披露してみる。
色々と披露してみました。
注意点としては、ハルもエヴァンも、酔っぱらいです。
ぐでんぐでんじゃなくて、色々と開放的になって、ハッピー気分な酔いレベルです。
だから、余計にタチが悪いと。
(そんなに、女性用の下着が見たかったの?)
私はぷかぷかと、少し温くなったお湯の中を漂い、エヴァンへ軽く体当たりし、ジト目で睨む。
ルーはのぼせる前に、洗面器の水風呂へ移動させてあるので、ご機嫌にぷぅぷぅ鳴いている。
浴槽には、私とエヴァンだけ。
「いや、ハルが買ったやつが、見たいだけだからな? そんな目で見るな」
無駄にキメ顔でエヴァンが訴えてくるけど、やっぱりイケメンの無駄遣いだと思う。
(私が買ったやつが、見たいって……そう言えば、私にはピンクが似合う?)
「イリスから聞いたのか?」
(うん)
私が頷くと、エヴァンが濡れた髪を掻き乱しながら、あーとか不明瞭な呻き声を洩らす。
「……ハルは、毛並みが白いからな」
言い訳のような台詞の後、伸びてきた指が、私の濡れたもふもふへ触れる。
「……なぁ、ハル。アンナとウィナにお土産があって、俺には無いのか?」
酔いのせいか、拗ね方が少々幼くなったエヴァンは、リュート並みに母性本能が擽られる。
でも、エヴァンへのお土産は、リュートが持っていたから、ここにはない。
それに、あれは、せっかくだから、リュートからエヴァンに手渡してもらいたい。
悩んでいる間にも、エヴァンは私のもふもふをくいくいと、引っ張り回してる。
(もー、しょうがないな。お土産代わりにはならないだろうけど、買った下着、見せてあげるよ)
イケメンだから、エヴァンが見たいって言えば、いくらでも見せてくれる女性、山ほどいそうだけど。行列出来るレベルで。
本当に私が買った下着で良いのか、エヴァンよ。
本気でイケメンの無駄遣いだと思う。
「いいのか?」
目をキラキラと輝かせるエヴァンに、私は目を細めて笑い、頷いて浴槽から這い出す。
仕方ないから、イケメンの無駄遣いをしているエヴァンのため、一肌……じゃなかった一毛皮脱ぎますか。
あ、水風呂からルーもついてきたな。
エヴァンは、浴槽の縁に肘を乗せて、上体を預けて私を見送っている。
どれだけ楽しみにしてるんだ。
期待に応えてあげたくなるじゃないか。
ってことで、私はせっかくだから、サプライズ兼新しい能力を試してみようと思う。
何かあっても、エヴァンがいればどうにかしてくれそうだし。
私はそんなことを考えながら、浴室を出て、準備を始めるのだった。
しばらくしてから、結論。
私も、実はしっかり酔っていたんだと、今さらながらに自覚する。
もふもふな体の水分を吸収し、買っておいた下着を吐き出して、ルーに預ける。色は、黄色と水色。
エヴァンに見せるなら、ピンクも買えば良かったかな、とか考える辺り、酔いはかなり回っていたと思う。
で、その酔っぱらい思考のまま、気合を入れて、体を変化させるように意識する。
ちょっと前までは人間やってたから、意識はしやすい、と思う。
体を変化させるイメージは、巨大化する時と似てるが、あれよりキツイ。
ま、巨大マリモから、人へと変化してる訳だもんね。
時間的には、五分ぐらいか。
カップラーメン出来上がるぐらいの時間で、慣れ親しみ始めた私の体は、三十年近く過ごしてきた人間の姿に変わる。
鏡を見ると、夢の中で見た、白い髪に金の瞳をした少女が私を見つめ返す。
違和感は意外と無く、これは自分なんだと、きちんと理解している自分がいた。
「睫毛まで白い」
喉が震え、声がきちんと出る。手足もある。
念話的ないつものは出来るのかは、後で確認しよう。あれはあれで、便利だし。
(まま)
二色の下着を乗せて、大人しくしていたルーが、甘えるように私の足へまとわりついてくる。
いきなり姿を変えた私に怯えるかと思ったが、甘えてくるルーに、全くそんな様子はなく、拾い上げると胸の谷間辺りに落ち着いた。
「大きいね、やっぱり」
前世より、かなりある二つの膨らみを、下からたゆたゆと揺らすと、ルーもぷるぷる揺れて楽しそうだ。
そう言えば、前世ではこんなきちんとしたブラジャーなんて、しなかったな、と思いつつ、私は水色の方の下着を着けていく。
まずは、下を履いて、次にかなり手こずったけど、何とか女性にとって胸部の装甲的なブラジャーを装着する。
そこで、私は服を吐き出してない事に気付くが、まぁいいか、と思い直す。
この姿(人型)でも、もふもふ収納は使えるのかわからないけど、今回の一番の目的は、出資者であるエヴァンの要望に応えて、買った下着を披露することだ。
どっちにしろ服は着なくて良いよね。
「ルー、変じゃない?」
(ままは、まま)
変じゃないみたいだな、たぶん。
ルーは私が大好きだから、あまり参考にはならないけど。
あと私もルーが大好きですけど!
意味無く心の中で叫んでから、私は手触り最高な白髪を、軽く撫でて整えてから、勢いをつけて、浴室へ続く扉を開ける。
「遅かったな……誰、だ?」
そりゃ、きょとんとされるよね。
さっきまでゆるゆるで笑っていたエヴァンの顔が、一気に引き締まり、剣呑な気配をまとう。
服とかは一切身に纏ってませんけど!
私は下着姿ですけど!
