山々ナメクジ、お疲れ様です。
ダンジョンの中なんで、しばらくすれば復活しますが、かなり減ったと思います。
あと、相変わらず戦闘は手抜きです。
「そのモンスターは、お前のペットだったのか」
ちっ、と舌打ちした……新人くんでいいや……新人くんは、私を睨みながら、そう吐き捨てる。
自分の予定通りいかなかったからって、小さい奴だな。
「違う」
って、何かリュート、否定しちゃったけど、私達はリュートの家族じゃないの?
「やっぱり、組合長の……」
「違う! モンスターじゃなくて、ハルさんとルーだ! それにペットじゃない。俺の大切な家族だ!」
新人くんの言葉を遮ったリュートの叫びに、ちょっと泣きそうになったのは内緒だ。
リュートの迫力に、新人くん達は、たじろいでる。
(リュート、ありがと)
ルーと一緒に、私はリュートへ感謝を込めて頬擦りをする。
「そ、そんな事はどうでも良い! さっさとダンジョンへ入るぞ!」
「あぁ、わかった」
リュートはボンボンのおかげで、失礼な相手に慣れてしまったらしく、逆ギレされても気にせず、頷いて応えている。
ま、その分、私やルーのために、本気で怒ってくれるんだよね。
出来れば、もう少し自分のために怒って欲しいけど、それはリュートじゃないか。
「安全のため、四階層へ着くまでは、俺が手助けするからな。四階層へ着いてから、無理だと思った場合は、見守ってる冒険者へ声をかければ、地上まで付き添ってくれるはずだ」(その場合は、リタイアで、即負けって事だよね)
私の問いに、説明してくれてたエヴァンは、私を見つめ、無言で小さく顎を引く。
その後、新人くんのパーティーへ視線を移したエヴァンは、パーティーの面々を観察して口を開く。
「お前ら、倒した山々ナメクジを入れておく物は用意してあるか?」
「はい。僕達には、魔法袋がありますから」
エヴァンの確認に、新人くんはドヤァって顔をして、リュートのよりボロい魔法袋を見せつけてくる。
「よし。なら、出発するぞ。冒険者が見張っているから、妨害はすぐにバレるからな」
ちらりとそれを確認し、エヴァンはダンジョンへ向かって歩き出す。
その姿に、新人くんは眉を吊り上げ、エヴァンへ食ってかかる。
「何故、あいつには確認しないんですか!?」
「……リュートは、大丈夫な事を知ってるからな」
「はい、俺も魔法袋持ってますし、ハルさんもいますから」
(収納力じゃ負けないぜ)
む。エヴァンに無言で小突かれた。
「まさか、知り合いだから、甘い判定とかしませんよね?」
仲の良さげな私達に、新人くんの険しい眼差しで睨んでくる。
「あぁ、する訳ないだろ」
エヴァンは気にした風もなくサラッと流して答え、さっさとダンジョンへ向かう。
「くそ、負けないからな!」
「俺だって負けない」
バチバチと火花を(一方的に)飛ばし、リュートと新人くん達は、エヴァンを追いかけて、小走りでダンジョンへ向かう。
(いやぁ、青春だ)
私だって、リュートを負けさせないよう、頑張るからね。
モンスター二匹。青春参加させていただきます。
(大丈夫かな?)
「はい! 全然平気です!」
リュート、キラッキラの笑顔ありがとう。可愛いじゃないか。
……違った。
私が大丈夫かな、と呟いたのは、キラッキラのリュートへ向けてじゃない。
まだ三階層なのに、かなりへばってる新人くんパーティーへ向けてだ。
他の冒険者が片付けてくれたのか、拍子抜けするほどモンスターには遭わないのだが、先導するエヴァンのスピードに新人くん達は微妙について来れてない。
あと一階層だから、頑張れとしか言えない。言わないけど。
「モンスターも出ないですし、楽ですね」
(そうだね、私とルーはリュートの肩の上だし)
ほぼ全力疾走じゃねぇか、って速度で走りながら、へらりと笑ったリュートの言葉を聞いて、新人くんは奮起したらしい。
落ちかけていた速度が戻る。
でも、目的地までに潰れなきゃ良いけど。
残念。
おっと、間違えた。
残念ながら、新人くん達は潰れなかった。
何とか山々ナメクジが出る四階層へ、全員で辿り着く。
いやー、見覚えある顔が、あちこちにいるよ。
皆さん、山々ナメクジの不意打ちには気をつけて……って、うん、手慣れてらっしゃる。
「よし、時間は二時間だ。倒す方法は自由。結果はダンジョンから出た後に発表で良いな。見張っている冒険者達は、死にそうな時以外は手助け禁止だ」
エヴァンの緩い宣言で、リュートと新人くんの勝負がスタートする。
私とルーは、リュートの肩上に乗ったまま、スタートだ。
(一緒の方へ行く?)
