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相談なう。

わかんないことは、聞いてみよう。なハルさん回です。

リュートではなく、エヴァン相手なのは、察してください。


 エヴァンにしばらく捏ねくり回されてたら、やっと相談したかった内容を思い出した。

(そうそう、エヴァンに訊きたかったんだけど)

 お風呂に入って外されてしまったリボンを再び結んでいたエヴァンは、ん? と目線だけをちらりと私の顔を向け先を促す。

 手を止める気はないらしい。

(鑑定って、珍しい能力なんだよね)

「あぁ。組合には、鑑定出来る道具があるが、個人で所有しているヤツは、ほとんどいないな。稀に受付嬢が鑑定持ちって、組合もあるが……」

 リュートの持ってる冒険者のカードも、鑑定出来る道具の一種になるか、と思いつつ、脳裏に浮かぶのはゆる女神様のご尊顔だ。

 意外と出来る女だったらしい。

 一応、女神様なんだし、当然か。

(ちなみに、その鑑定で得られる情報って、個人差あるの?)

「精度や、多少の情報量の変化はあるだろうな」

 私の鑑定って、それ以前な問題の気もするよね。

 思い切り、えこひいきな鑑定だし。

 それより、あいつだ、あいつ。

(そっか。で、鑑定を防いだり出来る?)

「不可能ではないが、されたくないのか?」

 リボンの結び具合が気になるのか、エヴァンは私を持ち上げ、色んな角度から眺めながら訝しんでる。

 シリアスなのかギャグなのか、はっきりして欲しい。

(されたいって、言うと思う?)

「普通は言わないな」

 持ち上げたら、今度は私の中身が気になったらしく、エヴァンはもふもふを掻き分けながら、くく、と笑い、

「ハル自身がそういう能力があるか、あとは、道具を使うしかないが、鑑定の道具より珍しいからな」

と、続ける。

(エヴァンは持ってないよね)

 鑑定出来たし。

「見られて困るようなもんは無いからな。例え見られようが、そうそう遅れはとらない自信もある」

(おー、自信家)

 私は拍手をする代わりに、もふもふを揺らして、もっふもふしておく。

「これでも一応、上級冒険者だからな」

 ニヤリと笑うエヴァンだったが、私のリボンがずれたらしく、ちまちまと手を動かしている。几帳面だな、意外と。

(ちなみにだけどさ。鑑定出来ない相手は、鑑定されたら困るから、出来ないようにしてるの?)

「普通に考えれば、そうだろう」

(じゃあ、鑑定されたくない理由は?)

「考えられるのは、特殊な能力があって、それを隠している可能性だな。あまり他人に知られたくない能力か、その能力が切り札。あとは……」

(あとは?)

「精度にもよるが、本名とかもバレるからな。後ろ暗いヤツは隠す可能性はある」

 へぇ、と納得しかけたけど、素朴な疑問を覚えた私は、エヴァンの腹筋に腕(辺り)を乗せ、てしてしともふもふで叩く。

(冒険者組合として、そんな不審人物来たらどうするの?)

「あからさまなヤツは、別室で尋問だな。あとは、必要な情報と信用さえあれば、基本的には深く探ったりは……」

 そこまで言いかけたエヴァンは、何かに気付いたように、机の上の書類へ向けていた視線を私に移す。

「もしかして、レイトか? 確か、そんな話を聞いた気もするが……」

 なかなかに鋭いな。と言うか、リュートがにぶ……おおらか過ぎるんだよね。

 とりあえず、無言で笑っておいた。

 そしたら、すかさず、デコピンされた。

 痛くはないけど、もふっと膨らんで抗議しておく。

「いつの間に、そんな突っ込んだ話をする仲になったんだ?」

 ジト目でエヴァンに問われ、勘違いされていることに気付く。

 あのデコピンには、ヤキモチの分もあったのかな? 可愛いじゃないか……って、冗談だから!

 睨まれて慌てた私は、つい余計なことを口走ってしまう。

(私が鑑定したら、見られなかったから気になったの!)

