83 快晴!青空レストラン?
「ユイトくん、今日は驚かせてすまなかったね」
「いえいえ、大丈夫ですよ? 僕も楽しかったですし!」
「あの子はねぇ、いつもは大人しいのに。今日は楽しそうねぇ」
乗馬が終わると、ハワードさんが何度も謝ってくれた。驚いたけど気にしていないし、ハルトとユウマもサンプソンに触れて興奮している。ソフィアさんも珍しいわねぇ、と微笑んでいた。
そして現在、ハワードさん一家と一緒に昼食の時間。
今日は天気もいいので特別に外で食べようと、長テーブルを準備し、椅子代わりに藁の塊に麻布を巻いてそこに皆が座っている。
テーブルの上にはソフィアさんお手製の野菜たっぷりのクリームシチューや、牧場自慢のチーズを使ったチーズフォンデュ、ハルトとユウマの好きなマッシュパタータや、とうもろこしとアスパラガスのバター炒めも並んでいる。
そして僕の視線を捉えて離さないのは、堂々たる様子でテーブルの真ん中に準備されている、ラム肉を使ったジンギスカン……、ではなくこのタレ……!!
お肉を漬けているタレと、横にあるつけダレ……!
もしかして……、もしかしてだけど……! このタレの材料って……!!
「おにぃちゃん! さんぷそん、ねちゃい、ました!」
「にぃに~! しゃんぷしょん、おひりゅね!」
そう。ハルトとユウマの声が聞こえているのは、僕の真後ろから。
そしてなぜか、問題のサンプソンも僕の席の後ろでどっしりと座り、今はハルトとユウマに撫でられ気持ちよさそうにお昼寝中……。
何と言っても圧が凄い。圧が。
「こいつがこんなにべったりになるのは初めてだなぁ~! こりゃ坊ちゃんたち、相当気に入られたな?」
ニカッと人好きする笑顔で言うのは、ハワードさんのお父さんのフィリップさん。もう年だからと、ソフィアさんと一緒にのんびりしているらしく、今度ソフィアさんと一緒にお店に食べに来てくれると約束した。
「サンプソンは子供の時も大きかったんですか?」
こんなに大きいから、もしかしたら生まれたときから大きかったのかもしれない……!
「いやぁ……。それがわしもハワードも知らんうちに牧場にいたからなぁ。その頃はまだ普通の馬より大きいくらいだったから、どっかで飼われとったのかもしれんなぁ」
「あの時はびっくりしたなぁ~。私も父さんもこんな大きい馬いたか、確認しあったからねぇ」
当時を思い出して笑ってるハワードさんとフィリップさん。
「じゃあ、誰も小さい頃は分からないんですね……」
「あぁ、でも傷だらけだったから、逃げてきたんじゃないかと思ぅてなぁ。しばらくは従業員たちにも、ここ以外では黙ってる様に言い聞かせてたからな」
「あの頃は本当にかわいそうでねぇ、大分こき使われていたんじゃないかしら? こんなに大きくなるとは、誰も思わなかったけどねぇ」
そうか。後ろでのんびり寛ぐ姿からは誰も想像つかないけど、この子もどこかで虐められてたのかもしれないのか……。
きみも僕たちと同じだったのかなぁ、なんて思いながら鼻先を撫でると、サンプソンは片目をちらりと開けてまた気持ちよさそうに寝てしまった。
「さ、折角のお料理が冷めちゃうわ! 皆、席に座って~!」
アンナさんがパンパンと手を叩き、作業をしていたマイヤーさんとローガンさんも戻ってきた。あの仔馬も当然のように付いてくるあたり、ローガンさんといつも一緒にいるのかもしれない。
「ほら、ハルト、ユウマ。こっちにおいで」
「「はぁ~い!」」
サンプソンの傍らで遊んでいた二人は、トーマスさんと僕の間に座り並んだ料理を見て歓声を上げた。
「ハルト、ユウマ、全部美味しそうだね!」
「あ! まっしゅぱたーた! ぼく、すきです!」
「あぁ~! まいしゅもあるよ! ゆぅくんまいしゅだいちゅき!」
二人の様子に、ソフィアさんもハワードさんも微笑んでいる。フィリップさんとアンナさんは、昔を思い出しているのか、あの子たちもこんな時期が……、とマイヤーさんとローガンさんを見つめながらお喋りを始めていた。ローガンさんはもう止めるのを諦めたみたい。仔馬が慰める様にズボンを甘噛みしていた。
「さぁ! 皆揃ったみたいだね! では早速頂こう!」
「「「「いただきます(ちゅ)!」」」」
なんで兄貴が仕切ってんだ、と言いながらも、ローガンさんも皆と一緒にいただきますと食べ始める。
マイヤーさんとローガンさんが美味しそうにバクバク食べてるから、ソフィアさんの二人を見る目がとっても嬉しそう。
僕はあのタレが気になって仕方ないんだけど、お肉がまだだから先にこっちをどうぞ、とクリームシチューをたくさん盛ってくれた。鶏肉にじゃが芋と人参、ブロッコリーがごろごろと入っていて美味しそう!
