表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/410

番外 魔女




番外編です


少し修正しました。

 マナの発見。それは人間の女性が気が付いた不思議な感覚だった。

かまどの火がなかなか燃えない。火打石を使って着火してもすぐに消えてしまう。それは乾燥していた空気が長雨で湿度が上昇し、枯れ草を僅かに湿らせていたからなのだが、その事を彼女は経験上知っているのであって、理由までは知らない。

朝食の準備が始められずに困っていたから、やっとの思いで燃えた小さな火に両手をかざし、「もえろー、もえろー」と、心の中で念じてみた。当然だが過去に何度もやって来たことで、子供の時も母親と一緒にやったこともある。それで燃えた事なんて数回しかなく、今思えば、ただの偶然だ―――と、どこの家庭でも常識の日常の風景だった。

 それが、今日は違う。両手に不思議な感覚がある。身体の内側から何かが外へ流れ出る、とても不思議な感覚。強く念じると、火は炎と変わり、激しく燃えたが、それは一瞬の事だった。枯れ木がパチパチと音を鳴らし程よく燃えている。種火に使った枯れ草は灰になっていた。

 彼女はこの事を恐ろしいとは思わなかった。むしろ便利だと嬉しく思ったのだ。そして、練習を繰り返しているといつでも自由に炎が出せるようになった。それから、彼女は周りにも私と同じ感覚を持っている者が居るという事に気が付いた。


 父親は使えなかった。何回やっても何日経っても、全く出来なかった。母親が使えたことで自分も使えると思ったのだが、何も感じないから無理だと分かっていた娘は諦めさせる事にした。

 母親は使えた。自分より流れは緩やかで炎も大きくないが、竈に火を点けるには十分だった。


 この魔法の原点となった火は、まだ魔法と呼ばれていない。マナという名称もまだなく、当然のことながらマナの木―――いわゆる世界樹と呼ばれる存在は無く、空気と同じような感覚で世界中のどこにでもマナが漂っていると知るのに数百年かかっている。


 数年が経過すると、彼女の周りだけでなく、かなりの人が火を発生させる事が出来るようになっていた。料理人や夜回りをする兵士達にはすごく重宝された。だが、いくつか不思議な事が有り、火が熱いのは常識で触ろうとすれば火傷をするはずで、それなのに身体から出た炎は・・・熱いと感じない。火が発生した時は何かで燃えている。その何かというモノが火を燃やすための燃料だと思われたが、深く考える者は少なかった。


 火を発生させる事が出来るのは、なぜか女性が多かった。男性でも使えるが、比率で言うと1:9ぐらい差があった。そして寄り大きな炎を出せる者はほぼ女性しかいなかった。身体から出る火を研究し始めたのは、とある国の王女で、当然彼女も使えた。だが、彼女は好奇心旺盛過ぎて、自分の部屋を燃やしてしまったのである。

 事の重大さに気が付いたのは国王で、もしも正しく扱われなければ町が大火で滅んでしまう。近年町では火事が多いのはこれが原因か・・・。

 国王が動いたことで、町で火を扱う事を固く禁じた。これはすごくややこしい事になり、竈に火を点けることも出来なくなってしまう。3日と経たず国民からの反対の声が上がった。それは国王の住む王宮の中でも強く反対され、御触れはすぐに取り消されたが、それ以降火事が多くなった。それならば娘を中心に火を出せる者を集めて、正しく扱う方法を研究させるべきだ。


 この研究が始まってすぐに分かったことは、火を出せる者であっても、ずっと使い続けると出せなくなってしまう事だった。やはり何か火の燃料となっているモノがあるはずだと、その研究にとりかかった。そして意外にもすぐに結果が出た。


