これなにフラグ?
大変お待たせして申し訳ありません。
やっと体調が少し回復して、執筆時間がとれるようになりました。
コメント、メッセージであたたかいお言葉、ありがとうございます。
「……む、どうしよう。ここは誰? 私はどこ?」
鉄板なネタを呟いて、周囲を見渡してみても、見たような、見てないような、微妙な既視感の風景しかない。
基本的に、私はリュートの横顔を見てるから、風景はあまり見てない。
今さらながら、後悔なう。
目印ぐらい覚えておくべきだった。
私が後悔しながら、ルーをつついていると、また周囲には奇妙な空間が出来ている。
これじゃあ、道も訊き辛い。
男の人は、何か目がギラギラして怖いから、出来れば女の人に訊きたいんだけど……。
じっとしても仕方無いから、私は人気のない路地裏を目指して歩き出す。
もふもふなケダマモドキの姿に戻って、屋根へよじ登れば、手っ取り早いよね。
って、私が移動すると、奇妙に空いた空間もついてきてないか、これ。
これじゃあ、路地裏で元の姿に、ともいかないよね?
いくらなんでも、人からモンスターに戻る姿を見られるのがヤバいのは、私でもわかるよ。
ポリポリと頬を掻いていると、人垣を掻き分けて近づいてくる複数の人影。
(ぷ?)
(何だろ)
内心で呟いて首を傾げる私とルーの前に現れたのは、銀の鎧をまとった金髪の青年。プラス露出度高めなお姉さんが二人。
青年は、好青年って感じだけど、私の好みじゃない。
あと、お姉さんは、その青年に両側からしなだれかかってるけど、歩き難くないんだろうか。
鑑定するのも面倒というか、なんか関わりたくないので、私は青年一行の進路から外れようと、建物に貼りつくようして、じわじわと移動する。
「可愛らしいお嬢さん、具合でも悪いのかな?」
おや。具合の悪そうな人を見つけて、近寄ってきたらしい。
見た目通りの好青年なのか。
「いやぁん、レイトったら優しいぃ〜」
「でも、あたし達以外見るの、イヤ……」
両脇のお姉さん方は、青年の事を賛美するスピーカーだったようだ。
片方はハイテンション。片方はクールに。
見事な両極端だね。
「……言葉がわからないのかな?」
青年は、私の近くで足を止めると、小首を傾げて怪訝そうに、私のいる方を見ている。
ハッ! もしかして、ゴースト系な相手と話してる?
または、ファンタジー世界だし、精霊とか妖精とかの可能性もあるよね。
私は、ぷぅぷぅ警戒しているルーを押し戻しながら、キョロキョロと周囲を見渡す。
(見えないか)
(まま? あいつ、たべう?)
(食べちゃ駄目。害はないから)
害は無いけど、ルーがそう言い出すぐらい嫌そうだし、ここから移動すべきか。
リュートに心配かけたくもないし。
一応、好青年そうだし、道を聞くって手もあったよ?
ですけど! 私、初対面な上、見えない相手と話してる人と、会話するスキルなんて持ち合わせてませんから!
内心で駄々漏れないようヘタレな内心を吐露した私は、ルーを胸の谷間へしっかり押し込んでから、青年一行を見ないようにして立ち去ろうとする。
今なら、青年一行のおかげで、意外とすんなり抜け出せる……予定だったんだけど。
「待って。君に話しかけてるんだけど」
そんな言葉と共に、伸ばされた手が私に触れようとした瞬間、腰まである白髪がやんわりと青年の手を弾く。
(やっぱり、たべう!)
思わず防御はしたけど、許可なく私に触れようとした青年に、ルーがげきおこで、高速ぷるぷるだ。
私の胸も揺れるから止めて欲しい。
ルーも私の胸も、ぷるぷるしてる。
誰得だよ。ん? ガン見されてる気がする? 気のせいか。
「……何か用でしょうか?」
誰得かは置いといて、見た目的には、私の方が年下だから、一応丁寧な口調で問いかける。
べ、別に、お姉さん方が怖かった訳じゃないもん! ……はい、すみません。怖いです。
しかし、好青年の言う、可愛らしいお嬢さんが、私の事だったとは。
目に見えない相手(幽霊オア精霊)と話してた訳じゃなかったんだね。
「何か困っていたんだよね。俺に任せれば大丈夫だよ」
うん、完全なる好意だったようだ。見た目通りの好青年か。
でも――。
「あの」
「何も言わなくて大丈夫。俺に任せるだけでいい」
「そうじゃなくて……」
「遠慮しないでいいから。俺といれば安心だよ」
あれ?
