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第31話 俺とマナの能力

 村では俺達が倒した猪の料理が完成していて、食べてほしいと言われた。


「もう少し聞きたいこともある。」

「俺に?」


 頷くと案内された。部屋から出て階段を下りた先にある、広くもない村の中心には殆どのエルフ達が集まっている。全員が肉を食べれるのは半年ぶりだと喜ぶ声があり、肉を食べている者達にも感謝された。


「そんなに厳しいんですか、それなのに俺達に振舞わなくても。」

「お礼も有るが、相互で争わない約束みたいなものだ。」

「あー、なるほど。それじゃあいただきます。」


 テーブルにはすでに料理が並べられていて、銀髪のエルフに勧められてテーブルについた。この村には上下関係とか無いのだろうか?みんながみんな、勝手に食べ始めている。こういうのって一番偉い人が一番最初に食べるもんじゃないのか。


「一番は確かに私だが、特に上下関係は無い。そんな無駄な関係は有るだけ邪魔だろう。本来はもっと自由に生きるのがエルフだったのだが、500年前の事件以降、争いが多くなってしまって。」

「あー、世界樹が燃やされた話ね。」


 スーと俺が吃驚する。軽々しく言っているが自分の事だろうに。


「自然と共生するのが我らだったが、マナの力に溺れる者も現れてな。いつの間にか分裂を繰り返して力による支配が急速に進んだのだ。」


 マナが不安定になる影響はこんなところにあったのか。


「特に混血種は能力にばらつきがあって、見た目はエルフでもエルフの力を持たない者もいる。だから最初に排除される対象になったのだ。」


 生きているだけで犯罪者みたいな目で見られるのはとても辛い。だから混血だけが集まるようになると、逆にそこを狙われて、逃げて逃げて、こんなところに住むことになったのだから。


「争いに負けて逃げてきたのに違いは無いが、追われているわけではない。それでも純血に発見されれば攻めてくるだろうな。我々に戦う力は殆ど無い。味方になってくれる者達もいない。好戦的なのは純血ぐらいなものだが・・・。」


 スーが知っているエルフは混血という事か。銀髪のエルフが周りを見て何かを確認すると、また俺を見つめる。何かを探るように。銀髪が風に靡くと、マナが割って入ってきた。


「太郎を変な目で見ないでよ。」

「いや、済まない。だが、お主から不思議な気を感じるのでな。」

「気?」

「なんと言えばいいのか説明しにくいのだが、なんとなくお主には余計な事を喋ってしまう。優しいというか和やかというか、そんな感覚がある。まるで言い伝えられる神のようだ。」

「神ではないですよ?」

「うむ。それは解っているが・・・お主が自覚していないだけかもしれない。それに・・・その少女。人間ではないな。」


 言われてもマナは驚かなかった。自分が人間のフリをしていて、正体を隠しているという自覚は有るはずなのだが、至って気にしていない。もう少し気にして。頼むから。


「あなたも混血の中の唯一の純血だけど、いいの?」

「・・・本当に何者だ?見ただけで解るなど相当な・・・え・・・まさか・・・。」

「あんたが本当に気を読めるのなら私の正体も解るでしょう?」

「いや・・・しかし・・・。でもこれは間違いない。マナの木の波動だ。なんて心地いい波動だ。自然とマナが融合している。マナの安定とはこれほどなのか。」


 スーとポチは食事を中断し、二人に注目している。


「あー、思い出した。あんた銀髪の志士でしょ。」

「そんなことまで知って・・・いやご存知でしたか。」


 急に言葉を改めた。


「いいわよ、普通に喋ってくれれば。周りが勝手にそんな口調にしているだけだし。」

「あ、はい。いえいぇ。そんな恐れ多い・・・。」

「マナの知り合いなの?」

「知り合いじゃないわ。だけどあれって1000年以上前の事でしょう?」


 1000年以上前に起きた大事件。それはエルフ達が国を創ったことから始まった。森に棲み、自然を愛していた筈のエルフ達。それが国を創ったことで国力は上がり、他国から危険視されたこと。魔女達にも狙われ、戦いが続き、内乱によって国は滅びた。今は規模の小さくなった町が各地に点在するだけである。

 その時に活躍したのが銀髪の志士で、国を守る守護者として戦っていたのだ。戦っていた筈なのだが、裏切り者も現れ、国が滅んだ原因にもなっている。


「銀髪の志士の生き残りってわけね。それがどうして混血エルフを率いているの?」

「まあ・・・その・・・私は裏切り者の方なんです。混血エルフを奴隷のように扱っている惨状を知った時はショックでした。国の為に全てを捧げていたのにその国は最悪の国だったんですから。」

