依頼前日。
そう言えば約束してたね、な話です。
ある意味、絡み酒。
エヴァン成分強めなので、苦手な方はご注意ください。
いつも感想ありがとうございます。
私とリュートが、今何してるかって?
「あ゛ぁ? 申し開きはあるか?」
げきおこなエヴァンに、お説教されなう。
時間は少し遡るんだけど……。
エヴァン宅に帰った私達は、夕食の席で、明日から依頼を受けることを説明することにした。
(あ、私達、明日から依頼でいないから)
家政婦さん宅の不要品だという破れ鍋をもふもふしながら、私がそう言うと、エヴァンにがしがしと撫でられる。
「まったく、もう少しゆっくりしても稼ぎ的には問題ないだろ」
(エヴァンちだと、家賃もかかんないからね。あ、食費入れるよ)
むぐむぐ。
「お前ら三人分ぐらいで、特に揺らぐような財力じゃねぇよ」
(おー、さすが現役上級冒険者。しかも、エヴァンはレイトより上位になるんだよね)
むぐむぐ。
「イリスだな、教えたのは。一般的じゃねぇが、同じ級でもランクがあるなんて無駄知識」
(そう? 私は、エヴァンがあいつよりスゴいんだって、きちんと形になってて嬉しいけど)
む……ぐむぐ。
「そ、そうか?」
エヴァンの酒を煽るスピードが上がり、頬の赤さが増した気がする。
イケメンの上級冒険者なのに、エヴァンって誉められ慣れてないよね。可愛い。
リュート程じゃないですけど!
そう言えば、食いしん坊リュートは、明日の予定を話すのは私に任せて、無言でむぐむぐと食べ続けている。
でも、私がエヴァンを誉めた時だけ、一瞬止まるあたり、可愛いよね? ヤキモチ妬きめ!
で、油断した。
ゴクンと口の中の食べ物を飲み込んだリュートが、キラキラとした笑顔を向けてきて。
「俺、頑張って、報酬一割も貰えることになったんです!」
(……あ、リュート、それ言っちゃ駄目)
止めたけど、時すでに遅しってやつで。
気付いた時には、誉められ照れていたエヴァンは、般若になっていた。
で、冒頭に戻る訳だ。
「だ、だって、ノーマン達の時は、俺弱くて、まったく報酬貰えなかったんですよ? お情けで、食事は一日一回奢ってもらってましたけど」
あー、うん、それ、たぶん、逆効果だよね。
あと、私も地味にイラッとした。
無言で思い切り、もふっと膨れていると、ルーもぷくっと膨れて真似してた。
うむ、癒された。って、エヴァンは、げきおこのままなんだよね。
「リュート、お前の自己評価が低いことに関して、性格だからどうしようもないが、きちんと報酬を要求しろ。他の冒険者まで舐められるんだよ。今回の依頼を一緒に受ける相手も、無駄に増長して、次の相手ともめる可能性だってあるんだ」
エヴァン、まじイケメンだ。
ただ無駄に怒ってた訳じゃないんだね。
ちゃんとリュートのことも、他の冒険者のことも考えてるんだ。
リュートも感動した様子で……。
「そうですよね、すみませんでした」
「そうだな、次から――「次回は二割要求します!」……そうしろ」
殊勝に謝ったリュートに、エヴァンは笑顔で頷きかけ、食い気味で続いたリュートの台詞に、笑顔を引きつらせ諦めた表情になった。
何か、うちの子が、すまん。
まぁ、お説教タイムは無事に終了したんで、まったり食後を過ごしてから、リュートとお風呂へと洒落込もうとしたんだけど、酔っぱらいに誘拐された。
「ハルさん、返してください!」
エヴァンに鷲掴まれた私を、リュートがあわあわとして取り返そうとしてるけど、さすが上級冒険者と言うべきか、エヴァンは器用に避けている。
酔っぱらいなはずなんだけど。
(エヴァン、お風呂行くの邪魔しないで)
「……約束忘れたのかよ」
ブスッとした顔をするイケメン。
そんな顔しても可愛く……うん、ギャップで可愛く見えてきた?
って、約束?
(あー、あれ……ん、どれ?)