ここまでの激高は予想していなかったため、あわあわした挙げ句、酔っぱらいな私が捻り出せたのは……。
「ご指名ありがとうございまーす! ハルでーす……なんて」
何だか、お水なお姉さんみたいな台詞だった。
「あ゛? 一体、何処から入った? 俺は女だろうと、容赦はしないが?」
ザバッと勢い良く浴槽から立ち上がったエヴァンが、低い恫喝の声と共に近寄って……って、わかってない?
「あの、エヴァン、私だよ? ハルなんだけど……」
今にも殴られそうなんで、パタパタと手を振り、必死にアピールをする。
私の胸の谷間辺りに落ち着いていたルーも、ぷぅぷぅ鳴いてくれてる。
「ルー? それに、その髪に、金の瞳……」
ルーの存在に気付き、エヴァンからの殺気が消え、代わりにまじまじとした視線が、私の頭から爪先まで舐め回すようにまとわりつく。
「まさか、本当に、ハル、なのか?」
「……そうだって」
エヴァンの確かめるような途切れ途切れの台詞に、酔いが醒めてきた私は、バツが悪くなる。
(当然だよね。モンスターが人間になる訳ないよね?)
「いや、魔力の高い、高位のモンスターなら、稀にあるって話は聞いた事があるが……」
「そうなんだ……って、今、私、口に出てた?」
いつもみたいにして、呟いたつもりだったんだけど。
「聞こえた。と言うか、声で気付くべきだったよな。いつも聞いてた声と、話す声が同じだってな」
つまりは、念話的なあれも使用可能な訳だ。
(この声と)
「こうやって喋ってる声が、同じ……あれ?」
少し考え込んでから、実験のために喋りかけたら、エヴァンの姿が、いつの間にか消えてる。
私が首を傾げていると、背後からバサッと布的な何かを掛けられ、筋肉質な腕に包まれた。
「うぁ……って、エヴァンか」
回された腕からは嗅ぎ覚えのある匂いがするし、リュートの腕より逞しい。
よって、結論は一つ。
「……とりあえず、これを着てくれ。色々とヤバい」
「やっぱり何か変?」
振り返ろうとした私に、無理矢理着せられたのは、白いシャツだ。
「エヴァンの匂いがするね、ルー」
(する〜)
ルーとじゃれていたら、拘束する力が強まりました。
これは、黙れ、的なアピールだろうか。
骨がちょっとミシミシいってますけど?
「エヴァン、ミシミシいうんだけど」
一応私が訴えると、少しだけ拘束する力が弱まり、左肩の辺りに重みが加わる。
「……本当に、ハルは、規格外だな」
重みの正体はエヴァンの頭らしく、左側から何処かため息と共に弱々しい呟きが聞こえる。角度的に顔は見えない。
「私は、人の姿は便利で良いと思ったけど……やっぱり、変なんだよね」
すっかり酔いは醒めたから、モンスターが人の姿をとるなんて、張本人な私でもおかしいと思う。
何でだろう。リュートやエヴァンなら、普通に受け入れてくれると、思い込んでたから、少し……いや、かなりショックかも。
彼シャツ状態のエヴァンのシャツを弄りながら、地味に凹んでいると、抱き締める力が強くなる。
人型でも最強もふもふの防御力は健在なのか、また骨はミシミシいってるけど、痛みや息苦しさはあまり無い。
けど、エヴァンは濡れたままだったらしく、微妙にシャツが湿ってきて気持ち悪い。
うん。軽く逃避してますが、何か?
だって、これでエヴァンに気持ち悪いとか変とか言われたら、凹むよ?
とりあえず、リュートの腕の中に、マッハで戻るため、逃げ出す準備をする、と……。
何か肩が痛い。
エヴァンが額でグリグリしてるらしい。
「何で、逃げようとしてんだ?」
絡み酒か、これは。
「だって、あんまり喜ばれなかったし」
せっかく買った下着を披露したのに。
「それに、私、変なんでしょ?」
エヴァンは最初以外、一度もまともに私を見ようとはしてくれない。
む。自分でも嫌になるぐらい、女々しい声だ。頑張れ、私。
「……変な訳ないだろ。最初に見た瞬間から、いい女だと思ったぜ?」
自分で自分を鼓舞していたら、耳元で苦笑混じりの柔らかい声でなだめられる。
思わず、ビクリと固まるが、エヴァンは構わず続けてくる。
「ハルだとわかったら、余計にな。
好みすぎて、このまま食いたいぐらいだよ」
買った下着も似合ってる。
そんな言葉が聞こえたな、と思った次の瞬間、首にあたたかな息がかかり――。
「……こんな風にな」
ガブリと甘く噛まれました。
モンスターより野性的って、ある意味、さすがエヴァンだよ!
でも、嫌われたり、怖がられては、本当にしてないみたいで良かった……って、舐めるのは止めて!
くすぐったい!
ルーも悪乗りしないで、パパじゃないからね?
あとは、リュートに披露するつもりだけど、あんまり不安は感じないんだよね、リュートだから。
って、エヴァン、脱がせないで、せっかく着けたんだから。
え? ルーが入れてる方(黄色)も、着けて見せろ?
デザインはそんなに変わらないけど……。
まぁ、買ってくれた人のお願いだし、叶えますけど!
生着替えしようとしたら、ギョッとしたエヴァンに、浴室から出された。
さっきまで嬉々として私の下着を剥いでたのに、謎だと思う。
ついに人型披露です。
ルートは何パターンか考えて、かなり悩みましたが、ハルとエヴァンなら、こうだなと、ギャグ路線で落ち着きました。
シリアスパターンか、エロなパターンも悩んだんですが、今後の楽しみもあるので。
感想、コメント、いつもありがとうございます。




