3分以上くっきんぐ
お料理……ってほど、料理はしてません!
最後、ほんのちょっとシモなお話ですので、苦手な方はご注意ください。
(ぱぱ、つおい〜)
「……ルー、エヴァンに遊んでもらってるのかな」
メリーさんと一緒にキッチンへ入った私は、ぼんやりと伝わってきたルーの楽しげな様子に、思わずポツリと洩らす。
「あらあら、旦那様、お部屋を壊さないかしら」
呆れたように呟くメリーさんだが、表情は私と一緒で楽しげに笑っている。
「ルーにはきちんと言いつけてあるんで、エヴァンが張り切り過ぎなければ大丈夫だと」
「うふふ、ルーちゃんはいい子ですわねぇ」
我が子を誉められて嬉しくなり、私は、はい! と大きく頷いておく。
さらに微笑ましげに見られたが、気にしません。うちの子が可愛いから仕方ない。
「リュートさん、嫌いな物はあるかしら?」
その微笑ましげな表情のまま、玉ねぎを手にしたメリーさんに訊ねられ、私は首を傾げて記憶を辿る。
「記憶にある限りだと、ないです。強いて言うなら、毒物とか?」
「リュートさんも、いい子ですわねぇ」
「はい! 二人とも、いい子です」
勢いつき過ぎて、手にしていたじゃがいもっぽいじゃがいもが落ちかけ、思わずもふっと髪の毛でキャッチする。
洗って、皮剥くからセーフだよね。
駄々漏れないように注意しながら内心呟き、じゃがいもを抱え直す。
「あら、ハルさんもいい子でしょう?」
じゃがいもをメリーさんに手渡したら、うふふ、と笑って頭を撫でられる。
「……えへへ」
まさかの返しに、照れ臭くなり妙な笑い方をしてしまう。
前世ですら、そんな真っ直ぐで優しい誉められ方をした記憶がなかったので、余計照れ臭い。
「ハルさんとルーちゃんは、好き嫌い……というか、食べられない物とかあるかしら?」
「私とルーは、何でも食べられます」
鉄くずでも、折れた剣でも、どんと来いだったりするのは、微妙な顔をされるだろうから止めておこう。
ルーに至っては、生ゴブリン食べてるし。
「そうでしたわね。ハルさんはわからないけど、スライムのルーちゃんは、何でも溶かして食べてしまいますものね」
そうだった。元上級冒険者なメリーさんには、いらない気遣いだったね。
「メリーさんでも、ケダマモドキって見たことないですか?」
「ええ。残念ながら、お話すら聞いた事ございません」
ついでにケダマモドキのことをリサーチしたけれど、やっぱりメリーさんも知らなかった。
「ノクの組合長してて、そこのダンジョンに精通してるエヴァンが知らなかったんだから、気にしないでください」
申し訳無さそうなメリーさんに、私はふるふると首を横に振っておく。
「いつかお仲間と会えますわ」
「ありがとうございます。でも、リュートやルーがいるから、寂しくはないんで大丈夫ですよ」
なんか、優しい眼差しでメリーさんが見てくるけど、本当に嘘や強がりじゃないんだけどな。
私は前世の記憶あって、仲間モンスターいない状態のもふ生スタートだったから。
「……えぇと、これ剝けました」
そんなこんなを話しつつも、私は何とか玉ねぎの皮を剥き終わった。
ちなみに私が心の中で玉ねぎって呼んでるだけじゃないよ? 玉ねぎは、玉ねぎって名前で、やっぱり玉ねぎだったから。
もしかしたら、私の生前いた世界とこの世界はほんの少しつながってるのかもしれないね。
こうやって私がここにいる訳だし。
うんうん、と頷いていると、メリーさんから手招きされる。
立たされたのは、洗って皮を剥いた野菜の置かれたまな板の前。で、包丁を渡された。
「野菜のゴロゴロ入ったスープにいたしますから、切り方は適当でいいんですよ」
不安が顔に出たのか、くすくすと笑ったメリーさんが、こうでございますよー、と包丁で切る真似を見せてくれる。
「は、はい!」
猫の手、猫の手、と心の中で呟きながら、私は野菜を押さえて、包丁で一口大より大きめな野菜片へと変えていく。
「お上手ですわ、ハルさん」
誉められて調子に乗った私は、えへへと笑いながら、刻むスピードを上げていく。
結果──。
「いたっ!」
思い切り刃が手に当たってしまい、反射的に声を上げる。
「ハルさん!? 手を見せてくださいな!」
私がなにか言う前に、メリーさんが外見からは想像出来ない素早い動きで私の手を握っていた。
さすが元上級冒険者だなぁと感心する私を他所に、メリーさんは私の手を見て首を捻る。
