表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/398

259 楽しい予定


「「「ただいま~!」」」


 お店の入り口を開けて中に入ると、僕たちと入れ替わりになる様に、作業服の様な服を着た知らない人が数人、会釈しながら出ていった。


「あ、皆おかえりなさい!」

「あの、オリビアさん、いまの……」

「おはようございまーす!」

「あ、ダニエルくん、おはよう!」


 僕の言葉を遮る様に、元気よく入って来たのはダニエルくんだ。


「おはよう! わ! 荷物の量、スゴイね……? レティちゃん、ハルトくん、貸して? ここに置けばいい?」

「だにえるくん、ありがとう!」

「ありがとう、ございます!」

「いいよ~!」


 ダニエルくんは二人の荷物を見ると、カウンターテーブルに置いてくれる。今日もたくさん配達してくれているので、僕とハルトも手伝い、納品分を全てお店の中へと運ぶ。


「すっごい量だからビックリしちゃったよ! あとこれ、父さんからユイトくんにって!」

「ハワードさんから? 何だろう?」


 ダニエルくんから手渡された容器を開けると、中には真っ白なチーズと、淡いクリーム色のチーズが入っていた。


「あ、これって前に言ってた新商品?」

「そうそう! この真っ白なのがマスカルポーネで、クリーム色のがクリームチーズ! トーマスさん達にはこないだ食べてもらった!」

「えっ! 訊いてない!」


 そんな大事な事を! と、思ったけど、確かサンプソンの事で頭になかったんだろうな……。

 ハルトとレティちゃんも、二人で顔を見合わせて、しまった! という表情を浮かべてる。

 二人とも美味しかったの~? と頬をうりうり両手で挟むと、とっても! と満面の笑みで答えてくれた。

 ちなみに、クラッカーにトッピングしてジャムと合わせたり、トマトやハムとかもあったんだって。いいなぁ~……!


「またユイトくんたちが王都から帰ってきたら、ちゃんと渡すって。使えそうだったらいいんだけど」

「ありがとう! 僕も色々考えてみるよ」

「分かった! 父さんに伝えとく!」


 お礼を伝え、ダニエルくんが店を出ると同時に、今度はローレンス商会から注文していたお米や粉類がたくさん届いた。

 いつも運んでくれるお兄さんも、この量には苦笑いしながらお店の中へと運んでくれる。

 昨日おばあさんの薬屋さんで買ったチョコレートとカカオバターを少しだけ渡し、クリスさんへ渡してとお願いする。もう知っているかもしれないけど、一応ね。

 それにしても……。

 

「あらあら……」

「にもつ、いっぱいです……」

「これ、はいる……?」

「う~ん……。頼み過ぎたかな!」


 お店の一角には、僕が注文したお米が山盛りに積まれている。だって、護衛にブレンダさんとドリューさんたちがいるんだよ? 絶対足りないと思って……!

