244 穏やかな声
今年最後の更新、何とか間に合いました……。
「おはよう、マイヤー。朝から元気だな」
「アハハ! 元気がボクの取り柄なんで!」
マイヤーは御者席から降り、こちらへ駆け寄ってくる。
相変わらず笑顔が眩しい。
「「「おはようございます!」」」
「あ~ぃ!」
子供たちもマイヤーに元気よく挨拶している。ちゃんと出来て偉いな。
マイヤーも満面の笑みでおはよう! と一人一人、頭を撫でている。
「トーマスさん、こんな所でどうしたんですか? 珍しいですね?」
ユウマを抱え、マイヤーが尋ねてくる。確かに、この先には牧場しかないからな。
「いや、今度サンプソンたちを借りる事になったからな。ハルトがその礼に行きたいと」
「さんぷそん、いっしょ! うれしいです!」
「ゆぅくんも!」
「そうか! サンプソンたちも喜ぶよ! トーマスさん、牧場に行くならそのまま乗っていってください! あ、ちょっと荷物はありますけど……」
「いいのか? こちらは有り難いが……」
「はい! 是非!」
ハルトとレティの手には、先程ジョージの店で買った野菜が。買った大半はオレが持っているが、子供の小さな手には重いだろう。正直助かったと、ホッと安堵の息を漏らす。
マイヤーの厚意に甘え、子供たちと一緒に荷馬車の荷台に乗せてもらう事にした。ハルトたちも楽しそうだ。
「ゆぅくんは、こっちです!」
「ゆれるとあぶないから……」
「ん! ありぁと!」
どうやらハルトとレティは、ユウマが危なくない様に自分たちの間に座らせる様だ。オレはメフィストを抱え、ハルトの隣へ腰掛ける。
「では、出発しますね!」
「「「は~い!」」」
「あぃ~!」
配達帰りだったのだろう。荷台には回収した空の牛乳瓶が木枠の中に大量に積まれている。ウチの店にも配達してくれているが、やはりこうして見ると有難いものだな。
「あぅ! たぁ~!」
「ん? どうした、メフィスト?」
「あ~ぅ!」
はしゃぐメフィストの視線の先には、牧場で放し飼いにされている馬たちの姿が。知らぬ間に牧場の敷地内に入っていた様だ。
「お馬さんだ。綺麗だな?」
「あ~ぃ!」
馬たちの楽しそうに走る姿は美しい。メフィストもゆっくりと流れる景色がお気に召したのか、ご機嫌な様子で眺めている。
「そうだ! トーマスさん、今日の昼食は家に帰って食べるんですか?」
「いや、今日は外で食べようと思ってな」
「ならウチで食べていきません? 新しい商品を作ってるんですよ!」
「ぼく、たべたいです!」
「わたしも!」
「ゆぅくんも~!」
「こらこら。でもなぁ……、いきなり行っても迷惑じゃないか?」
礼をするだけの予定だったから、あまり長居してもな……。あちらの都合もあるだろうし……。
「いえいえ! ばぁちゃんもじぃちゃんも喜びますよ! 今度二人で食べに行くって言ってましたから!」
「そうなのか?」
「はい! ハルトくんたちが接客してくれたってばぁちゃんが自慢して、じぃちゃんがすっごく羨ましがってました」
「ハハハ! そうか! それならオリビアたちにも伝えておくよ」
「是非お願いします!」
どうやら子供たちの可愛い店員姿は好評の様だ。それを聞いて、オレまで自慢したくなってしまう。
暫く荷台で揺られていると、牧場の入り口が見えて来た。門の近くで数人、作業をしているのが遠目で確認出来る。
「お~~~い! ただいま~~~!」
そしてマイヤーの元気な声に気付き、慌てた様子で駆け寄って来たのは……、
「トーマスさんじゃないか! 子供たちまで?」
ハワードは荷台に乗ったオレたちに目を丸くして驚いている。
「あぁ、ハルトが礼をしたいと言っていてな」