「本当に忘れたのかよ。洗わせてくれるんだろ?」
あ、思い出した。
(洗濯してくれるって言ってたね、私を)
「洗濯かよ……」
エヴァンは何か凹んでるけど、見た目的には、間違ってないと思う。
「約束なら仕方無いですね」
きゅーん、と鼻を鳴らしそうな表情ながらも、いい子なリュートは、約束という単語を聞いて大人しくなる。
(お風呂上がったら、部屋に戻るから待っててね)
「はい!」
いい子なお返事のリュートに見送られ、私はエヴァンに鷲掴まれてドナドナされていく。
学生時代、バスケットボールを掴める事を自慢してくる男子がいたけど、今の気分は、そのバスケットボールだよ。
この世界じゃ、誰にも伝わらない例えだね。
(ぷぷぷぷぅ)
鷲掴まれたまま、特に深い意味もない思考に耽っていると、ルーの楽しそうな歌声が聞こえてくる。
いつの間にか、もふもふに潜り込んでいたらしい。
「ハルはどんな匂いが好きなんだ? 一応、女に人気だっていうやつを何種類か選んでみたが……」
(わざわざ買ってくれたんだ)
いい加減逃げないから、鷲掴み状態は止めて欲しいなぁと思いつつ、私はくすくすと笑いながら相槌を打つ。
「せっかくだからな。で、何かおかしいか?」
(だって、そう言うシャンプーとか売ってる店って、女の人ばっかなイメージだから。エヴァン、悪目立ちしそう)
「……悪かったな」
ブスッとした顔再びなエヴァンは、照れ隠しなのか、ふい、と顔を横に反らしてしまう。
これは、相当悪目立ちしたんだね。でも、ごめんね。
(私、エヴァンがいつも使ってるのがいい)
(るーも、ぱぱ、いっしょ)
私の発言に、ぷぅぷぅとルーも続く。ま、意味がわかるのは、私だけだから、通訳しとく。
「遠慮しなくていいぞ? もう買ってあるんだ」
(違う違う。私、エヴァンの匂い好きだから、同じの使ってみたいの)
(るーも)
(ルーもおんなじ理由だってさ)
嘘偽りなく、そう思ってたから伝えたんだけど、エヴァンは何か動揺しまくって、押さなきゃいけない浴室へ続くドアを、ずっと引っ張っていて取っ手を破壊。
お風呂に入るには問題なかったので、とりあえず入浴することにした。
意外と酔ってるみたいだから、気をつけてあげないとね。
「さぁ、洗わせろ」
手をわきわきさせてて、うむ、微妙に変態親父くさい。
これは、イケメンの無駄遣いだと思う。
(ぱぱ、むだ?)
(無駄じゃないけど、勿体無いかな)
木で出来たお風呂椅子に腰掛けたエヴァンの膝にオンしながら、私はルーとのんびり会話してる。
ちなみに、私もルーも、エヴァンの手によって、泡でもっこもこだ。
「しかし、本当に俺の使ってるやつで良かったのか?」
(うん、エヴァンの匂い好きだもんね、ルー)
(ぱぱの、においしゅき)
もっこもこのまま、ねー、とルーと顔を見合わせてると、エヴァンが笑った気配がして上を見た私は、後悔する。
濡れ髪を後ろへと流したエヴァンは、幸せそうに笑ってて。
どうするんだ、って心配になるぐらいに、イケメンオーラの無駄遣いだと思う。
「痒い所はないか?」
(……だいじょーぶ)
がしがしと洗われながら、私はもっこもこなもふもふでルーを包み、高速で回しながら洗っていたりする。
エヴァンは、色々ともう手遅れかもしれないから、何も言わないでおく。
(まーわーるー)
おっと、早く回し過ぎたかな。
(もっとー)
いや、大丈夫らしい。
さすが、うちの子。丈夫だ。
「ルーは、大丈夫なのか?」
あんまりルーがぷぅぷぅと鳴いてるから、エヴァンは心配そうだ。
(喜んでるだけだから)
「たくましいな」
(一応、モンスターだからね)
癒し系なぷるぷるボディだから、忘れがちだけど。
「いや、普通のこのサイズのスライムは、駆け出し冒険者に狩られるぐらいの強さだぞ?」
目閉じろ、と言ってから、エヴァンがそんなこと言うから、ザバッと掛けられたお湯の勢いで、ルーが流された。
(あ)
「あ?」
コロコロと泡とお湯に押されて流れていくルーを、エヴァンがさすがの反射神経でキャッチしてくれた。
