通知表?
最初だけ、ヤキモチエヴァン。
あとは、ハルとルーがじゃれてます。
最終的に、毒入り山々ナメクジがどうなったかというと……。
(……結局、ルーが食べきったね)
けぷ、と満足げな様子で、ルーはリュートに抱かれた私の頭の上で寛いでいる。
「ルーは育ち盛りですね」
そう柔らかい表情で言うリュートだが、先程からそのお腹からは、可愛らしい鳴き声が聞こえている。
思わず、お前もな、って言いかけてしまい、飲み込む。
(エヴァン、もう帰って良い?)
私は体を揺らし、許可をもらうため、離れた場所にいるエヴァンへ声をかける。
早くしないと、うちの子がお腹空かせてるじゃないか。
「あぁ、構わないぞ。報酬の話があるから、明日組合へ来てくれ」
ひら、と手を振ったエヴァンを確認し、私はリュートを振り仰ぐ。
(じゃあ、帰ろ?)
「……エヴァンさんと行くって言われたら、どうしようかと思いました」
そう呟いたリュートは、心底安心した様子で私をギュッと抱き締め、顔を埋めてくる。
(言わないよ)
うむ。可愛いなうちの子は。
目を閉じて、しばらくリュートのしたいようにさせていた私だったが、何か強い視線を感じ、薄目を開ける。
窺った先にいたのはエヴァンだった。
何だろう、微妙に、ジリッとするような?
まさか、ルーを狙ってる?
さっきまでもてあそんでたぐらいだし。
ぷすぷすと寝息を洩らすルーは、リュートに負けないぐらいに可愛いもんね。
(うちの子が欲しければ、私を倒してからにしなさい!)
視線が外れないので、一応宣言してみた。一度言ってみたかったんだよね。
「……そうじゃない」
何か、一気に脱力したエヴァンは、それだけ答え、視線を外して離れていく。
違ったのか?
リュートはそろそろ帰って来ないかな? お腹空いてるんだよね?
未だに私を無心でもふもふしてるんだけど……。
そう言えば、なんだかんだで、リュートと離れて過ごす夜って、初めてだったのか。
意識したら、何か今さら寂しくなってきたぞ?
(リュート、早く帰ろう?)
もう一度繰り返し訴えると、リュートがやっと動き出した。
うむ。宿に帰ったら、全力でイチャイチャしようと思う。
(むふふ……)
思わず怪しい笑い声が洩れちゃうね。
私が何をしてるかって?
リュートを全身で愛でてるんだよ!
リュートが起きちゃうから、心の中だけで叫んでおく。
時間は少し遡り……。
いつもの宿屋へと着くと、心配してくれていたおかみさんに私達は大歓迎された。
リュートが山々ナメクジを納品した話が伝わっていた事も、良い方へ影響したらしい。
宿屋の食堂にいた勝負を見ていた冒険者達、あと聞いただけの冒険者達も、お祭り騒ぎでリュートを迎えてくれた。
まだ酒は入ってないようだが、完全に宴会モードだ。
皆さん、どんだけリュート好きなんだか……。
ま、私の方が好きなんで!
妙な対抗心を抱き、もふっと膨れていると、料理が満載のテーブルへ案内され、私はテーブルに置かれ、リュートは冒険者達に促されて椅子に座る。
「ごちそうですね」
(そうだね)
ニコニコと笑うリュートを、冒険者達は嬉しそうに見つめている。
何と、今日のごちそうは、冒険者達の奢りだそうだ。
「皆さん、ありがとうございます!」
(ありがと!)
ぷるぷる。
揃って頭を下げた私達に、冒険者達は揃ってイイ笑顔を返してくれる。
相変わらずノリも人もイイ人達だ。
「気にすんなって! なかなか楽しかったよな?」
「あぁ、あの天狗な新人の顔、笑っちゃ悪いけど、もう笑いたくて笑いたくて……」
「そうそう。けど、逆にリュートのおかげで目が覚めて良かったんじゃないか?」
「だよな!」
「笑えると言えば、お嬢様よ。あの、唖然とした顔、ざまぁみろって感じよ。リュートの見てないとこで私達を、汚らわしいって顔で見てたもの!」
「あー、中身真っ黒なのか、見た目は可愛いのになぁ」
「見た目は確かに、美しい女性、だな。あの新人の惚れそうな」
「それをリュートは『美しい女性』に誤変換して、ハルだと信じて勝負してたんだよな」
「マジかよ!」
はい、何かすみません。
まさか私だって、リュートの渡したくない大事な存在が、自分の事だとは思わなかったんだよ。
リュートが言う度に、お嬢様がドヤァって顔してたから。
たぶん、今頃お嬢様は、恥ずか死に出来そうなんじゃないだろうか。
「美味しいですね、ハルさん!」
(そうだね)
冒険者達の会話に内心でそんな突っ込みをしながら、美味しいを全身で表して食事をしているリュートを、全力で愛でている私。
だって、可愛いんだもん!
くそ、私は可愛死ぬかもしれない。
勿体無いから、しっかり目に焼きつけておこうと思う。
リュートが可愛すぎるのが悪いんだ!
意味なく逆ギレしながらも、ごちそうのお相伴にあずかってる。
早速、山々ナメクジも料理されていて、冒険者達からは感嘆の声が上がってる。
「マジでこれが山々ナメクジかよ!」
「何で今まで食わなかったんだろ」
「酒だ、酒くれ!」
ここまで知られてないと、逆に美味しいと知っていた女神様に疑問を感じるんだけど。
食べてみたんだろうか?
