第389話 迎えるにあたって
シードラゴンが来ると言われてから数年後が経過した。
遂に来る事になったのだが、何故かハンハルトが用意した馬車に乗って来るらしい。
「飛べないし、歩くのが面倒だそうです。」
「なるほど。」
水中とは違うのだから当然かもしれない。
しかし、海水もない場所にやってきて問題は無いのだろうか?
「それでしたら私達の所に海を造って頂いたので、そちらに滞在する予定です。」
ファリスの所というと袋の中だが、いつの間に作ったのだろう?
製作者は聞かなくても分かる。
俺じゃなければもう一人しかいない。
「海なんて、よく造ったねぇ。」
「塩分濃度の問題と、海藻の育成が可能との話で、不可能ではないらしいです。」
確かに不可能ではないけど、多少なりとも知識が必要なはず。
「図鑑が役に立ったのかな?」
「二枚貝が棲めたから大丈夫と。」
「あー、ボスクラムか。で、どのくらいの広さなの?」
「私達の住む土地の100倍って言われましたが、どのくらいなのか想像ができません。」
俺も分からん。
そもそもファリスと二人で歩いているの道が、その造成された海に向かう途中で、先に向かったマナとマリナは子供達と海で遊んでいる。
デュラハーンの人達も、呪いから解放されてから外との交流も親密になり、外の人が入国するのは問題が有るので許可できないが、デュラハーン達の出入国は自由になっていた。
ちなみに今現在の魔法袋の出入口は、魔王国とハンハルトとガーデンブルクと繋がっているが、最重要国家秘密で、知っている者はとても少ない。
デュラハーン達の首が取れなくなったことにより、亜人程度にしか思われなくなったので、何処へ行っても違和感なく受け入れられている事もあり、何処から来たのか問われる事は殆ど無い。
暫く二人で歩いていると賑やかな声が聞こえる。
大きな海・・・。
「おー・・・海・・・?」
太郎が違和感を覚えたのは波が全く無いからで、感覚で言うと池やプールに感じる。
風も殆ど無いが塩の香りはする。
その造成された海の海岸で子供達が水着で遊んでいるのだが、アレから成長しているから、いろんなところが凄いコトに成っている。なんでビキニを着てるのかなあ・・・。
で、シックスパックに割れている男の子達。
尻尾増えてるよね?
俺より強いよね?
「あ、おとーさん、海底に家を作るから手伝ってー。」
「これから建てるんだ?」
「パパがいないと出来ないよ。」
水中で建築するのではなく大きな気泡の中で建てて、完成したら範囲を狭くするらしい。
・・・崩れない?
ああ、結界張るのね。
「マリアは?」
「珊瑚を集めてるって。」
「珊瑚かあ・・・あれ、なんか・・・なんだっけ、珊瑚って何かあった気がする。」
マナとマリナが可愛い水着姿で飛沫を飛ばしながら飛んできた。
文字通り、飛んできた。
「たろー!」
「パパー!」
体当りされて、そのまま三人でバッタリ。
ファリスは何で羨ましそうにこっちを見るのさ。
子供達に水着を渡されて、顔を真っ赤にした。
何故かポニスに突かれているのだが、あれは着替えろって事なんだろうな。
多分。
「シードラゴンが来る前に完成させちゃいたいわね。」
「うん、そー!」
なんでそんなにヤル気があるの?
「あちこちに植えに行くのも最近はやらないじゃない、暇なのよ。」
「ひまー!」
マリナは何年経っても子供のまま。
ママも子供のまま。
子供達はもう青年ぐらいに成っている。
まだ10歳に届いていないんだが。
娘たちが本当にヤバい・・・なんであんなに可愛いんだよおおおお!!
ふぅ。
「パパどうしたの?」
そう言いながらぴったりくっついてくる。
やめなさいって、パパは子供と子作りする気はない。
ナナハルには推奨されてるけどな・・・。
そのナナハルとマリアが遅れてやってきた。
「あれー、まだ始めてないのー?」
「何処に建築するのかさえ決めてないよ。」
「真ん中って言ったはずなんじゃが。」
子供達を見ると、目を逸らしたり口笛吹いたり。
誤魔化すのは下手だから直ぐ判るんだけど、誰に似たんだろう。
「あと7日あるから、建てれるじゃろ。」
「応援が欲しいかな。」
オリビアさんに頼むつもりで考えたが、後ろからの鼻息が凄い。
「我々が手伝います!」フンス
何処からともなくデュラハーンとポニスが集まってきた。
・・・隠れて聞いてたのね。
「じゃ、頼むわねー。」
頼まれてしまった。
総勢50人ぐらいを気泡で包み、海中にそのまま突き進む。
初体験のデュラハーン達が口を開けながら、目を輝かせて上を見ている。
既に何か分からない魚が泳いでいるし、ボスクラムもいるようだ。
「生態系は大丈夫なの?」
「知らないけど、テキトーに入れといて生き残ればいいでしょ。」
海底の岩場に海藻類が植えられているが、ちゃんと育つのかな?