 だけど、この量を見たら不安になってきた……。ほんのちょっとだけね。






*****


「「「ありがとうございました(まちた)!」」」


 九時課の鐘が鳴り、ハルトたちと最後のお客様を皆でお見送りし、ようやく閉店。


「お、終わった……」

「つかれた……」


 看板を店内に入れ、僕とオリビアさんはテーブルで突っ伏する。


「おばぁちゃん、だいじょうぶ?」

「おにぃちゃん、おつかれさま……」 

《 おつかれさま~! 》

《 いっぱいきてたねぇ~! 》


 ノアたちも姿を現し、皆でお疲れ様と労ってくれる。

 今日で暫く間お店が休業だと知り、近所の人はもちろん、メイソンさんのお弟子さん、冒険者の人達がたくさん食べに来てくれた。

 途中からトーマスさんとハルトたちが手伝ってくれたけど、それでも常に満席で、僕とオリビアさんはひたすら調理をしていた気がする。


「ばぁば~! にぃに~! これ、どぅじょ!」

「あら、なぁに?」

「いい匂い~」


 ユウマが持って来てくれたのは、以前トーマスさんが作ってくれた蜂蜜入りのホットリモーネ。

 僕たちが突っ伏している間に、トーマスさんと一緒に用意してくれたみたい。


「ありがとう、ユウマちゃん。皆も朝からいっぱいお手伝いしてくれて、疲れてるのに……」

「ユウマ、ありがとう。飲んでもいい?」

「うん!」


 トーマスさんがハルトとレティちゃんの分も運んで来てくれて、皆で一緒に少しだけ休憩。


「ハァ~。とっても美味しい……!」

「あったまる……」


 レモン(リモーネ)の爽やかな香りに、蜂蜜のまろやかな甘さが疲れた体に沁み渡る。


「ばぁば、にぃに、げんきでたぁ?」

「「でた~!」」

「よかったぁ~! ゆぅくん、うれち!」


 ユウマの笑顔にオリビアさんと二人で癒されつつ、皆で王都での予定を話し合う。ハルトとユウマはワクワクしっ放し。レティちゃんも、ずっとソワソワしている。

 メフィストだけは、トーマスさんに抱えられて粉ミルクを勢いよく飲んでいるんだけど。そろそろ離乳食も二回に増やした方がいいかもな。


「えっと、まずは……。ハルトちゃんとユウマちゃんは、まだ未定だけど、ライアン殿下と遊ぶのよね?」

「そうです! らいあんくんと、あそびます!」

「たのちみ!」

「ふふ、いっぱい遊べるといいわね!」

「「うん!」」


 オリビアさんは紙にサラサラと予定を書き込んでいく。


「レティちゃんはお世話になった人達に会うんだものね?」

「うん! おてがみ、かいたの! たのしみ……!」

「ふふ、早く会ってお話したいわね?」

「うん!」


 レティちゃんは同じ魔族の人達に会うのを楽しみにしている。奴隷としての記憶は消えないかも知れないけど、その人達がいたおかげで、レティちゃんは支えられていたのかもしれない。


「トーマスさんとオリビアさんは?」

「もし良ければ、皆で母さんと兄さんの墓参りに行きたいんだが……」


 初めて聞いた、トーマスさんの家族の話。

 オリビアさんは優しい目でトーマスさんを見つめている。


「王都にあるんですか?」

「あぁ、中心からは離れているがな。いいかな?」

「はい! なら、行く途中でお花も買わないとですね!」

「そうだな、ありがとう」


 ホッとした様に笑うトーマスさん。

 もしかしたらずっと、一緒に行きたかったのかな……?


「他のオレの個人的な用事は、すぐ終わるからな……。あとはバージル陛下の相手くらいか?」

「そうねぇ……。私もこれと言って無いのよねぇ……。それより皆の服を買いに行きたいわね」

「じゃあ、バージルさんの相手と、買い物ですね?」

「そうねぇ~!」


 そう言ってオリビアさんは、サラサラと予定に書き加えた。


「ハハ! 本当に書いたな!」

「この紙は誰にも見せれないわねぇ~! ユイトくんは……。これは自分で書いてもらった方が早いわね?」

「えへへ……。すみません……」


 オリビアさんに紙を渡され、そこに自分の予定を書き込んでいく。

 まずは……。


「忘れちゃいけないのが、お城で料理教室ですよね……。騎士団寮でご飯を作るのと、孤児院でお米の炊き方を教えて……。あと、ローレンス商会でネヴィルさんに食材を見せてもらって……。あ、あのネックレスを買ったお姉さんのお店にもお礼に行きたいです。ノアたちの食器もあるか探したいなぁ~。それと、レティちゃんと一緒に、美味しいもの探しに行くもんね?」

「うん! たのしみ!」

「ぼくも、いきたいです!」

「ゆぅくんも~!」

「あ~ぃ!」

「ハハハ! 結局皆で行くんだな?」

「そうね、私も行きたいわ!」

「じゃあ、皆で美味しいもの探し……、っと!」


 そう紙に書き加えていると、オリビアさんの視線を感じた。


「ねぇ、ユイトくん? 肝心なデートの予定は加えなくていいの?」

「へ?」


 急に言われ、思わず固まってしまう。


「わざわざ王都に行くのよ? 手紙も出したんでしょう? 時間が合えば、二人でお出掛けしてきたら? ねぇ?」

「そうです! おにぃちゃん、でーと!」

「でぇと~?」

「好きな人と二人で、お出掛けする事よ~?」

「しょうなの~? じゃあ、にぃに、でぇともね!」

《 じゃあ、ぼくもついてっちゃだめなの? 》

「そうね、二人っきりにしてあげたいわ」

《 う~ん……。さみしいけど、わかった! 》

「うふふ! ノアちゃんはいい子ね? 楽しみだわ!」


 固まる僕を置き去りに、オリビアさん達は楽しそうにお喋りをして盛り上がっている。


「おにぃちゃん、おかお、まっか……」

「あ~ぅ……」

「ほら、そっとしておいてやろう……」

「うん……」

「あぅ~……」


 トーマスさん、レティちゃん、こそこそ話してるけど、全部聞こえてます……。

 認めてもらえたのは嬉しいけど、居た堪れない気持ちになるのはなぜだろう……?


「ぼ、僕……! 買い物行ってきます!」

「え? もう行くの?」

「はい!」 


 そして僕は、そこから逃げる様に買い物に走った。

 だって、だって……!


 僕も、誰かに惚気るくらいにならないとダメなのかもしれない……!

 でも、やっぱり恥ずかしい……っ!



 照れるのを誤魔化そうと思いっきり走ったせいなのか、店通りに入った途端、ジョージさん達に足が速いと感心されてしまった。

 何かに遅れそうなときは、今日の事を思い出そうかな……?

 いや……、恥ずかしいから、やっぱり止めておこう……。


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

もうすぐ王都編に入る予定ですので、楽しんで頂ける様に頑張りたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