ。
(ルー、ここお願いしていい?)
モンスターとか危険な野性動物の気配はなさそうだし、リュートは起こさなくても大丈夫だろう。
それに泣き声が聞こえてくるのは森の方。こんな夜に森の中で女の子が泣いてるなんて、もしかしたら襲われたのかもしれない。
そうだったなら、いくら可愛い美少年でも、リュートは男だから怖がられるかも、と数秒で考えて私は、ルーに留守番頼み――。
「おかしくない、よね?」
人型へと変型(?)し、くるりと回って見せると、ルーからは、ぷ! と力強い一鳴きが返ってきた。
ちなみに通訳すると、
(らいじょぶ!)
と簡潔な答えだ。
もちろん私は裸族ではなく、旅装に相応しい簡素で丈夫、白と茶が主体の普通のワンピースっぽい服だ。
人型でも防御力に定評がある私は、生足が覗いていてもダメージはないから、ワンピースの裾からは白い足が見えてるね。
で、靴はちょっとゴツいブーツ。
武器はないけど旅人っぽいよね、と内心で呟いた私は、リュートとルーを一撫でしてから、泣き声の主を探すため歩き出した。
やっぱり人型は歩きにくいなぁ、と後悔しつつも、可愛い女の子が泣いてたら、と心配になった私は最短距離で森の中を進んでいく。
鋭い葉っぱとか枝とかバシバシ当たるけど、全然平気なんだよね、これが。
別に私はケダマモドキの姿でも構わないけど、泣いてる女の子と意志疎通出来ないのは困るから。
「誰かいるの?」
敵意がないのと、こちらの性別がわかるように声をかけながら、私は迷わず声の発信源へ向かう。
「……ここ、よ」
応えるのは、弱々しく震える幼さの残る声。
当たって欲しくない予想は、当たっていたのかもしれない。
私は重い気分を抱えながら、声の聞こえた辺りの茂みを掻き分け……って、あれ?
目の前にあった光景に、私は状況も忘れ、思わず首を傾げる。
そこは切り株があり、少し開けた場所だったんだけど、座り込んでいる女の子に見覚えがあったから。
「村長さんの孫娘ちゃん?」
鑑定してたから覚えてた。
名前忘れたけどね。(ドヤァ)
さすがに孫娘呼ばわりは不味いんで、ちゃん付けしてみた。
でも、この子って確か、トラブルくん達とあはんうふんな事しに行かなかったっけ?
もしかして、孫娘ちゃんには、そんな気はなくて、トラブルくんに襲われて逃げてきた、とか?
あり得すぎて怖い。
「よかったわ、あなたが来てくれて」
そうだよね、男は怖いよね、狼なんだよね…………え?
心の中でうんうんと同意しながら、私は孫娘ちゃんの傍へしゃがんだんだけど、ナイフ突きつけられてる?
なんで?
「刺されたくなければ、ついてきて」
何故だか、脅されてるし。
恐怖心――からではなく、びっくりし過ぎた私は、ナイフで刺されても平気な事も忘れて、孫娘ちゃんの脅迫へ従ってしまう。
思い出した時には、目的地へ着いていた。
待っていたのは、縄で縛られたトラブルくん。
意味がわからないんだけど?
腹黒疑惑、あっという間に晴れました。
ハルさん、ピンチ?
まぁ、展開は皆さんの予想通りなるでしょうが。
少しは早めに次回をあげたいです。
ガラケー使えなく前に。




