あれ……?
本日は、もう一つの連載を含め、2本目の更新です。
ストックがないので、また間が空いてしまうと……。
あと、そろそろエヴァンは、甘々モードから戻るんで。
私の想像では、まず、驚かれるはすると、思っていた。
理想……そう、理想としては、名乗ったら疑われずに、良かったですね、ぐらい言ってもらえれば良かった。
リュートならあり得ないだろうけど、敵意を向けられるんじゃ、とかも少し考えた。
でも、リュートの反応は予想の斜め上でした。
コンコンッと勢い良くノックし、返事を待つことなくリュートを寝かせていた部屋の扉を開く。
リュートはお酒のせいか、まだ寝ているらしい。
うん。寝かせた時は服を着ていたのに、今はほぼ全裸だ。
暑くて脱いだのかもしれない。
リュートならあり得るな、と思いつつ、忍び足でリュートが眠るベッドへ近寄る。
裸足だから、忍び足にはちょうどいいよね。
「リュート、起きて。朝だよ」
眠るリュートをゆさゆさと揺さぶると、寝起きの良さは相変わらずで、すぐにパチリと深紅の瞳が現れる。
寝起きで少し潤んだリュートの瞳が、覗き込んでいる私を映して、シパシパと瞬きを繰り返す。
たぶん、誰だ? 的な確認作業だろう。
私はそう思ったんだけど……。
「……おはよ、ございましゅ、ハルさん」
あ、ちょっと寝起きで拙い感じ、可愛い。
ほっこりしていたら、ゆっくりと体を起こしたリュートに、ギュッと抱き締められる。
そのまま、引き寄せられて、ベッドへリュートと一緒に倒れ込む。
「おはよ。具合はどう?」
相手がリュートだから、特に驚いたりとかはなく、私は寝転んだまま微笑んで挨拶を返す。
「はい! 大丈夫です!」
うむ。二日酔いとかは、なさそうだ。
リュートの笑顔は、いつも通りキラキラしていて、真っ直ぐに私を見つめてくれてる。
(まま、りゅー、はよ)
ルーもやっと起きたらしく、私の胸の谷間からぷるぷる現れ、ぷぅぷぅ鳴いて挨拶する。
「ルーもおはよう」
「おはよう、ルー。今日も可愛いね」
ベッドに横たわったまま、ルーをつんつんして愛でていると、すぐ間近からガン見されていることに気付く。
「……えぇと、なに?」
「あの……俺も、可愛いですか?」
こら、私を殺す気だろうか。なんだ、この可愛い生き物は。
色々きゅんきゅんした私は、せっかく生えた手を伸ばし、リュートの髪を優しく撫でる。
石鹸で洗うとか、ぞんざいな扱いをしている割には、リュートの髪の手触りは良い。
よしよしと撫でていると、リュートは幸せそうに目を細めて、恍惚の表情だ。
調子に乗った私は、当初の目的を果たすため、手足を絡めて、リュートをギュッと抱き締める。
「ハルさん」
「ん、なに?」
「何でもないです」
リュートは幸せそうに蕩けきった笑顔を浮かべ、鼻先を私の鼻先へ数度軽くぶつけてから、再び眠ってしまった。
「あ、二度寝させちゃった」
リュートが可愛いから、つい甘やかし倒しちゃったよ。
ま、いいか。
冒険者は自由出社なんだし、今のリュートの仲間は、私とルーなんだし。
うふふ、と笑った私は、リュートを抱き締めて、一緒に二度寝の体勢に入る。
エヴァンと寝ると、安心もするけど、微妙な緊張というか、胸がざわつくから、落ち着かないとこもあるんだよね。
最終的には、安心感に負けて熟睡なんだけど。
で、リュートとくっついていると感じるのは、ただただ胸がほっこりするような、あたたかさだ。
幸せを体現したら、ここにあるって、断言出来るよ。
という訳で。
「おやすみ、リュート」
私も、二度寝させてもらうことにした。
どれぐらい経ったのか、肩を揺さぶれて、私はゆっくりと目を覚ます。
手の持ち主を視線で辿ると、そこには呆れたようなエヴァンの顔がある。
「大したもんは出来ないが、一応朝飯出来たぞ?」
「……ふぁ、ありがと。リュートを愛でてたら、寝ちゃった」
欠伸をしながら、私は体を起こそうとするが、いつの間にかリュートの手足が絡んでいて外れない。
む。どうしよう。
悩んでいたら、普通にエヴァンがリュートを起こしてくれた。
