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316 魔法の練習


「えいっ! ……やぁーっ!」

「ハルトちゃん、その調子よ!」

「あ~ぃ!」


 朝食の後、庭に出るとハルトちゃんは私が作り出した小さな泥人形(ゴーレム)を相手に剣の稽古中。トーマスが褒めていたけど、五歳にしては動きが様になっている。

 ……と言っても、掛け声はまだまだ可愛らしいんだけど!

 これもアーロくんとディーンくんが教えてくれたおかげね。


「ハルトちゃん、ちょっと休憩しましょ」

「は~い!」


 ゴーレムの持つ剣を叩き落としたところで、私が腰掛けるテラスのベンチにハルトちゃんを手招きし、ゴーレムに流していた魔力を遮断する。

 すると、錆び付いた様に徐々に動きが鈍くなり完全に停止した。

 


「ふぅ~……」

「ふふ、ハルトちゃん、お疲れ様。と~ってもカッコ良くて、おばあちゃんビックリしちゃったわ!」

「えへへ! はやく、あーろさんとでぃーんさんみたいに、つよくなりたいです……!」


 きっとこれを聞いたら、トーマスは拗ねちゃうわね。でも家にいる間、教えてくれていたのはあの二人だもの。憧れるのも無理もないわ。


「じゃあ、アーロくんとディーンくんはハルトちゃんの立派な師匠ね」

「ししょう?」

「そうよ~? 教えてくれる人の事を、師匠とか先生って言うの。ステラちゃんが私の事、師匠って言ってたでしょう?」

「あ、いってます!」

「ハルトちゃんの場合は、剣の師匠はアーロくんとディーンくん。弓はバートくんってところかしら?」

「ししょう……! かっこいいです……!」

「ふふ、今度会ったら二人に師匠って言ってみたら? 喜ぶかも!」


 そう言うと、ハルトちゃんは何度もししょう、と呟きながら楽しそうに足をぶらぶらと揺らしていた。



「……あっ! おばぁちゃん、みて~! できた~!」

「あら! レティちゃん、凄いわ!」


 その声に振り返ると、レティちゃんの人差し指からロウソクの炎の様にユラユラとした火が出現していた。


「れてぃちゃん、すごいです!」

「あぶ~!」


 休憩していたハルトちゃんも、私の腕の中にいるメフィストちゃんもパチパチと手を叩き、楽しそうに笑っている。ハルトちゃんは魔力が無いから、魔法を見ると憧れるみたい。自分の事の様に嬉しそう。


《 れてぃ、すご~い! 》

《 ゆびから、ひがでてる! 》


 ノアちゃん達も念の為に姿を消しながら庭に出ているけど、その声から皆がはしゃいでいる様子が伝わってきた。


《 レティは火も操れるのか 》

《 さっきは水と風だったな 》

「クルルル!」


 サンプソンとセバスチャンも、庭の木陰にどしりと横たわりながらレティちゃんの魔法を見学していた。ドラゴンも火を見て楽しそうに動き回っているわ。他の()たちも興味があるのかこちらを眺めているし。


《 これは野営で使えるんじゃないか? 》

「そうかなぁ? やくにたつ?」

《 あぁ、トーマスもユイトも助かると思うぞ 》

「クルルル!」

「……えへへ、だといいなぁ~!」


 役に立てると聞いて満足そうに微笑む姿はとっても可愛らしい。トーマスがいたら抱き上げているところよ。フッと指先の炎を消し、私達の下へ駆け寄ってくる。

 ユイトくんがハンカチを忘れていった時は拗ねていたけど、今は大丈夫そうね。


「う~ん、これで光魔法以外は使えるって事が分かったけど……。今はどう? 気持ち悪くなったりしてないかしら?」

「うん! なれてないから、ちょっとへっちゃったけど……」


 そう言いながらも、属性を調べる為に教えた初級魔法を難なくこなしていくし、この呑み込みの早さは私が教えた子供達の中でも上位に入るかも……。

 だけどこれで()()()()減ったくらいだなんて、この子の魔力量ってどれくらいあるのかしら……?


