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第23話 戦闘

 飛んできた矢を握ってへし折ったスーは、睨んだ視線の先にいる男と面識が有るようだった。それはスーが冒険者だった頃、何度も邪魔されたり騙されたりした相手らしい。

更に矢が飛んでくる、今度は俺が土魔法の武器で叩き落とした。良く見れば遠くから放たれているので、避けることも出来そうだ。そこへ、また男達が襲ってくる。スーは矢を叩き落としながら、突っ込んでくる男達の群れに、それ以上の速さで飛び込む。あっという間に男が5人吹き飛ばされた。あまりの強さにたじろぐ。

矢はスーではなく俺の方に集中して飛んでくる。一本一本を集中して()れば(かわ)すのも容易だった。


「お頭、あの男の方も雑魚じゃなさそうですね。」

「二人でいるのは意外だな。お転婆猫は俺じゃないと無理なのは解っている。あの人数がいるのに逃げ腰だ。援護してやったのに逆にやられてる。しかしあの魔法は・・・。腕を上げたって事か。」


 お頭と呼ばれた犬獣人の男は注意深く見ている。


「お前が俺を呼ぶくらいだから、どんな相手かと思えばこれだ。2万金持っていると言われたら見逃すのはもったしねーな。王都で暴れると目立ってしょうがないから控えたかったが仕方ない!」


 手下にもう一度指示を与える。少し躊躇(ためら)いが有ったが、スーを取り囲むと一斉に飛びかかった。3階建ての建物より高く、真上にジャンプして攻撃を避けると、矢が飛んでくる。狙い撃ちだ。更に真下からの魔法攻撃は、俺が水魔法で発動する前に止めた。水鉄砲の様に飛ばすのは実戦で初めて成功した。俺の顔がちょっとほころぶ。

 スーは空中にとどまったまま、飛んでくる矢をすべてはじき返す。パンツが丸見えでも気にしている余裕なんてない。


「男の方を狙え!」


 指示が飛ぶと、スーを攻撃する時よりも早く動いた。俺は雑魚認定されたんだと思う。戦闘ではスーの方が目立っているので仕方が無いが、突撃してくる男達は、それほど早く動いているようには見えなかった。スーとの訓練の賜物である。

 相手に向かって飛び込むほどの自信は無かったので、後ろに下がりつつ一人を相手に土魔法で作った剣を叩きこむ。こいつら鈍いぞ。スーの様に吹き飛ばすことは出来ないが、3人ほど倒すと、スーが空から降ってきて、4人目の男を蹴り飛ばした。空中での不規則な移動が出来るのは風魔法のおかげだろう。やっぱりスーは強いな。

 俺を攻撃する予定だった男達はスーの姿を見てたじろぐ。戦意はかなり下がったようだ。


「ワンゴーー!!」


 スーの叫び声が辺りに響き渡る。






 それより少し前の時刻。


「太郎が危ない!」


 マナには周囲を探知する能力が有る。だから、実はスーと太郎が二人でどこかへ出かけている事は知っていた。どこへ出かけているかまでは分からないが方向は解る。フーリンが私に何も言わないのだから、問題は無いと思っていた。フーリンがこちらを見る。


「危ない?」

「なんか良く分からないけど、太郎の近くに人がいっぱいいるわ。」

「それだけだと普通だと思うのですけど・・・。」


 人が沢山いるところに太郎がいるのは不思議な事ではない。だが、移動する太郎とスーの後を追いかけるような沢山の人。その時、マナの乱れを感じた。


「やっぱりおかしい、スーと太郎が魔法を使ってる。」

「世界樹様?!」

「ポチっ行くわよっ!」


 マナの表情を読み取ったポチは、外に走り出したマナを追いかける。


「あっ、ちょっ・・・もぅっ。」


 フーリンは何も理由が聞けず、飛び出していったマナとポチの背中を見送る事しかできない。それでも何かの緊急事態であることは解る。太郎君が危ないという事はスーちゃんも危ないのだ。しかし、この町で本気は出せない。何か大きな事件だと、まだ明るいこの時間帯では目立ち過ぎてしまう。悩んだ末にダンダイルのところへ行くことにした。それほど遠くに住んでいるわけではないし、人間程度の速度で走れば10分ほどで着く。カジノで問題が有ったのなら私のところに報告が来ると思っていたのだが、ただ待っているのもつらい。追いかけるにしてももうどこへ行ったのやら・・・。


「世界樹様が暴発しませんように・・・。」


 フーリンは店を閉めて、祈りながら家を出た。正直に言うと世界樹様の戦闘能力は不明なところが多い。マナが無制限に使えるというだけでとんでもない事なのだが、ドラゴンに燃やされても無茶な魔法は使わなかった。自制するという意思は有るのだ。それに、無制限に使えるというのは事実だが、供給より消費が早ければマナの容量が一時的に枯渇する事もある。まだ力が戻っていない事もあるし、大丈夫だと信じたい。


