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第71話 美味しい焼き鳥

「はい、あーん。」


 ポチが口を開くと焼き鳥が放り込まれる。恐がっているのに、その鶏肉の美味しさは格別だったのだろう。


「うまい・・・うますぎる。」

「焼ダレの隠し味に蜂蜜が入ってるのよ。」


 それは返答に困ってベンチに座って悩んでいたら、いつの間にかそうなっていた。ウエイトレスの様にトレイに載せて焼き鳥の山を持って来ただけではなく、蜂蜜酒(さけ)も有る。スーは遠慮して食べもしなければ呑みもしなかったが、マナは遠慮なんてしない。


「あんたいいトコあるわね。」


 ご機嫌のマナに呆れる。なんでこうなった。


「良いのよ、どうせお金は払ってもらうから。」

「え?」


 スーの反応は当然だ。


「私さっきの店で働いてるの。」


 ポチは完全に餌付けされていて、彼女は手が汚れるのを気にせずに串を抜いて皿に盛ると、ポチがガツガツと食べ始める。骨が無いから鶏肉食べても良いのか・・・それ以前に犬だけどケルベロスなんだよなあ。


「分かったよ、ちゃんと払うから俺とスーの分も焼き鳥と蜂蜜酒頼むよ。」


 いつもならマナかスーがやっている事を彼女がやっている。皿を舐めているポチの口の周りが汚れているのに気が付いて、布で拭き取ってから店へ入って行った。


「鬼人族ってあんなんなの?」


 マナが蜂蜜酒をごくごくと飲んでいるが、子供じゃないから良いだろうと思う。未成年の飲酒は禁止とか有るのかな?


「自分より強い種族が少ない分、傲慢な人は多いかもしれませんけど、私もあまり鬼人族には詳しくないんです。元々別大陸に住んでいる筈ですし。」

「そういえばあの後なんて言おうとしたの?」


 焼き鳥を食べようかまだ悩んでいるスーがこちらを向いて答える。


「素手で岩を砕くって言われるぐらい強くて、女性でも男性でも自分より強い者としか結婚しないそうです。500年間探しているって言っていたくらいなのであの人は1000年ぐらい生きてるんじゃないですかね?」

「鬼人族って長生きなんだ。」

「マナ様やフーリン様ほどではないですけど、4000年以上は生きているらしいです。多分ですけど、あの人が探しているのはフーリン様の事だと思いますよ。」

「それは俺も思ったけど言わない方がいいよね?」

「ですねー。」


 両手に酒と肉を山盛りにしてやってくる。空いているベンチに載せると、俺の横に座った。


「ちゃんとこの人に鬼人族(わたし)の強さを教えた?」


 睨まれたスーは怯まない。


「お金はちゃんと払いますから仕事だけしてくださいねー。」

「ふぅん。あなたは嫁の躾もちゃんとするべきね。」


 嫁って言われて嬉しそうにしたが、直ぐに引き締め直した。


「ドラゴンに知り合いなんていませんし、私の旦那(太郎さん)は変わり者でもないですよー。」

「でも、そっちの子は知ってそうじゃない?」

「ん゛?あにあに?」


 マナは串ごと焼き鳥を口に放り込んでいる。串は抜いて、ちゃんと噛んで、飲み込んでから喋ろうな。

 

「威圧だけで私を怯ませるなんてただの子供じゃないわ。もしかしてドラゴンの血でもひいてるの?」

「ち?・・・あー、血ね。そんなのないわよ。」


 その返答に怪訝そうな表情で俺を見る。


「き、気にしないで。」

「あんた達ってみんな変なの?」

「そんな事は・・・ないと・・・。」

「あんたパーティリーダーなんでしょ?」

「それはこっち。」

「あんたの嫁が?・・・あー、もしかしてワンゴを捕まえたスーってあんたの事だったの?」

「そんなに有名なの?」

「強い猫獣人が犬獣人を捕獲したって、ギルドで結構な騒ぎになってたし、スーって言えば魔王国では有名な冒険者だったから。でももう引退したって聞いてたけど・・・もしかして、シードラゴンを退治したのあんた達じゃないわよね?」