「あら? 確かに刃が当たったように見えたのだけれど」
「えぇと、私は、防御力特化なモンスターなので、刃物が少しあたったぐらい平気です。ビックリして声上げちゃって、すみません」
「あらあら、そうなのね〜。怪我が無くて良かったわ〜」
うふふ、とすぐに納得して安心してくれたメリーさん……はいいとして。
「リュート、怪我してないから。大人しく向こうで待っててね?」
私の声に反応して、まさにぶっ飛んできたリュートがメリーさんの背後からガン見してきてたんで、とりあえず追い返しておく。
「は、ハルさん……」
きゅーん、という幻聴が聞こえそうなうるうる目が見つめてくるが、心を鬼にして追い返しておく。
「ハルさん……」
しつこいけど心を鬼にして、本当に鬼にして……色々諦めて、キッチンの隅にいさせる事にしました。
だって、あんなに可愛い顔したリュートのおねだり、私には無視出来なかったね。
「そこにいるからには、お料理運ぶの後で手伝ってね」
「はい!」
いい子なリュートは、いい子なお返事をして邪魔にならないよう文字通りキッチンの隅になるべく小さくなってジーッと私を見ている。
かなり心配させてしまったらしい。
「ハルさん、エプロン姿も可愛いです!」
──少し違ったらしい。
可愛いから許すけど。
「リュートさんも、いい子ですわねぇ」
「はい!」
まごうこと無き真実なんで、しっかりと頷いてから、メリーさんの生温かい眼差しを受けつつ、野菜刻みへ戻る。
結局、全部刻むまでに何回か手を包丁にぶつけ(切れはしない)て、その度にリュートが飛んでくるので、最終的に……。
「外でお待ちなさい!」
リュートはメリーさんからキッチンの外へ放り出されました。
「なんかごめんなさい……」
野菜刻みから次の行程へと移り、コトコトと煮えている鍋を見守りつつ、私は申し訳無さから横にいるメリーさんへ頭を下げて謝る。
「うふふ、男の人は甘やかし過ぎてはいけませんよ?」
返ってきたのは優しい笑顔と、人生の先輩からのありがたいお言葉だったので、きちんと心へ刻んでおこうと思う。
「はい! 気をつけます」
「まぁ、可愛らしい方ですから、甘やかしたくなるのも仕方無いですわね」
悪戯っぽく笑ったメリーさんが、チラリと目線を窓へ向けるので、つられて私もそちらを見ると、そこには窓の外からキッチン内を窺う人影……。
うん、どう見てもリュートだ。
隠れているつもりらしいけど、バッチリ私にすら見えてる。
「気付かないふりをいたしましょう」
「……そうしましょう」
そういうことになった。
●
紆余曲折はあったけれど、無事に料理は完成。
ま、私がしたのはほんの手伝いで、ほとんどメリーさんが作ったのだけれど、それでも私の手が加わった料理を食べてもらうのは緊張する。
「大丈夫ですわ、ちゃんと美味しく出来てますもの」
「それは、メリーさんがほとんど作ってくれたからで……。私はちょっと刻んで味付けとか習いながらしたぐらいですし……」
「初めてで、あれだけ出来れば上出来でございます」
正確には初めてではないけど、この世界のこの体では初めてだから、初めてでも間違いないかな?
もふもふボディに慣れ親しんじゃったせいか、手足の使い方に未だ慣れない。
あー、思い出せないというべきか。少し前まで人してた訳だし。
もうちょっとすれば、この体にも慣れて華麗な包丁さばきに……はならないか。
もともと、私そこまで料理上手じゃなかったのに思い至ったから。
普通ぐらい? とりあえず、米は洗剤で洗ったりしなかったし、謎の物体エックスを製造したりはしてなかったよ?
「では、わたくしはリュートさんに料理運んでもらいますので、ハルさんは旦那様を呼んできていただけます?」
しんみりというか、がっかり前世を思い出していた私は、メリーさんの指示に深く考えずに頷き、エプロンを外そうとする。
「そのままでお願い出来ますかしら?」
でも、何故かメリーさんに止められたので、エプロン姿のままエヴァンの部屋へ向かう。
(ぷ、ぷ、ぷぅ?)
「ぷ、ぷ、ぷぅ?」
近づくにつれ、ルーの楽しそうな声が、耳からと脳内両方に聞こえてくる。
よく考えるとなかなかおかしな状態だけど、違和感は仕事しないできちんと聞き取れるから気にはしない。
そんな事を言ってたら、あのぷるぷるボディでどうやって声出してるんだ、ってところへ辿り着くし。
もふもふボディな私は発声できない訳だし?
