添い寝なう。
まだエヴァンのターンでした。
リュートとのご対面は、次回になります。
エヴァンが、色々とお疲れのようですが、そのうち復活してくれると。
とりあえず、エヴァンご褒美回はこれで終了です。
生着替えは拒否されたので、私は脱衣場で湿った下着を脱ぎ、ルーから新しい下着を受け取って着替える。
そのままシャツを羽織り、浴室へ戻ろうとしたが、先にエヴァンが浴室から出てくる。
「どっちが似合う?」
ちょっと憧れだった台詞を、出て来たエヴァン相手に使ってみる。
私的には、下手な水着より布が多いので、あまり恥ずかしさは無いんだよね。
何処ぞの変質者のように、シャツの前を開いて下着を見せたら、エヴァンに即閉めさせられた。
エヴァンが見たいって言うから見せたのに、理不尽じゃない?
「……どっちも似合ってる」
何か無理矢理言わせた感が半端ないけど、一応合格点な言葉をいただけた。
「やっぱり、ピンクじゃないから、駄目?」
小首を傾げたら、呆れた顔をしたエヴァンに、ポンポンと頭を撫でられる。
「いくらモンスターだからって、羞恥心は何処に置いてきたんだ、ハルは」
「……んー、エヴァンだから、見せてるんだよ?」
私だって、相手は選ぶよ。
エヴァンだから……うん、深く考えたら、徐々に恥ずかしくなってきたのは何でだ?
「そ、そうか……」
エヴァンまで照れないで欲しい。
酔いも醒めたし、居たたまれなくなってきたじゃないか。
何と無く、意味はないのはわかってるけど、彼シャツ状態のエヴァンのシャツの裾を引っ張り、モジモジしてみる。
「ぶ……っ」
私の仕草が気持ち悪かったのか、エヴァンは口元を手で覆い、微妙に前屈みになっている。
失礼だな、本当に。
吐きそうなぐらい、気持ち悪いと?
「私、ルーと、先に出てるね?」
私だって、凹みますけど〜。
私のそんな気持ちを察したのか、エヴァンは微妙な前屈みのまま、
「ベッドで待ってろ」
と、言い置いて、浴室へ戻っていく。
うん、いい筋肉な後ろ姿だね。
しかし、追い討ちかける気?
あ、それとも、組合長として、人型になるモンスターに警戒してるのか?
別に性格変わったとか、危険な能力増えたとかはいないんだけど。
そんな事を考えつつ、私はルーを捏ねくり回しつつ、辿り着いたベッドにダイブしておいた。
「……ル、ハル、寝てるのか」
「起きてまふ……」
「寝てただろ」
私としては、誤魔化したつもりだったが、即突っ込みが入る。
ルーとベッドでじゃれていたら、うとうととしてしまったらしく、気付いたらエヴァンの顔が間近にある。
で、でも、エヴァンのベッドがふかふかで、いい匂いなのが悪い。
つまりは……。
「エヴァンが悪い」
「もともとは、ハルが煽る……いや、何でもない。待たせて悪かった」
うん? エヴァン、何か反論しかけたけど。
と言うか、待たされなくても、あっという間に寝られるよね、エヴァンのベッド。
「待ってはいないよ。エヴァンのベッド、エヴァンの匂いがして落ち着くから、眠くなっただけ。ね、ルー」
一緒になって寝ていたルーに話を振ると、高速で震えている。
たぶん、同意なんだろう。
「だぁかぁら、それを、止めろ……って言っても、仕方無いのか」
ベッドに寝転んだまま、首を傾げて見上げたら、脱力したらしいエヴァンが倒れ込んできて、押し潰される。
私とエヴァンの間に挟まれ、ルーが苦しそうに……。
(ぷっぷぅ、ぷぅ〜)
違ったようだ。全然ご機嫌だ。
エヴァンが遊んでくれてると思ってるのかもしれない。
「重いよ」
でも、私は重いし、息苦しい。
エヴァンって細身だけど筋肉質だから、見た目より重いんだよね。
あと、話をするには適してない体勢だよ。
ピロートークじゃ、あるまいし。
「ハルが悪い」
私の台詞を真似るようなエヴァンの声が、耳元で聞こえる。
そのまま、エヴァンは私の真っ白な髪に顔を埋め、動かなくなる。
手触り最高だからね、私の髪って。
少し癖があるけど、艶があって、触り心地はケダマモドキの時のままだし。
腰ぐらいまでの長さがあって、若干ウザくはあるけど。
「ハル、シャンプー変えたか?」
しばらくしてから、エヴァンがボソリと訊いてくる。
声の響きに不機嫌さを感じた私が横を向くと、エヴァンもこちらを見ている。
エヴァンは腕を私の両脇に突いてくれたので、潰される重みは少しは減ったけど、その分目力が増した気が……。
「……え? なに?」
質問の内容が全く入って来なかったため、聞き返したら、ため息を吐かれ、髪を甘噛みされた。
「シャンプーだ。変えただろ」
シャンプー?