「あー、めんどくさい話はいいや。」


 マナって昔からこんな奴だったのかなあ。気になるところではある。


「ま、事情も解ったし隠してもしょうがないから話しちゃおっか。将来の味方になってくれるかも?」

「将来の味方?」


 なにそれ、俺も知りたい。

 マナは隠し事が苦手なので、ペラペラと軽い口調で話すと、相手の表情がみるみる変わる。


「そうでしたか。マナの木の復活。世界樹を再び。それとは知らず申し訳・・・。」

「いいから、いいから。気にしないで。」

「そうだよな。俺だけじゃ確かに守り切れないもんなあ。かなりでかい木になるんだろうし。」

「俺は数に入っていないのか?」

「ポチもちゃんと付いてきてるじゃない。」

「そ、そうか。」


 スーは複雑な表情をしているが、フーリンがいるんだからもうこっちに入っているだろ。考えるだけ無駄じゃないかな。

 気が付けば他のエルフ達からも注目されている。


「我々も身を潜め生活している。口外する事は絶対にないから安心してほしい。いや、むしろあなた達の方が危険なのでは?これからどちらへ行くのかにもよりますが。」

「スズキタ一族が住んでいた場所に行くんですけど、何か知ってますか?」

「あ、ああ、あの一族の事なら知っている。知っているが一族は1人も生きていないのではないかな。あの集落のような場所も畑は荒れ果てていたし、建物も殆ど住めるようなモノではなかったが。」


 その生き残りの子孫なんだけど言う必要ないよね。なんか面倒になりそうだし。


「建物の他には何かなかったですか?」

「他と言えば、一つだけ崩れていない建物があったがどうしても扉が開かなかったな。たぶん魔法で封印されている。」

「壊れてる建物なおして、住んじゃえばよかったのに。」

「それは考えましたが、山の頂に在りましたので隠れるには不向きでした。」


 封印された扉。そこにマナの事が書かれた書物があれば、この旅の目的は終わる。あればいい程度で出発したが、あるのが確認できると頑張れる気がしてきた。


「折角知り合いになれた事だし、あの苗木置いてこっか?」

「それいいかも。たくさん実が付いてくれる奴が良いな。」

「私が大きくするから問題ないわよ。」

「じゃあクルミの木でいいかな。」

「林檎は?」

「フーリンさんの所に置いてきちゃった。」

「仕方ないわねぇ・・・。」


 食事もそこそこに袋から苗木を出して邪魔にならない場所を探す。


「何をしているのだ?」

「木を植えるからいい場所が無いかなーって。」

「良く分からんが、大きくなるのならあの木と木の間にしてくれればいいが・・・そんなに成長が早いのか、それは。」

「まあ、見てて。マナの能力は感動するから。」


 示した場所に苗木を植えると、マナが何かをやっている。未だに何をしているのか分からないが、苗木が急成長する。大きく太く、上へ上へと伸びる。場所が広いのでいつもより大きく育てている。クルミの木ってこんなに大きくなってたら恐ろしいってくらいデカくなった。実ったクルミが落ちてくる。エルフ達の表情は驚きを通り越して声すら出ない。


「マナ様のこの力ってどこから湧いてくるんですかね?」


 スーの疑問には同感だ。


「これはいったい・・・?」

「木の実が少なくて困っていたでしょう?これなら食べられるし動物も寄ってくるでしょう。」


 俺はもう一つクルミの苗木を取り出して、他に植えて良い場所を教えてもらってそこに植える。マナがぐんぐんと成長させる。これ樹齢で言ったら300年ぐらいあっても不思議じゃない。デカいよ。キレてるぅ。


「これはクルミの・・・こんな見事に実を付けるなんて。」


 感動して涙を流している。小さな畑には痩せ細ったジャガイモが植えられていて、これも成長させる。土が盛り上がるぐらいの大量のジャガイモ畑になった。ちょっとやり過ぎ。


「これだけ有ったらしばらくは生活できるでしょ。100年くらいは安定して実を付けるから安心していいわよ。」


 ついでにミカンも植えて、成長させてもらう。実ったミカンをもぎ取って皮をむいて食べる。うむ、美味い。子供達が興味津々に寄って来たので渡すと、俺を真似して食べる。すごい良い笑顔だ。

 苗木はフーリンさんのところにも置いてあるから、いま持っている他の苗木も置いていっても問題は無い。ってか、使わない種とかもある。あっちの世界の物だから、袋には写真と説明が記されている。これ100円のやつだ懐かしいなあ。ニンジン・ダイコン・キャベツ・ハクサイetc・・・説明すると分かるとの事なので袋から取り出して種を直接渡した。袋は焼却処分しよう。苗木を何本も袋から出す事にも驚いていたが、それ以上に食糧問題が解決した喜びをかみしめている。

 他のエルフ達はクルミの収穫に忙しくなり、食事どころではなくなっていて、翌朝にクルミのパンが出されるなんて想像もしていなかった。






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