まぁ、排水口には蓋があるから、ルーが流される心配はないんだけどね。
(ぱぱ、ありあと)
(ルーが、ありがと、って)
「あー、どういたしまして?」
ルーの言葉を通訳したら、兄貴な笑顔が返ってきた。
「その変顔止めろ」
そして、私は相変わらず、兄貴という単語を呟くと変顔になる……ようだ。
どんだけなんだろ。
(まま)
(お帰り)
悩んでいたら、泡を流されたルーが返却された。
つるつるぴかぴか、だね。
いつもと変わらないと言えば、変わらないとも言う。
何せ、元からスライムなんで。
ルーを抱っこしていると、また、目閉じろ、という声と、少し遅れて、ザバッとお湯を掛けられる。
「よし、泡は落ちたな。湯船移るぞ」
(はぁい)
(あい)
ルーを抱っこしたまま、エヴァンに抱えられ、湯船へ移動。
ぷかぷかと水面を漂っていると、エヴァンに軽くつつかれる。
「明日からの依頼、油断するなよ?」
(うん、気を付けるよ。なかなかに強かな相手らしいから)
「リュートも、ほんの少しで良いから、そいつみたいに上手く立ち回ってくれりゃあいいんだがな」
(リュートは、そこが可愛いから、みんなに好かれるんですぅ)
「ま、そうだな」
つんつんしていた動きから、不意に私を両手で鷲掴んだエヴァンは、ぐるりと私を仰向けにする。
(な、なに?)
「いや、そう言えば、濡れても小さくなったりしないな、と。中身が気になった」
これ、酔っぱらってるな、エヴァン。悪戯小僧みたいな顔をしてるし。
さっきまで、組合長っぽくシリアスしてたのに。
仕方がないから、付き合ってやるか。
(あーれー、お止めくださいー)
気分は、悪代官に襲われる生娘だ。棒読みだけど。
(あーれー)
ルーが真似しながら、お腹(?)を上にして水面を漂ってる。
「……掻き分けても、もふもふだな」
(うん。そういう仕様だから。人の姿になる?)
「あぁ……いや、止めてくれ。自制する自信がない」
(んー? よくわかんないけど、わかった)
実際、よくわからないんだけど。何で、ケダマモドキ相手に自制するんだろ、とか? なんちゃって。
モンスターなのに、自意識過剰だよね、反省しときます。
仰向けのまま、エヴァンに体を預けてだらけてたら、もふもふに何か突っ込んできた。
のぼせそうなルーが、自主的に帰ってきたらしい。
学習したらしい。
リュートも、ちょっとルーを見習って、学習的なものをして欲しいよね。
ま、そこが可愛いんですけど!
「のろけるな」
リュートへの愛が駄々漏れたらしく、渋面のエヴァンから、軽くデコピンされる。
(はーい)
バタつかせる手足もないので、代わりにもふもふを波打たせ、仰向けのまま、もふ掻きで泳ぎながらゆるく返事をしておく。
「本当に、明日から気を付けろよ? 相手は女たらしっぽいからな、どうしても必要な時以外は、人の姿になるなよ? 約束しろ」
ゆるい返事がお気に召さなかったのか、泳いでいた私は、再びエヴァンに捕獲され、真剣な表情で約束させられた。
一緒に寝たいとエヴァンがごねたけど、振り切った私は、リュートが待つ部屋へ戻る。
リュートは、ベッドに腰かけて、ゆらゆら上体を揺らしていた。
よく見ると、沈没寸前らしい。
(リュート、お待たせ)
「はるしゃんら……」
ぼんやりとした目で私を確認したリュートは、蕩けるような笑顔を浮かべ、そのままベッドへ沈み込む。
(おやすみ、リュート)
くすくすと笑いながら、私はリュートの側へと落ち着く。
すぐに伸びてきた腕に引き寄せられ、変形寸前まで手足が絡みついてくる。
明日からはイライラしそうだから、今日はいちゃいちゃして、しっかり癒されながら眠ろう。
そんなことを考えながら、私は睡魔へ身を預け、もふもふな体から力を抜いていった。
次回からは、イライラ回になりそうなんで、今回思いっきり、いちゃつかせときました。
エヴァンは、しばらく出番がなくなります。
感想返信、遅くなっていてすみません。




