153 ヘルシーハンバーグ
騒がしかったステラさんも帰宅し、気付けばいつの間にか閉店時間。
営業終了後、お店で皆のおやつの準備をしていると、お昼寝を終えたハルトがトコトコとやって来た。
「おにぃちゃん、きょうはおやつ、なぁに?」
「ん~? 今日はねぇ、暑いからアイスクリームだよ」
「わぁ! やったぁ~! あいす、だいすきです!」
嬉しそうに席に座ると、ソワソワとキッチンの方を覗いている。
「ねぇ、ハルト~?」
「なぁに? おにぃちゃん」
「ちょっとこっち来てくれる?」
「はぁ~い」
キッチンにいる僕の所へ迷わずやって来ると、おてつだい? と訊いてくる。
ハルトとユウマはいっつもお手伝いしてくれるからね。
違うよ、と頭を撫でてしゃがんでみると、ハルトは何だろうと首を傾げている。
「ハルト、お口あ~んして?」
「あ~ん」
ハルトは何の疑問も持たずに、素直に小さな口を開ける。
僕はそこに小さなお菓子を入れてみる。
「はい、どうぞ~」
「ん~!」
「どうかなぁ?」
ハルトの口に入れたのは、一口サイズに焼いたシュー生地に、苺のアイスを詰めたシューアイス。
暑いからピッタリかなと思って作ってみたんだけど。
「ん~! おぃひぃでふ!」
「ふふ、口の中冷たいねぇ」
両手で頬を押さえるハルトは、コクコクと頷いた。
外で稽古を頑張ってるから、皆より一足先に味見だね。
「あぁ~! はるくん、いぃなぁ~!」
すると、扉の陰からユウマがひょっこり顔を覗かせた。
ハルトはアイスが冷たくてまだ飲み込めずにいる。
「あ、見つかっちゃったね」
ハルトもまたコクンと頷いた。
「にぃに、おやちゅなぁにぃ~?」
「今日は冷たいシューアイスだよ。手で食べれるからね」
「はぁ~ぃ!」
「ライアンくんも気に入るといいんだけど」
「ユイトさんのおやつ、いつも楽しみです!」
「本当? よかった! 今日のは冷たいから今の季節にピッタリだよ」
「わぁ! 早く食べたいです! フレッドたちはまだでしょうか……!」
ライアンくんも楽しみにしてくれている様で一安心。
可愛いなぁとついハルトとユウマと同じ様に頭を撫でてしまう。
「あ、ごめんね。つい……」
「……いえ! とっても嬉しいです!」
「そう? フレッドさんに怒られちゃうかもしれないから秘密ね?」
「はい!」
にこにこと笑顔で頷くライアンくんは、ハルトとお喋りしながらユウマと手を繋いで席に着いた。
こうして見ていると、昔から一緒だったみたいに仲が良くてほっこりしてしまう。それはオリビアさんも同じだった様で、キッチンで仕込みをしながらにこにこと微笑んでいた。
「じゃあ、その日は朝から行くんですか?」
「そうなりますね」
皆がシューアイスを食べるのを眺めながら、僕とオリビアさんは仕込みを再開する。そして、二日後に行く予定のハワードさんの牧場への視察について話を聞いた。バージルさんたちはわざわざ、店まで僕たちを迎えに来てくれるらしい。まぁ、ライアンくんがいるから当たり前なんだけど、ちょっと緊張しちゃうなぁ。
「今回はオリビアさんも参加という事でよろしいですか?」
「えぇ、そうね。色々心配だし……」
「おばぁちゃんも、いっしょ! うれしいです!」
「ゆぅくんも! うれちぃ!」
「ふふ、おばあちゃんもよ! 楽しみね?」
「「うん!」」
今度はオリビアさんも一緒なので、ハルトとユウマはウキウキしている。
ライアンくんにもサンプソンを見せてあげたいとはしゃいでいたし、楽しく過ごせるといいなぁ。
それに、護衛にはアレクさんもいるみたいだし……。
ちゃんと謝らないと……。ハァ……、緊張するなぁ……。
*****
「ユイトくん、これは?」
夕食の時間、今回はオリビアさんの為にちょっと特別なメニュー。
見た目は普通のハンバーグなんだけど……。
