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306 お買い物


「皆、はぐれない様にちゃんとおじいちゃんとユイトくんについて行くのよ~?」

「「「は~い!」」」


 アレクさん達と別れ、僕たちは当初の予定通り食材を買いに。オリビアさんは、メフィストがウトウトと眠そうだからと馬車で待つ事になった。 


「ボクも一緒に残ってますね」

「あら、ユランくんも見て来ていいのよ?」

「この子もいますし、ちょっと心配で」

「あら、じゃあ私のお喋りに付き合ってもらおうかしら」

「喜んで」


 ユランくんはオリビアさんと一緒に馬車で待っていてくれるらしい。お店のすぐ近くに停めてるけど、ちょっと心配だったからユランくんが残ってくれると聞いて安心した。


「甘い野菜も買ってくるからね!」

《 あぁ。楽しみだ 》


 サンプソンの鼻先を撫で、鞄の中にある財布を確認。買い物籠も持ったし準備万端。


「じゃあ、行ってきます!」

「は~い! 気を付けてね!」


 オリビアさんとユランくんに見送られ、僕たちは食料を買いに賑わう店通りへと向かった。






*****


「おにぃちゃん、これ、なんですか?」

「ん? どれ?」


 木箱と籠に入れられた、色とりどりの野菜と果物がズラリと陳列された青果店の前。僕とレティちゃんと手を繋ぎながら、ハルトが興味を示したもの。


「わぁ……。これ何だろう……?」

「さんかく、いっぱいです……」

「すごいかたち……」


 ハルトが興味を示したのは、薄緑色をした珊瑚礁みたいな野菜……。村のジョージさんのお店には無かった気がする。

 トーマスさんに訊こうと思い振り返ると、ユウマと一緒に他の野菜をニコニコしながら眺めていた。この木箱には値段しか書いてないしなぁ……。


「あら、いらっしゃい! お兄さん達、それを見るのは初めて?」


 僕たちが三人でジ~ッと眺めていたのが面白かったのか、接客をしていたお店の人が声を掛けてくれた。人好きしそうな笑顔を浮かべ、こちらに近付いてくる。


「こんにちは。これ初めて見たんですけど、なんて言う野菜ですか?」


 本当は“鑑定(メモ)”を使えば名前も分かるんだけど、あんまり人前では使わない様にしてる。それに、お店の人の方が色々知ってるからね。


「これ? これは“ロマネスコ”ていう名前で、カリフラワー(ブルンメンコール)の仲間なのよ。冬野菜なんだけど、最近収穫しだしたの。サラダとかシチューに入れたりすると美味しいわね」

「へぇ~! そうなんだ……」


 それならパスタやピザに使っても美味しそうだな……。

 それにサンプソンたちのご飯も買いたいし……。


「これ三つ頂きたいんですけど、もう少し他のも見ていいですか?」

「大丈夫よ~! でも三つは多くない?」


 どうやら食べ切れるか心配してくれている様だ。確かに、少し大きいけど……。


「あ、今日はたくさんお客さんが来る予定なんです。だからすぐ食べ切っちゃうかな……」

「あら、そんなに? 楽しそうね! 私は奥にいるから、ゆっくり見ていってちょうだいね!」

「ありがとうございます! ……あ! そうだ」

「あら、どうかしたの?」


 肝心な事を訊くのを忘れていた……。


「あの、マイスってもう置いてないですか……?」

「マイス?」


 ユウマとドラゴンの大好きな“とうもろこし(マイス)”……。

 残念ながらネヴィルさんの商会には置いてなかった。街に行けばあるかもと教えてもらったけど、収穫時期も終わっているから難しいとも言っていた。


「もう旬が終わっちゃったからねぇ……。ウチでは扱ってないねぇ。ごめんなさいね……」

「あ、いえいえ! 弟の好物なんで訊いてみただけなんです! ありがとうございます」


 そっかぁ、やっぱり置いてないかぁ……。

 トーマスさんと楽しそうにミニトマトらしきものを見ているユウマには申し訳ないけど、トーマスさんの魔法鞄(マジックバッグ)にあるのを少しずつ使うしかないか……。


「ん~……。この道沿いに製粉店があるんだけどね? そこならマイスを挽いた粉も扱ってるんじゃないかしら……」

「粉ですか?」

「えぇ。野菜の方はもうウチの店には無いけど、粉ならどうかと思って……。あ、あと向こうの通りにも青果店はあるから。もしかしたら置いてるかも……? ちょっと確証はないんだけど……」

「ありがとうございます! そのマイスの粉も気になるので、後で覗いてみます!」

「そう? よかった! じゃあまた声掛けてちょうだいね」

「はい!」


 そうか、マイスの粉もあるのか……!