もし私が鳴けたとしたら、どんな鳴き声になるのかな?
メェとかモォ? 意表をついて、ニャーとか。
ダークホースで、ケン! とかかも。
そんなどうでもいい事を考えながらでも、転んだりつまずいたりする事もなく無事目的地へ着いた。
やっと手足のある体にも慣れてきたからか、それとも思い出したと言うべきか。
一応、前世では人だった訳だからね。
「エヴァ……ン……?」
ノックしなくていいかエヴァンだし、なノリでエヴァンの部屋の扉を開けた私は、飛んでくるであろう小言が無くて首を傾げる。
(まま、まま〜)
「ルー、いい子にしてた?」
(るー、いこ、したー)
代わりとばかりに、ぽよんぽよんと跳ねてきたルーが、上機嫌な様子で私の周りをぐるぐると回ってアピールしてくる。
「エヴァンは?」
(ぱぱ? ぱぱ、ねる、したー)
「寝ちゃったんだね、エヴァン」
ぴょんと私の腕の中へ飛び込んだルーは、つぶらな瞳でベッドの方を見て、ぷるぷると震えている。
縦揺れのみだ。
頷いてるんだと気付くまで、ちょっと悩んだ。
新しい動きを覚えたらしい。
肩へと移動したルーを連れ、私はゆっくりとベッドへ歩み寄る。
ルーの報告通り、そこには目を閉じてベッドへ仰向けに寝ているエヴァンの姿があった。
眠りは深いのか、起きる気配はなく規則的な呼吸で胸辺りが上下しているのがわかる。
服の上からでもわかる綺麗な筋肉だ。
──裸も見たことあるから。
思い出した事実に若干頬に熱が集まるが、ふるふると首を振って熱を逃した私は、ベッドの枕元の方へ膝をついて遠慮なく乗り上げる体勢になる。
そのまま、エヴァンへ手を伸ばして肩へと触れ、軽く揺する。
「エヴァン、ご飯出来たよ?」
疲れてるのか反応が鈍い。
もしかしたら、私達のせいで事後処理とか大変だったのかもしれない。
申し訳無い気分になり、ん、と小さく呻いたエヴァンの頭を軽く撫でる。
起きたかな、と思ったが、まだ半覚醒状態なのか目は開かない。
あ、でも、手が……って、え⁉
エヴァンの手が何かを探すように中空をさ迷ってるのを、くすくすと笑って見ていて反応が遅れ、さらに思いがけない事態が起き、ピキリと固まってしまう。
「……ルー、あそび、たりないのか?」
さ迷っていたエヴァンの手が触れたのは、ルー──ではなく、ベッドへ乗り上げていた私の胸で……。
エヴァンの発言からルーと間違われたぽいのは、不本意だけど理解出来た。
エヴァンは完全に寝惚けているのか、そのまま軽くふにふにと……って、ええ〜っ!?
(ぱぱ、えちー!)
私より早く正気に戻った……いや、たぶん、最初から正気だったらしいルーが、エヴァンの腹部へべチッといい音をさせて飛び降りる。
私の反応を見て動いてくれたらしい。
鍛え上げられたエヴァンの腹筋へあまりダメージは無かったらしいが、衝撃で完全に目が覚めたのか、パチリとエヴァンの目が開き、面倒臭そうにルーを確認する。
──私の胸に手を置いたまま。
これ、わざとじゃないんだよね?
「ルー、どうし……」
そこまで言いかけて、エヴァンはやっと私に気付き、自らの手が何処にあるのか不思議そうにし……どうしてだか、もう一度ふにふにとし、
「っ、す、すまない!」
自分が揉んでたのがルーではないと気付いた瞬間、ベッドから飛び降りて、見事なスライディング付きの土下座をしてくれた。
(りゅ、に、いうー)
(血の雨が降りそうだから、ひとまず止めようね)
ゆる女神様がキャーキャー喜んでる。通知音がぴろんぴろんうるさいくらいだ。喜んでるのがちょっと解せないのは、私がおかしいんだろうか。
あと、ファンタジーな異世界でも、土下座があるのは、やっぱり地球との繋がりなのかとか、色々考えても、なかなか頬の熱は引いてくれなかった。
読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
いわゆる一つのラッキースケベ?
リュートだと、一緒に寝てて胸に埋まるぐらいは普通にして、普通にスルーされてます。
まま>超えられない壁>ぱぱ・りゅ。が、ルーの中のランキングです。




