35 トーマスの誤算
「トーマスさん、おはようございます!」
「おはよう、エヴァ。イドリスはもう来てるかい?」
エヴァはこの冒険者ギルドの受付職員だ。とても真面目で、初めの頃は冒険者や依頼主の横暴な態度に泣いていたりもしたが、今では言い返すほどに逞しく成長した。
横暴な態度を取った者はそれ以来見る事は無くなったが、今はどうしているだろうか。
「はい! 今日はいつもより早く出勤なさってました。いつもあれくらいヤル気だといいんですけどね」
「ハハ、そうだな。エヴァも今日は来るんだろう? うちの料理は旨いから期待しててくれ」
「はい! 今日はたくさん食べる予定なので、覚悟しててください!」
「お手柔らかに頼むよ」
冒険者ギルドは基本、一日中開いている。
緊急を要する依頼を直ぐに受けれるようにと、冒険者が持ち込んだ魔物の素材なんかを直ぐに引き取れるように。
魔物の死骸を持って夜を明かすなんて苦痛だからな。
依頼は朝一番に来るものが多いので、良い条件のモノは早い者勝ちだ。新人は依頼がボードに貼り出されるのを今か今かと待ち構えている。
二階への階段を上がったところで、ギルドの鑑定部門職員のクラークと出くわした。
「トーマスさん、おはようございます」
「おはよう、クラーク。珍しいな、ここで会うなんて」
クラークは基本的に鑑定専門の部屋に籠りっきりのため、表にはほとんど出てこない。ギルド職員でも滅多に会うことがないというから驚きだ。
いつも冒険者が持ち込んだ薬草や魔物の素材、魔道具の鑑定を行っている。
そう、彼は“鑑定”のスキルを持っている。彼にユイトのことを相談したいが、まだ確定したわけではないので保留中だ。
「今日は私も、食事会に参加することになりました」
「おぉ! 珍しいな! 楽しみにしているよ」
「はい、ありがとうございます。ではまた後程」
ぺこりと礼をし、クラークはまた鑑定専門の部屋に戻っていった。
「イドリス、入るぞ」
「あぁ、開いてるぞ~」
中に入るとイドリス以外に二人、ソファーに座ってこちらを見ている者がいた。
「トーマスさん、お久しぶりです!」
「久しぶりだな、バーナード! Bランクに上がったんだろう? おめでとう!」
「これでやっとトーマスさんと同じランクになれました!」
「負けないようにオレも頑張らないとな」
バーナードはついこの間Bランクに上がった冒険者だ。四人組パーティを組んでいるが、ランクが上がるまでは消耗することばかりだったので今回は昇格記念として各々休暇を取ったらしい。
体格は熊のように大きいが、人一倍優しい男だ。オレもオリビアもとても可愛がっている。
「トーマス、聞いたぞ! 面白そうだから、今日はオレもバーナードも行くからよろしくな!」
「おいおい、バーナードはいいがお前まで来るのか? 店に入るか心配だよ」
この陽気な男はギデオン。このギルドの解体部門主任をしている。イドリスと並ぶ大男だ。
「ひでぇ言い様だな! イドリスがサンドイッチ、サンドイッチってうるせぇんだよ! 気になるだろうが!」
「ハハハ! イドリス、お前まだ言ってたのか!」
「当たり前だろうが! こっちはあのサンドイッチの味が忘れられなくて仕事も手につかないって言っただろ!」
「「仕事はしろ!」」
全く……! このイドリスとギデオンが揃うと煩いんだ。
そこでふと考える。
……ん? 待てよ? 今で何人いる?
イドリスにギデオン、バーナード。クラークにエヴァ、新人のオーウェン、ワイアット、ケイレブにケイティ……。
「なんだ? トーマス、どうした?」
「……人数の確認だ。他に誰か来ると言ってたか?」
「ん? あぁ、あとブレンダが来るってよ」
「ブレンダって、イドリスと同じくらい食うだろ……? オリビアの店、大丈夫か……?」
「大丈夫じゃ、ないかもしれない……」
ユイト、すまない……!
店の食材が、足りんかもしれん……!
オレは今頃頑張っているであろうユイトに、心から謝る事しか出来なかった……。
ブックマークに評価、ありがとうございます!
とても励みになっています。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。




