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フラグを建てるのはリュート。

フラグにはなりませんでした。


ハルさんの派出所っぽいは、私の主観なんで、そこのところ、よろしくお願いいたします。

(私にはフラグ建築な力はないみたいだね)

「何かありましたか?」

(まま、まま)

 私の独り言に、リュートは小首を傾げ、ルーはぷるぷるしながら甘えてくる。

 私達が今何処にいるかと言えば、無事にトイカへ到着していた。

 残念ながら、あれ以降は何事もなくて、正直肩透かしを食らった気分だ。

(何でもないよ?)

「なら良かったです。出張所はあちらだそうです」

 ニコニコと人懐こく笑うリュートに、周囲からは怪訝そうな視線がちらほらと。

 うん。私達、表通りにいたからね。

 ノクより少ないが、人通りがない訳ではない。

 肩に乗せた毛玉相手に話しかける、見慣れない人物だからね。

 リュートが可愛いげのある美少年だから許されてるよ、これ。

 実際リュートは目が合った相手には、ニコニコと笑い返し、老若男女関係無く頬を染めさせてる。

「イリスさんは、先に行ってるんですよね」

(うん。宿もとれたし、合流しよう)

 私達の会話が示す通り、イリスさんは、荷物を私達に預け、先に冒険者組合の出張所へ向かっていた。

 道中遭遇してしまった件の報告へ、代表で行ってくれたのだ。

 あと、リュートの偽者がいた場合は対処してくれる事になってる。

 リュートの偽者への対応は、エヴァンと話し合い済みだ。

(さて、どんな美少年が出るかな)

「ハルさん、何か楽しんでます?」

(そうかな。ま、私のリュートが偽者に負ける訳ないから)

(りゅー、つおい)

 私とルーの言葉に、リュートは笑顔で頬を染めて嬉しそうだ。

 悶えそうなぐらい可愛い。と言うか、悶えた。

「ハルさん、擽ったいですよ」

 あ。ちなみにだけど、ルーの言葉は、リュートには聞こえないそうだ。

 でも、何か意志疎通出来てるんだよね、リュートとルー。

「あ、あそこですね」

 私が歩かなくても、進んでるのはリュートだから、目的地までは楽々さ。

 自慢する事でもないけど。

「トイカ冒険者組合出張所って、書いてあります」

 入口の前で足を止めたリュートは、看板を指差し、何て書いてあるか教えてくれる。

(冒険者組合、だけは読めた)

 ノクでエヴァンの書類整理の手伝いしてたから。

 しかし、出張所の建物、既視感があると言うか……。

「ハルさん、覚えが早いですね」

(そう? ありがと)

 リュートの誉め言葉に返しながら、私は既視感の正体を探る。

「こんにちは!」

 その間にも、リュートは木製の扉を開けて、出張所の中へ入っていく。

 中は学校の教室くらいの広さで、奥に続く通路があり、部屋があるみたいだ。で、一階建て。

 出張所だけあって、ノクよりはかなり手狭だ。

 あと、既視感の正体はわかった。

 何か交番みたいなんだよね、雰囲気が。石と煉瓦の洋風な建物だけど。

 外の壁に、手配犯な感じの絵が貼られてるのも、それっぽいよね。

 観察する私に、じろじろと。値踏みする視線が、中にいた五人の冒険者から私達――正確にはリュートへ向けられる。人数的に同じパーティーなんだろう。

 カウンターの中にいる女性職員は、さすがにじろじろとは見ていないが、窺ってるのは雰囲気でわかる。

 すぐに値踏みは終わり、何処か小馬鹿にしたような空気が、冒険者達から漂ってくる。

 よし、逆に鑑定してやるよ。

 って、皆さん、初級ですか? あ、一人だけ、もうすぐ中級だ。リュートの偽者はいないみたいだね。

 小馬鹿にして鼻で笑っていると、いわゆるヤンチャな雰囲気の青年が近寄ってくる。

「ここはお前みたいな坊やが来るとこじゃねぇよ」

 見事な金髪だが、ヤンチャした訳ではなく自前だろう。

「すみません。連れがいるんですが……」

 うん、リュート。まずは自分が中級だって名乗って、札を見せようよ。

 下手に出ると、面倒臭い事に……。

(リュート、札かカードを見せ)

「あ? お前みたいな弱そうな奴の連れ? そんな奴、何処に……」

 私の言葉を遮り……まぁ、聞こえてないから仕方がないけど、ヤンチャはリュートへ食って掛かる。

「ここにいますけど〜?」

 私がルーをけしかけようか悩んでいると、今度はヤンチャの言葉を遮り、奥からイリスさんが現れる。

「リュートさん、謙虚は美徳ですけど、過ぎると嫌みですからね〜」

 絡まれてる理由は聞くまでもなくわかったのか、イリスさんはヤンチャをスルーして、リュートへお説教を始める。

(そうそう。最初に札を見せつければいいんだよ)

「でも、ハルさんが、札は隠しておけ、と……」

 主に私の言葉にシュンとしたリュートは、弱々しく答え、札を下げているチェーンを掴んでいる。

 お金を借りたくなりそうな、うるうるした瞳に見つめられながら、私は記憶を辿る。

(あ、言ったね。初級になった時に……)

 あの時は、ボンボン達に初級ってバレないように言っただけで……って、リュートにわかる訳ないか。

(もう見せちゃっていいから、普通に首から下げてなさい。忘れてて、ごめんね)