 あ、と思った時には、エヴァンの目が見張られ、また持ち上げられて瞳を覗き込まれる。

「……鑑定持ちなのか?」

(え、あ、うん、一応)

 えこひいきで、食特化なゆる女神様鑑定ですけど。

 さすがにゆる女神様のことまでは話せないので、私は微妙な同意で返す。

 エヴァンなら、誰かに言い触らしたりはしないだろうから、鑑定出来るぐらいは、いつかは話そうと思ってたし。

 べ、別に、口滑らせた訳じゃないから!

 本当に、話す気だったし!

「何怒ってるんだ? 言い当てられたのが、そんなに嫌だったのか?」

 自分に逆ギレしてたら、エヴァンが心配そうに撫でてくれた。

「しかし、鑑定まで出来るとは、ハルが特殊なだけだといいが……」

(ごめん。仲間の記憶はないから、わからないんだけど)

 たぶん、女神様のご厚意で、私は特殊なんだとは思う。と言うか、思いたい。

「そう言えば、気付いた時には一人だったらしいな?」

(そうだよ。徘徊してたら、リュートと出会えたの)

「初めて会った人間が、リュートで良かったと今さらだが神に感謝だ」

 しみじみと呟いたエヴァンが視線を向けるのは、リュートが寝ているであろう方向だ。

 確かに、初対面がリュートじゃなければ、私は今もダンジョンの中を放浪していたかもしれない。

(とりあえず、ボンボンだったら、死にかけてても放置だね)

「……俺だったら?」

(エヴァンだったら?)

 体を傾げて返すと、エヴァンはじっと何かを期待しているような表情で、私を見つめている。

(逆に狩られそうだから、逃げる?)

 言った瞬間、思い切り、脱力された。

 でも、いきなりエヴァンなら、モンスターとしては逃げるよね?

 言葉は通じない訳だし。

 上級冒険者だし。

 イケメンだし。

 ……最後は関係ないけど。

(今は仲良くなったからいいけど、モンスターな私としては、身の危険を感じる訳ですよ)

「……確かに、初対面なら、珍しいモンスターだと、斬りかかるか」

 偶然にも、さっき私が内心で呟いたようなことを口にし、エヴァンはしげしげと私を眺める。

「捕獲もありか?」

 しばらく無言だったエヴァンは、ポツリと洩らし、持ち上げていた私をハグ……じゃないな、ホールドだよ、これは。

 思い切り、もふっと膨らんで抗議をすると、くく、と笑われた。

 冗談だったらしい。

「それで、俺を鑑定してどうだ? してみたんだろ?」

(怒ったりしないの?)

 こんな能天気な私でも、そこはちょっと不安だった訳だけど、エヴァンは全く気にしてないらしい。

「見られようが困らないと言っただろ? それに、相手はハルだからな。リュートも同じこと言うんじゃないか? 何だったら、『隅から隅まで見てください』とか言いそうだよな」

 実際、隅から隅まで見ちゃってます。とは、言えないので、沈黙しておき――。

(……隅から隅まで見て?)

 シリアスな空気を変えようと、わざとらしい甘え声で、渾身のギャグを放ってみた。

 ただ今の体勢は、エヴァンの膝の上で引っくり返り、お腹を見せてみたり?

 ま、初見の相手には、背中かお腹かわかんないだろうけど。

「ぶっ!?」

 お、ウケたウケた。

 エヴァンは手で口を覆って、ぷるぷるしてる。

 そのまま、私のお腹にばふっと顔を埋めてくるあたり、大爆笑のようだ。

 よし、今度リュートにも披露しよう。




 やっと笑いがおさまったのか、数分してから私のお腹から顔を上げたエヴァンは、満足げな顔をしている。

 うん、笑ってスッキリしたのかね。

「で、結局聞きたかったのは、レイトがどうして鑑定出来ないか、ってことだったんだな?」

(そうそう。初めて見られない相手だったから)

 逸れまくった話題を、エヴァンがきちんと本筋に戻してくれたので、私は素直に頷いておく。

「何かしらの特殊なスキルはあるかもしれないが、色々な数値的には、俺の方が上だな」

(そう言われても、数値とか、私の鑑定じゃわからないし)

「ずいぶん精度が低いんだな。なら、俺は何処までわかるんだ?」

(んー? 名前、肩書き、種族、レベル、年齢性別、あとは、兄貴?)