「私達の身体の中に何かがあります。名称が無いので謎の物質としか言えませんが、それはこの辺りにも漂っています。」


 娘からの報告を受けた国王は驚いた。その報告が正しければ町中が火の海になってしまう。だが、娘は説明を加えたことで安堵はしなかったが納得する事にした。


「身体から抜け出るモノを感知出来た者達は、皆同じことを言います。感じはするのだけれど取り込めないと。私も同意見です。」


 漂っている何かに火が燃え移る事は無いと言っているのだが、それが可能になってしまっては困る。


「あと、この火についてですけど。」


 娘は目の前で掌の上に火を発生させる。それは確かに燃えているように見えるが娘は熱いとは言わない。だが、ひとたび娘の手から離れると近くの物を燃やそうとする。不幸な結果になってしまったのであって人体実験はしていないことを強く言ったが、人が1人焼死したのだ。それ以降火の研究や実験には、必ず水が用意された。そして、少人数で行う事も強く推奨された。そして研究の結果はそれだけではなかった。


「自分の思った方向へ火を飛ばせるだと?」

「はい。まだ私を含めて数人ですが、任意の方向へ飛ばせます。そして一定時間後に消えます。炎の強さはあまり関係ないようですが、その炎の強さも任意で強めたり弱めたりできます。ただ、手から離れてしまうと火力の制御ができませんので、火を発生させたら強さを安定させ、その上で任意の方向に飛ばすことになります。」


 この結果を知った将軍が、火矢と同じことが可能だと言ったことで、軍事案件へと変わった。正しく扱えることが必須条件であるのは当然だが、その日から研究の内容に、どこまで飛ばせるのかという事も加えられた。結果としては火矢の方が遠くへ飛ばせるのだが、火矢のように準備する必要が無い事と、火矢よりも強い火力を持つことで、軍隊に正式採用されることとなった。だがここから重要なのは、武器があっても盾が無い事で、この場合の武器は火。盾は水である。だが、これもすぐに解決した。


「手から水が出るだと?!」


 国王はもう驚かないと思っていたが、娘が実際に水を出すのを見て時代が変わる予感を感じた。むしろ世界が変わってしまう悪寒さえあった。

 この水も火と同じように一定時間後に消えてしまう。手から離れなければ水玉がいつまでも手の上で揺れているだけで、触っても崩れない。コップに注いでも消えてしまうが、火を消す間だけ存在していればいいので十分というか、すごく便利だった。町の火事はあっという間に激減しただけではなく、水を扱える者が一気に増えた。そして国王は水も出せなかった。


「お父様にはそもそもの根源となる燃料が身体から感じません。ですが、最近分かったことですが、感じないというのは間違っていました。」

「詳しく説明しろ。」

「はい。我々はこれを古代の書物に書かれていた言葉を用いる事にしました。マナと呼ばれているモノです。」

「ああ、わしも子供のころ読んだ事が有る。あれは御伽噺(おとぎばなし)ではなかったという事か。」

「魔法を扱い、世界を救った勇者と言うのは御伽噺かと思います。何しろあんな恐ろしい魔王が存在していたら、魔族とこれほど仲良くは無いでしょう?」


 魔族とは人の姿とそっくりだが、耳が頭の上にあったり、尻尾や羽があったり、少なくとも我々のような者とは違う。ただ、この頃の魔族とは人と多少違う者を総じて呼んでいたので悪竜と言われたドラゴンでさえ、魔族扱いだ。魔族と魔物が別物だと判断されるにはさらに数百年後で、人の中でも亜人を更に細かく分ける事になったのも、数百年後になる。普人(ふじん)と自称するのは自分たちは違うという証明に過ぎない。


「架空世界の事情を在るものとして考えると、マナを使い解き放つ力を魔法と呼んでいます。魔術は見せかけですが、そこに事実が加われば力となり、魔法技術と呼べるものが創れると思います。そして、そのマナなのですが、誰の身体にも存在します。保有している量に差がありますが、全く無いという事は有りませんでした。」

「わしには何が足らんのだ?」

「想像力です。この想像力というのは、マナを具現化させる力だと、私は考えています。そして想像力が豊かであるほど、いろいろな魔法が使えると思います。想像力には制限がありません。しかしマナは有限です。体内のマナは使い切ってしまう事で一時的に具現化する能力も失われますが、人によって数時間から数日で元に戻ります。その時に辺りを漂うマナを取り込んでいると思われるんですが・・・こちらはまだ正確には解っていません。」

