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第35話 スズキタ一族の村

 それほど遠くない距離に崩れた一軒家が見えた。雑草に飲み込まれているかのように、屋根にも壁にも謎の植物が絡まっている。いくつもの山を越えた、広大な窪地の一部が村になっているようなのだが、村は最後の峠を超えてもすぐには見えなかった。高地ではあるが、辺りは木々も豊富にあり、湖に流れ込む川もある。

 その一軒家に近づいた時に突然矢が飛んできた。それは正確には矢ではなく、棘のような先が尖った石のような物体だった。


「消えた?」


 地面に刺さると消える。それは魔法であることを示していて、スーが飛んできた方向を睨むと、何かが空に浮かんでいた。上空から大量の石を降らせてくる。すぐに魔法障壁を作り石の雨が止むのを待っていると。今度は空に浮かぶモノと似た姿をしたモノが左右から襲ってきた。

 ポチが飛びかかって噛みつこうとすると、その姿は触れた瞬間に消える。


「ポチさん後ろー!」


 スーの叫びも虚しく、ポチは何かの攻撃を受けて吹き飛ばされた。ボロボロの一軒家の壁に激突して、建物自体が崩れる。瓦礫に埋まるよりも早く抜け出してきたが、攻撃をしてきた対象を見つけられずにいた。


「なんでこんなのところに天使がいるのかしら。気配を感じないから油断してたわ。」

「天使?天使がなんで俺達を襲うんだ?」

「理由は知らないけど、戦うしかないわね。」


 マナが見たのは、まだ空に浮かんでいる天使だ。よく見えないけど女性の様に見えるし、大きな翼も見える。その天使がまた石を降らせようとするので、魔法障壁を張・・・ろうとしたらその姿が消えた。


「幻影を使うなんて面倒なやつね。」

「天使となんて戦った事ないですよー。」


 スーがどう対処すればいいのか分からず戸惑っていると、マナが何かの魔法を放った。俺達をも巻き込んだ突風が周囲を吹き抜けた。


「キャアアアア!!」


 悲鳴とともに天使が後ろから飛んできて、そこをポチが体当たりで叩き落とす。俺とスーはその天使と一緒に風に飛ばされて、地面を転がっている。風が止んで立ち上がると、ポチが身体を踏みつけて翼に噛みついていた。天使がポチを引き離そうと、火の魔法を放つとポチの身体が炎に包まれた。だが噛みついた翼からは離れない。


「太郎さん、水魔法で!」


 ポチに向かって水玉を投げつけると、炎が消えた。また何かの魔法を放とうとするしぐさを見せたところで、スーが急接近してその翼に剣を突き刺した。


「ひぃぃぃ!痛い痛い、やめて降参するからやめて!」


 突き刺した剣を引き抜くと、白い翼が赤く滲んだ。ポチは噛むのを止めたが、横向きに倒れた天使の身体に体重を乗せて動かないようにする。俺とマナも近寄ると、抵抗はしないようだが、こちらをを見る眼には鋭さが有った。あれ、俺じゃないな。マナを見ているようだ。


「あー!あんた世界樹でしょ!燃え尽きたんじゃないの?!」


 よく見ると、スタイルは良いし、美人だし、金髪に白い翼で、俺の世界で言う典型的な天使の姿をしている。服も白いローブを身に付けているだけで、押さえつけられていて身動きが出来ないから、お尻が丸出しのままだ。下着なんてないよ。なんか俺の股間に有る見慣れたモノと同じモノが見えるんだけど、気の所為だと思う。てか、世界樹を知っている人ばかりに会うなあ。


「私が世界樹って事より、なんで襲ってきたの?」

「そんなの関係なっ痛っいってー、やめてー。」

「なんで?」


 マナ様恐いです。


「ほっほら、ここって廃村でしょ。前に来た時もここにどうしても開かない扉があって調べてたのよ。」

「嘘つきは嫌いだなー。」


 マナがしゃがみ込んで服の中に手を入れる。そこ股間ですよ?


「い゛た゛た゛い゛っ゛て゛!!」


 え、天使って。まさか。


「潰しちゃうぞー。」

「あ、はい。いいます、いいます。」


 天使は涙目になっているが、マナは何を潰そうとしたの。


「スズキタ一族の財宝を狙って来ました。他人に盗られたくないので奪いに来ましたー。邪魔しに来たと思ったので襲いましたー。もぅ、嘘ついてないから握らな・・・や、優しく揉むのもやめて・・・。世界樹ってそんなこと知らないはずで・・・。あぅっ。」


 天使の顔が赤くなっているし、変な吐息が漏れてるし、マナの悪戯心が発揮されているようだ。それを見ているポチが微妙な表情をしている。


「なぁ、天使ってまさか。」

「そうよ、ポチ。天使は両性具有なのよ。種族的にも極端に人数が少ないし、数百年間を一人で過ごす事も有って、一人でも増えるようにできてるって、昔教わったわ。」


 こんなに美人なのに付いてるのか。その教えた人って、俺のご先祖様だよな。


「気になるならローブめくってみる?」

「遠慮する。」


 俺も遠慮します。


「私の事を世界樹だって解るんなら、ここに来た理由も解るでしょう?」

「えっ?あ、ああ・・・そういう事で。えー、でもモンスターからあの建物を守ったりしたんですよ。少しぐらい下さい。」


 マナが立ち上がって俺を見る。


「こいつどうする?」

「俺が決めるの?」

「だって一族の財宝狙ってたんなら敵よ。それに私ともあんまり仲は良くないのよね。直接戦ったのは今回が初めてだけど。」


 マナの安定をするという意味で競合しているため、天使達は世界樹をあまり好んでいない。しかし、その能力は認めていて、自分達の領分を脅かされるのではないかという不信感もあり、何度か話し合いをした事も有るというのは、マナの昔話で聞いた気がする。


