ノク通信
本編には関係ないオマケです。
感想で、他の人から見たら……的なのをいただいたら、ネタが降ってきましたので書きました。
一時間クオリティです。
俺? 俺は銀の札を下げた、中堅冒険者だ。
名前は、とりあえず匿名希望で。
俺はパーティーを組まず、ソロで活動してるが、場合によっては臨時のパーティーを組む事もある。
べ、別に人付き合い苦手な訳じゃねぇよ。
王都のダンジョンに入り浸っていたが、久しぶりにノクのダンジョンへ潜りたくて来たんだよ。
あとは、ノクの冒険者組合の受付嬢は、三人とも可愛いからな。
あ? それが目的だろ?
違うからな。
俺はあくまでもダンジョン目的だ。
ノクのダンジョンは初級者向けって言われてるが、中ボスより下の階層は、ガラッと変わるからな。
結構、掘り出し物とかあったりする訳だ。
それに、最近、ダンジョン内でレアなモンスターが出たって話だろ?
それも拝みたくて、な。
そんな感じでノクの街に来た俺は、新人らしい三人組のパーティーを見かけたんだよ。
お前も見たんじゃないか?
ノーマンとかいう貴族のボンボンがリーダーのパーティーだよ。
やっぱり見たか?
態度はデカイし、一般人相手に剣をちらつかせるし、ダンジョン内でもうるさいし、戦闘は激弱だし……。
何で、あんなパーティー全滅しないのかと思ったら、あいつら、三人パーティーじゃなくて、四人パーティーだとは、な。
しかも……しかも、だ。
その四人目が、まさか組合長のお眼鏡にかなった実力の持ち主で、性格も見た目も最高なんて、どうなってるんだって話だよ。
その四人目、リュートが真のリーダーだ、ってなら、まだわかるぜ?
それなのに、あいつら、リュートを蔑ろにして、さらには弱いって、足手まといだって、罵ってんだぞ? 何度闇討ちを考えたか……っ。
あ? あぁ、すまない、ちょっと興奮しすぎた。
ん? レアなモンスターは見られたのかって?
見られたぞ? 何なら触らせてもらったよ。最高の触り心地だった。
ミンクオオカミの毛皮より、もふもふで素晴らしかったな。
何の話だって?
お前が訊いたんだろ、レアなモンスターを見られたかって。
だから、そのレアなモンスターを、触らせてもらったんだよ。
そのレアなモンスター――ケダマモドキっていう種族で、名前はハルって言うんだが、リュートの相棒だったんだよ。
そう相棒。
リュートは魔物使いって事だな。
まぁ、でも、リュートとハルは、主従って言うより、ラブラブなカップルみたいだぜ?
一応、ハルはメスらしいし。
ハルの見た目か?
毛玉だな。真っ白いもふもふで、真ん丸い金色の目で、ジッと見てくるんだ。
結構、可愛いんだ。で、触り心地は最高。
頭が良くて、俺達の会話をきちんと理解してるんだよ。
リュートも可愛い相棒にベタ惚れで、誘拐された時とか、大騒ぎだったよ。
そうベタ惚れ。
まるで人間の女みたいに思える事があるせいかもな。
そうそう。
ノクと言えば、組合長が現役最高クラスの冒険者で、男前な事で有名なの知ってるか?
さすがに知ってるか。そうだ、エヴァンで合ってるよ。
顔に傷があっても男前って、爆発しろって思うのは、何でだ?
モテない僻み? うるさい、わかってるよ。
それより、組合長だ、組合長。
その組合長も、ハルにデレデレなんだよ。
リュートをからかってるのかもしれないが、ハルを口説いたりしてたぞ?
うん、毛玉だな。
そうだな、頭が良くてもモンスターだ。
あぁ。それを、組合長が口説いた。
それだけ、リュートが組合長のお気に入りって事かもな。
ま、本当にハルは、何か人間の女っぽいな。確かに、人間だったら、俺も一晩――いや、何でもない。
何か、急に背筋がゾクゾクしてな。
部屋に帰って寝るよ。
そう言えば、あんた、誰だ?