 なら、それを使って他の料理も作れるかな……?


「にぃに~! これみてぇ~!」

「ん~? どうしたの?」


 どれを買おうか野菜を見ていると、ユウマがトーマスさんに抱えられ楽しそうに指差す先。


「あ! 栗だ!」


 ユウマが楽しそうに見ていたのは、籠に入れられたイガイガの付いた大粒の栗。その下にはイガから取り出された丸くてツヤツヤの栗がたくさん入っている木箱とスコップ。


「おにぃちゃん、これ、おいしいですか?」

「うん! 甘くてホクホクして美味しいよ」

「かたそう……」

「皮は硬いけど、中は柔らかくてお菓子にも使えるんだよ」

「そうなんだ……!」


 そう言えばハルトは皮を剥いたのしか食べた事ないな……。レティちゃんも初めて見るみたいだし、これも買おうかな。


「トーマスさん、これも買っていいですか?」

「あぁ、オレも久し振りに食べたいな。(マロン)の皮を剥くのは手伝うからいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます!」


 スコップで掬って量り売り……。う~ん、どうしよう……。皆、好きそうだしなぁ~。お菓子にも使えるし、多めに買っとこうかな!


「すみませ~ん! これもくださ~い!」

「はいは~い」


 お店の人にスコップ十杯分を袋に詰めてもらうと、いっぱい食べるのねぇと驚かれてしまった。

 マロンの他にも、ずっしりと重たい白菜(コール)や外葉のついたキャベツ(キャベジ)

 表面にハリのある葉付きの大根(ホワイトラディッシュ)と、色の濃い人参(カロッテ)にヘタの部分が乾燥している南瓜(キュルビス)

 丸みのある里芋(ターロウ)にふっくらした表面が滑らかなじゃが芋(パタータ)と、色んな野菜を大量に購入。

 お会計の時に満面の笑みでお礼を言われ、オマケだと果物もたくさん貰ってしまった。



「おばぁちゃ~ん! いっぱい、かいました!」

「くだもの、おまけしてくれたの!」

「あら、本当? 嬉しいわね~!」


 大量に購入した野菜を見て、ユランくんはうわぁ~……、と小さな声で驚いている。一度では運べなかったから、青果店と馬車をトーマスさんとユランくんの三人で三往復。

 ハルトたちは待ってる間、お店の人に貰った葡萄(トラウベ)を食べてご機嫌だ。


「ふぅ~、これで全部ですね!」

「お野菜だけでこれだけの量だものねぇ~」

「今日はマイルズ達も来るしな」


 そう! 今夜はアレクさんのパーティの皆さんが夕食を食べにやって来る!

 リーダーのマイルズさんは挨拶位だし、あの坊主の男の人ともちゃんと喋った事無いんだよなぁ~。トーマスさんもオリビアさんも優しい子だって言ってたけど。



 今度は馬車を走らせ、青果店の人が言っていた製粉店へ。その近くまで着いたら馬車を停め、オリビアさんとユランくんに留守番を任せて皆でお店へと向かった。


「トーマスさん、先に肉屋さんにも行っていいですか?」

「肉? 肉ならアレク達が持って来てくれるんじゃなかったか……?」


 アレクさん達のパーティとブレンダさんがお肉を持参してくれるんだけど、今夜はアレもいっぱい出したいんだよなぁ。一応、トーマスさんの魔法鞄の中に残ってはいるんだけど、あのメンバーだったら足りないかも知れないし。