「わしの中のマナの量は分からんのか?」

「周囲を漂うマナよりも小さいと私の能力では感じ取る事が出来ません。もっとマナの薄いところなら分かるかもしれませんが・・・。」

「マナが薄い?」

「これも最近の研究結果なのですが、室内でマナを使い続けた結果、室内のマナの濃度が下がりました。この事から体内に取り込んでいる。もしくは周囲のマナを利用して魔法を使っているなどが考えられますが、この、濃いと薄いの感覚も人によってまちまちでして、未だに安定した結果は得られていません。想像力の豊かな子供が部屋の中で不思議な現象を感じた事が有るというのも、マナが関係しているかもしれません。そしてマナの保有量が少ないから、子供が見た幻や夢として処理されていたのだと思います。」

「そういう意味では想像を具現化させる、いわゆる夢が現実となる訳だ。」

「そうなります。ここでまだ我々では感じていない何かが他のところで現れるかもしれません。」

「どういう事だ?」

「過去の歴史の事例なのですが、我々とは全く別の場所で全く同じ物が開発されていたという記録がありました。これは、同じ用途を目指したもので名称だけが違うというモノがいくつかあります。そして、一度発見されるとそれが常識のように変わってしまうという事です。夜暗くなれば灯りを点けるというのが常識ですが・・・。」

「確かに灯りが無い時代ならば夜暗くなれば寝るだろうな。」

「はい。火の発見もそうですが、銅の時代から鉄の時代に変わったことで世界も変わりました。もっとも劇的に変わったのは火薬でしょう。」

「魔法はその火薬と同じように変化をもたらす・・・か。」


 数百年を必要としてきた歴史の変化は、たった数年で魔法が変えてしまった。それは戦争という手段を使ったのである。

 戦争での魔法は、砲弾のような補給が不要であることから鉄や物資の少ない国で重宝された。ただし、魔法を使える者の殆どが女性だったため、護衛の必要性から、護衛部隊は大人気であった。が、これは今回の話とは関係ない。


 魔法には魔法で対抗すべし。


 世界は瞬く間に魔法で溢れ、魔法が使える者は国のエリートとなったのだが・・・。



 魔法に頼り切った世界は、何をするのにもまず魔法だった。戦場から家庭に至るまで、どこでも魔法を利用した。魔法を使えない者は奴隷のような扱いだった時代もある。科学技術は衰退し、魔法技術は拡大した。魔道具と呼ばれるマナを利用した道具が開発されると、魔法を使えなかった者でも利用できるようになった。そして、これが世界を巻き込む大戦争となった。

 魔法が使えない者はそれらを利用することでしかマナの恩恵を得られず、魔法やマナは価値が増大の一途を辿り、いつしか魔法のある国と魔法のない国と、線が引かれるようになった。自然や化学を衰退させてはならないと、魔法を使う者が殆ど女性だったことから魔女と自称した彼女たちの力を、なるべく使わない世界を模索した。だが、どうしてもマナと魔法は邪魔な存在となる。

 魔女達は、自分達が上位であり魔法を使えない者達など不要であると考えていた。そして、魔女狩り戦争が始まった。

 魔女はその能力から、魔法を使えない者が10人集まってやっと倒せるかどうかという程の差があり、魔女を自称する者たち自身が高い能力を持っていたから、総数で言えば魔女は圧倒的に少ない。しかし、力を合わせた魔女達の力は、籠城した軍隊より堅牢で、小さな町に100人ほどいれば、難攻不落に匹敵する。魔道具自体が魔女達の開発した道具であるが、それを利用して魔女達を倒し、勢力を拡大させようとしていたが、魔女は次々と現れ、魔女として国を追われたものは魔女達の下に集まり、世界のマナの均衡も崩れ、混沌とした世の中となった。




 神は存在した。だが傍観者であった。それらの事情について対策など考えていなかったし、魔法が発見されるまでにこれほど時間がかかるというのも予想を外れていたが、ここまで悪化するとは考えていなかった。色々な可能性を持つのが人類であり、色々な力を持つのが生物で、多種多様な価値観のある世界だと思っていた。マナと呼ばれるモノもこの世界とともに存在していたのだから、もっと早く気付くだろうと思っていた。戦争は仕方がない。それもまた歴史だ。しかし、人が名付けたマナという物質の流れが不均衡となり、混乱というより混沌としている。人が人として、人だけで問題を解決の道に向かわせることは不可能なのか?