「……あれ、また、ねちゃいました?」
掠れた声と共に、リュートはくしくしと目を擦りながら、体を起こす。私ごと。
リュートに抱えられ、私の体は立ち上がるリュートと一緒に、目線を上げていく。
「おはようございます、エヴァンさん」
「あ、あぁ、おはよう」
エヴァンが訝しげな表情をしながら、私を抱えているリュートへ挨拶を返す。
「あー、リュートが力持ちだって驚いてる、とか?」
いくら私がリュートより小柄とはいえ、軽いとは自信満々には言えない。
それをリュートは、軽々と抱えている。ケダマモドキの時と、全く同じように。
そこで、はた、と私は気付く。
あまりにリュートがいつも通りだったから、忘れかけていたが、私はもふもふなケダマモドキじゃなくて、人の姿をしてる。
なのに、リュートは驚いていない。
それを、気にする素振りすらない。
私が不思議に思って、リュートをじぃっと見ていると、何を思ったか今度は肩へ担がれた。
「……え? 私って、荷物扱い?」
「え? ハルさんは、いつも俺の肩にいますから、そっちの方がいいかと思ったんですが……あ、前が見えないから、嫌ですか?」
確かに、私は今、リュートの左肩にうつ伏せで担がれ、頭は背中側にある。
「もうリュートに話したんだな?」
「……話してない。と言うか、普通に流されたんだけど」
「何がですか?」
(ぷぅ?)
私達は顔を見合わせた後、状況を整理することにした。
「あー、リュート。まず、ハルをベッドへ座らせてくれ。話し難いからな」
エヴァンの指示に、リュートは迷う様子もなく、担いでいた私を下ろし、ベッドへ座らせてくれる。
「……ハルだとは理解してるようだな」
「うん。最初から、何の突っ込みもなく、いつも通りだよ?」
「何か、ハルさんにあったんですか? あ! その服似合ってます!」
エヴァンと私の物言いたげな眼差しに、こてんと無邪気に首を傾げたリュートは、すぐにハッとした顔をし、キラキラとした満面の笑顔で言い放つ。
ドヤ顔が可愛いけど……一緒になって、どやぁってやってるルーも可愛いけど……そうじゃない感に、私とエヴァンは、揃って額を押さえる。
「なぁ、リュート。ハルを見て、何か思うことは?」
「ハルさんを見て?」
エヴァンの問いに、リュートは私をジッと見つめてから、ニコニコと笑う。
「今日も素敵です」
「――ありがと」
「今日も大好きです」
「ん、私も大好きだよ」
「今日も最高の触り心地です」
「そっか。ありがと」
「今日も……」
「もういい。はっきり訊くが、ハルの姿に違和感は感じないのか?」
何かどうでも良くなりかけてたら、エヴァンがハッキリと訊いてくれた。
「……違和感?」
リュートは不思議そうにエヴァンを見つめてから、私を振り返って、ペタペタと手のひらで触ってくる。
「特にはないですけど。ハルさんですし」
しばらく私を触りまくり、満足した表情になったリュートは、一人でうんうんと頷いている。
「いやいや、人の姿してるじゃねぇか!?」
ついに堪えきれず、エヴァンが直球で突っ込む。
と言うか、リュート相手に遠回しに訊いたのが、そもそもの間違いだよね。
「あー、そこでしたか。えぇと、それが何か?」
本当に。本当に、何でもないことのように、心底不思議そうに首を傾げるリュート。
「もふもふでも、今の姿でも、ハルさんがハルさんであることに、変わりはありませんから」
実際、誤魔化しなど一欠片もなく、リュートがそう思ってくれてるのは明白で、私は思わずリュートをギュッと抱き締める。
ベッドに座ったままだから、正確には、腰辺りに抱きつくだろうが、気分だ、気分。
うふふ。
小躍りしたいぐらい、嬉しい。
エヴァンが同じことを言ったとしても嬉しいけど、言ったのがリュートだと、さらに嬉しい。
ガン見しているエヴァンを気にせず、リュートを抱き締めて愛でていると、くぅぅぅ、と可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。
「……朝ごはんにしよっか?」
「はい!」
(ぷぅ!)