「植物なら任せといて。」
岩場の海藻がブワワっと増えた。
本当になんて言って良いのか分からないけど、岩が見えなくなるくらい増えた。
エビやカニもいるみたいで、イソギンチャクもいたみたいだけど、今は海藻で見えない。
「あれれ~?」
マナが不思議そうな表情で岩場を睨んでいる。
デュラハーン達が通り過ぎても何かを気にしているようだ。
ほら、行くよ。
テクテクと歩いて30分ぐらい。
「この辺りでいいかな?」
「うむ。地上のような建物が良いと言っておったから、何かおすすめはないか?」
「地上って・・・まあ、海底の建物って言うと、何故か壊れているイメージしかないからなあ。」
「海底遺跡群に棲みついているワケじゃないのよ。」
「解ってるけどね・・・じゃあ、ペンション風にしよう。」
海底に建ってたら驚くだろうな。
BBQがいつでも出来るようにしても良いし・・・。
海底の森も良いな。
ついでに世界樹とトレントも植えとくか。
森というとやっぱりどんぐりだよなあ。
栗も良いか。
ブナ科の木ってあったよなあ。
「何を考えておる。」
ナナハルが尻尾で俺の顔を撫でる。
くしゃみが出た。
「海底に森を造ろうかと。どうせ結界を張るからこの辺りは地上と変わらないでしょ。出入口用の門を作っておけばいいし。」
「相変わらず発想が何処か行ってるのう。」
「面白そうではあるわねー。」
「マナさ、このどんぐりと栗をこの辺りに育ててくれる?」
「まっかせなさーい。」
森が盛りっと出来た。
真ん中に世界樹の苗木を植える。
5分で終わったわ。
「あのー、家は?」
「ああ、資材を出すよ。」
太郎はいつもの袋から子供達に手伝ってもらいながら次々と資材を出す。
既に完成しているベンチや、組み立て式のベッドなども有るが、次に作ったのは野外用のかまどである。雨の心配が無いので安心だ。
「食べ物が無いわよ。」
「それなら後でエカテリーナが持って来る事になっているぞ。」
「昼飯はもう少し待って、先にこれを。」
建設に必要な設計図だが、これを理解できるのはナナハルとマリアぐらいで、太郎は見た目だけは似たように建てれるが、理解力で言えば二人に負ける。
「指示通りに加工するから、そっちは頼まれてね。」
「承知した。」
マリアは自前の気泡で身を包み、海中で持ってきた珊瑚を造った岩場に設置しているが、あんなにカンタンに植え付けられたっけ?
珊瑚は謎が多い生き物だからなあ。
「むー・・・。」
マナが唸っている。
「どしたん?」
「珊瑚が育たないのよ。」
「そりゃそーだ。」
「なんでよ。」
「珊瑚は植物じゃないから。」
「そうなの?!」
「うん、そー。」
確かに見た目だと植物っぽく見えるけど、動物だったよな。
「あれが育たなかったら困るんじゃない?」
「困るかもしれないけど、元々造成された海だしなあ。見た目の問題としては彩は無くなるけど。そのくらいかな。」
「ふーん。」
マナが少ししょげてる。
可愛そうだから・・・マリナが撫でてた。
「良いもん、雑草育てちゃうから。」
そう言って砂の地面に草を生やして芝生のようにした。
生やし過ぎないでね。
「建築はナナハルとデュラハーン達に任して、こっちで門つくろっか。」
「はーい。」
門といっても塀は無い。
作る必要も無いからで、この門は地上からここへ来るための通り道だ。
作っておかないと誰か来ても自力で来れる人じゃないと困るからだ。
子供達の手伝いもあって、柱と扉だけで良いので直ぐに出来た。
馬車がそのまま潜れるくらいの大きさで、なかなかデカい。
「おっきいねー。」
マリナがぴょんぴょんと跳ねているが、飛んだら掴めるんじゃないのかな。
と、無粋な事は言わないでおこう。
「まあ、ペンションの方は流石に一日じゃ作れないし、かまどの周りにベンチと灯りも作って公園みたいにしちゃうか。」
「海底に庭園なんてパパすごーい。」
「えへへ。」
マリナが褒められたんじゃないのに喜んでいる。
暇になったマナが、海底の海藻をあちこちに生やすと、マリアが戻ってきた。
頭に藻のような物を絡ませて。
「ちょっとー、いきなり生やさないでよー。」
「暇なんだもん。」
「あっちで忙しそうにしてるけど?」
デュラハーン達はナナハルの指示で建築を進めていて、まだ柱を立て始めた所だ。
それなら・・・。
ザクザクと砂地を掘っても、土は出てこない。
畑にするのはちょっと問題があるはずたけど、マナが居るから関係ないか。
「こんなところに畑って何を植えるの?」
「メインは焼いて食べられる根菜類かな。」
玉葱は有るとすごく便利だし、薬味にも使えるネギも欲しいところだ。
サクサクと畑を作ると、作ったところからマリナが種を蒔き、マナが育てる。
なんでトマトが生えてるのかな?
