やっと退場しました。
悪役ギャグ担当者、退場です。
ざまぁ、って指差して笑ってもらうためのキャラなんで。
「リュートさんは、イカサマなんかしてないですよ〜?」
「今回は特例での中級昇格だけど、特例じゃなくても、リュートさんなら問題なかったのだけど?」
元仲間からの、イカサマ呼ばわりに苦笑しているリュートを、イリスさんとアンナさんが庇ってくれる。
「はァ? リュートは見習いなんだぞ!? それに、レベルも足りてないだろ!」
(はいはい、リュート、札を見せてあげなよ)
「え、はい」
何かどうでも良くなりつつ、私はリュートを振り返り、もふっと体を揺らして話しかけ、素直なリュートは首から下げた札を、服の上から見えるようにする。
「嘘だ〜、リュートが初級下げてるし」
「そんな訳ないわ! あたし達だって、まだ見習いなのに!」
チャラ男と女狐が、目敏くリュートの銅の札に気付き、口々に騒ぎ立てる。
「あ゛? エレではどうだったか知らないが、俺の目が黒いうちは、このノクで不正なんて許さねぇよ」
言外に、リュートの札は本物だとエヴァンは言ってくれたけど……。
(エヴァンの目、黒くないよね)
デコピンされました。
「そんなこと、認められるか……っ」
ボンボンが唸るような声で叫び、リュートを睨む。
(ボンボンが認めなくても、別にぜーんぜん、構わないから。
リュートが強くて、素直で可愛いいい子なのは、私が誰よりもわかってるからね)
「……ハルさん」
(私だけじゃない。目が腐りきったお前ら以外、みんなわかりきってるから)
「あぁ、そうだな。……お前らが認めなくても、俺を含め、ここにいる全員が、リュートの事を認めているぞ?」
「嘘だ! こんな顔だけの奴が……」
ボンボンのリュート嫌いは、そこが原因か。
納得だよ。
自分より顔も良くて、腕も立つなんて、立つ瀬がないもんね。
(だったら、自分の腕を磨けって話だよ)
「ハルの言う通りだな」
私の独り言に、エヴァンが小声で同意し、私とリュートの頭をぽふぽふと撫でてくれる。
「リュートの実力が本物かは、これから、嫌でもお前らは身をもって知るさ」
ニィ、と肉食獣を思わせる笑顔を浮かべるエヴァンに、ボンボン達は怯んだ様子で後退りする。
「心配しなくても、俺は何もしない。だが、リュートは冒険者にも、この町の人間にも好かれているからな。さっさと出て行かないと、絡まれるかもしれないな」
くく、と悪戯っぽく笑うエヴァンに、ボンボン達は初めて気付いたように辺りを見回し、自分達を睨んでいる冒険者達の視線に気付く。
「なっ! 俺達は悪くない! 元々、リュートが弱いのが悪いんだ! 行くぞ、ジュノ、エメラ!」
最後まで悪態を吐いて、ボンボン達はやっと去っていった。
「あ、別れの挨拶をしておくべきでしたかね」
(今生の別れになるかもしれないか)
「ハルさんがいれば、俺は大丈夫です!」
うん、リュートは死なないよ。と言うか、死なせない。まぁ、でも、やっぱり実力で死なないと思う。
キラキラとした笑顔のリュートに、もふっとしがみつく。
「死ぬとしたら、あっちだろうな」
そうポツリと洩らした、エヴァンの呟きが聞こえないように。
「……リュート、最後に鑑定した時のレベルはいくつだ?」
ボンボン達がいなくなり、ちょっとした祝勝会ムードの中、リュートが冒険者達に祝われていると、エヴァンが簡易鑑定のカードを片手に話しかけてくる。
「エレを出る時に鑑定してもらって、4でしたね」
「……ずいぶん育ったな」
(どれぐらい?)