 神が考えたのは、その物質"マナ"を安定化させる事だった。あらゆる全ての生き物にマナは干渉しているから、より大きくて安定する生物にマナを管理させればよい。今は天使と名乗る一部の者達がマナの流れに変化を与えているようだが、それは神の与えた使命ではない。彼女達天使は、他の者に頼らずマナを感じ、マナの不安定が心を脅かしている事に気が付いた唯一の存在で、戦争に参加せず、ドラゴン達を説得し、均衡を目指しているようだが、それでは遅すぎる。

 そこに現れたのはまだ小さい存在であったマナの木だった。神はこの世界を創った者であるのは間違いないが、全てを創ったわけではなく、人と知識と多種多様な存在で、与えた物質などは彼らが考えて使えばよかった。だがここまで悪い方向に進むのなら少し方向を示す必要がある。マナの木はただの小さな苗木で、考える意志と、マナを操作する能力と、想像する力を与えただけで、他はただの植物と変わらない。直接干渉するほどの力はすでに失われていたから、この苗木に託したのだった。

 この苗木をどこか人が干渉する事の少ない場所においておけばよい。後は考えてくれるだろう。自我と意識を与えて、この世界の大地に放り投げた。




 多くの人々に"世界樹"と呼称されるようになったのは2000年ぐらい経過したころだ。最初はドラゴンに気付かれたようだが、何もしなかった。まあ、たとえドラゴンでも束になってやってこなければそう簡単には負けないと思う。マナの木は常に成長しているし、私のところへ干渉する力まで得ていたのだから、予想以上の成長を果たしている。まさか女の子の姿になるとは予想もしなかったが。




 魔女達は衰退していた。魔法がより強力になり、より強い魔法を求めるようになると、多くの魔女が落第する事となった。魔女達は確かに魔法に()けているが、全ての魔女が無制限に魔法を使えるわけではなく、その魔女達の中でも一部は戦争に辟易し、降伏や逃亡、裏切りなどで、どんどん数を減らした。

 それでも一部の魔女達は膨大なマナとハチャメチャな魔法を操り、数多の人々を苦しめた。そして、魔女達は今もマナの利用法について研究し続けている。

 勇者の存在は、神の管理に及ばない。要するに誰かが作り上げたシステムで、ハードもソフトも、だれが考案したのかも分からない。自称魔王が存在するように、自称勇者も存在していた。マナの木の影響なのか、魔女達の仕業なのか、自然発生したモノなのか、神ですら分からなかった。もともと、予想できない世界を創る事が目的だったから、それについては満足していたが。




 マナの木が狙われている。

 

 何故?

 

 マナの木にマナが集まっている事を感知したのだとしたら魔女だと思うが・・・、それにしてもなぜドラゴン達がマナの木を、世界樹を焼き尽くすという結論に至ったのか、理解できない。誰が見てもマナの木に悪意が有るとは考えない筈だった。

 理解を示してくれた一族もいる。一部のドラゴンは理解しているようだが、やはり魔女の仕業なのだろうか。


 あの一族は頑張ってくれたし、私も感謝している。訪れた者達の一部がマナの木を傷つけるなんて考えなかったのは私の落ち度だ。よし、一時的な避難だな。手配しよう。


 魔女達はマナが不安定になることを望んでいるのか、もしくは自分たちが集めたマナが拡散されてしまった事に怒りを感じているのか、傍観者として監視していた筈なのに、どこにもいない。魔女はどこまで力を付けたのか・・・。




 神ですら理解を超えた魔女達の行動は、世界を再び混沌へと堕とそうとしていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