誘拐犯×2
他二つが進まない分、書いてて気が楽なこっちが進みました。
ハルさんのおかげで、ちょー楽です。
ハルさんの基本スタンスは、
うちの子可愛い。
可愛いは正義。
可愛い子は愛でてなんぼ。な感じでブレないんで。
内心でエヴァンに土下座しながら、私はイリスさんに抱かれて服屋の中を見て回る。
「これなんかどうです〜?」
差し出されたのは、フリフリで真っ黒な下着のセットだ。
「ハルさん白いから似合いますよ〜?」
(確かに、肌は白かったけど、もう少しシンプルな方が……)
伝わらないのはわかってるから、全身で拒否を示しておく。
と言うか、イリスさんの中で、エヴァンはどんなイメージなんだ、今。
「組合長、ハルさんに人間用の服買うなんて、どんだけ惚れてるんだって感じです〜」
うん、ごめん、エヴァン。誤解はどんどん深まってるよ。
ちゃんと、私が服を欲しいって手紙に書いてもらって……。
「組合長は、ハルさんにピンクが似合うって書いてありますけど、あたしは水色とかも似合うと思います〜」
(お前が犯人だ!)
私の大声に、リュートが店の入り口から、心配そうに窺っている気配がする。
(ごめん、何でもないよ〜)
リュートに声だけで謝り、私とイリスさんは店の奥へと向かう。
下着は少しだけヒラヒラした薄い黄色のと、洗い替え用に同系統の水色。普段着のワンピースを二着、それと念願だったドレスを一着。
人型の防御力は低そうだし、人型での戦闘は想定してないチョイスになるよね。
本当は目立つ所に飾られていた、艶のある水色で、焦げ茶色のフリルが付いたドレスも気になったけど、有り得ない値段なので見なかった事にした。
その後、付属品諸々も選んで、私は問題に直面していた。
リュートはやたらと私にお金を突っ込むが、足りないと思う。
私がドレスを止めようか悩んでいると、イリスさんが普通に会計を終わらせて、私のもふもふの中に服を突っ込んでくる。
「食べちゃ駄目ですよ〜?」
悪戯っぽく笑っているイリスさんに目で訴えていると、男物らしい黒い革の財布を見せられた。
「心配しなくても、組合長のおごりですよ〜? ダンジョンで命を救ってもらったお礼だって、言い訳してました〜」
そっか。あの時のか。
じゃあ、せっかくだから、ありがたく奢られておこう。
「よく女性に服を贈るのは、脱がせたいから、みたいな話がありますけど……。ハルさんは毛皮ですかね〜」
毛皮は脱げません。
私のもふもふの中には、秘密が詰まってるし、物理的に。
お礼は直接エヴァンに言えばいいよね、って事で、買い物を終えた私とイリスさんは、きゅんきゅん鳴いてそうなリュートの元へ戻ったんだけど……。
「あ、ハルさん、お帰りなさい!」
ニコニコと私とイリスさんを迎えてくれたリュートの足元には、ピクピクと痙攣している男が二人。それとリュートが拘束してる男が一人。
(リュート、それ何?)
「はい! ハルさんを拐かそうとしていたので、伸しときました」
(るー、まま、まもる)
いやぁ、いい笑顔だね。リュート。
ルーはドヤ顔が可愛いよ?
でも、たぶん、狙いはイリスさん……。
「くそっ! レアなモンスター連れたガキがいるって噂を聞いたが、ここまで強いなんて聞いてないぞ?」
じゃなかったよ、私だった!
拘束された男が毒づくのを聞き、私は目を見張る事になり、イリスさんは私をしっかりと抱き締め直してくれる。
(ありがと、リュート、ルー)
お礼はきちんと言わないとね。
「はい!」
(ぷぅ)
うちのいい子達は可愛いね。
喜んだリュートが力加減間違ったのか、拘束されてる男からカエルが潰れたみたいな声がしてて、周りがドン引きだけど、可愛いよ。
その後、やっと来た兵士が、三人組の誘拐犯を連行して行ってくれたので、私達はやっと宿屋へ向かった。
念のため、宿屋へ入る時、私とルーは、リュートのフードの中に身を隠している。
そのまま部屋へ直行したので、他の宿泊客には気付かれてない。
もちろん、宿屋の主人には、ギルバートさんから話を通してもらってあるので、無断宿泊ではない。
部屋を汚さないのと、食堂には立ち入り禁止が、条件だ。
私とルーなら、簡単に守れる条件だよね。
あ、イリスさんは別の部屋をとってある。
別に間違いは起きないだろうけど、のんびりイチャイチャしたいからね。
リュートとイリスさんは食堂に行ったので、今現在部屋には私とルーの二匹きりだ。
広さはノクの宿屋と同じぐらいで、窓際には書き物机が置かれている。
一応、備え付けなクローゼットもあるけど、中には何も入れてない。服はリュートが着てるし、洗い替えは私が収納してるから。
あと、中は見てないけど、入口の他にもドアが一つ。トイレかな?
壁際には、一人で寝るには十分過ぎる清潔なベッド。
そのベッドの上でコロコロ転がって、私とルーは追いかけっこをしていたり……。
(まま、まって)
(こっちだよ、ルー)
イメージ的には、砂浜で追いかけっこをしているバカップルだ。
私もルーも、きゃっきゃ、うふふ。みたいな声を上げているが、私の声はリュートにしか聞こえないし、ルーの声は私にしか聞こえないから、部屋の中は静かなものだ。
留守だと思って、泥棒が入ってくるくらいに。
リュートは、どうやら鍵をかけ忘れたようだ。
小太りなおじさんが、こそこそと、だがしかし、普通に入ってきてる。
私はおじさんな泥棒に気付かれる前に、ルーをもふっと捕まえ、ベッドと壁の隙間に、スルリと入り込んで身を隠す。
私とルーだから出来る芸当なんで、良い子は真似しちゃ駄目だよ?