「妙に偏って……兄貴?」

(兄貴)

 また変顔になってたらしく、エヴァンは微妙な表情だ。

「また、それは、変わってるな。ハルだからか」

 そこ、私だからで納得するのは、失礼だと思う。

 実際、私だからなんだけどさぁ。

(美味しい食べ物とか、食べ方もわかるよ?)

「……食欲優先かよ」

(うちには欠食児童が二人いるんで、大助かりだよ?)

「いや、ハルとルーは、毒だろうが金属だろうが、関係ないだろ」

(リュートがたくさん食べるし、他人のこと信じやすいから)

 毒イチゴを野イチゴだと騙されていた話をすると、エヴァンは何か遠い眼差しになってた。

 ついでに、毒だと教えた後なのに、私とルーが食べる姿を見て、真似して食べてぶっ倒れたことを伝えたら、頭を抱えてる。

「よく生きてたな、リュートは」

 やがて、エヴァンはそれだけ呟き、私を撫でながら黙り込む。

(私もそう思う)

 初対面から死にかけだったし。

「……レイトに関しては、いつもの姿でなら遭遇するぐらいは問題ない筈だ。あいつは、女にしか興味がないようだから、リュートがいくら美少年でも目はつけられないだろう」

(そっか。ありがと)

 最終的にそう結論づけてくれたエヴァンは、額を押さえていて、とてもダルそうだ。

 余計な気苦労与えて、申し訳ないです。

「やたらと鑑定しようとするなよ? 中には、鑑定された事がわかる奴もいるらしいからな」

(………………え、あ、うん)

 あはは、もう遅いんだよな、これが。

「まさかとは思うが、気付かれたのか?」

 あからさまな私の反応に、再度エヴァンに持ち上げられ、尋問の体勢だ。

「気付かれたんだな?」

(……確証はないけど)

 唸るような声で念押しされ、私はもふもふをヘタらせながら、頷くしかなかった。

 その後、



「人の姿になるなとは言わないが、絶対に一人になるな」



 そう約束させられた。

 破った場合は、首輪を着けて、部屋に軟禁されるそうだ。

 エヴァンも心配性過ぎると思う。

 あと、私に首輪を着けるのは、首がないから、難しいと思うんだけど、エヴァンがシリアスしてたから、突っ込まないでおいた。

 ついでに、自然な流れでベッドに誘われたけど、ぬるりと抜け出して、リュートの元へと戻った。

 ルーも心配だったし。



(ぷぅぅ……)



 リュートは寝てたけど、ルーは元の形がわからないぐらい、ぐにぐにしてた。

 半泣きで。

(りゅ、こあい)

 ぷるぷるするルーをもふもふであやしてから、私はリュートの隣へと落ち着く。

 すぐにリュートの腕が伸びてきて引き寄せられ、お腹辺りにリュートの顔が埋まる。

 リュートの寝息が当たり、ちょっと擽ったい。

 ルーはもふもふに潜って、ぷぅぷぅ鳴いてる。

 機嫌は直ったらしい。

 リュートの寝息とルーの鳴き声を子守唄に、私も眠りに落ちていく。



 今日は、色々とシリアルだったから、つかれ……。



 そう呟きながら、私は寝落ちして、眠る寸前の呟きは結局忘れてた。

 何か、間違えたな、とか思った気もしたけど、気のせいだろう。

 そう思うことにした。


ルーは、かなり捏ねくり回されたようです。

シリアル……シリアスなパートは終了なんで、次回からは通常運行です。

感想ありがとうございます。徐々に返していくので、もう少々お待たせしますが、必ずお返事しますので。

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