「これはオリビアさんが太ったって言ってたので、ちょっとヘルシーな材料で作ったハンバーグです」
「え、わざわざ……、私の為に……?」
今回はお肉の材料を、半分蓮根にして作ってみた。
少しだけシャキシャキ感が残るように、全部はすり潰さずちょっと形を残して混ぜてある。
「いきなり量を減らしてもストレスになっちゃうと思うので、それなら痩せやすい食材で作っちゃおうと思って」
「痩せやすいとかあるの……?」
「はい。お通じが良くなるとか、腹持ちがいいとか、そんな食材を中心にしたら満足感があっていいんじゃないかと。まぁ、初めて作ったので、ちょっと心配なんですけど……」
僕がそう言うと、オリビアさんは感激した様に目をウルウルとさせている。
「まさか私の身体の事を考えて作ってくれるなんて……! 嬉しいわ……! 早く食べましょう!」
「ふふ、皆さんにも同じものですけど、物足りなかったら言ってくださいね?」
「いえいえ、そんな! 私たちも興味がありますから!」
「そうですね。肉を減らして腹持ちがいいとなると、遠征の時も使えるかもしれませんし」
フレッドさんとアーロさんは興味深そうにハンバーグを眺めている。
「じゃあ、冷めないうちに食べましょうか。では、いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
オリビアさんとフレッドさんはハンバーグを一口分切り分け、パクリと口に頬張った。
どうかな? 味は大丈夫かな……?
「「ん~!」」
すると、途端に二人は頷き合う。
「「これはいい!」」
「あ、よかった~! ホッとしました」
フレッドさんも美味しいと言ってくれたので、それを聞いてライアンくんも安心して食べ始める。
もぐもぐと嬉しそうに頬張り、それを見るともう一人弟が出来たようで和んでしまう。
「シャキシャキして食感も楽しめるわね!」
「半分がロータスルートだと、費用もかなり抑えられますね……!」
「あ、本当は豆腐やおからがあればよかったんですけど、それはさすがに日持ちしないからゲンナイさんも持って来てないそうで……。それがあればもっとヘルシーでふわふわになったかもしれません」
「とうふ……? って、なぁに?」
オリビアさんもフレッドさんも首を傾げている。
「あ、大豆を使った食材です。二つとも栄養も多くて体にもいいんです。ソーヤは元々“畑のお肉”って言われてるそうですよ」
「“畑の肉”……。気になりますね……。その商人は何と?」
「あ、次の行商市に合わせて日持ちするように乾燥して持って来てくれるそうです。そうすれば日持ちするので便利なんですよ? お湯で浸せば柔らかくなりますし」
「ほぅ……? それはいいですね……。ユイトさん、その食材が手に入ったら、どういう調理方法があるか手紙で教えて頂けますか? あと、どれくらい出荷出来そうかも教えて頂きたい」
「あ、いいですよ! ゲンナイさんに会ったらそれも伝えておきますね!」
「はい、よろしくお願い致します」
あ、カリーのスパイスも使い方によっては野営で使えるって言っておかなくちゃ。慌てて伝えると、フレッドさんもそれも手紙に加えてくださいと真剣に言っている。これくらいなら僕にも出来るし、他の食材や調味料ももっと広まればいいなぁ~! そんな事を考えながら、僕は気分よくハンバーグを食べる。
うん! 我ながら美味しく出来た!
「……ユイトくん、しれっと凄い事してるの気付いてないのかしら……?」
「さぁ……、あの顔はたぶん、そんな事してるなんて頭にもないと思います……」
オリビアさんとアーロさんが心配そうに見ているなんて、ハンバーグを頬張る僕は微塵も気付かず。
ハルトとユウマ、ライアンくんと一緒に美味しいねぇ~、なんてのんびり構えていた。
あぁ~、美味しいって幸せ!