「礼……? 何の……?」
はて? と首を傾げながらも子供たちの手を取り、荷台からそっと降ろしている。ハワードは優しい男だ。マイヤーも父親のこういう優しい所が似たんだな。
「はわーどさん、さんぷそんといっしょ、うれしいです! ありがとう、ございます!」
「ゆぅくんもうれちぃ! ありぁと、ごじゃぃましゅ!」
「ありがとうございます!」
「あ~ぅ!」
子供たちがぺこりと腰を折り礼を言うと、ハワードは驚きつつも大層喜んでいた。
「そう言って喜んでもらえると、私たちも嬉しいよ」
「子供たちは皆、サンプソンが好きだからな。そうだ。昨日は会えなかったが、今日は?」
昨日は隣村から依頼を受けて、引越しの手伝いに行っていると聞いた。サンプソンは力持ちで速いから荷運びする際に助かると人気があるらしい。
「あぁ、それなら……」
ハワードが後ろを振り返ると、建物の奥からのっしりと大きくて真っ黒な影が……。
「あっ! さんぷそんです!」
「しゃんぷしょん!」
「やっぱり、おっきい……」
「きゃ~ぃ!」
そしてこちらに向かって弾む様に巨体を揺らしながら駆け寄ってくる。心なしか、地面が揺れている気がするんだが……? メフィストも小さな声であっ? うっ? と言っているのが聞こえてくる。
子供たちの傍に近付き、鼻先で挨拶するサンプソン。真っ黒で艶やかな毛色に、とても魔物を踏み抜いていたとは思えない穏やかで優しい目をしている。子供たちも擽ったいのか、きゃあきゃあと声を上げ楽しそうだ。
《 また会えた。嬉しい 》
「「「「え」」」」
急に響いた穏やかな声に、オレも子供たちも固まってしまう。
そんなオレたちを見て、ハワードもマイヤーも首を傾げている。
《 今日は妖精も一緒か? たくさんいる気配がする 》
それに、姿を消している筈の妖精たちの存在も知っている……。
「おはなし、してます……」
「しゅごぃねぇ……」
「こえ、やさしい……」
「あぅ~」
子供たちは小声で呟いているが、オレはバレないかと内心ハラハラしていた。
「ん? トーマスさん、ハルトくんたちはどうしたんだい?」
「いや……、久し振りに会えて嬉しいんだろう……」
あまりの出来事に思考が停止してしまったが、このスキルは知られない方がいい。念の為、な……。まぁ、知られるのも時間の問題かもしれないが……。
《 今日は遊んでいくのか? 》
「はい! さんぷそんと、あそびます!」
「ゆぅくんも~!」
「あ~ぃ!」
《 そうか、楽しみだ。あ、フィリップとマイヤーがソリを作ってたな。今日はそれで遊ぼう 》
「そり? たのしいですか?」
《 あぁ。ハルトたちを乗せて、私が引っ張って歩くんだ 》
「ゆぅくん、しょりであしょぶ~!」
「ぼくも!」
「あぃ~!」
低く嘶くサンプソン。そしてその直後、いきなりサンプソンの首に抱き着いたハルトとユウマを見て、オレもレティも頭を抱えた。
「ソリ……? 何故ハルトくんとユウマくんが知って……? マイヤーが教えたのか?」
「いや、ボクは何も……。倉庫にあるから見えない筈だけど……」
これはもうバレてしまったのも同然だ……。ハワードとマイヤーにどう説明しようか……。ユイト、オリビア、助けてくれ……。
オレの頭の中は、それでいっぱいだった。
今年は初めて小説という物を書き始め、そしてたくさんの方に見て頂き、本当に心に残る一年になりました。これからももっと楽しんで頂けるお話作りを目標に、たくさん更新出来るように頑張ります!
まだまだ大変な時期ではありますが、皆様もどうぞ、ご自愛くださいませ。
2021年も、よろしくお願い致します。