「もう襲ってこないのなら解放してもいいけど。」

「そう?天使って回復魔法(ヒール)が使えるからすごい役に立つけど。」


 そう言えば傷ついていた翼の一部が治っている。圧し掛かっているポチにどいてもらうと、天使はようやく立ち上がった。服の土を払うと、悪い笑顔で飛び立とうとしてすぐに落ちた。足にはつる草が引っかかっている。痛そう。美人なのにな、なんか天使らしくない。


「天使ってこんなに性悪なのか?」

「天使って名前が付いているけど、実際は有翼人と大差はないわ。太郎に分かり易く言うと、上位互換って感じ。」


 分かるけど分かり難いぞ。


「ああ、神に仕えているわけではないって事か。」

「うん。」

「それでもマナのいない間は天使がマナの安定をしていたんだろ?」

「そうみたいね。」


 逃げられないと分かって、天使は半ベソを掻いている。上目遣いで俺を見つめてくるのはやめてくれ。襲われたのはこっちなのに、悪い事をしている気分になる。


「でもなんで財宝なんて狙ってたんだ。むしろ財宝があるのか?」

「さぁ?」

「だよね。マナだって知らない事なのになんで天使が知ってるんだ。」

「そんな、こんなに頑丈に封印されているって事は何か金目のものが有ると思って。え、ないの?結構苦労して守ったのに・・・。」


 天使は力なくガッカリしている。


「財宝があるのならそれは太郎のモノよ。少なくとも天使のモノじゃない。一族しか開かない扉みたいだしね。」

「財宝を狙うって金に困ってるのか?」


 天使は微妙な表情になる。言いたいけど言いたくないような、助けて欲しいと一言いえば楽になるんじゃないかな。


「世界樹が言ったから私達の役割って解ると思うけど、マナの安定をしているのよ。でもね・・・それじゃ食べて行けないのよ!信仰なんか貰ったって精霊じゃあるまいし生きていけないよ。」

「天使って冒険者ギルドで働けないの?」

「見た事ないですねー。居たら存在だけで勇者に匹敵するぐらいレアな存在ですけど。強いかどうかは・・・この天使は弱そうですけど。」

「弱いというか、戦いに慣れていないんだろうな。あのぐらいの苦痛で降参するとは情けない。」

「ポチさんが苦痛に強いんですよー。私だってあんな刺されかたしたら降参します。」


 マナは逃げられない天使のローブをめくって股間をまじまじと見ている。何してるんですか。


「太郎ってこういうの好き?」

「マナにそんなのついてたら俺は泣く。」

「わかったやめとく。」

「何の会話してるんですかー。」


 天使をほぼほぼ無視しているが、正直どうでもいい。


「ねー、助けてよー。半年ぐらいちゃんとした食事してないのよ。」

「そんなに?」

「だって、こんな辺鄙(へんぴ)なところに食べ物なんてある訳ないじゃない。扉は開かないし、魔物たおしても料理は出来ないし、保存食なんて気が付いたら腐ってるし。」


 なんと生活能力が無いのか。


「そう言えば荷物も持ってないみたいだな。」

「背負ってた荷物袋をイーグルに襲われて落としたの。それをオーガの群れに持って行かれちゃって。お金も入っていたけど、おかげさまでスッカラカンなのよ。」

「よく生きてたな。ってオーガの群れって・・・。」

「多分、私達が戦ったオーガでしょうねー。」

「え、あんたたちアレと戦ったの?かなりの数だったと思うけど。」

「あんなの余裕で勝つわよ。」


 マナは直接戦ってないじゃん。なんでドヤ顔なんだ。


「わかったわ。」


 天使は神妙な面持ちでこちらを向くと、丁寧に頭を下げた。


「ごめんなさい、もう抵抗もしないし、私に出来る事なら協力するから、お金と食糧を少し下さい。」

「急にしおらしくなったわね?」

「ケルベロスだけでも狙われたら面倒なのに、世界樹がいるんですから。」

「どうするの、太郎?」

「あの、何でもします。お望みなら夜のお相手もしますよ。」

「夜はマニアッテマス。」


 搾られた事を思い出して、少し身震いする。それに、美人なのは間違いないが、俺はフタナリにはあんまり興味が無い。


「あ、ちゃんと消せますよ。翼も隠せますし。」


 そう言うと背中の翼が消えた。確かに寝るとき邪魔だろうしなあ。


「・・・そういう問題じゃないけど。まあ敵じゃないし、協力してくれるんならついてきてもいいよ。扉の中を見たら帰るでしょ?」

「はい、ちょっとだけお願いします。」


 こうして天使を連れて行動する事になった。村の中はこの天使が案内をしてくれる。俺達は来たばかりだから村の建物の位置関係も不明だし、それだけでも十分助かる。そこそこ大きな小川と、半壊した橋を渡り、崩れた家や井戸を横目に進むと、一つだけしっかりと形の残った建物が見えてきた。ほぼ真四角のレンガ造りだが、これぞ豆腐ハウスといった感じで、扉が一つだけで窓もない。4人と一匹がその扉の前に立つと、僅かな光を感じた。











雌雄同体なんですよ。

でも、一人でどうやって子供を作るのか・・・。


想像はご自由に\(^o^)/

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