カナ村到着。
とんでもなく間が空いてすみません!
カナ村到着です。
忘れられてそうですが……。
「いやー、助かったよ」
色んな意味で。と小さく付け足して、もう一台の馬車の御者のおじさんは、ルーにおやつをくれ、ガタゴト去っていった。
「良い事すると、気分がいいですね」
にっこにこな笑顔のリュートに対し、馬車へ乗り込むトラブルくんは、かなりの仏頂面だ。
ま、私は気にしないけど。
(うん、イイコトすると、気分良いよねぇ)
(ぷ)
私の言葉の真意がわかるのか、ルーはつぶらな瞳で見つめてきながら、短く鳴いて同意してくれてる。
本当にいい子に育っているようで何よりだ。
「ハルさん、行きましょうか」
(はぁい)
(ぷ!)
ルーは私のもふもふ内へ戻り、お休みなさいの体勢だ。
私はリュートの肩へ落ち着き、リュートは御者のおじさんの隣へ腰を下ろす。
再び和やかな旅路が始まる。
え、後ろ?
ギシギシ、あんあん聞こえますが、気のせいです!
(体力ぱねぇな)
「ぱね?」
まだまだ聞こえてくる後ろからの物音に、思わず乱暴な口調で呟くと、すかさずリュートが可愛らしく反芻する。
うむ、可愛いけど、リュートが覚えちゃったら厄介だから、自重しよう。
「さぁ! もう少しでカナ村だぞ?」
御者のおじさんが、わざとらしく大声で告げると、後ろからはガサゴソと衣擦れの音が……。
ま・さ・か? 脱いでたのか?
トラブルくん達は、いざという時、素っ裸で飛び出す気だったんだろうか?
リュートがいなきゃ、絶対に何度か襲われただろうし、馬車も。
危機感無さすぎるだろ、リュートとは違う意味で。
まぁ、素っ裸でも気にしない人種なんだ、きっとそうだろう。
「は、ハルさん、そんな大胆な……」
微妙に駄々漏れたのか、リュートが頬を染めて、ギュッと私を抱き締めてくる。
たぶん、私が真っ裸になると思ったんだろうな。
でも、ケダマモドキな私が真っ裸って、もふもふ刈るのか? と言うか、存在消えるんじゃない?
某懐に入る系なモンスターのゲームの、蔦の集まりみたいなヤツの同類みたいな感じだし、私って。
それとも、全体的に小振りになるとか?
その場合、人の姿になったら幼女なんだろうか? いや、普通に考えて短髪か。
あと、リュートは照れてるけど……。
(リュートもエヴァンも、裸族だよね)
一応乙女な私の前で。
リュートがあうあうしてるから、これ以上突っ込まないであげよう。
(るー、らぞきゅ?)
(ルーは違うかな)
寝惚けたルーの問いを軽く否定し、私はリュートの肩へとしがみつき直す。
落ちたりはしないけど、一応念のためだ。
木々の間から見えるのは、いかにも村って感じの素朴な木と石で出来た家並みだ。
その村の周囲は、簡素だけど頑丈そうな木の塀で囲われている。
頑丈そうって言っても、ダンジョンが近くにあるノクとは比べ物にはならない、かな?
まぁ、そこまでヤバいモンスターも出ないんだろう、普段は。
今回は、数が多くなって……あれ、そう言えば。
(ごぶりーって、どんなモンスター?)
馬車から身軽に飛び降りたリュートへ訊ねると、コテンと不思議そうに首を傾げられる。
うむ、リュートの髪はサラサラでいい匂い……じゃなくて。
「あ、もしかして、ゴブリンのことですか? ゴブリンは知能が高くて、繁殖力が高いのが厄介なんですよ。一匹見たら、五十はいると思えって格言があるくらいですし」
一匹見たら云々って、ゴキブリみたい。
それより、いつの間にかルーの言葉がうつっちゃった方が重大かも。
ゴブリンにラブリー要素は無さそうだし。
「体型は人に近いですが、肌は緑色してて、耳は尖ってます。身長は俺の腰ぐらいですね」
私の動揺なんて知らないリュートは、自分の腰辺りで手のひらを下へ向けてヒラヒラさせて、ゴブリンの大きさを教えてくれている。
(裸なの?)
「ぼろ布みたいな服を着てま……「またその毛玉と話してるのかよ!? 依頼人の前ではするなよ? パーティー組んではいなくても、同類と思われたくないからな」」
リュートの台詞は、背後からやって来たトラブルくんに遮られるが、リュートは気にした様子もなく困った様に笑う。
そんなリュートの脇を、無駄にくっついたトラブルくん達が通りすぎて行く。
すれ違い様、トラブルくんは鼻で笑い、女性陣はホントホント、とか嘲笑いながら遠ざかる。
「……俺、ハルさんと話したら駄目ですか?」
(依頼人の前じゃなきゃ問題ないでしょ? 最悪、質問ぐらいなら、頷いたりとかで会話可能だし)
私が、肩を竦める代わりに、もふっと膨らんで答えると、しゅんとしていたリュートの顔に一瞬で笑顔が戻る。
うん、リュートには笑顔がよく似合うね。
(さ、また怒鳴られたら嫌だから、行こ?)
「はい!」
きびきびと歩き出したリュートに比べ、前を歩くトラブルくん達は何かお疲れだ……って、当然か。
こいつら、何しに来たんだ、何しに。
ナニか、ナニなのか?
おっと失礼。下品過ぎたね。
一人で真っ黒く笑んでいると、いつの間にか家の中にいて、ザ・村長って感じのおじいさんが目の前にいた。
「ハルさん、撫でたいそうなんですが……」
(どーぞ?)
