初めての外泊
肌色多めです。
誰のかって?
ハルさんではないです。
あと、主人公はハルさんなんで。
「ハルは飲めるクチか?」
(さぁ? 飲んだ事ないからわからないけど)
この体では。内心で付け足す。
エヴァンがコップに注いでくれた酒は、葡萄酒らしく、赤紫の液体が揺れている。
私は自分でも器用だと思うけど、もふっとコップを取り込み、中の液体だけを吸収する。
「どうだ?」
自らもコップの中身を煽りながら、エヴァンは興味津々で私を見つめてくる。
(ん。美味しいけど、結構強いね)
感想を言いながら、私は空にしたコップをテーブルへ、もふっと吐き出して置く。あと、やっぱり葡萄酒だった。
「お、なかなかやるな」
嬉しそうに笑ったエヴァンは、早速二杯目を注いでくれる。
(手酌でごめんね?)
私のコップへ注いだ後、自分のコップへ葡萄酒を注ぐエヴァンの姿に、少し申し訳なくなって小さく呟くと、無言でガシガシと撫でられた。
エヴァンの顔を見上げると、傷があっても損なわれていないイケメンが、柔らかく笑ってる。
私が人間の女の子だったら、確実に惚れてるぞ?
(くそ、禿げろ)
「だから、何でだよ?」
ガクッとソファから落ちそうになったエヴァンは、体勢を直すと、楽しそうに笑いながら、串焼きを豪快に食べている。
酔ってる訳じゃなさそうだ。
(エヴァンがイケメン過ぎるから)
言いがかりじみた、と言うか、完全なる言いがかりを口にして、私は二杯目をもふっと飲み干す。
「イケメンって、何だ?」
イッキ飲みした私に嬉しそうに目を細め、三杯目を注いでくれながら、エヴァンは素朴な疑問を口にする。
(んー、カッコいい男って感じかな)
深く考えず、私がそう答えると、エヴァンは一瞬固まってから、バッと顔を手のひらで覆ってしまう。
良く見ると、指の隙間から見える肌がほんのり赤く染まっている。
「そりゃ、どうも……」
なんだこの可愛い生き物は。
カッコいいなんて、言われ慣れてそうなのにね。
(エヴァンも可愛い)
「男に可愛いはないだろ。……と言うか、俺もって、なんだよ、もって」
復活したエヴァンは、半眼で私を睨みながら、コップの中身を煽っている。
(一番はリュートで、二番はルーだから)
やっぱり、うちの子が一番だよね。
「……微妙に悔しいのは何でだ?」
三杯目を自らのコップへ注ぎながら、エヴァンは独り言のようにボソリと洩らす。
エヴァンは負けず嫌いそうだから、かな。
あえて告げたりしないけど。
三杯目を空にしてコップを吐き出し、私は串焼きへもふもふを伸ばす。
「ほら」
気付いたエヴァンが、すぐに一本を私のもふもふへ突っ込んでくれる。
(ありがと。ルーにもお願い)
「わかった」
フッと柔らかく笑んだエヴァンは、ルーの方にも串焼きを食べさせてくれる。
その後、空になった私のコップに、エヴァンが新たに葡萄酒を注いでくれる。
「そう言えば、リュートがあのお嬢様と付き合いだしたら、ハルはどうするんだ?」
三杯目をちびちびとやりながら、エヴァンはふと気付いたように私へ尋ねてくる。
(ん? どうもしないよ? 今まで通り)
「そうはいかないだろ。あのお嬢様は、明らかにハルと言うかモンスターを嫌ってるぞ?」
さすがにあの態度だから、腹黒ちゃんはともかく、モンスター嫌いはバレたか。
(別に。私はお嬢様に嫌われようが、どうでも良いから。そりゃ、好かれてた方がやりやすいけど)
強がりでもなく、私はそう思ってる。
「ハルはそうかもしれないが……。気は早いが、貴族と結婚となれば、冒険者は辞めるんじゃないか?」
(あー、そうなったら、私はリュートといられなくなるんだね)
そこまでは考えていなかった。
まさか、あのお嬢様がリュートと一緒に冒険者するなんて事はないし。
私がぼんやりとコップを弄んでいると、強い視線を感じ、顔を上げる。
当たり前だが、視線の主はエヴァンだ。
「もしも……。もしもだが、リュートがお嬢様と結婚でもして、冒険者を辞めたら、俺のとこに来ないか?」
正直な感想?
プロポーズみたいだと思ったよ。
驚いて、私がもふっと膨れると、エヴァンはあのニィという肉食獣な笑みを浮かべる。
「俺は生涯現役のつもりだからな。ま、冒険者辞めたら、一緒に何処かの田舎に隠居でもするか?」
(ふふ。ありがと)
突然で驚いたけど、エヴァンなりの不器用な慰めか。
(エヴァンと一緒なら、毎日退屈しなそうで良いね)
「俺はなかなかの優良物件だぞ?」
(それ自分で言っちゃいますか? 確かに優良物件だけど)
「くく、だろ?」
こんな会話を、葡萄酒とおつまみの合間に交わしながら、私達の夜は更けていった。
(ふぅ、いい湯だね)
材質は良くわからないけど、白くて艶々した浴槽、なみなみと張られたお湯の中、私とルーがプカプカしてる。
「風呂好きとは、ハルは変わってるな」
(そう?)
軽く答えたけど、実は内心ちょっと焦ってたりする。
浴槽の中にいるのが、私とルーだけじゃないからだ。
もちろん、第三者が降って湧く訳もないので、浴槽の中にいるのはエヴァンだ。
うん。つまりは、裸のエヴァンと混浴中だ。
一糸纏わぬエヴァンと混浴中だ。
二回目に意味はない。
混乱してるんだよ、私も。
お風呂があるとエヴァンに聞いた時、まさか、こんな展開になるとは思わなかったから。
こういう時、リュートなら妙に照れて出て行くから、ついエヴァンにも、
(お風呂一緒に入る?)