「いえ、焼き肉も出来たらなぁと思って」

「焼き肉? ……あぁ、あれか。でもこの時間帯はもう捨ててるんじゃないか?」

「あ、そっか……!」


 エリザさんのお店には予めお願いしてるけど、王都ではもう捌いて廃棄しちゃってるかも……。


「先に一人で見て来ていいですか?」

「あぁ。じゃあハルト達と先に行ってるぞ?」

「はい! お願いします!」


 さっき馬車で見かけた肉屋さん。お店も大きかったし、見た事ない種類の肉もあるかなぁ? そんな事を考えながら、僕は肉屋さんに向かって軽く走る。


「ユイトは足が速いなぁ」

「にぃに、どこ~?」

「もう、みえません……!」

「ぶつからないね」

「なかなかやるなぁ……」






*****


「あ、ここだ」


 僕の目の前には、お肉の塊がズラリと並んだショーケース。前にいたお客さんも丁度買い終わったところで、今お店の前にいるのは僕一人だけ。

 あるかなぁ? あると嬉しいんだけど……。


「こんにちは!」

「はい! いらっしゃいま……」

「「あっ!」」


 顔を見合わせた途端、僕とお店の人は同時に声を上げた。


「お兄さんのお店、ここだったんですね!」

「いや、偶然ですね! 先日はたくさん買ってもらって、ありがとうございました!」


 お店にいたのは、王都に着いた初日に朝市の屋台でソーセージを売ってもらったお兄さん。今日もニコニコして話しかけやすいな……。これは単刀直入に訊いてしまおう。


「あの、このお店に牛とか豚の内臓って置いてますか?」

「な、いぞう……、ですか?」

「はい!」


 僕のいきなりの質問に、お兄さんは呆気に取られているみたい。普通は廃棄するって言ってたし、もう捨てちゃってるかも……。


「え~と、それは魔物じゃなくて家畜用のですか?」

「はい、そうです!」

「……内臓は早朝に捌いた分はもうないですけど、昼過ぎに捌いた分ならまだ冷蔵庫に……」

「本当ですか!? それ売ってほしいんですけど……!」

「えぇ……?」


 やっぱりダメかな~? お兄さんの困った表情に、僕は若干諦めモード……。


「ん~、結構量があるんですけど、全部要ります?」

「えっ!? いいんですか!?」

「はい……、どうせ廃棄としてスライムに分解してもらうだけなんで……」


 あぁ~、やっぱりどこでもスライムでゴミを食べてもらうんだ……。


「急ぎますか?」

「あ、この先の製粉店に行くので、その後に取りに来てもいいですか?」

「大丈夫ですよ。その間にキレイに洗っときますね」

「ありがとうございます!」


 頭を深々と下げてお店を後にする。

 あぁ~! よかった! まさかまだ残ってるなんて、すっごくラッキー!

 お兄さんも驚いてたけど準備してくれるみたいだし、追加でソーセージも買おっと! ……あ、そうだ! 鶏のも残ってたら欲しいってお願いしよ。もう一回戻らなきゃ。





「あれ? デニス、さっきお客さんいなかった? ……って、何で内臓なんか出してるんだ……?」

「あぁ、この前ソーセージを三十本買ってくれたお客さんがさ、内臓があったら欲しいって」

「おぉ~! あのアレクの恋人って噂の? でも内臓か……。何に使うんだろ……」

「ニコニコしてて可愛らしい子だったよ」

「へぇ~? 何か妬けるんだけど?」

「ハハ! 浮気なんかするわけないだろ?」

「だよな? 新婚早々、心配したよ」


「うわっ!」


「「えっ!?」」


 急いでお店に戻ると、さっきのお兄さんが違うお兄さんとキスをしていた……。お二人ともポカンとしてるし……! き、気まずい……!


「あの、えっと……。と、鳥の、内臓もあったら……、一緒にお願いしますっ! 失礼しましたっ!」

「あ、ちょ……」

「お客さ……」


 ペコっと頭を下げて、慌てて店を出る。


 わぁ~! イドリスさんとコンラッドさん以外にもいたんだ……! しかもキスしてたし……! すっごく幸せそうだった……。

 もしかして、あの時のアレクさんと僕も、あんな風に見えてたのかな……?



( うわぁあああ~~~っっっ! )



 叫びだしたい気持ちを抑えて、僕は猛ダッシュでトーマスさん達の元へと走った。






「え、き、気まずい……」

「ごめん……。あ、お詫びに何かサービスしとく?」

「うん……。次はベルクも一緒に対応してよ……」

「う、うん……」



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