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第79話 待機の合間

 陽が昇り続けて頂点まであと一時間ほどの頃、風呂から出て良い気分になったフレアリスは夜勤明けも有って寝てしまい、結局スーが稽古の相手をしている。時間が空いて暇になってしまったのも有るが、もう少しここに留まっている必要が有るというのも理由の一つだった。


「魔力が足りないわ。これじゃあ相当強いマナの持ち主じゃないと分からないかも。」

「それでもだいぶ回復はしたんだろ?」


 見た目で言えばエカテリーナくらいなので、魔女にやられた直後と比べればかなり大きい。


「太郎と一緒にこの世界に帰って来た時と比べれば全然違うけど・・・フーリンの所でじっくりマナを吸収できたのは大きかったのよ。」

「俺のマナを渡すことは出来ないの?」

「出来るんだけど、ちょっと違うマナなのよね。」

「どういうこと?」

「ほら、以前グリフォン相手に私にマナを送り込んで魔法を使ったじゃない?」

「うん。」

「あの時感じた太郎のマナは心地の良い物だったけど私のマナとは違ったわ。」

「そうなんだ?」

「なんていうのか・・・神様みたいな感じかな。」

「それは・・・何か問題ありそう。」

「まぁ、普通のマナも感じたけど、何か色々混じっているような気もしたわ。神気魔法を使える理由なのかもしれないけど、私はフーリンみたいな研究には興味なかったから。」

「じゃあ結局使えないって事で良いの?」

「良いと思う。一時的にコントロールは出来たけど、今後は出来なくなるかも?」

「不確定要素かぁ・・・。」


 マナと太郎の会話の間もマギの攻撃を全て受け止めて弾き返しているスーは、全く息を乱していないが、マギの方は相当疲れている。汗がびっしょりで、視界を遮るほどの様だ。


「やっぱり犬獣人なので力が有りますねー。」

「一本調子だけどな。」

「ポチさんも解っているでしょう?」

「あぁ。」


 ポチとスーは何の会話をしているんだろう?

 常に全力で振り下ろしてくる攻撃も弱まってきたところで稽古を終わらせると、マギはその場に座り込んでしまった。息も荒く、視界を遮る汗を腕で拭っている。


「お、お水ありませんか?」


 スッと目の前に水の注がれたカップが用意されると、マギは勢いよく飲み干した。


「ただの水がこんなに美味しいなんて・・・。」

「100%天然太郎水だからね。」


 水を渡したマナがそう言った。


「凄く語弊感しかないぞ、その表現は。」

「そうか、直接マナを貰うんじゃなくて水として飲めば多少は回復するのね。」

「何の事?」

「私のマナの回復よ。」

「あぁ・・・でもその方法だと直接マナを渡すより大量の水が必要なんじゃない?」

「固形物にして貰えれば。」

「それならいい方法が有りますよー。」


 そう言ってスーが袋から取り出したのはスーの手に収まる程度の小さな石だった。


「凄い大きなマナ石ですね。」


 マギが吃驚している。


「これって大きいの?」

「一般的に販売されているマナ石では大きい方ですねー。」

「こんなの袋の中にゴロゴロあるよ?」

「私の価値観が崩壊した遺跡ですねー。」

「こんなんで良いの?」


 太郎が自分の袋から取り出したのは太郎の手より大きいマナ石で、両手で持っている。ちょっと重い。


「それ・・・本物デスカ?」


 驚いているマギを無視して話を進める。


「これをそのままマナ様が取り込んでしまえばいいのではー?」

「確かに効果は有ると思うけど、これって作る事が出来ないんじゃないの?」

「ふふふのふー。」


 スーがニヤニヤしている。


「実はですねー、作り方を覚えたんですよ。素材となる石さえあれば私でもマナ石は作れるんです。」

「作れるってすごい事じゃないですか?!」


 またマギだけが驚いている。


「魔女は素材なしで作れるみたいですけど、それをスズキタ一族の人達がマナを詰める事が出来る石を発見したらしくてですねー、パールという貝から取れる石なんですけど、ここって港町じゃないですかー。」