ピーマンとしし唐は分かるけど、スイカも植えたよね。
子供達がさっそく収穫している。
「やったー!スイカだー!」
子供達は大喜び。
設置したテーブルにスイカが並べられ、マリアが魔法で皮を剥き、綺麗にカットして皿にのせる。気が付いたナナハルが、少し疲れ始めたデュラハーン達に休憩を促す。
水分補給も兼ねたスイカは甘くて瑞々しい。
これで風でも吹いたら心地良いんだけどなあ。
ふわっ
風か吹いた。
シルバかな。
こんな事でしか使われないのも精霊としてはどうなんだろう?
ウンダンヌなんていつの間にか居ないし。
呼んでも来ないな?
まあ、用がある訳じゃないし、いいや。
みんなで集まって休憩。
なんと言うか、水中なのに明るい。
ポニス達にもスイカを食べさせている。
・・・食べれたの?!
「私達もずっと知らなくて、呪いが解けてからいつの間にか食べるようになったんです。食べないポニスも居るので理由は分からないのですが。」
不思議な事は何処でも起こる。
もうこの世界に来て何年も経っているとはいえ、俺にはまだあっちの世界の記憶の方が強い。
電気、ガス、水道。
一つもないこの世界でも代わりになるモノはある。
だからと言ってあっちの世界とは比べることは無い。
この世界に馴染んでいく自分を遠くに感じる事も有る。
今見ているモノは全て本物なのか?
そんな無意味な事を考えてしまう。
だからこそ、意味のある言葉を投げた。
「どのくらいで完成する?」
「デュラハーンどもはなかなか働き者じゃし、予定より早く出来るじゃろう。」
「じゃあ、先に食材用の倉庫を作ってくれれば詰め込んでおくけど。」
「ココなら雨の心配も無いしの。」
「エカテリーナがどのくらい持って来るか分からないけど、魔法袋を持つようになってから凄い詰め込んでるからなあ。」
魔女が居るおかげでいつでも魔法袋が手に入る状況ではあるが、魔法袋の存在自体がかなり危険なアイテムである。だが、いつも移動で荷物を運ぶのにエカテリーナが苦労しているのを見ていてれば、必要な人に必要なアイテムはあって然るべき。そう言う理由で寸胴鍋でもすっぽり入る特別製の魔法袋をエカテリーナが持つ事になった。
当時はものすごく遠慮していたが、今ではすっかりお気に入りで、食材倉庫よりも保存環境が良い事も有って、殆どの食べ物が入っている。
何処でもキャンプが出来る、歩く倉庫と呼ばれるようになったのは最近である。
「たろーさまあー、いらっしゃいますかぁーー。」
そのエカテリーナが造ったばかりの通路を一人で歩いてやってきた。
門を子供が開くと、エプロン姿のエカテリーナが入ってきて、既に出来ている施設にビックリしている。
「もうこんなに出来てるんですねー。この小さな森は?」
「キャンプしてるっぽくしたくなったから、ついでに世界樹も植えた。」
「ここって何人住む予定なんですか・・・?」
言われてみればそうだ。
このままだと100人住んでも大丈夫!!
って事になりそう。
「一応シードラゴンの一人だけの予定だけど、子供とか連れてくるのかなあ?」
「環境次第じゃな。流石に狭いと思うぞ。」
「せっかく沢山居ますし、魚介カレーでも作りましょうか。」
エカテリーナの提案は歓声を持って迎えられ、やる気に満ちた者達と、増員されたエルフ達によって、あっという間に海底のペンションは完成した。