「簡易鑑定だが、20近いぞ?」
エヴァンの言葉に、私が驚く前に、
「マジかよ!?」
「もうすぐ追いつかれちまうぜ!」
「成長期すげぇなぁ」
「リュートを足手まといだって言ってた奴ら、リュートがいなくて依頼こなせるのかよ」
「確かに!」
「自業自得って言うのよ、それは」
ノリも人も良い冒険者達が大騒ぎだ。
リュートがニコニコと冒険者達を眺めていると、カネノが父親を連れてやって来る。
「世話になった。冒険者を軽んじるような事を言って、本当にすまなかった」
簡潔だけど、ナリキ男爵の言葉には、きちんと反省している重みを感じるね。小さくだけど、頭も下げたし。
どっかの、ボンボンとは違って。
「貴族にも、あんたみたいなお人がいるんだな」
「まぁ、貴族にぞんざいに扱われるのは慣れてるから、気にすんなって」
「でも、謝ってもらえると、嬉しいわね」
「今日いない奴らにも伝えとかねぇとな」
「しかし、どっかのボンボンとは器が違うな」
私と同意見な人がいて、嬉しくなって冒険者達が囲んだテーブルへ飛び乗る。
(激しく同意します!)
「お、ハルも同意だってさ!」
もふっと膨らんで、大きく頷くと、喜んだ皆様から拍手とおひねりいただきました。
(リュート、おひねりもらった)
バケツリレーよろしく冒険者達の腕から腕へ移動し、リュートの腕へと帰った私は、もふもふに詰め込まれた銅貨を吐き出す。
「良かったですね、ハルさん。皆さん、ありがとうございます!」
ナリキ男爵より、リュートの頭の下げ方が潔かった。
「何やってんだよ、お前は」
呆れたエヴァンから、今度は鷲掴まれた。
いた……くはないけど、変形してます。なう。
あと、寄生な何かも危機を感じてるのか、もぞもぞしてる。
(ゆーがーむー)
「エヴァンさん、ハルさんが嫌がってます」
「嫌がってはないだろ? な、ハル」
嫌ではないけど、歪まされたくはない。って事で、もふっと抗議しておく。
こちとら、一応、乙女なんだから! いい年だけど。
(山々ナメクジの粘液浴びてみる?)
「わかったよ、あれの粘液は中々タチが悪いんだ」
私が冗談めかせて言うと、エヴァンは降参とばかりに両手を挙げて離れていく。
「俺のハルさんなのに……」
ヤキモチ妬きめ。可愛いじゃないか。
リュートは乱れた私のもふもふを直しつつ、拗ねたように呟いている。
そんなリュートを、アンナさんとイリスさんが、微笑ましげに見つめてくれてる。
リュートは可愛げあるからね。
「リュート、助けに来てくれてありがとう。これは、ノーマン達へ渡す筈だった成功報酬だ。受け取ってくれないか」
「わしからの成功報酬も上乗せしてある。ぜひ、受け取ってくれ」
うんうんと頷いていると、カネノとナリキ男爵がリュートへずっしりとした布袋を差し出す。
「いえ、カネノ様の依頼は達成出来てませんし、ナリキ男爵からは、依頼を受けてませんから、受け取る訳にはいきません」
リュート、真面目だなぁ。
「依頼関係無く、カネノを助けてくれたのは、君だ。ここでお礼を出来なければ、わしの気が済まない。どうか、受け取ってくれ」
今度は親子揃って頭を下げられ、リュートはかなり渋々袋を受け取っている。
(別にエヴァンと山分けすればいいんじゃない? 正当な報酬なんだし)
私の軽い口調の提案に、リュートは小さく頷くと、カネノとナリキ男爵へ素直な感謝を口にし、頭を下げる。
報酬をリュートに受け取ってもらい、満足げな様子で、親子は空気だった護衛を引き連れて去っていく。
「次に会う時は、もっと強くなっていてみせるから、その時は共に戦わせて欲しい」
去り際、カネノはそう力強い宣言をしていった。
楽しみにしてるよ。
いなくなってから思い出したけど、カネノが口にしてた、ケダマモドキの事を知ってる奴の事、聞きそびれたな。
ま、いっか。
キャラの名前を間違えてたら、そっと教えてください。
ハルさん、嫌いな奴の名前を覚えないんで。
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