今度会えたら、訊いてみたいと思う。
何なら、一緒に酒でも酌み交わしたいな。
そんな事を考えつつ、リュートを愛でながら、私は並べられたごちそうに舌鼓を打っていた。舌はないけど。
あと、廃品処理係じゃないんで、出来れば錆びた剣とか止めてね?
美味しくいただきますけど、ね。
で、お腹いっぱいになったリュートは、いつも通りに部屋に帰った瞬間、バタンキューした。
私はいつも通り、巨大化するともふっとリュートを取り込み、ベッドによじ登る。
正直、私が巨大な寝袋みたいものだから、ベッドを使う必要性は感じないが、気分だ。
ルーはと言うと、勝手知ったるという感じで、もふもふ内を自由に移動しているようだ。地味に擽ったい。
ベッドの上に落ち着くと、思わず怪しい笑い声を上げて悶え、さっきの状態へ繋がる。
リュートの危機察知能力は素晴らしいのだが、私の事を信頼してくれてるのか、ピクリとも動かない。
……うん、ちょっと心配になっちゃった。
大丈夫、息してました!
少し構ったら、私のもふもふを、あむあむしながら熟睡してる。食べ足りなかったのか? あんなに食べてたのに。
ルーは動き出したリュートの手を避けて、私のもふもふから、ポコッと姿を現す。
そのまま、私のもふもふを泳ぐように、ルーは小高い山となった私の天辺を目指していく。
(ふふ、登山家だね、ルー)
ぷっぷるぷる。
ご機嫌なようで何よりだ。
私の天辺へ辿り着いたルーは、居心地の良い場所を見つけると、小さく震動を続けてる。
(そうだ。今日はルー活躍したし、鑑定してみようか?)
思い付いて話しかけると、興奮した様子で震動が強くなる。
(強くなったよ、きっと)
ママは楽しみです、と。
『鑑定結果
種族 プレスライム
名前 ルー
レベル 15
ある特殊進化ルートへ入るための、準備状態』
(ん、レベル上がった……って、種族変わった? 進化なの? 見た目はあんまり変わって……あ、核の色変わった?)
鑑定結果を見た私は、もふもふを蠢かしてルーを目前まで連れてくると、しげしげと眺め、その変化を確認する。
最初は薄い赤だった核が、朱金色に変化している……気がする。
私が進化で思い出すのは、デジタルなモンスターの進化と、ポケットへ入る系なモンスターの進化だけど……。
(見た目はあんまり変わってないね)
気がする程度の変化じゃ、気付けないよ。と言うか、プレって、まさにまんまな意味のプレか。
(気を取り直して、続きを見ようか)
『全体的な能力が、スライムの時よりアップしているわ。
ハルが防御に特化した分、攻撃面で頑張ったのよ?
誉めてあげてね。』
うん。一言言わせて、女神様。
(通知表か!?)
何か、子供の通知表をいただいた親の気分になったよ。
産んでもいないのに。
(次行こう、次……)
特殊スキルは増えてない……無くないよ。あー、言語回路がおかしくなりそう。
とりあえず、何か増えてた。
『形態変化……今までより自由に好きな形態になって、キープ可能よ。魔力を使うから、ずっとは無理だけど。ハートとか、四角とか、ハルのイメージが伝わるから、どんな形態でもイケるわ』
また、何の役に立つか微妙な……。
せっかくだから、試してみる。
(ルー、こんな感じになれる?)
まず思い描いたのは、背中に小さな天使の羽の生えたスライムの姿。
だって、うちの子、リアルな天使みたいだし!
ルーはぷるぷるとしながら頷くと、ゆっくりと輪郭を崩していき、やがて私の思い描いた姿へ形を変えていく。
(かわ……っ、可愛い!)
どう? って感じのドヤ顔が、さらに可愛さをアップしてるし、生やした羽をパタパタ動かすのも可愛すぎる。
だけど、何の役に立つんだろう。
ま、可愛いからいいか。
(もういいよ、ありがと)
私がそう言うと、ルーはいつものスライムな形になり、ぷるぷるして私を見てる。
うん、まだ出来るよ、と言いたいんだろう。可愛いな。
(また後で見せてね)
ぷぅぷぅとやる気まんまんなルーをなだめながら、私はルーの鑑定を続ける。
『巨大化……でっかくなっちゃうわ』
女神様、ネタが少々古いです。
呆れていたら、文字が変わっていく。
『巨大化……体のサイズを大きく出来るわ。動く壁とかも出来るわね、これで』
動く壁って、戦争でもする気ですか?
外でなら良いけど、ダンジョンでやったら、下手すると通路がルーで埋まる未来が見える気が……。
(ルー、巨大化……違う、違う、今大きくならないでね?)
どれぐらい大きくなるかわからないけど、部屋が崩壊する未来しか見えないから。
(明日、外で試してみようね)
私の声に、ルーはやる気を示すように胸(?)を反らし、もふもふポケットの中でコロリと転がる。
その姿に癒されながら、私は次に自分の鑑定をするため、ゆっくりと目を閉じた。
何か、嫌な予感がするんだよね。
女神様が、何かしてないと良いけど。
相変わらず、モンスターの名前にセンスがないのは、すみません。
まぁ、次に進む前の、プレなんで。
プチとか考えましたけど、最初からスライムだったんで、退化じゃんってなりました。
そして、戦わせる気はないのかと言いたくなるスキル。
次はハルの番です。