鬼人族(あなた)ほどの人ならギルドで聞けば教えてくれるんじないですかねー?」

「自称勇者の小娘って話だけど信じられないから。あんた達なら・・・まぁ、そんなに強そうにも見えないのよね。弱そうにも見えないんだけど。1000人を相手に無双したって話なら興味が有るわ。」


 ずいぶん話が盛られてるな。


「あんた達なら期待してもいいかもね。」

「え、なに。嫌なんだけど。」

「なんで?もっと有名になれるわよ。」

「別に有名になる気は無いから。」

「この町の奴隷について気にならない?」

「・・・それは気になる。」

「私も女だからね、汚い男どもに汚されていく女の子を見るのは気分が悪いのよ。」


 スーが力強く頷いた。


「私が暴れて解放してあげても良いんだけど、50年くらい牢屋に入れられてて、お金も何にもないのよ。」

「暴れたんだ?」

「そうね。」


 暴れた事を平然と認めていて、全く気にしている様子はない。


「私が牢屋から出た時にはシードラゴンが暴れてて故郷(くに)にも帰れないし、探す当てどころか資金もないし、とりあえず働いてお金を溜めてるの。ギルドの依頼くらいじゃたいしたお金にならないのよ。」


 傲慢というか強引というか、話が勝手に進んでいくなあ。


「それって俺達に何をやらせたいのか何となくわかるけど、失敗したら牢屋行って事だよね?」

「そうね。」

「誰か助けたい特別な子でもいるってこと?」

「マギ・エンボスって知ってる?」

「女勇者でしょ。」


 マナがサラッと言ったので驚いている。


「あら、なんで知ってるの?あの子(マギ)は自分が勇者なのは隠している筈なんだけど。」

「見たら判るじゃない。」

「ホントに?それ、ちょっと詳しく知りたいわ。」

「ちょっと、食べてるんだから邪魔しないでよ。」


 相変わらずのマイペースだ。


「ほら、父親でしょ、何とかしなさいよ。」


 なんでスーが照れてるんだ。


「父親じゃないけど、まあ保護者には違いないか。いや、そんな事よりその子が捕まりでもしたの?」

「私が牢屋に入れられた理由を知って、弟子にしてくれって言われてるのよ。勇者って言ってたけどまだまだ弱すぎるのは見て解ったし、お金も出すって言うから断り難くて。」

「ふぉとわらなくへもいーひゃひゃい。」


 だからちゃんと飲み込んでって。伝わったみたいだけど。


「私は本来なら死刑のはずだったんだけど、この国の処刑くらいじゃ死ぬ事は無いからって、無期限で牢屋に入れられたのをあの子が出してくれたの。なんでもシードラゴンの報酬の一部らしいから、余計にね。」

「その理由って?」

「町中で奴隷を見世物にして輪姦(まわ)してる貴族をぶん殴って殺したのよ。」


 殺したことをサラッと・・・。


「それは確かに捕まりますねー。死刑にされるぐらいですからかなり有力な貴族だったって事ですかー。」

「その当時デンカって呼ばれてたわ。今は知ってるけど当時はただの道楽息子(バカ)としか思えなかったからね。」

「色々な意味で酷い国だな。」

「そうよね、普通はそう思うわよね。魔王国での奴隷制度がかなり改善されたって噂は知ってるけど、この国は変わってないわ。」


 凄く困る。関わりたい気持ちは有るけど、これからの事を考えるとさっさと別の国へ行きたい。特にマナを関わらせたら・・・。


「・・・国が滅びそうだ。」

「えっ、いやね。そこまでする気はないわよ?」

「えっ?あ、何でもないから。でも、なんでそんな大事な事を俺達なんかに話してよかったんです?」

「何となく・・・って理由じゃない事は確かなんだけど、なんかあんたを見てると話したくなってくるのよね。今まで頼りにならない男ばかり見ていた事も有るかもしれないけど。それに・・・今まで会った男の中であんたが一番変だったからってのも有るかな。」