一瞬頭の中をハテナマークが回るが、すぐに理由に気付く。
「あー、シャンプーね。リュートが買ってくれたの。いい匂いでしょ?」
意識してなかったけど、私の匂いが変わったらしい。
そう言えば、リュートに洗ってもらったのは、ノクを旅立ってからだし、エヴァンに新しい匂いを嗅ぐ機会はなかったか。
それに、今日はお湯で埃を流しただけだから、残り香もあったんだろう。
「へぇ、リュートがな。……次回は、俺の家のシャンプーで洗わせろ」
甘噛まれていた髪が解放され、ニヤリと笑ったエヴァンが、髪に触れながら冗談めかせて言う。
なら、私も乗ってあげないと。
「洗ってくれるなら良いよ。ケダマモドキの姿? それとも、この姿で?」
ふふ、と悪戯っぽく返すと、エヴァンは相変わらず片手腕立て伏せみたいな体勢のまま、私の髪を撫でてくる。
「どっちでもいいさ。あと、俺は本気だから」
またニヤリと笑ったエヴァンは、見せつけるように私の髪へ口づける。
ちなみに、その間もエヴァンは片手腕立て伏せのままだ。筋力の無駄遣いだと思う。
「約束したからな」
私が軽く現実逃避している間に、エヴァンはそう念押しして、私の横に倒れ込んでくる。
衝撃でふかふかのベッドがたわんで、私はエヴァンの方にくっつく体勢になってしまう……って、さっきまでもくっついてたか。
しかし、エヴァンに乗せられて、約束しちゃったけど――ま、エヴァンならいいか。無体なことはしないよね。
うん? で、流れで引き寄せられたけど、私はいつの間にエヴァンと一緒に寝ることになったんだ?
