表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/398

63 夏とぷーる


「ふん、ふん、ふ~ん♪」

「なんだユウマ、ご機嫌だな?」


 裏庭で洗濯物を干していると、足元からユウマの鼻歌が聞こえてきた。

 少し音程を外しているが、それも愛嬌だ。とても可愛らしい。


「うん、じぃじといっちょ! うれちぃの!」

「ほぉ~? おじいちゃんも一緒にいれて嬉しいよ」


 何とも嬉しい事を言ってくれる。仕事をしばらく休みにして正解だったな。


「おじぃちゃん! ぼくは? ぼくと、いっしょ、うれしい?」

「もちろん! 二人と過ごせて幸せだ!」

「「きゃあぁあ~~~!」」


 二人を両手に抱え、ぎゅうっと抱きしめると、嬉しそうにはしゃぐ声が聞こえる。

 ハルトとユウマと過ごす事にしたのはいいが、この子たちが可愛くて仕事を再開出来るか自分でも分からない。今一番の深刻な悩みだ。


「おじぃちゃん、きょうは、おでかけ、いきますか?」

「おでかけしゅる?」

「そうだなぁ、お出掛けか……。東方面は止めておこう、魔物が出るしな」

「まもの? こわいの、でますか?」

「あぶにゃぃ?」


 東の森での魔物の討伐依頼が出たのは、ほんの二日前の事だ。

 もうすぐ王都からやって来る要人に合わせての事だろう。ゴブリン一匹なら腕っぷしのある村人でも倒せるが、数が多いと厄介だからな。

 そのゴブリンが出る森が王都への街道沿いにあるから、被害が出る前にと領主が討伐依頼を出したらしい。

 まぁ、今回はかなりの数のパーティが向かったから心配する事は何もない。


「そうだ。兎みたいな可愛らしい魔物もいるが、ほとんどは人を襲ってくる魔物が多いんだ。怪我をする人もいるんだよ」

「いたぃたぃ……? こあぃねぇ……」

「まもの、あぶない、です……」

「そう、だから今日は東方面は止めて……」


 どうしようか……。仔牛が産まれたと言っていたハワードの牧場に行こうか……。いや、さすがにこの時間は忙しいか……?


「じぃじ~?」


 いや、急に行くと仕事の邪魔になるからな、今度にしよう……。湖……、暑くてもオレ一人ではもしもの時があるからな……。それにこの子たちに万一の事があったら立ち直れない……。


「おじぃちゃん?」


 今日は止めておくか……。湖は今度、皆で行こう。それがいい。

 あの幻想的な森を見せてあげたいが、二人にはまだフェアリー・リングの森は危ないしな……。ノアたちに会いたいと思うが、ごめんよ。少し我慢しておくれ……。

 よし……!


「お出掛けは今度にして、ここで遊べるものを作ろうか!」

「おにわで、ですか?」

「なにちゅくるの~?」

「それは出来てからのお楽しみだよ。オリビアとユイトに、裏庭で遊んでいいか訊きに行こう」

「「はぁ~い!」」


 洗濯物を急いで干し、二人を連れて、仕込みをしているオリビアとユイトの所へ向かう。



「あら、トーマスが付いてるなら大丈夫よ? ねぇ?」

「はい、特に心配もありませんし。遊んでもらえて助かります」

「そうか、よかったよ。オリビア、使っていないシーツも出していいか?」

「古いのならまとめて置いてあるから、好きに使っていいわよ」

「よし! ハルト、ユウマ、いまからお庭で遊ぼう!」

「「やったぁ~!」」



 こうしてシーツを数枚とロープ、二人の着替え、タオルを持って再び裏庭へ。

 裏庭の物置から使っていない洗濯用の桶を取り出す。大きくて運ぶのが大変だと、物置に直行した可哀そうなやつだ。埃をかぶっているので井戸の水でキレイに磨く。ジョウロも使うのでついでに洗う。


