225 初めてのお喋り
「ん……。あれ……? ここ、教会……?」
目を開けると、そこは女神様に会う前と何ら変わりのない教会の中だった。
そうだ、確認しなきゃ……!
他にも礼拝している人はいるけど、幸い僕の近くには誰もいない。
何度も近くに人がいないのを確認し、僕は誰にも聞こえない様に、小声で傍にいるであろうノアを呼んだ。
すると、太ももに乗せていた僕の左手にしがみ付く様に、ノアが姿を現す。
《 ゆいと……? ぼくのこえ、きこえる……? 》
幼さの残る、とても可愛らしいあどけない声。
不安そうに僕を見上げる瞳は、ウルウルと今にも泣きだしそうだ。
そうか。ノアはこんなに可愛い声をしてたんだ。
「うん。ちゃんと聞こえてるよ。ノア、やっと話せたね?」
右手の人差し指でノアの頭を優しく撫でると、不安そうな表情から一変。僕の左手にぎゅうっと抱き着き、嬉しそうに笑みを浮かべる。
《 ぼく、ゆいととおはなしできて、うれしぃ……! 》
「僕もだよ。これからもよろしくね? ノア」
《 うん! 》
にこにこと嬉しさを隠し切れない様子のノアに、僕も自然と笑顔になっていた。
*****
《 それでね? ゆいとにも、ぼくのまりょくながしたの! 》
「そうだったの? 僕、何ともなかったんだけど……」
《 うん! まりょくながれちゃうから、とーますにいっぱいながしたんだ! 》
「あぁ~……、だからかぁ~……!」
教会を出て少し離れた場所で、ノアと小声で会話を楽しむ。
ノアの話を聞いて、以前にトーマスさんが魔力酔いになった時の事を思い出し苦笑い。僕の体には魔力が溜まらなかったと聞いて、更に納得。
ノアは、ぼくがんばったのに~、と言っているが、ずっと嬉しそうな表情を浮かべたままだ。
他にも、フェアリー・リングの森で他の妖精さんたちと僕の作ったお菓子を食べた事。
森の中の魔法陣探しを皆で手伝った事。
梟さんが自分の形をしたクッキーを魔法で保存している事。
ノアは楽しそうに、いろんな事を話してくれた。
すると、突然ノアが姿を消す。急な事に驚いていると、
「おにぃちゃん、どうしたの?」
声の方に慌てて振り向くと、僕に話し掛けてくる小さな女の子が。
多分ハルトと同じくらいかな? クルクルした巻き毛がとっても可愛らしい。
ノアとは小声で会話してたし、聞かれてないよね?
「あ、こんにちは! 教会にお祈りに来たんだけど、ちょっと休憩してたんだ」
怪しまれない様に、なるべく笑顔で返事をする。だって、休憩してたのは本当の事だもんね。まぁ、傍から見れば、僕が独り言をブツブツ言っている様にしか見えないかもしれないけど……。
「君はここの教会の子かな?」
僕が話し掛けると、うん、と頷いてとことこと僕の傍に寄ってくる。そして座っていた僕の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。
「どうしたの?」
「あのね、あっちにね、おいもいっぱいあるの~」
「お芋?」
「うん!」
いっしょにいこ! と満面の笑みで誘われ、手を引かれるままについて行くと、そこはどうやら孤児院の裏手にある畑。
そこには、首に掛けたタオルで汗を拭きながら畑の収穫作業をしている男性が。
先程教会の中へ案内してくれた男性とはまた別の男性の様だ。
「せんせぇ~!」
「……ん? あ、アリス! ま~たウロウロして!」
「ごめんなさぁ~い」
男性は女の子に手を引かれた僕を見て、一瞬ビクッとするが、すぐに笑顔に。
「こんにちは。私はジェフリー。ここの牧師をしている。君の名前は?」
笑顔で自己紹介してくれているけど、この子に手を引かれて来てるし、もしかしたら怪しまれているかも……!
「あ、こんにちは! 僕はユイトです。今日は初めてお祈りに来て……。そしたらこの子がお芋がいっぱいあるって……」
「おにぃちゃんね、きゅうけいしてたの~」
あそんでもらうの~! と、どうやら僕はいつの間にか、このアリスちゃんという女の子の遊び相手になっていたらしい。
するとジェフリーさんは僕に向かってすまないね、と肩を竦めて苦笑い。
聞いてみると、アリスちゃんはよくお祈りに来た人たちに遊んでもらうみたい。
人懐っこい笑顔で、礼拝に来た人たちにも人気の様だ。
「せっかくだし、食べていくかい? さつまいも」
今から食べるのは前に採った分なんだけど、と申し訳なさそうに言うが、ジェフリーさんが持つスイートパタータは、お店で見るのとは少し違い、皮の色が濃い様な……?
もしかして、品種が違う……?
「是非!!」
「あ、あぁ……!」
ジェフリーさんが食い気味に返事をした僕に若干引いている様な気もするけど……。
これは確認しないと損だよね?
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