某無料通話なアレみたいな?
感想も遅れてて申し訳ないです。
書きたい事は、たくさんあるんですけど……。
今回はクッション回で、短めです。
目覚めたリュートからブラを奪い返し、朝食を済ませた私達は、冒険者組合へ向かうために街中を移動していた。
(やっぱり、ここが落ち着くよね)
(ぷぅ!)
一晩寝たらリュートへの恐怖も消えたのか、ご機嫌に鳴いてるルーは、定位置になってるリュートの頭の上。
まったりしている私は、リュートの肩へもふもふと鎮座してる。
「いつもありがとうございます!」
もうすっかり恒例のおばあさんから野菜くずを貰い、むぐむぐしながら、私とルーも動作でおばあさんにお礼を示す。
「美味しいですか?」
嬉しそうににこにこ笑いながら、リュートは私を撫でて問いかけてくる。
(うん、美味しいよ)
(うまうま)
「良かったですね」
幸せを体現したような満面の笑顔のリュートのおかげで余計にね、と心中で呟いて、私は目を細めて笑顔を返しておく。
リュートと一緒なら、道端の小石ですら美味しく食べられる自信が……って、もともとそういう生態だから、気分だけど。
「あ、冒険者組合へ行く前に、武具屋に寄っても良いですか?」
(良いよ。私とルーは、乗ってるだけだし)
実際、歩くのはリュートだけだからね。
私とルーも歩くのが嫌な訳じゃないんだけど、街の皆さんがハラハラしちゃうから、実行は止めてる。
私達サイズの生き物だと、蹴られたり、踏まれたり、さらわれたりするんじゃないかと心配になるらしい。
最初二つはともかく、さらわれる心配はないかな、たぶん。
リュートから私とルーを奪うなんて、子連れのクマから子供奪うぐらいの難易度じゃないかと思う。
一応、私達も抵抗するし。
まぁ、はぐれる可能性はゼロじゃないから、私とルーは大人しくリュートにオンして移動が平和だ。
あと、普通に楽。
昨日、久しぶりに人の姿で歩いたせいか、しみじみ思う。
すっかり、ケダマモドキが板についてしまったらしい。
女子会は、もちろん、楽しみですけど!
ひっさびさの、女子との会話だもんねぇ。
うふふ、と内心で笑っていると、いつの間にか武具屋に着いていたようで、リュートが不思議そうに私を見つめている。
あ、また道を覚え損ねた。
「ハルさん?」
(何でもないよ)
うん、リュートから離れなければ、問題解決だよね。
きょとん顔が可愛いリュートに、軽く擦り寄って甘やかしてから、オンしたまま店内へ突入する。
外観よりは明るい店内に、武器とか防具とかが並べられている。
某ドラゴンなロールプレイングなゲームとかだと、店先いきなりカウンターだったりするけど、それとは違うらしい。
「何か気になりますか?」
物珍しくてキョロキョロしてたら、笑顔のリュートに持ち上げられた。
たぶん、気になる物を近くで見せてくれる気なんだろうけど……。
(気になるのは、リュートかな)
武器とか防具には、あんまり興味はないから、そう素直に答えておく。
私の答えに、えへへ、と照れ笑いするリュートが見れて嬉しいけど、リュートは何しに来たんだろ。
「俺は、新しい剣を見に来ました」
きちんと伝わってたみたいだね。よく私の表情からわかったな。って、あれ?
(……ん? 剣貰ったよね?)
「あ、はい。俺には勿体無いぐらいの良い品なので、いざという時の予備にして、普段使い用を買えたらな、と思って」
(別に、タダなんだし、気にしなくて良いんじゃない?)
「そうなんですけど……」
リュートが困った顔をしてるから、これ以上強く言うのは止めとくけど、リュートは控えめ過ぎるんじゃないか?
ここだけは、ボンボンの爪の垢を……いや、駄目だな。冗談じゃないっつーの!
「どうかしましたか?」
自分で想像して勝手にイライラしてたら、リュートに心配させてしまったらしい。
反省しないと。
(何でもないよ)
「なら良かったです」
ふふ、と安堵を滲ませて笑うリュートが、天使のように可愛いので、私はさっきの爪の垢な思考を、さらに深く反省しとおこうと思う。
お前みたいなひよっこに売る剣はねぇ! 的なイベントは無く、大通りを歩くリュートは無事に剣を手に入れて、嬉しそうだ。
見た目頑固親父な武具屋の主人は、ツンデレなのか喧嘩腰だったけど、何かリュートに優しかった。
頑固親父なツンデレ……需要はあるんだろうか?
うん、きっと何処かにあるんだろう。
そこで思考を放棄した私は、武具屋で貰った鉄屑を溶かし食べているルーを観察しながら、リュートの肩で揺られている。
私も鉄屑は貰ったけど、非常食にしようかと思って収納してある。
ついでに、今更なんだけど、冒険者の基本的な野営道具一式的な物も買って、いざという時の為に収納してある。
一応、ボンボン達がリュートの分って、用意してくれた物もあったよ?