一応鑑定したけど、ザ・村長なおじいさんは村長さんで、親近感を覚える白ひげを揺らして笑っていて。
おじいさんの表情には嫌悪感の欠片もなく、リュートから許可をもらうと、私のもふもふを遠慮なく撫でてくる。
「ほぅ、これは、まっこと素晴らしい毛並みじゃな」
気に入ってもらえて何より……ん? 何かトラブルくん達、人数増えてないか?
おじいさんに撫でられながら、しかめっ面をしているトラブルくんの周囲を確認する。
やっぱり一人多い。
面倒臭いので、手っ取り早く鑑定した。
結論は、単純過ぎ。
増えていたのは、カナ村在住の少女だ。
こんな田舎にしては、なかなかの美人。
気が強そうな見た目で、私美人でしょ? 感が、態度からも鑑定結果からも透け透けだ。
どうやら、分かりやすくトラブルくんにオチたらしい。
取り巻きに加わっちゃってるよ。
ちなみに、村長なおじいさんの孫らしい。
「依頼はゴブリンの巣の破壊でしたよね? すぐにでも俺達が終わらせて、あなた方を安心させますよ」
無駄に爽やかな笑顔を浮かべたトラブルくんは、私達を置いてきぼりにし、村長さんの家を出ていく。
だいたいの場所とかはわかってるんだろうか?
村人に話を聞くのは、ロールプレイングではお約束だと思うけど。
まぁ、孫娘もついてったから、大丈夫か。
「ほっほっほ。ずいぶんと気が短いのう」
まだ話は終わっとらんが、と呟いた村長さんに、
「すみません。トラクは皆さんを早く助けたくて焦ってるんです。行きの馬車の中でも、ガタガタ貧乏揺すりしてたみたいですから」
と、いい子なリュートがフォロー(?)してるんだが……。
ギシギシ、聞こえてたんだね、リュート。
勘違い訂正したいけど、したらしたで、じゃあ何してたんですか的な質問来るよね?
ナニなんだけどさぁ。
「わしが脱線したのも悪かったのう。つい、手が引き寄せられてしまったわい」
「ですよね! ハルさんの毛並みは本当に素晴らしくて……」
ひとしきり私談義で盛り上がったリュートと村長さんは、その後きちんと情報をやり取りしていた。
トラブルくんは、貧乏揺すりしていたってことで、もういいか。
別に影響はないし。
「どうしますか、ハルさん。早速、巣へ向かいますか?」
(一応あいつらと足並み揃えた方が……)
村長さん宅を後にした私達は、そんな会話をしながら村の中を歩いていたんだけど……。
視界の端に、さっさと出ていったはずのトラブルくん達を見つける。
やっぱり巣へたどり着けなかったか、と一瞬思いかけたが、よく見ると村長さんの孫娘も一緒だ。
トラブルくんは、美少年顔が台無しになるような脂下がった笑顔で、四人の女性を侍らせて、人気のない方へ消えていく。
ナニをする気か、悟ったよ。
「あ、トラクですね。俺達も一緒に」
無邪気に声をかけようとするリュートを、全身で顔面を覆って止める。
モゴモゴしてるが、リュートは何か嬉しそうだ。
ちょっと複雑な気分だよ、私は。
(あちらはあいつらに任せて、私達は反対側を見て回ろう? 今からじゃ巣へたどり着けても夜中だろうし、今日は周囲を警戒でいいんじゃない?)
「そうですね。いざという時のために、下見もしておきましょう」
いやー、リュートはたん……げふんげふん。リュートは素直ないい子で良かったよ。
向こうも、地元民な孫娘がいる訳だし、危険な場所には行かないだろ。
することは、ナニな訳だろうし。
しかし、トラブルくんは、命の危険でも感じてるんだろうか。
命の危機とかあると、子孫残さなきゃってことで性欲増す、とか聞いたような気も……。
じゃなきゃ、依頼を受けて来てるのにおかしいよね?
おかしいと思う私がおかしい?
(リュート、えぇと、ムラムラとか、する?)
「村々……? 確かにここはカナ村ですけど」
うん、ごめん。
聞く相手を間違ったな、これは。
純粋で澄み切った眼差しが痛いぜ。
(ソウダネ、ナンデモナイヨ)
返事が片言になったぐらいは、許して欲しい。
リュートのキラキラとした眼差しを避けながら、私はぼんやりと空を仰ぐ。
あとはエヴァンだけど……。
『あぁ、そうだな。ムラムラするぜ』
あー、ヤバいな。
想像しただけで、ピンクな展開が見えるのは、気のせいかな?
ま、気のせいか。
そうだよね、私はもっふもふなケダマな訳だし。
ノクに帰ったら、とりあえず聞いてみるか。
エヴァンはいくつもの死線をくぐり抜けた、上級冒険者な訳だし。
明らかに、リュートより経験値は高いよね。
一人で納得して頷いていると、私のもふもふからポコッとルーが姿を現す。
ルーはそのまま抜け出し、リュートの頭の上へ移動し、私をじぃと見つめてくる。
ん? なんだろ。
(ルー、おはよう)
挨拶すると、ルーは嬉しそうにぽよんと揺れる。
(……はよ。まま、るー、むらむらする?)
(ルーは、ムラムラじゃなくて……プルプルかな)
(るー、ぷるぷる)
ぷるぷるするルーには、和むけど、とんでもなく和むんだけど――。
ルーが色々と不穏な言葉を覚えていくので、とても反省してます。
ハルさん書いてると癒されます。
マイペースですが、生きてます!
感想返信間に合わずすみません。
いつもありがとうございます。