(まま、おやすみ)
いい子なルーが、即寝しちゃって、さらに抜け出し難くなる。
「おやすみ、ルー」
ルーの現在地は、私の胸の谷間だ。すっかり気に入ったらしい。
「ルーは、うらやま……」
私の胸の谷間にいるルーを見つめていたエヴァンは、何事かを呟くが、私の視線に気付いたのか、ハッとした表情で口を閉じる。
「うらやま?」
「いや、何でもない。寝るぞ?」
一緒に寝ることは、すでにエヴァンの中で決定事項だったらしい。
裸族のままなら全力で拒否したけど、いつの間にかパン一までは進化してた。
先を読まれたのような気もする。
エヴァン宅に泊まると、一緒に寝ることは決定なんだろうか。
まだ二度目だけど。
ケダマモドキな時とは違い、色々と触れ合う感じがして落ち着かない、とか思った時もありましたが、気付いた時には、私は夢の中でした。
夢うつつで、エヴァンがため息を吐いたのと、
「生殺しかよ」
という、謎単語を聞いた気がしたけど、たぶん夢だろう。
「……都合の良い夢じゃなかったか」
エヴァンのそんな呟きで、私は目を覚ます。
胸の谷間でルーが動く気配ってことは、まだ人型のままらしい。
目を開けると、ベッドに肘をついて、頭を支えたエヴァンが、私を見つめている。
「……おはよ」
うん、声も出た。
「あぁ、おはよう」
誰だこれ。
気のせいか、エヴァンの笑顔と声が甘いんですけど。
この間の寝起きは、無駄に声が掠れてて、エロかったはずだよね。
今日は良く寝られたのかな。
「……よく寝てたな」
「エヴァンもリュートも、あったかいから良く眠れるんだよね」
夏は暑そうだけど。
「まだ同列か……」
悩みでもあるのか、エヴァンは複雑そうな表情をして、私を見下ろしてる。
私はんー、と伸びをしながら、ベッドから体を起こす。
「シャワー浴びてくる」
エヴァンは、いそいそと浴室へ消えていき、ベッドには私とルーだけだ。
エヴァンも、若い男だから、色々と仕方無いよね。
一人で納得をし、私は腰まである自らの白髪に触れる。
「……そう言えば、ケダマモドキの時の能力って、どれぐらい使えるのかな」
エヴァンがシャワーしている間に、自分自身を鑑定してみる。
あー……女神様が喜びすぎて、鑑定がヒャッハーな感じで、目がチカチカしたよ。
何とか知りたいことは、わかったけど。
まず、もふもふ収納は使えるらしい。髪の毛から。
ちょっとした手品が出来そうだね。
吸収も出来るらしいけど、髪の毛から食事って、妖怪だよね、確かにモンスターだけど。
もちろん、口からも食べられるらしい。能力は吸収と一緒だから、スプーンだろうが皿だろうが、イケるそうだ。イカないけど。
いくら平気だとはいえ、せっかく人型なんだし、リュートと同じ物を食べたい。
一緒に向かい合って、ご飯を食べてあげたい。
と言うか、ギュッて抱き締めたい。手足生えたし。
思い付いたら即実行ってことで、私はベッドから跳ね起きて、そのままリュートの元へ向かおうとする。
「おい、こら、待て」
む。シャワーから出て来たエヴァンに止められた。
「なに? リュートのとこ、行きたいんだけど」
「いくらリュートが見慣れてるとはいえ、その格好は止めろ。服も買ったんだよな?」
エヴァンの呆れた表情に、私はシャツしか着てないことを思い出し、背中へ手を伸ばすと、髪の毛から買っておいた服を取り出す。
「ありがと。忘れてたよ。……あ、人の姿を見せたの、エヴァンが初めてだよ?」
私は笑顔でお礼を言いながら、シャツを脱いで、町娘っぽい簡素なワンピースを着込む。
「エヴァンのおかげで、この服も買えたんだよ。ありがと。変じゃないよね?」
着替える私をガン見していたエヴァンの前で、くるりと回って見せると、油が切れたような動きで頷いてくれる。
エヴァンは正直過ぎるよね。
ま、似合わないって言わない辺り、優しいけど。
リュートなら、たとえ私が全身タイツだろうが、手放しで誉めてくれるだろう……ってことで、リュートのとこへ行こう。
私は、固まっているエヴァンを放置し、ペタペタと裸足で歩き出す。
今さら気付いたけど、靴とか買い忘れた。
私がそんな事を考えつつ、部屋の扉を開けて外に出ていった後、エヴァンが呟いた言葉を知る術は、私には無かった。
「――そうか、俺がハジメテか」
ただ、上機嫌な高笑いだけは聞こえ、エヴァンは色んな意味で朝から元気だな、とは思ったけど……。
期待に胸を高鳴らせ、リュートの元へ向かう私には、あまり気にはならなかった。
私的には、お留守番だったエヴァンに、少しはいい思いを、とか思いましたが、逆に精神的な疲労を与えた気もします。
高笑いとかしちゃってますし。
次回には、元気になってくれると思います。
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