リュートが嬉しそうに見せてくれたんだけど……。
イヤー、ツイウッカリ、ルーガ食ベチャイマシタヨ?
「お腹空いてたのか、ルー」
苦笑いするリュートの前で、私の指示を受けたルーはしっかりと任務を遂行してくれて、小汚なくボロい毛布と犬の餌皿みたいな食器と穴の空いた鍋は、この世から無くなった。
リュートは少しだけへこんでたけど、私が道具屋で、リュートの為に選んであげる、と新しい物を選んだら、あっという間に元気になったので良しとする。
しかし、まだボンボン達の負の遺産があったとは思わなかったよ。
ボンボンの兄とかも現れちゃったし、油断は禁物かもしれない。
私がリュートを守らないと。
意味無く警戒している内に、冒険者組合へ着いていた。
また道を覚え損ねたけど、もう気にしない。
一人でドヤァとやってたが、組合内の不穏な雰囲気に気付き、誰にもわからないであろうドヤ顔を止めて周囲を見渡す。
(何か空気張りつめてる?)
(ぴりぴり?)
「何かあったんですか?」
リュートは緊張した面持ちで、私とルーを守るように抱え込んでから、手近にいた顔見知りの冒険者に話しかけている。
「あ? リュートかよ。また、お前は巻き込まれそうなタイミングで現れたなぁ」
一瞬不機嫌さを隠さず睨み付けてきた冒険者は、相手がリュートだと気付くと、何ともいえない複雑そうな表情をし、力なく呟いた。
(何だろう、出直すべきかな?)
「そうですね」
不穏な雰囲気の発生源は、奥のカウンター前できゃぴきゃぴしてる集団らしいし。
リュートは、すぐ回れ右をしようとしたが、美少年は良くも悪く目立つから、きゃぴきゃぴしてる集団から一人の少年が出てきて、リュートを見てくる。
いい子なリュートは、明らかに用事があります的な空気を醸し出す相手を無視出来ず、足を止めてしまった。
(リュート、いいから、行こう)
「でも……」
「おい、お前!」
ほら、絡まれたじゃん。
いい子なのも考えものだね。
人の姿なら、無理矢理引っ張って行けたんだけど。
もふぅと全身でため息を吐くと、リュートが顔を青ざめさせ、半泣きになった。
「は、はるさんに、きらわれた……」
(怒ってないから! 大丈夫だよ?)
(ぷ、りゅ、げきだす)
周りの冒険者達も、不機嫌そうだったのがにわかに慌て出し、リュートを一緒に慰めてくれて……あれ? 何か忘れてない?
「おい! 無視するんじゃねぇよ!」
「え? あ、すまない」
同年代と判断したのか、久しぶりのタメ口になったリュートは、本当に申し訳なさそうに少年へ頭を下げる。
さっきまで半泣きになってたのが嘘のようだ。
もしかして演技……な訳ないか。
私は何か絡んできた少年へと視線を移し、いつも通り鑑定しようとして、思わず二の足を踏む。
昨日のレイトのせいで、ちょっと虎と馬らしい。
内心で八つ当たりしてると、某無料通話なアレみたいなピロリンという気の抜ける音がして、見慣れたステータス画面が中空に現れる。
私はまだ鑑定してないから、女神様の緊急通信だろうと思いつつ、浮かんだ文字を目で追う。
『うふふ、わかりやすく、音をつけてみたのよ。
どうかしら?』
……緩いね、相変わらず。確かにわかりやすいけどさ。
気が抜けるよね、音的に。
と言うか、このゴタゴタしてるタイミングで、よく送ってきたな、女神様。
『別に、音を自慢したかった訳じゃないわよ!?
あんまり贔屓は出来ないから、やたらと相手の情報は教えられない分、鑑定する前に、相手が鑑定阻害とか、逆探知的な事を出来るか、わかるようにしてあげたから』
気を付けてね、と美しい声が脳裏に響いた気がした後、緊急女神様通信は見えなくなる。
女神様、十分えこひいきだと思います。
まぁ、お心使いありがたいので、早速試してみようと思う。
あ、ちなみにリュートにも、私が鑑定出来ることを教えたけど、うん、エヴァンの言った通りだったよ。
それは置いといて。
少年も、パーティーメンバーらしいきゃぴきゃぴしてる集団も、危険はないらしい。
ヤバいとアラームで教えてくれるらしい。
私の脳内で、だけど。
で、リーダーっぽい、リュートを睨んでいる少年を改めて鑑定した結果――。
『リュートを駄目にしたような子』
……へぇ、って、はい?!
内心で全力ノリ突っ込みをした私は、悪くないよね?
リュートは、ハルさんが関わると甘えん坊キャラですが、普段はしっかりしてますよ?
兄と弟、逆転しそうになってますけど。