なんて、現実逃避をしながら、私はそっと泥棒の様子を窺う。
私の目は、金色なんで、無駄に目立つから気を付けないと。
「……何処だ、そのケダマなんとかってモンスターは」
はい、侵入理由のご説明ありがとうございます。
何か、今日モテモテだね、私。作為を感じるよ。
ま、犯人は何となくだけど、わかってる。と言うか、あいつらしかいない。
リュートは良くも悪くも目立つからね。
接触が無くても、何処かに潜んでるあいつらには伝わって、行動を起こしたんだろう。
あいつら、口だけは上手いからなぁ。
(まま、てき、とかす?)
(部屋を汚しちゃ駄目だから、リュートを待とうね)
飛び出そうとするルーをなだめ、私はリュートの帰りを待つ。
泥棒はやけくそなのか、書き物机の引き出しまで開けてる。
入ろうと思えば入れるけど、入ってません。
ベッドの下も覗き、空のクローゼットも確認して、泥棒は首を捻っている。
伝える義理も、術も持たないが、私は思わず声をかける。
(し……じゃなくて、おじさん、後ろ、後ろ)
クローゼットの中を覗き込む泥棒の背後に、瞳孔が開いた美少年が、笑顔で立ってるから。
私の声が聞こえる訳もなく、リュートに肩を叩かれ、油が切れた人形じみた動きで振り返った泥棒は、殺気に耐えられなかったのかそのまま気絶した。
思う事は一つ。
(部屋が汚れなくて良かった)
正当防衛なら、相手を殺しても罪にはならないと、エヴァンに聞いてはいるけどね。
でも、こんな小悪党の血でリュートの手を汚すなんて、嫌。
部屋が汚れるのも嫌。
今日、ここで寝るんだし。
気絶した泥棒を、縛り上げて部屋から叩き出したリュートは、途端にきょろきょろと落ち着かない様子になる。
何だ?
私が声をかけずに様子を窺っていると、リュートは先ほどの泥棒の再現のように、引き出しや、クローゼットなどを覗き込んでいる。
(リュート、貴重品とルーなら、私が収納してるから、大丈夫……)
動きが可愛かったから、しばらく見守って堪能し、私はリュートへ声をかける。
その途端、瞳孔が開ききったリュートの瞳が、隙間に嵌まる私をロックオンし、キラキラと光り、つい語尾が小さくなる。何だ?
「ハルさんっ!」
某泥棒の三代目のダイブを思い出した私の前で、リュートがベッドに飛び乗り、隙間にいた私を引き抜く。
スポンと抜けたし、色的には、カブとか大根な気分になっていると、ぎゅうぎゅう抱き締められる。
「姿が見えないから、拐かされた後なのかと、心配しちゃいました」
今にも泣きそうな声でそう言ったリュートの顔は、泣き笑いのように歪んでいて、私は後悔する。
可愛いからって、見守る時間が長かった、と。
(ごめんね。まさか、花瓶の中を覗き込んでまで、私を探してるとは思わなくて)
引き出しやクローゼットはともかく、花瓶の中を覗き込んでたから、リュートは貴重品の確認してると思ってたよ。
「だって、ハルさんが見当たらないから……」
きゅーん、と鳴きそうなリュートの甘えた表情に、私は内心悶えながら、リュートをもふっと抱き締め返す。
いつもなら、このまま就寝コースだけど、今日は違うらしい。
「ハルさん、ハルさん、俺の荷物を出してください」
(ん? はいよ)
弾むようなリュートの声に体を傾げながら、私はリュートの腕の中に荷物を吐き出す。
リュートはベッドの上に荷物を置くと、私を抱いたまま、器用に片手で荷物を探る。
ガサゴソと荷物を探るリュートをまた見守っていると、目当ての物を見つけたはしく、リュートはパァッと顔を輝かせ、荷物の中から何かを取り出す。
それは、乳白色の液体が入った小さな瓶だ。
(何それ?)
「シャンプーです。キャリー様に、店を紹介してもらって買っておいたんですよ。ハルさん洗いたくて」
(そうなんだ、ありがと)
リュートの気遣いにほっこりしていた私は、すっかり忘れかけていた疑問の答えを見つけた気がし、上目遣いでリュートを窺う。
(もしかして、お嬢様と出かけた理由って……)
「え? あぁ、キャリー様の髪質がハルさんに似てそうだから、シャンプーを買う店を知りたくて。店の場所だけ教えて欲しいと頼んだんですが、場所がわかりにくいとおっしゃって、案内してくださると……」
デートですらなかったんだね、あれ。
お嬢様、肩透かしだったろうなぁ。
たぶん、自分にプレゼントだと思ったよね。あれだけ顔に自信があるなら。
「お風呂がある場所で使おうと思って、楽しみにしてたんです!」
(ソウナンダ……)
うん。洗ってくれる気なんだね。
見た目的には、タオルの洗濯だろうし?
あと、ドアの先はトイレじゃなくて、お風呂だったんだ。
(おふろ、おふろ)
(うん、楽しみだね)
無邪気なルーに相槌を打ちながら、私はウキウキとお風呂へお湯を貯めに行くリュートを見送った。
あー、ある意味、エヴァンとの入浴より恥ずかしい気がするのは、何でなんだろう……。
提案いただいたドレスの一着は、高くて買えなかったようです。
そして、イリスさんの中で、エヴァンはどんどん、へんた……ごほごほ。
次回はお色気満載の入浴シーンに……なりません!