「いえ、ハルさんは悪くないです!」

「よくわからないけど、仲直りして良かったですね〜」

 謝る私に、ブンブンと首を振るリュート。

 緩い相槌を打つイリスさんに、ルーは無言でぷるぷるしてる。

 のんびりした空気が流れる中、それを微笑ましく見てられなかったのは、ヤンチャを含めた冒険者達だ。

「おい! 何グダグダ話してやがる!」

 ヤンチャがまた詰め寄って来て、リュートへ因縁をつけてる。

 その背後から、別の冒険者が近づいて来て、何故か私を忌々しげに見ている気が……。

「あのウザいパーティーのウザい奴みたいな毛皮着けやがって!」

 暑苦しいんだよ! と伸びてきた腕が、私を鷲掴み、放り投げられる。

 まさかの事態に、避けるを忘れて、放物線を描く私。

 でも、咄嗟にルーをリュートの肩へ吐き出したのは、自分を誉めてあげたい。

 鷲掴みぐらいはあるかと思ってたけど、放り投げられるとは……。

 どんだけ嫌われてるんだ、リュートの偽者は。

「ハルさん〜っ!」

「お前、ハルさんに何て事を……っ!」

(まま、いじめる。やなやつ!)

 イリスさんは涙目でぴょんぴょん跳ねて、私を回収しようと必死だ。

 たゆんたゆんな胸とか、癒し系なイリスさんの姿の後ろでは、低い声でリュートが相手を恫喝し、ルーがぷぅぷぅ怒ってる。

 で、そんな光景が眺めている私が何処にいるかというと――。

「リュートさん、そんな人達どうでも良いですから、ハルさん助けてください〜」

 届きません〜、と跳ねているイリスさんの手の先。

 天井からぶら下がったランプに絡まってますが、何か?

「はい!」

 イリスさんのどうでも良い発言に、リュートに詰め寄って来ていた冒険者達が地味なダメージを受けて、固まっている。

 そんな微妙な空気の中、走り寄ってきたリュートにより、私はランプから回収される。

「ハルさん、お怪我はないですか〜? 投げるなんて、最悪です〜」

 リュートに抱えられた私を撫でながら、イリスさんはプンプンと可愛らしく怒っている。

 ゆる可愛いね。計算し尽くされた感じが、また何とも言えず良い。

「すみません、ハルさん。油断しました」

 リュートは申し訳なさそうに、私をギュッと抱き締めている。

(私も油断してて、ごめんね。まさか、投げられるなんてね)

(まま、まま)

 甘えてくるルーをもふもふに入れながら、私は目を細めて苦笑する。と、視線を感じてそちらを見ると、ヤンチャと私を放り投げた冒険者が呆然としている。

「あの毛皮、目がある?」

「それに動いてなかったか?」

 ヤンチャ達の言葉に触発されたのか、残りのパーティーメンバーが申し訳なさそうに近寄ってくる。

「うちのメンバーがすまない」

 代表して謝ってきたのは、さっき鑑定した時、もうすぐ中級な黒髪の青年だ。

「俺はクロウ。後ろの二人は、フレッドとヌガーだ」

 クロウに紹介され、フレッドは穏やかに微笑んで頭を下げ、ヌガーは無愛想に頭を下げる。

「で、あっちで固まってるのが、マリオンとザッシュだ」

 ふーん。ヤンチャがマリオンで、私を投げてくれた方がザッシュか。

「言い訳させてもらうと、最近態度の悪いパーティーがいてね。そこの一人が、君みたいに毛皮を肩に……」

 そこで、クロウも私に目があり、動いている事に気付いたらしい。目を見張ってるよ。

「そ、その毛皮、動いてないかい?」

 引きつった顔で、おずおずと尋ねてくるクロウに、リュートはキラキラとした笑顔で、自慢げに私を持ち上げる。

「毛皮じゃありません。ハルさんは、ケダマモドキというモンスターです!」


「「「「モンスター!?」」」」


 クロウパーティーは綺麗に揃った叫びと共に、海老かと思うぐらい華麗にバックステップを踏んで、リュートから離れる。

 その反応、傷つくなぁ。嘘だけど。

「レアなんですよ〜? ちゃんとうちの組合長が、リュートさんのカードに書いてくれてありますから、町に入る時も大丈夫でした〜」

 ハルさんは人を傷つけたりしませんよ〜、と緩く言いながら、イリスさんは若干蔑んだような眼差しをクロウ達――主にマリオンとザッシュへ向けてる。

(ふふ。ありがと、イリスさん)

 私は態度で感謝を示すため、リュートの腕からイリスさんの胸へ飛び込む。

 ギョッとするクロウ達を他所に、イリスさんは私を受け止めてすぐに、すりすりと頬擦りしてくる。

「相変わらずハルさんのもふもふは最高です〜」

 私をイリスさんに預ける形になったリュートは、ニコニコと笑いながら、ギョッとしているクロウ達へ近寄る。

 身構える五人の前で、リュートは首から冒険者の証である札を外し、見易いように突き出す。

「銀の、札……?」

 呆然と呟くヤンチャなマリオンへ向け、リュートは無邪気に止めを刺しに行く。




「俺は、中級冒険者のリュートです」




 ニコッと笑うリュートの深紅の瞳は、ちょっと瞳孔が開いてた。

 どうやら、げきおこだったらしい。


とりあえず、ルーの口調は好評なようで良かったです。


もう一つの連載にも、感想ありがとうございます。


もちろん、こちらにも感想をいただき、ありがとうございます。

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