「・・・俺ってそんなに変かな。」

「よしよし、大丈夫よ私がいるじゃない。」

「うん、マナありがとう。」

「・・・やっぱり変だわ。」


 そこへ見知ったばかりの女性がやって来た。俺達を見て驚いている。


「あれ?タロウさん達ってフレアリスさんと知り合いだったんですか?」

「たった今名前を知ったよ。」

「?」

「タロウなんて名前聞いた事ないけど何処の国の出身なの?」

「・・・魔王国。」

「まぁ・・・いいわ。」


 立ち上がるフレアリスはそのままマギに向かって言った。


「あんたの依頼、受けるわ。」

「ほんとですか?!ありがとうございます。・・・でもあんなに悩んでたのに。」

「稽古もつけてあげるわ。厳しいから覚悟しなさい。」

「ハイ!」


 食べ終えて満足しているポチを名残惜しそうに撫でると、食べ終えて汚れた皿とコップを持って店に入っていった。


「なんか、無理矢理な感じな人だけど悪い気はしないな、なんでだろう・・・。」

「強引なところはマナ様に似ているかもしれませんねー。」

「あー・・・いや、納得したら負けた気がする。」

「敗北宣言ですねー。」


 マギがくすっと笑って言った。


「フレアリスさんが捕まった事件以外はギルドでは最高の人が来たって伝説になるくらいです。まぁ、聞いた話ですけど。」


 そりゃ産まれてないからな。


「捕まる以前は本当に正義の味方みたいな活動をしていたようです。なんでもドラゴンを探しているって言ってましたし、ギルドにも依頼を出してかなり調べていたみたいです。」

「で、名前は?」

「えぇーっと、確かフーリン?って名前だったと思います。」


 やっぱりなあ。マナの口は塞いでおこう。


「んーっ?!」


 マナが暴れたので抱き寄せて膝に座らせた。ジェスチャーで黙っている事を伝えると、不思議そうな表情をするが肯いてくれた。


「500年くらい前に世界樹が燃やされた事件って知っていますよね?」


 知っているが無言を通すと話を続けた。


「世界の混沌の原因が世界樹にあるという事でドラゴン達に燃やされたんですけど、その時に世界樹を守ってドラゴン達を裏切ったドラゴンがフーリンという名前だそうです。でも、それ以降の消息は不明なので死んだというのが定説になっていますが。」


 魔王国で元気に生きてます。しかし、物語(れきし)というのは生きている人の都合で好きに塗り替えられるんだな。まぁ、この世界の情報網ならこんなもんか。生きてるって知られるのも困る話だろうし。


「事実、大きな戦争は減りましたので、世界樹が何の為に、しかも魔物が(ひし)めく森の中に存在していたのか、謎のままなんですけどね。」

「そういう関係の書物(きろく)が有るの?」

「えぇ、彼のスズキタ一族の子孫が書き残した書物が幾つか図書館に在ります。今は写しでしか読めませんけど。」

「図書館か・・・。俺達みたいな冒険者でも入れる?」

「利用料さえ払えばだれでも入れますよ。」

「そっか。暇な日に行ってみよっかな。」

「私が今度案内しますね。」

「助かるよ。」


 フレアリスが戻ってきた。膝の上に座っているマナに妙な眼差しを向ける。


「あんた子供好きなの?」

「・・・マナの事なら好きだよ。」

「妻がいるのに?」

「あぁ、やっぱりご結婚されてたんですね。」

「・・・。」


 もう説明するのが面倒だ。


「マギにも剣術の良い練習相手が居るよ。」


 片目を閉じて親指を向けた。


「剣術は苦手だからさ、その猫娘なら適役でしょ。」

「えっと、スーさんでしたよね。お願いしても良いんですか?」

「マギは名前知ってるのに気が付かないの?」

「えっ?」

「ワンゴが捕まったってギルドでも騒いでたでしょうに。」

「あーっ?!」

「私が睨んでも怯まなくなったしね、ちょっとそこら辺の猫娘(ねこ)とは違うって思ったのよ。」

「スーは有名人だね。」

「迷惑な話ですねー。」


 マギがスーに近寄って手を握りしめた。急な事なので吃驚する。この後の展開が読めるだけにスーは苦笑いを浮かべるのだった。






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