「そうですね」
のんびりと進み出す私達に対し、新人くんパーティーは、鼻で笑いながら駆け出していき……あ、女の子が山々ナメクジの粘液で転けた。
で、一気に囲まれた。
「彼らの獲物の横取りはいけませんね」
その脇を気にせず笑顔で通り過ぎるリュート。
これ、リュートじゃなきゃ、相当な腹黒だよね。
そんな事を思いながら、リュートの肩上から、囲まれた新人くん達を見ているが、まだ死ぬ心配はなさそうだ。
最悪、見張っているというか、見守ってくれてる冒険者が助けてくれるよ。
(あ、いたよー)
新人くん達を見ていた私は、頭上から迫り来る山々ナメクジを見つけてリュートへ知らせる。
「少し相手をお願いします」
(ん、わかった)
リュートの肩を飛び降りた私は、山々ナメクジより素早く壁を這い登り、天井の山々ナメクジと睨みあう。
「ハルは何でもありだな!」
リュートを見張っていた冒険者の一人が、驚いて思わず声を上げ、仲間に口を塞がれてるのが視界の端に見える。
(何でもは、出来ないけどね。……いけ、ルー)
天井にぶら下がった私の指示に、もふもふから飛び出したルーが、ドゴッと鈍い音をさせて山々ナメクジを仕留めて、一緒に地面へ落下した。
(ルー、大丈夫?)
ぷるぷる、ぷぅ!
やる気まんまんらしい。
私はルーのため、二匹目の山々ナメクジを叩き落とす。
で、私も追って天井から落ち、まずはルーが仕留めた山々ナメクジを回収。
次に、リュートが倒していた方を……。
(って、山々ナメクジの群れでもいた?)
どうしよう、リュートの前が、リアル死屍累々だ。
数はざっと十を越えてる。
全部事切れてはいるけど。
「向こうも同じぐらいだと思いますよ?」
何でもない事のように答え、リュートは山々ナメクジの死体を魔法袋へ詰めている。
(そっか。なら、負けてられないね)
油断も驕りもないリュートの言葉に、私も気合を入れ直す。
リュートの大切なお嬢様を渡す訳にはいかないからね。
気合を入れ直してしたのは、山々ナメクジの回収だけど。
ルーと違って、私は硬化して体当たりとか、溶解とかは出来ないもん。
次々に増える山々ナメクジの死体をもぞもぞと回収しながら、内心で可愛い子ぶってみた。
正直、鳥肌ものだ。
そう言えば、新人くん達とは物理的距離が空いたらしく、聞こえるのは、ドゴッという鈍い音と、リュートの鋭い太刀筋が空気を斬る音だけだ。
「ハルさん、ルーが倒した方をお願いします」
(了解)
リュートと反対側で、ルーはドゴッと山々ナメクジを倒してるので、確かに私が行った方が効率的だ。
山々ナメクジは、粘液のおかげで斬撃には強いが、打撃というか衝撃には弱いので、ルーとは相性バッチリ。効果はバツグン状態だ。
これは、女神様が鑑定で教えてくれたので、間違いない。
女神様は、何かルーに甘い気がする。
そんな事ないわよ、っていう幻聴を聞きながら、私はルーの元へ転がる。速いし、楽なんだよね。
「……スライム強っ」
冒険者の一人が、そう思わず洩らしていたけど、言いたくなる気持ちはわかる。
ルーは、リュート程ではないが、五匹の山々ナメクジを仕留め、その上でぴょんぴょん跳ねてる。
(ルー、ありがと。頑張ったね。あとは、休んでて)
ルーは、少しだけ山々ナメクジを食べたそうにしてたけど、我慢して私の頭上へ登ってくる。
(終わったら、思いっきりその辺のモンスター食べようね)
そう話しかけると、ルーは嬉しそうにぷるぷる震えていて、可愛らしい。
私はルーをもふもふで愛でながら、ルーが倒した山々ナメクジを収納していく。
なんだかんだで、そろそろ二時間ぐらい経ったんじゃないかと思っていると、リュートがやって来て、抱き上げられる。
(二時間経った?)
「そろそろだと思いますよ?」
私達は揃って、見張りをしてくれた冒険者を見やり、首を傾げる。
「あー、そろそろ時間だな。あっちと合流して、ダンジョンから出るが、体力は大丈夫か?」
「はい! 俺もハルさんも大丈夫です」
時計を見ていた見張りの冒険者の終了の呼びかけ、リュートはキラッキラの笑顔で答えてる。
「そうか。じゃあ、行こう」
冒険者達は微笑ましげにリュートを見て、元来た方へ全員で移動していく。
そんなに移動してないつもりだったけど、リュートが前へ前へと倒していってたから、意外と奥まで来ていたらしい。
(今日、お嬢様は来ないの?)
「どうしてですか?」
戻る道すがら、ふと思った疑問を口にしたら、リュートに心底不思議そうな顔で聞き返された。
あれ? 私、何かおかしな事言ってる?
普通、自分が勝負の原因なんだし、来るよね?
来ないの? 違うの?
私がぐるぐると悩んでいると、新人くん達が見えてくる。
格好はボロボロだけど、表情は全員揃ってドヤ顔だから、これはいい勝負になったかも……。
視界の端で、エヴァンがニヤニヤしてるのは、何でなのかはちょっと気になるけど。
展開を読まれていた方もいらっしゃいましたが、ハルさんが違和感に気付きました。
感想、評価、ブクマありがとうございます。
感想でいただきましたが……。
浮気(?)に関しては、勝負が終わった後、ぐずぐずすると思います。
今は、大切な存在を守ることで、頭が一杯なんで(笑)