何か違和感あるな、この人。好青年じゃないよね、これ?
確かに見た目は爽やかだし、鎧は使い込まれていても綺麗だし、ニコニコな笑顔だけど……。
(完全なる好意の押し付けだよね。私の話も聞いてくれないし、好意なのかすら微妙だし)
私が困っていた理由も聞かないで、何が大丈夫? 何が安心?
(不安しかないわ!)
逆に安心できる人がいたら……。
「さっすが、私達のレイトよね!」
「優しい……でも、ちょっと妬ける」
いたよ。ビックリだよ。
まぁ、仲間なんだし、当然と言えば、当然か。
私の呆れた視線に気付いたのか、青年はニッコリと笑う。
「この女性達も、途中で困っていたから連れてきたんだよ。君も心配しなくていいんだよ? こう見えても、俺は上級冒険者で……あ、まだ名乗ってなかったかな? 俺はレイト。君の名前は?」
思い切り勘違い野郎だった。痛いよね、色んな意味で。
あと、どんだけ惚れっぽいんだ、お姉さん方? 一緒に旅して五年です、ぐらいな雰囲気なのに。まさかのついさっきか!
あとあと、上級冒険者って、こんなのもいるの?
色々整理させて欲しいけど、ついに名前を知っちゃった青年レイトの勢いは、なかなかにウザい。
笑顔でぐいぐい来やがる。
「……ハル」
とりあえず、名前ぐらいなら問題ないだろう。
リュートも、そんな変な名前を私につけたりは――。
「ハル! ハルか! 名前まで可愛らしいね。確か、何処かの国のとある地方にしか咲かない花で、真っ白くて小さくていい匂いがする可愛らしい花の名前だったかな。まさに君にピッタリの名前だ。ちなみに、俺の名前は……」
ウザいレイトが自分の名前の由来を語っているが、私の耳には全く入ってこない。
(ま、マジですか!?)
何なんだ、この羞恥プレイ。
まさか、本人のいないとこで、こんな由来を知る事になるなんて。
どうしよう。
恥ずかしいというか、嬉しいというか、正直ときめいてます。
私はドキドキと高鳴る胸を感じながら、赤くなってるであろう頬を手で押さえて悶えている。
「ふふふ。誉められ慣れてないのかな、可愛い人だ。さぁ、一緒にお茶でも行こうか」
勘違い野郎なレイトは、嫉妬に満ちた表情のお姉さん方を侍らせたまま、私の腕を再び掴もうとしてくる。
おい、決してお前にときめいた訳じゃないからな?
うちの可愛いリュートにだから。
そろそろルーも限界だし、私がキレようか悩んでいると、また人垣が割れて、天の助けともいえる姿が駆け込んでくる。
「ハルさん!」
脳裏に、某ボディなガードの洋画な曲を流しながら、私はレイトの腕を避けて私の名前を叫んだ美少年へ駆け寄る。
「リュート!」
勿体ぶってみたけど、もちろん現れたのは、うちの可愛いリュートだ。
相当探してくれていたのか、肌寒い気温なのに、私を抱き止めてくれたリュートの体は熱いぐらいで、汗ばんでいる。
「いなくなったって、皆さん心配してましたよ? 当然俺もですけど」
「ごめんね。何か視線が怖くて」
「……やっぱり、俺もついていけば良かったです」
「ごめん」
甘えるように私の肩口にぐりぐりと額を擦りつけてくるリュートは、心配したからかちょっと不機嫌そうだ。
で、不謹慎だけど、とてつもなく可愛い。
さすが私のリュートだ。
私の胸の谷間から出たルーは、リュートの頭の上へ移動し、ぷぅぷぅ鳴きながら、私の後方を睨んでいる。
リュートという味方を得たからか、殺りに行きたいようだ。
殺る気満々だけど、誰に似たんだか。
「……ハルさん、あれは?」
リュートは私と背後を交互に窺いながら、不審そうに訊ねてくる。
「心配して声かけてくれた人」
ま、頭には一応、とかつきますけど?