「あー、売ってたんだ?」

「そうです、そうです。」

「・・・パールって真珠の事で良いんだよね?」

「シンジュ?」


 言語の差が面倒だ。


「いや、気にしないで。」

「太郎さんは未だに変な言葉を使いますねー?」

「まぁ、それは置いといて。」


 ヨッコラショッ。


「パールが有ればいくらでも作れるの?」

「マナが有ればそれだけ作れます。太郎さんなら無尽蔵に作り出せるんじゃないですかね?」

「俺はやり方知らないよ?」

「あのー・・・。」

「どうしました?」

「すごく簡単に作れるような話してますけど、パールって高級品ですよ?」

「いくらぐらい?」

「スーさんの持っているサイズのパールですと、200金でギリギリ買えるかどうか。」

「マナ石って高いの?」

「一般的に流通しているモノなんてありません。値段にしたらいくらするのか・・・ちょっとわかりません。」


 スーが満面の笑顔で言った。


「ですよねー!」

「そんなん差額で儲かるじゃん。」

「そうなんですけど、タロウさんはエカテリーナを買う時に500金出したって言ってたじゃないですか。」

「うん。」

「お金大丈夫なんですか?」


 そのお金を管理しているのはスーなので、俺がスーを見ると自慢の魔法袋から金を取り出した。ゴロゴロドスンドスン。


「これで一部なんですよー。」

「こんなところで出さなくても。」

「これなら一発で理解してもらえるじゃないですかー。それに今は周りに私達以外はいませんし。」


 先程の監視者以外の気配は無いとポチが目で言っている。


「お金持ちだったんですね。私なんかが引き取るよりタロウさんが引き取ってもらえるならその方が幸せかも・・・。」


 マギが視線を向けた先は太郎に抱き付いたまま寝ているエカテリーナだ。それにしてもよく寝る子だ。


「何も心配する事なく寝れるのは幸せだと思うわよ?」

「マナが言うと説得力あるなー。」


 ささっと拾い集めて袋に入れると。スーのニヤニヤが止まらない。


「話が儲け話になってるけど、これをマナがそのまま食べちゃえばいいって事なんでしょ?」

「いいの?」

「問題ないですー。」


 マナが俺の手に乗っているマナ石を・・・口でかっ?!

 ・・・ついでに俺の手までマナの口の中に・・・ちょっとなんで舐めたの?

 手を引っ張り出すと、マナの口の中に全てが収まって・・・消えた。


「・・・どうなの?」


 マナの表情があまり芳しくない。


「これ・・・凄く酷いマナね。一族が持っていて隠していた理由が少し解るわ。」


 マナが悲しい表情に変わる。


「恨み辛みを込めたような・・・凄く気分が悪くなるマナだけど・・・。別に問題は無いわね。」

「なんだよ、心配になるじゃないか。」

「昔はそーゆーマナばっかりだったからね。」

「魔女が作ったという事?」

「多分・・・魔女の作ったモノでしょうね。でも凄い・・・吸収しきれなくて少し漏れちゃった。」


 そういうマナの身体からは目には見えないが異臭とは違って不思議な匂いが漂っている。今は徐々に弱まっているが。


「こんなに簡単に回復できるのならもうちょっと吸収しておこうかな?」

「沢山あるとは言っても今のが一番大きいやつだよ。」

「えー、試すならもう少し小さいモノでして下さいよー。」

「もっと大きいパールを手に入れればいいじゃん。」

「それこそ簡単に言い過ぎですよー。」

「この世界なら俺の顔よりでかいパールぐらいどこかにありそうだけどな。」

「ボスクラムっていうモンスター級の貝が居ますけど、捕まえるのは容易じゃないです。」

「あ、やっぱいるんだ。」

「この辺りの海ではなく貿易国の方にはいるらしいです。フレアリスさんなら詳しいと思いますが。」


 その人は今寝ています。


「そういえば・・・世界樹(マナ)ってそれだけのマナ(魔力)を吸収したんなら、姿も成長するんじゃなかったの?」

「長い間使ってなかった所為でマナのコントロールに多少の問題が有ったけど今はだいぶ戻ってきて、大きくなろうと思えばいつでも。でも小さい方が便利じゃない。それに太郎はこっちのぺッタンコの方が好きなんでしょ?」

「大きいのも好きだけど、そういう話じゃないからね。」

「ジョーダンよ。姿はいつでも変えられるから、男の姿にも成れるのよ。」

「男にも成れるのに何で女の子の姿なの?」

「この姿の方が子供に受けが良かったのもあるんだけど・・・太郎も女の子の方が好きでしょ?」

「そりゃあ、男と女とどっちが好きか問われれば女になるよ。俺が男なんだから。」


 意味不明な会話を聞いているマギがこっそりとスーに質問する。


「これって何の話ですか?」

「正直に言うと私にもわからないですー。」

「そ、そうですか・・・。」

「でも、マナ様が女性以外の姿になったのを見た事が無いので分かりませんけど、姿が変わるのは間違いないですねー。」

「容姿も変わるというと誰かに化けることも可能なんですかね?」


 会話が耳に入ったマナが応じる。


「可能よ。」


 そう言うとマギそっくりの姿に・・・って顔だけかよ。


「うわ・・・同じ顔が二つあると不気味ですー。」

「声も変えられるわよ。」

「私が喋ってる!」

「スーにも成れるわよー。」

「私だっ?!」

「ちょっ、今度は俺の顔?!」


 身体は小さいままなので不気味だ。


「でもやっぱりいつもの姿が良いわね。」


 よかった・・・いつものマナだ。思わず抱きしめてしまった。


「太郎、安心した?」

「頼むから俺の顔だけはヤメテね。」

「え、あ、う、うん。」


 ・・・何となく無駄な時間を過ごしたような気がした。





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