「今まで本当に使った事は無かったの?」

「ん~、ていさつとか、てんいとかばっかりだったから……」


 偵察と転移……。まさに相手を探る為に打ってつけの魔法だわ……。それをこんな幼い子がさせられていたなんて……。


「そうなのね……。じゃあこれから、ゆっくり覚えていきましょう? きっと色々出来る様になるわ!」

「うん!」


 がんばる! と、嬉しそうにはにかむレティちゃんを見つめながら、この子には楽しい魔法の使い方を教えてあげたいと心から思ったの。






*****


「できた……!」

「わぁ~! れてぃちゃん、すごいです!」

「きゃ~ぃ!」


 ……そんな事を思っていた、少し前の自分に教えてあげたい。

 レティちゃんは思う存分、魔法を楽しんでるわよって……。


 そんな私の目の前には、地面から生えた子供の背丈ほどの土人形で出来た二本の腕が……。

 これは初級どころじゃないわ……。ハルトちゃんとメフィストちゃんはその腕を見てはしゃいでいるけど、こうして見ると地面から腕が出てるのってちょっと怖いわね……。


「レティちゃん、素晴らしいわ……!」

「えへへ! しょくしゅににてるから!」

「触手……」


 闇魔法の黒い触手……。確かにアレも腕だけど……。


《 本物みたいだな 》

《 腕が出来るなら体も作れそうだ 》

「からだ……? からだかぁ……」


 そうポソリと呟くと、レティちゃんはしゃがんで地面に手を付けた。すると、二本の腕がグネグネと形を変え始める。

 不気味なその動きにドラゴンはビクリと跳ね、慌ててサンプソンの後ろに隠れ様子を窺っている。ノアちゃん達の叫ぶ声も響いてくるわ……。


「う~……、むずかしい……」


 そんな事も気にせず、うんうんと唸りながらレティちゃんが作ったのは、膝丈ほどの小さな妖精たちの姿をした土人形。蝶々の様な綺麗な羽も再現されていて、とっても可愛らしい。


「わぁ! かわいいです!」

「あ~ぃ!」

《 わたしたちみたい! 》

《 すご~い! はねがある! 》


 その土人形の出来に、ハルトちゃんもテラスから降り、夢中になって眺めている。私も思わずしゃがんでじっくり観察してしまったわ……! これはこのまま保存して、帰って来たトーマス達に見せてあげたい!


「ちょっと、しっぱいしちゃった……」

「失敗? どこが……?」

「えっとね、ここ……」


 少しだけ恥ずかしそうにレティちゃんが指し示したのは、欠けてしまった土人形の髪と洋服の裾部分。こんなの失敗のうちに入らないと思うんだけど……?


「レティちゃん? 初めてでここまで出来るなんて、凄い事なのよ……?」

「ほんと? じゃあ、れんしゅうしたら、おばぁちゃんみたいなまほう、つかえるようになる?」


 目をキラキラさせながら私を見上げるレティちゃん。

 ……もう転移魔法が使えている時点で十分凄いんだけど。


「そうねぇ……。何度か練習したら、私の魔法、すぐに超えちゃうんじゃないかしら……?」

「えぇ~? ()()……、こえられるかなぁ……?」


 レティちゃんの見つめる先には、私がお手本で出したゴーレムが一体。いつの間にかその肩に小鳥とセバスチャンが……。

 サンプソンよりも少し大きいくらいだけど、レティちゃんもハルトちゃんもカッコいいと興奮していて大変だった。

 やっぱり子供が興味を持つのは大きいものなのね……。不真面目な生徒がどうしたら興味を示すか講師時代に悩んだけど、コレを見てから言う事を聞かない生徒も真面目になった覚えがあるし。


「土人形は出せたから、今度はそれを動かす練習なんだけど……。でも、これはもう少し後にしましょうか」

「はーい! せんせい、つぎは?」

「ふふ! その響き、久し振りだわ! そうね、次は~……」


 魔法を教える楽しさなんて久々だと浮かれてしまい、まさかこの庭が大変な事になるなんてこの時の私は考えもしなかった。

 まぁ、ノアちゃん達のおかげで元には戻せたんだけど……。


 それはまた、別のお話ね!



いつも小説を読んで頂き、ありがとうございます。

ブックマークに評価、感想も頂けてとても励みになっております!

更新頻度は思う様にいかず申し訳ないのですが……(泣)

これからもどうぞ、よろしくお願い致します。

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