色々と押し付けがましい、なるしぃな野郎ですけど?
優しいふりして、女に見境なさそうですけど?
あ、つい目の前にいい子なリュートがいるから、比べて酷評しちゃったね。
てへ。
「そうなんですか! 俺のハルさんが、お世話になりました」
うん? 珍しくリュートが俺の、なんて素面で強い言い回ししてるけど、どうしたんだろ。
(まま、だだもれ)
(あ、私が原因か)
ルーに聞こえたって事は、リュートにも駄々漏れたから、警戒させちゃったのか。
私とレイトの間に割り込み、私を背後に庇ったリュートは、いい子なリュートにしては珍しく険しい顔をしている。
正直に言うと、かっこいい。
いつもは可愛い系な美少年だけど、こういう表情も出来るんだ、って感じかな。
(おまえ、やだ!)
ぷぅぷぅ鳴くルーも、珍しく全力な拒否だ。
ボンボンより嫌われるって、ある意味感心しちゃうよ?
しかも、この短時間で。
何かあるのか、と私はここでやっと鑑定を使う。
人型では初めてだから、少し緊張……て、あれ?
リュートの態度を、全く気にした様子もなく、ニコニコと笑うレイト。
しかし、いくら見つめても、見慣れたゆるい女神様の鑑定画面は現れない。
人型では、使えないのかとリュートを鑑定するが、きちんといつもの、素直ないい子という鑑定結果が現れる。
私はリュートの後ろに隠れたまま、内心で首を捻る。
エヴァンも、ギルバートさんも鑑定出来ていたから、レベル制限ってことは無いだろう。
「行きましょう、ハルさん」
不思議だけど、正直レイトとこれ以上関わりたくない私は、リュートの呼びかけに頷き、思考を停止させる。
ゆる女神様の事だから、もしかしたら寝てた、とかかも知れないし。
リュートは優しく私の手を握り、レイトとは反対方向へ歩き出す。
リュートが挨拶はしてくれてたけど、私も挨拶しようと顔だけでレイトを振り返る。
押し付けがましいし、歪んではいたけど、根底には好意があったはずだし。
そして、後悔した。
好青年なレイトは、確かに変わらずニコニコと笑っている。
リュートも同じ立場になっても、ニコニコと笑っているとは思うけど……。
レイトの表情は、まるで切り取って、貼りつけているみたいで、違和感しかない。
両側のお姉さん方は、心が広い、とか、優しい、とか言ってるけど、どうして、気付かないんだろう?
まぁ、お姉さん方も、私の前に声をかけられだけの関係だから、仕方ないのかもしれない。
表情も怖いけど、何より、瞳に光がない。
濁ったりしてる訳ではない綺麗な色の瞳なのに、ただ、色のついた玉を嵌めている、そんな感じ。
遠くから眺めていたら、私も気付かないかもしれない。
ラノベのハーレム系な主人公かな、と思うぐらいで。
「……どうも」
それでも負けん気で、何か言わなきゃと、気合でボソッと告げるが、聞こえてはないだろう。
そう思ったのに。
レイトの色付きの玉が嵌まったような目は、柔らかく細められ、口の端が上がる。
『また、ね』
鋭敏な耳のせいか、それともレイトの怨念じみた念のせいか、聞こえてしまった囁きを、私はもふもふで耳を塞いで聞こえないフリをしておく。
そんなホラーなフラグは全力で拒否だ。
あと、しばらく、人型にはなりたくない。
路地裏でいつもの姿に戻った私は、安心感のあるリュートの腕の中、微睡みながらゆる女神様に祈っておいた。
レイトは、キモいを目指して書いたので、キモいと思っていただけたら嬉しいです。
しかし本当に、なにフラグなんでしょうか。




