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山々ナメクジ美味なり。

相変わらずモンスターの名前は、適当ですよ?

今回はキリが良いので、短めです。

 トラップとモンスターをあしらいながら、リュートとエヴァンの無敵コンビは、ただ今四階層を踏破中だ。

 エヴァンがいるおかげで、私の出番は素材回収ぐらいしかない。

 四階層には、山々ナメクジという、私の二倍はある巨大ナメクジが、床や壁や地面を這い回っている。

 四階層にいるだけあって、のんびりした見た目に反し、山々ナメクジは中々の難敵らしい。

 まず刃がヌメヌメした表皮のせいで通りにくく、吐き出す粘液は、生き物を麻痺させる効果があるらしい。

 で、麻痺させた生き物を、集団でゆっくりと溶かし食べるらしい。女神様鑑定によると。

 怖いわ!

 そんな感じで、中々に手強い山々ナメクジだが、うちのリュートと、無敵の組合長の敵ではなく、次から次へと死体へ変わっていく。

 私も、天井に張り付いた山々ナメクジを叩き落とすため、リュートにぶん投げてもらって、少しは手伝った。

 一度だけ、私達の連携を面白がったエヴァンが、リュートに替わってぶん投げてくれたが、見事に外して、天井とキスする羽目になったよ。

 私じゃなければ、死んでるかもしれないからね?

「……すまない、ハル、リュート」

 心底反省してるようだし、わざとではないので、若干潰れたまま、気にするなと頷いておく。

 やられた私以上に、リュートがテンパってるので、全力で無事だよアピールにも手が抜けない。

 私の中身は、自分自身にもわからないけど、かなり丈夫には出来てるからね。

 リュートが落ち着いたのを見計らい、私はヌメッとお亡くなりなった山々ナメクジを摘まみ食いする。

(こ、これは……っ)

「ハルさん!?」

「おい、山々ナメクジなんて食わない方が……!」

 衝撃のあまり、ボワッと膨らんだ私を見て、毒ムカデに囲まれた時すら落ち着いていた二人が、慌てふためいている。

(うん、ごめん。美味しかったから、つい悪のりしただけ……)

 罪悪感と恥ずかしさから、次の山々ナメクジを摘まみ食いしながら、駆け寄ってきたリュートへ謝罪する。

 エヴァンは、私へ集中しているリュートのため、周囲を警戒してくれている。

 何か重ね重ね申し訳ない。悪ふざけは良くないよね。

「美味しかったんですか……」

「美味くて興奮しただけかよ」

 リュートとエヴァンから、揃ってため息もらいました。

 エヴァンはリュートの発言から、私の興奮の理由がわかったんだろう。呆れた顔をしてるが、私の元気な様子に安堵の息を吐いている。

 しかし、山々ナメクジの美味しさは本当だ。ちょっとふざけはしたけど、美味しくて興奮したのは嘘じゃない。

 何だろう。ピリッとした味付けの、高級な貝みたいな感じ?

 とにかく、この体で食べた物では、かなりの上位の美味だ。

 ランキングが、ほとんど死にたてモンスターなのが、ちょっと寂しいけど。

「ハルさん、行きますよ? 山々ナメクジは、外でも出ますから」

(そっか。リュートも焼けば食べられるみたいだから、食べさせてあげたいな)

「ハルさんがそこまで美味しいって言うなら……」

 楽しみにしてます、と無邪気に笑うリュートに、エヴァンはかなりギョッとしてる。

 ん? 山々ナメクジ食べないのか?

 鑑定で、焼けば人間も可食って、なってたけど。

 外でいつ会えるかわからないので、一応、私のもふもふ収納に、山々ナメクジの死体を入れておく。

 ……ヌメヌメしないよな?