と、声をかけてしまった。
久々のお風呂で、テンションも上がってたし。
で、エヴァンが、「よし、入るか」って。
普通に了承されるとは思わなかったんだよ!
私はケダマモドキケダマモドキ。
呪文のように心の中で唱え、エヴァンに抱えられるようにお湯の中を漂っている私。挙動不審じゃないと良いけど。
ルーは無邪気に、私やエヴァンの体に登って、お湯に落ちるのを繰り返して遊んでる。
無邪気なルーを見ていたら、何かだんだんどうでも良くなって来た。
ま、開き直ったともいう。
メスとはいえ、私は所詮モンスターなんだから。
うふふ。
ガッツリ目の保養をさせていただいたとだけ、こっそり呟いておこう。
あとは、乙女の秘密だ。
「あー、俺やルーはともかく、ハルを乾かすのは手間だな」
私とルーを抱いてお風呂から上がったエヴァンは、ガシガシとタオルで体を拭きながら、そんな事を呟いている。
腰にタオルを巻くとか、ガウンを着るとかしてないので、鍛え抜かれた裸体が惜しげもなく……うん、止めよう。
自らの体を拭き終えたエヴァンは、使い終わったタオルで私とルーを包む。
そのまま、ガシガシと拭かれていた私だが、残念ながら乾く気配はなく……。
(何かエヴァンの匂いがするね、ルー)
ぷるぷる。
あ、エヴァンが固まった。
「……俺臭いか?」
しばらくしてから、エヴァンがおずおずと口を開き、私とルーの顔を覗き込む。
(ううん。臭くはないよ。エヴァンって感じの匂いがするだけ。ね、ルー)
うんうん。的な感じに、ルーがぷるぷるしてる。
「俺って感じ? どんな匂いだ」
(ちょっとスパイシーで、微かに甘い匂いかな。セクシーで、クラッとするけど、安心も出来るような?)
ルーも同意らしく、またぷるぷるしてる。
余談だが、私が言うエヴァンの味も、似た感じで表現出来る。
「そうか」
何ともいえない顔をしたエヴァンは、何処か安心したようにポツリと洩らし、乾いてもふもふ感を取り戻した私を撫でてる。
「って、何で乾いてるんだよ!?」
おー、見事なノリ突っ込みだ。
(だって、色々吸収出来ますから、私のもふもふ)
ドヤッとしていたら、エヴァンに無言でギュッと抱き締められる。
「……よし、寝よう」
突っ込む元気もなくなったらしい。
エヴァンも裸族なのか、浴室を出て、繋がっている寝室へそのまま歩いていく。
残念ながら、ベッドは天蓋付きではなく、普通のキングサイズだ。
私とルーの丈夫さをわかっているエヴァンだが、投げたりはせず、優しくベッドへ降ろされた。
(ありがと)
ぷるぷる。
でも、そろそろ気恥ずかしいので、何かを着て欲しい。
(エヴァン、見苦しくはないけど、何か着て欲しいなぁ、なんて……)
「あ? あー、忘れてた」
忘れていたらしい。
枕で股間を隠しながら、大股歩きで消えたエヴァンは、しばらくして下着姿で帰ってくる。
(と言うか、お風呂でバッチリ見たから、今さら隠しても……)
「ぶ……っ」
タイミングが悪かったようだ。
エヴァンは、ちょうどサイドテーブルの水差しからコップへ水を注ぎ、一気に煽っていた時だったので、盛大にむせた。
「そ、そうだったな。今さらか……」
何かエヴァン、微妙に凹んでる?
「種族が違うから、オスとして意識されてないんだよな?」
ついには、ベッドの上で座り込み、捕まえたルー相手に、ぶつぶつと語り出しちゃったよ。
仕方ないので、私はエヴァンの側まで近寄り、もふっと太股へ乗り上げる。
(……エヴァン、寝よ?)
小首……というか全身を傾げたら、エヴァン、今度は鼻を押さえてる。
私のおねだりが、そんなにキモかったのか? 悪かったな。
エヴァンが疲れてると思って、気を使ったのに。
(いいから、寝よ? 早く……っ)
「わかった、わかったから……」
詰め寄ると、エヴァンは顔を逸らせて、私をギュッと抱き寄せて胸板へ押しつける。
これは静かにしろって事だろうから、私はおとなしくエヴァンの胸板へ体を預ける。
「お前なぁ……」
ピタリと寄り添うと、何でか文句を言われた。理不尽だ。
無防備なんだよ、とかモゴモゴ言ってるエヴァンに対し、少し身動ぎしてみた。
余計にキツく抱き締められる。
また身動ぎする。
さらに、キツく抱き締められる。
うむ。何なんだ、このループ。
私が内心首を捻っていると、やっとエヴァンの腕が外れる。
「……寝るか」
何事もなかったように、エヴァンがそう言い出し、私達は全員が寝ても余裕なベッドで横になる。
元々、私とルーの必要とするスペースなんて、枕と同程度だしね。
(おやすみ、エヴァン、ルー)
「あぁ、おやすみ」
ぷるぷる。
就寝の挨拶を交わし、私達は穏やかな眠りへ落ちていった。
リュートもゆっくり休めてると良いけど。
眠る直前、そんな事を思った私のもふもふは、優しく撫でる手を感じた気がしたけど、きっと気のせいだろう。
一つ言えるのは、エヴァン寝相悪過ぎ。
私は抱き枕じゃないよ?
もうお前ら結婚しろって雰囲気な二人です。
ルーは子供で。
次回は、リュート帰ってくる筈です。
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