370 赤い点
お久し振りです。まだアレクは出てきません(汗)
後日加筆修正予定ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
「う~……。えてぃちゃん、くるちぃ……」
「あっ! ゆぅくん、ごめん……!」
「ユウマくん、大丈夫ですか?」
「ぷは~! ん! ゆぅくん、だぃじょぶ!」
住民たちが避難する教会の中に、突如現れた魔族の少女。そして、会話しながらも結界を張り続けるライアン殿下。
《 ゆうま、だいじょうぶだった? 》
《 けがしてなぁい? 》
「うん! おけがちてなぃよ!」
我々には聞こえないが、ニコラ、そして殿下と共にいるウェンディという妖精も、心配そうにユウマを覗き込んでいる。
ユウマは家族が来て安心したのか、レティの腕の中から動こうとはしなかった。
「……ねぇ、えてぃちゃん」
「なぁに? ゆぅくん」
その小さな小さな声に、ユウマの髪を愛おしそうに撫でながら、レティは優しい声色で返事をした。
「……あのね? めふぃくん、おけがちてなぃ……?」
その言葉に、レティとライアン殿下の二人は顔を見合わせて黙ってしまう。
「おにぃしゃんがね? めふぃくんはだぃじょぶだよって、おちえてくれたの……」
「……おにぃさん?」
お兄さんという言葉に、レティはピクリと反応する。
「ん。ゆぅくんといっちょの、まっくりょいかみでね? しゅっごく、やしゃちぃの。ておくんのおけがもね、なおちてくれたの……」
「そうなんだ……」
レティはそう言ったまま、何かを頭の中で整理している様だった。
「……うん。めふぃくんは、だいじょうぶ。ちゃんと、あえるからね」
「ほんとぅ……?」
「うん。わたし、ゆぅくんにうそついたこと、ないでしょ?」
「……ん!」
その言葉に安心したのか、ユウマは笑みを浮かべ再びレティにしがみ付いた。
《 ユウマ 》
「「!?」」
そこに、姿を消していたテオがフッと音もなく現れる。
美しい黒髪に黒い羽。以前と似ても似つかぬその姿に、レティと殿下、そして二人の妖精も驚きを隠せない様子。
「あ~! ておくん、おかえり!」
《 ただいま! 教会の外にいた魔物は排除したから、暫く大丈夫だよ 》
「ほんと~? しゅごぃねぇ……!」
《 ライアンの結界があったからね。逃げようとして勝手に沈んで行ってくれたし……。思ったよりラクだったよ? 》
ユウマが怖くない様にしたからね
テオが何を言ったのかは分からないが、一瞬だけレティの動きがピタリと止まった。にっこりと微笑むその顔を見て、何故かゾクリと悪寒が……。
……きっと、気のせいだろう。
「よ、妖精……?」
「本物なの……?」
「頭が混乱してきた……」
突然現れた第三王子と魔族の少女。そして、誰も見た事のなかった妖精の姿。シスターや他の者たちは皆、遠巻きに我々を見つめ戸惑いを隠せない様子。
妖精に至っては、この一瞬で三人だ。混乱するのも無理はない。
「……では、ユウマたちの行方を追って?」
テオの姿に驚いていたレティたちだったが、何やらテオに説明を受け漸く落ち着いた様だ。二人に話を聞くと、我々がノーマンの屋敷に行っている間にとんでもない事態に陥っていた事が分かった。
「うん。……だけど、おにぃちゃんとはるくんのいばしょだけ、つかめないの……」
「ユイトとハルトの?」
「……わたしたおまもりで、けはいをおえるはずなんだけど……。なんどやっても、きえてるの」
はやくおえればよかったのに、と悔しそうに唇を噛み締めながら、レティは再びユウマを強く抱き締める。ユウマも襲われた瞬間の事を思い出したのだろう。レティの腕の中で顔を埋め、ぎゅっとしがみ付いたままだ。
「……レティちゃん、その魔力はどうやって把握してるんですか?」
聞いた話では、レティは王都内に存在する魔力を全て探知出来ると言うが……。
この可愛らしい少女がそんな力を持っているなんて、転移魔法を目の当たりにしなければ、この場の誰も信じなかっただろう。
「こう……、うえからしたをのぞくみたいに……。まりょくがあかいてんになってみえるの」
「赤い、点……」
「よわまってると、うすくなってみえるの」
「凄いな……。と、いう事は……」
そう呟きながら、ライアン殿下が突然立ち上がった。
「誰か、王都の地図を持っている者はいるか?」
「殿下、地図なら私が」
「すまないが拝借しても?」
それに答える様に、マイルズが一枚の紙を取り出し、殿下に手渡す。受け取った地図を我々の前に大きく広げ、現在の位置関係を指し示していく。
「レティちゃん、ここが王都の中心にある王宮。そしてここが、私たちが今現在いる場所です」
ぐるりと地図を見渡し、レティは小さく頷いた。幼い殿下たちの会話が、静かに響いている。
ふと辺りを見渡すと、先程までの喧騒が嘘の様に、教会内はシンと静まり返っていた。皆が息を潜め、こちらを注視しているのが分かる。
「おじぃちゃんとへいかたちは、たぶん……。ごしゅじ……、のーまんのやしきに、むかってるとおもう」
「ノーマンの屋敷ですか?」
「そう。ここに、きょうどうぼちがある。そのすぐちかくに、やしきがあるの。……あと、ゆらんくんはとちゅうでわかれたみたい。でも、ゔぃるへるむさんたちもいっしょだから、だいじょうぶだとおもう」
「ヴィルヘルム……?」
初めて聞く名だ。私の疑問に答える様に、レティはこちらをチラリと見やる。
「わたしとおなじ、どれいだったひとたち……」
「……そうか」
「……うん」
そう言って小さく頷くと、再び地図を指差し、私が気掛かりだったエレノアたちの現在地を教えてくれた。だがそれは、何度も現れては一定の時間で消えるという。
「えれのあさんたち、いまはここ。でも、さっきまではこのあたりにいたの」
「これは……」
ライアン殿下、そしてマイルズと顔を見合わせる。
その現れ方はまるで、エレノア、ステラ、リーダーの三人が、短時間のうちに別の場所に転移しているかのように見えた。
《 あぁ、もしかしたら森を使ってるのかもね 》
「もり……! そっか……!」
《 あ、そうかも~ 》
《 あそこならあんしんね 》
「森……? 森って、妖精たちがいた森の事ですか?」
妖精たちに真剣な表情で訊ねるライアン殿下。それにしっかりと頷く妖精たち。
「たぶん……。せばすちゃんは、ようせいのもりを“ひなんばしょ”につかってるのかも」
「避難場所、ですか?」
「うん。さんにんのまりょくといっしょに、たくさんのまりょくも、いどうしてきえてるから」
「成程……。それは有り得るかも知れないな……」
「……あと」
「あと?」
我々が首を傾げると、レティはその可愛らしい指先をそっと上に向けた。
「あれくさんは、うえにいる」
「……う、うえ……?」
「うん。おそらのうえ」
その言葉に、我々は思わず見えもしない空を見上げた。
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