 多分、平気だと思いたい。




 今のところ、ヌメヌメはしないので、大丈夫なようだ。

 駄目なら、さっさと食べちゃおうと思ってたけど。

 リュートの肩がヌメヌメにならなくて良かったけど。

「何かハルさん、ちょっと緊張してました?」

「そんなに強いモンスターは出てない筈だぞ? 何か気になるのか?」

 ヌメヌメが出てくるんじゃないかと身構えてたら、何か野性の勘的な心配を、二人にされてた。

 まさか、ヌメヌメが理由とは言えないので、何でもないよ、と言う代わりに、少々強めに体を横に振る。

「水でもかかったか?」

 犬じゃないから、私。

「ハルさんは、何でもない、と言いたいんだと思いますよ」

 頭がくらくらして落ちそうになったけど、何とか踏み留まり、今度は縦に体を振って頷く。

「そうなのか。――もし、ハルの同族に会ったら、斬る自信が無くなるよな。これだけ、愛嬌があって、意志疎通が出来ちまうと」

 そう? ありがとね。

「まぁ、ハルさんも防御力特化ですから、仲間も同じ防御力特化で、逃げちゃうと思いますよ」

 うん、逃げ足速いよ? 転がるからね、私。

 仲良く会話しながら、ほぼ駆け足な速度で進んでいく二人に、私は心の中で相槌を打つ。

 って言うか、もうモンスター倒していると言うより、駆除だよね、これ。

 駆逐してやるぜ、って、リュートに言わせたくなるよ。

 摘まみ食いする間も無く、置き去りにしたモンスターの骸に、ちょっとだけ後ろ髪……後ろもふを引かれつつ、私は大人しくリュートの肩へしがみついている。

 この二人、一度もセーフゾーン寄ってないけど、大丈夫なんだろうか。

(リュート、大丈夫? 疲れてない?)

「全然疲れてないですよ?」

 返ってきたのは、キラキラとした笑顔だ。元気そうだね。

「ハル、心配してんのか? 一応、俺も疲れてないぞ?」

 体が温まってきたぐらいだ、と普通に私達の会話に混ざって来るエヴァンは、豪快に笑っている。こちらも、元気そうだ。

 二人共、魔法は使えないみたいだし、私が防御力特化なら、リュートとエヴァンは、体力特化ってとこか。

 四階層は止まらず、問題の五階層のセーフゾーンまで一気に行く気なんだろう。

(五階層には中ボスがいるんだよね)

「はい。ボスがいる部屋がありまして、そこに入ると戦闘開始です。倒すまで出られないらしいですよ」

(……中ボスって何?)

「ここの中ボスは確か……」

 リュートが記憶を辿っていると、何かオオカミっぽいモンスターを斬り捨て、エヴァンがニヤッと笑う。

「トカゲだよ」

(トカゲかぁ。トカゲ肉、美味しいのかな)

 即答したエヴァンの言葉に、私がのんびり呟く横で、リュートは何故だか首を捻っていた。

 リュートは小さく何かを呟いているが、しばらくすると納得した様子で、壁を這い寄って来た山々ナメクジを剣で斬り裂く。

 何だったんだろう。

 リュートの事だから、悪事とかではないから、心配しなくて良いか。

 後で悔やむと書いて、後悔なんだけど、この時、リュートにきちんと確認しておくべきだったと、私は後にして思った。

 もちろん、この時の私に知る由はなかったが……。




 私達の最終目的は、まずは五階層のセーフゾーンに辿り着く事。

 そして、ヒキガエルなナリキ男爵が雇ったモブ顔冒険者に追いつき、もしかしたら置き去りにされてしまうかもしれないボンボン達のお迎えだ。

 何故、今さらそんな当たり前の事を思い出してるかって?



 現実逃避だよ。



 何で現実逃避してるかって?



 セーフゾーンには、どら息子しかいなかったからだよ!



 しかも、麻痺したのか、あがあが言ってヨダレ垂らしてるし。



 どういう事だ?



 説明してください、ゆる女神様!


ゆる女神様に訴えても、さすがに答えは返って来ないですよ。



感想、評価ありがとうございます。

嬉しいです。

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