流れで再びリュートに抱えられそうになり、私はやんわりと手で制する。
「ハルさん?」
「……肩へ担ぐのは止めて。せめて、抱えてくれる? あと、服は着て欲しいな」
本当は抱えられるのも止めたかったが、今にもきゅんきゅん鳴きそうなリュートの眼差しに負けた。
「はい!」
弾けるような笑顔が返され、リュートは服をいそいそと着込んでいく。
きびきびとした動きには、やっぱり二日酔いとかの様子はない。
リュートはお酒には弱いけど、残らないタイプみたいだね。
そう思いながら、リュートの着替えを見ていた私だが、ふいに視界が真っ暗になる。
犯人は……、
「いくらなんでも見過ぎだろ」
エヴァンの手だったようだ。
そっか、今の私は人の姿だから、さすがにはしたなく見えたか。
気を付けないといけないかもしれない。
人間生活の方が長かったはずなのに、すっかりモンスターな生活に慣れちゃってるし。
リュートは気にしないだろうけど、人の姿の時は、あんまりベタベタしちゃいけないよね。
そんな結論を駄々漏れないように気を付けて呟いていると、エヴァンの手が外され、体が浮く感覚があれ。
いつの間にか、リュートの腕へ抱えられていたようだ。
「重くない?」
乙女……ではないけど、やっぱり気になるよね。
「いいえ! ハルさんは軽いですよ? あと柔らかくて良い匂いがします!」
(まま、やわい)
リュートはともかく、ルーのやわい発言は、胸の谷間に入ってるからな気が……。
気にしたら負けだよね。
私はくすくすと笑いながら、リュートが運びやすいように、リュートの首に腕を回す。
「ありがと」
エヴァンの視線が痛いのは無視しておこう。
その視線も、諦めたのか外れていき、エヴァンは手が塞がったリュートのため、扉を開けて先導してくれる。
「こっちだ」
「はい。ありがとうございます」
(ありあと)
ちゃんとお礼が言えるなんて、うちの子はいい子だよね。
「親バカかよ」
駄々漏れたらしく、ふっ、と苦笑してエヴァンが振り返る。
何か朝なのに、エヴァンは気だるそうだ。
「エヴァン、疲れてる?」
「……誰のせいだと」
「あ、私?」
そっか。ただのモンスターでさえ、問題ありそうなのに、人型になれるようになっちゃったもんね。
「ご迷惑おかけします」
リュートの腕の中で、ペコリと頭を下げたら、ニヤリと笑ったエヴァンに頭を撫でられる。
「迷惑だと思ったことなんてねぇよ」
うむ。とりあえず――。
「イケメン禿げろ」
「突然、理不尽だな!?」
照れ隠しで呟いたら、エヴァンから全力の突っ込みが返ってきた。
元気が出たようで何よりだ。
ご感想ありがとうございます!
返信は少々遅くなりますが、よろしくお願いいたします。
タグについては、悩んでます。
何かを追加すべきですかね……?