――次の日、酷い頭痛で目覚めた俺は、前日の夜の事を、全て忘れていた。
誰かと話していた気がしたんだが……まぁいいか。
●
私は最近ノクの街へやって来て、小さな屋台を始めたばかりだ。
ノクは王都も近く、ダンジョンもあるので、売り上げは上々だ。
何より、人が良い。
荒くれ者が多い冒険者だが、ノクは組合長の人柄か、ノリと人が良い冒険者が多い。
絡んでくる新顔がいても、別の冒険者が助けてくれたりする。
そんなノクで、私が最近気になるのは、ここ最近ノクに来た新顔な新人らしいパーティーだ。
貴族のボンボンっぽいリーダーに、チャラチャラした少し年嵩な少年、魔法使いらしい少女。それと、一番目を惹かれる、最年少らしい美少年だ。
茶系統の髪に、瞳は深紅という目立つ事この上ない美少年は、リュートというらしい。
他の三人が罵っているのを聞いたから、間違いないと思う。
足手まといだと罵倒され、シュンとしている姿を何度も見た。
そのまま置き去りにされ、寂しそうに歩き去る姿も。
まともな分け前も貰えないのか、リュートがお腹を鳴らしている姿を目撃したのも、一度や二度ではない。
私は売れ残ったと言い訳し、何度か串焼きを押し付けた事がある。
私の他の屋台の店主も、リュートに色々と渡している姿を見かけた事もある。
態度が最悪な他の三人に比べ、リュートは可愛いげがあり、何よりいい子だから、皆、放って置けないんだろう。
その度に、リュートはキラキラとした笑顔でお礼を言ってくれるので、さらに放って置けなくなる。
しかし、私に出来る事はそれぐらいだった。
それでも、リュートとの会話は、私のささやかな楽しみだった。
そんなある日、私のささやかな楽しみは、無惨に打ち砕かれた。
リュートが、ダンジョンから帰って来なかったのだ。
帰ってきたのは、残りの三人だけ。
ボロボロの三人は、周囲の目も気にせず、リュートを口々に罵倒していた。
それで、私にもわかってしまった。
彼らは、ダンジョンにリュートを置き去りにしたのだと……っ。
周囲からも、私と同じタイミングで息を呑む音が聞こえ、リュートがどれだけ可愛がられていたかがわかる。
私達に彼らを責める事は出来ない。
生き残るために、仕方ない事だったのかもしれない。
だが、彼らに悲しむ気配や悔しがる様子はない。
ただ、リュートを罵倒している。
酷い無気力感に襲われ、深酒をした私は、二日酔いで次の日、ベッドから起き上がれなかった。
だが、生活のためには、落ち込んでもいられず、店を開けた私は、驚きの光景を目撃した。
リュートが……リュートが屋台の前を、いつも通り笑顔で通り過ぎていったのだ。
いや、何ならいつもより、笑顔が幸せそうだ。
リュートの視線の先には、肩に着けた毛皮らしきがある。
もしかしたら、ダンジョンで宝でも見つけたのかもしれない。
そんなリュートの幸せそうな笑顔の理由が、ダンジョンで出会ったケダマモドキというモンスターだと私が知るのは、次の日で……。
しばらくして、リュートがあのパーティーから抜けたという噂を聞き、屋台の仲間で祝杯を上げ、全員仲良く二日酔いになり、青い顔を並べて店開きとなったのは、いい思い出だ。
●
あたしは、冒険者で、気ままな女一人旅だ。
これでも腕に自信があるので、女一人だろうと問題はない。
今日たどり着いたのは、初級者向けダンジョンがある、ノクという街だ。
王都の近くで、ダンジョンもある街だから、かなりの活気がある。
キョロキョロと辺りを見回していたあたしは、一人の少年に目を止める。
別に美少年だから目が止まった訳では……それもちょっとあるけど、頭の上に何かが乗っていたからだ。
半透明でぷるぷるして、頭の上で微妙に変形……って、スライムじゃないの、あれ!
なんで、あんな危険生物が街中に?
スライムは弱いけど、雑食で、生きてる相手だろうが、体内に取り込んで溶かして食べてしまう。
あの光景は未だに夢に見るぐらい衝撃的だ。
思い出してしまった光景を、ブンブンと頭を振って追い出し、あたしは美少年に警告するために歩み寄る。
幸いにも、まだスライムは捕食行動には移っていない。間に合うはず。
「あの、頭にスライム乗ってるわ……?」
そこまで言いかけて、あたしは美少年の肩と目が合う。
自分で言っておいて変だが、本当に美少年の肩と目が合ったのだ。
正確には、美少年の肩に付属していた、手触りの良さそうな、もふもふと。
「え? あ、わかりました」
もふもふが目を細めて笑った気がした後、美少年が突然喋り出し、あたしの方を見て、ニコリと笑う。
真正面から見ても、まごうことなき美少年だ。性格も良さそうだ。
「このスライムはルーといって、俺の仲間ですから。心配してくださったんですよね。ありがとうございました」
美少年の言葉を証明するように、スライムがぷぅぷぅ鳴いている。
スライムって鳴くんだ、と思っていると、また美少年の肩のもふもふと目が合う。
真ん丸な、金色の綺麗な目だ。
「あの、そのもふもふ……」
「すみません、これから依頼人と会う約束なので……。驚かせてすみません」
美少年はペコリと頭を下げると、スライムを頭に乗せたまま、駆け出していく。
一度も振り返る事なく。
ただ、肩のもふもふだけは、あたしをジッと見つめていた。
「あれ、なに?」
出来れば、そちらの説明もしていって欲しかった。
モヤモヤしていたあたしの疑問は、数日後、美少年と冒険者組合で再会するまで、解消される事はなかった。
うん、楽しかったです。
何か、最初のだけ、ちょっとホラーっぽくなりました。
夏だからでしょう。