「熱いから気を付けてねぇ」
「ありがとうございます! いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
ほかほかと湯気があがるシチューを、フーフーと冷ましながらスプーンをパクリ。ホクホクしたパタータにバターの風味が効いている濃厚なシチューは絶品……!
「ん~~! おぃひぃれふ!」
食べているときにお行儀が悪いと思ったけど、つい口に出してしまう美味しさ。
「あらぁ、お口に合ったみたいで安心したわぁ~! 他にもたくさんあるからねぇ」
僕はコクコクと頷くと、ソフィアさんはジンギスカンのお肉の火の通りを真剣に見てくれている。いつものほんわかした雰囲気と違って職人みたい……!
これは期待するしかないよね……!
真剣にお肉を焼くソフィアさんの横では、マイヤーさんとローガンさんがガツガツと口いっぱいに料理を頬張ってハムスターみたい。
二人は僕と目が合うと、僕が欲しがっていると勘違いしたのか、皿いっぱいにパンやフォンデュした野菜をのせて持ってきてくれた……。二皿はちょっと多いかな……? これはトーマスさんとハルトと分けっこしよう。
ハルトはチーズフォンデュが気に入った様で、熱くて危ないからとわざわざ容器を離してくれていたのに、フィリップさんとハワードさんの方にまで行って、くるくるとチーズを絡めていた。
「おぉ! ハルトくん、いっぱいチーズがのって美味しそうだね!」
「あとで、わしのも作ってくれんかのぅ」
「はい! ぼく、くるくる、します!」
「楽しみだのぅ」
フィリップさんとハワードさんが見てくれているので、こっちも安心。
もの凄く満足そうに頬張っているので、見ていた皆もにこにこしていた。
「じぃじ~! ゆぅくん、いっぱぃまいしゅたべちゃぃ……」
「ん~? さっきも食べたろう? 他のも食べてごらん」
さっきからユウマは好物のマイスばかり食べている。トーマスさんはチーズフォンデュやクリームシチューも少しずつよそって食べさせてくれたみたいなんだけど、よっぽど気に入ったんだなぁ~。
ソフィアさんに後で作り方を訊いてみようかな?
「まいしゅ、おぃちぃの……。……だめぇ?」
ユウマの必殺おねだりが出たな……。
あれをすると、オリビアさんと僕は言う事を聞いてしまうんだ。
気を引き締めないと……。
「んん……っ! そうだな、マイスは美味しいからな。ソフィアさん、こちらお替りしても?」
「ふふ、大丈夫よ。い~っぱいあるから遠慮しないでねぇ」
「やったぁ~!」
ソフィアさんがお替りにマイス多めのバター炒めを取り分けてくれ、ユウマはご機嫌で揺れている。そしてトーマスさんも、そんなユウマを見て頬が緩んでいた。
「そろそろいい具合に焼けたわねぇ。ユイトくん、さっきから気にしていたでしょう? お皿をちょうだいな」
ん! ずっと見てたのバレてたみたい……! 僕はお願いします……、と自分のお皿を手渡した。
やっとあのタレの味が確認出来る……! 僕は期待と不安でドキドキしていた……。
「さぁ、熱いから気を付けて。どうぞ」
「ありがとうございます……! いただきます……!」
僕は皿を受け取り、熱々のお肉にタレをたっぷりつけて、エイっと口に頬張った。
……ん~~~っ!! やっぱりそうだっ!!!
この味! こっちに来てからずっと欲しかった調味料……!
僕は居ても立っても居られず、立ち上がり頭を下げた。
「ソフィアさん! このタレの作り方! 教えてくださいっ!!」
調味料や食材を求めるのは異世界あるあるですよね。
こういうお話大好きなので、今後も出てくる予定です。