「ハルト、ユウマ、そこのシーツを一枚持ってきてくれ」

「ゆぅくん、そっち、もてる?」

「うん! だぃじょぶ!」

「転ばない様にな」

「「はぁ~い!」」


 二人でよいしょ、よいしょと大きいシーツを持ってくる姿はとても可愛らしい。畳んでいても、二人にすれば結構な重さだしな。


「ありがとう、助かったよ」

「んーん、へいき、です! ねっ、ゆぅくん」

「ん! いっちょらから、へぇき!」

「そうか、頼もしいな」


 シーツを桶に被せ、中の窪みに合わせてゆとりを持たせ、シーツの端をくるくると桶から外れない様にしっかりと縛っておく。

 そしてその窪みに、井戸の水を何杯も汲んで入れていく。水もこの暑さだからな、少しずつ温くなっていくだろう。

 そうすれば簡易の水浴びセットの出来上がりだ。


「ほら、ハルト、ユウマ、この中で水遊びしよう」

「やったぁ~! ぷーる! ゆぅくん、はいろ!」

「んー、このなか、あしょんでいぃの……?」

「あぁ、ユウマはお水が怖いかい……?」


 しまったな、ユウマは水が苦手だったか……? 頭になかった……。


「ゆぅくん、ぷーる、いっしょにあそぼ?」

「んー、こわくなぁい?」

「うん! ぼく、いっしょ! こわくないよ!」

「ん、じゃあ、ゆぅくんあしょぶ……」

「やったぁ~!」


 ハルトは小さくても、ちゃんとお兄ちゃんなんだな。泣きそうだ……。


「入る前に体をほぐして、少し水をかけておこうか。いきなり水に入ると体がびっくりしてしまうからな」

「はぁ~い! ゆぅくん、ぬげる?」

「ん、むちゅかちぃ……」

「こっち、むいて? やってあげるね」

「ん、はるくんありぁと!」


 ハァ~~~!! 感動して泣きそうだ……!! 

 下手に声を掛けると水を差してしまうからな。頬の内側を噛んでグッと我慢だ。

 それからユウマも裸になり、二人に少しずつ水をかけて体を水に慣らす。ハルトは嬉しそうだが、ユウマには慎重にかけないとな。

 そしてハルトから水を張った桶にそうっと入れる。きもちぃー! と嬉しそうに足をパタパタさせている。

 次はユウマ、緊張でオレの腕をぎゅっと掴んでいるな……。


「ユウマ……、怖いならやっぱり入らないでおくか?」

「んーん、ゆぅくんはぃる」

「ゆぅくん、だいじょうぶ?」

「ん、あしょぶもん」

「そうか……。じゃあ、こっちの足から順番に入れるぞ?」

「ん」


 そう言って、ゆっくりユウマの足から順に腰まで水に浸からせる。慣れるまではそのまま抱える姿勢だ。

 ハルトがユウマの左手を取り、だいじょうぶ、と言って一緒に待っている。感動で泣きそうだ……。


 そして時間を掛け、やっと胸のあたりまで浸かると、オレの腕から右手を離し、今度はハルトと一緒にはしゃぎだした。


「ゆぅくん、ぷーる、たのしいでしょ?」

「うん! おみじゅたのちぃねぇ!」


 オレが二人の上から雨の様にジョウロで水をかけてやると、ぱしゃぱしゃと水を浴びて楽しんでいた。

 いつの間にかオレの服はびっしょりと濡れていたが、些細な事だ。問題ない。



「あら~! 楽しそうねぇ!」

「ほんとだ! ハルト、ユウマ、よかったねぇ」

「うん! ぷーる、たのしい!」

「ゆぅくんも! たのちぃよ!」


 オリビアとユイトが様子を見に来た様だ。少しだけ二人にハルトとユウマを任せ、オレは木にロープを使い、シーツで簡易テントを作る。まぁ、言うなれば日除けだな。

 そして庭にもう一枚シーツを広げ、プールから上がってもくつろげるスペースを作った。そして木箱をひっくり返し、簡易椅子に座る。


「なぁに、トーマス。楽しそうね?」

「あぁ、ちょっと遊びを満喫しようと思ってな」

「ふふ、僕キッチンからなにか果物、持ってきますね」

「ぼく、おらんじゅ、たべたい、です!」

「ゆぅくんもたべちゃぃ!」

「はぁい、ちょっと待っててね」

「「はぁ~い!」」



 ふと空を見上げると、雲一つない青空が広がっている。

 肌に照りつく日差しは、もうすっかり夏の様だ。

 自分がこんなにこの子たちに絆されるとはなぁ……。



「トーマスさぁーん! 果物持ってきましたよ~!」

「おじぃちゃ~ん! たべよ~!」

「じぃじ~! はやくぅ~!」


 昔の自分が見たら笑うだろうな。

 あの指名依頼の前に、十分この子たちを可愛がっても罰は当たらないだろう。


「あぁ! いま行くよ!」


 この子たちの笑顔を見るためなら、オレは何だって出来る気がするよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