「だ、大丈夫よね?」


 絶大な力を持つフーリンでもさすがに不安になる。世界樹の力が暴発すれば王都にも甚大な被害が出るだろう。フーリンは自分でも気が付かないうちにダンダイルの家の前に到着していた。






 マナを背中に乗せてポチが走る。マナは力を使えばポチより早く移動できるが、それは空を飛ぶことになる。こんな街中で、こんなに人の居る中で空を飛んだら目立ってしまうので、歯がゆくも我慢している。我慢の限界も近いようにポチは感じているが。


「どっちだ?」


 ポチは方向が分からないので、マナの誘導で進む。何人か人を弾き飛ばしてしまったが気にしている余裕はない。目の前の大きな家が有るがマナは急かす。


「あの家の向こうなのか?」

「もっと先。」


 マナを背に乗せたままジャンプする。その光景は周りにいる者達の視線を集め、どよめきが起こった。()()()()()()にも気付かれてしまったようだが、俺には追いつけないだろう。2階建ての家よりも高く跳び、更に向こうの屋根がいくつも見える。空を飛んでいると言っても過言ではないが、俺は跳べない。いずれ着地しなければならず、風魔法もそこまで扱えない。屋根に着地して、スピードを緩めず直進する。いくつもの屋根の一部を着地するたびに壊して、それでも進む。


「あれか?」


 マナが頷いた。視線の先には男が三人屋根の上にいる。僅かだがスーの声も聞こえた。このまま直進して体当たりか。


「しっかりつかまってろ。」


 マナがしがみつくとさらに大きくジャンプして、一気に急降下する。後ろを取ったにもかかわらず一人の男に気付かれた。二人は反応が遅く、体当たりで崩壊した屋根とともに落下する。着地すると周りには沢山の男達。女もいるようだがかなり怯えている。背中にいたはずのマナはいつの間にかいなくなっていた。

 マナはポチの体当たりが屋根を貫く直前に太郎を発見し、そのスピードのままポチから離れた。勢いよく飛んでいき、太郎に体当たりしていた。そんなつもりは無かったはずだが、太郎は受け止められなかっただけとも思う。

 そして、俺の攻撃を避けたあの男。犬獣人か。ゴロツキ共の親玉だろうか、スーの前に着地して、いきなり襲い掛かる。男の剣とスーの魔法の剣がぶつかった。


 斬撃の音は響かない。ゴツン、ゴツンと、鈍く低い音が鳴る。スーは防戦一方だ。反撃が出来ないのは、受け止めた一撃が重く身体に圧し掛かり、姿勢を保つのがやっとだからだろう。しかし、スーは強いと思ったのにさらに強い者がこうも簡単に現れるなんて、王都は恐ろしいところだ。


「うわぁっっんっ。」


 戦闘を見ていただけの太郎の目の前に、聞き慣れない悲鳴を上げながらスーが吹き飛んできた。仰向けに倒れてお腹をおさえている。苦渋の顔は、激痛が襲っているからだろう。


「まだもうちょっと足りないな。」


 余裕を見せ付ける男を睨んだ。怒りに満ちた目で。しかしこの犬獣人に剣技で勝てる自信はない。悔しくて歯ぎしりする。離れたところで眺めていた者たちから歓声が上がる。スーが倒れた事で津波の様に襲ってきた。・・・筈が全員が急に動かなくなった。


「私の力は全部出せないけどサポートはするから頑張って。」


 いつになく真剣な声。襲って来た者達を足止めしたのはマナの魔法だった。足元の草が急速に伸び、身体に絡みついている。次々と伸びてくる草にだいぶ混乱しているようだが眺めている余裕はない。その男にも草を巻き付けて邪魔をしようとするが、なかなか絡め捕る事が出来ないでいる。軽い驚きは有ったが、何も言わず、スーを吹き飛ばした男が急接近してきた。魔法で作った盾で防ぐ。すごい威力だ。ただの攻撃なのに俺は魔法障壁ごと吹き飛んだ。

 マナの悲痛な叫びが聞こえる。その男がさらに近づこうとしたとき、今度は男が吹き飛んだ。何度か転がってすぐに体勢を整える。舌打ちをした。ケルベロスの一撃を受けて平然としているわけではないが、大したダメージはなさそうだった。敗れた服の内側には網の様な服が見える。あれは鎖帷子(くさりかたびら)だ。


「着こんでおいて正解だったな。まさかこんなところにケルベロスが居るとは。だがまだ子供じゃねぇか。」


 ポチの唸り声が地面に響く。こんな恐ろしい顔をするポチは初めて見た。突進する速さも凄い。それを男が両手で受け止めると、頭を掴んで投げ飛ばした。空中に投げ出されても戦意は喪失しない。そのまま空中で姿勢を立て直し、急降下する。巧にポチの攻撃を横に流すと、着地に失敗して前足を地面に埋めてしまった。男はポチの身体を持ち上げると、地面に叩き付けた。


「突進しか脳が無いなんて猪と同じだな。もっとも、まともに喰らえばやばい事には違いねえか。」


 ポチが地面に背中から半身を埋めている。・・・立ち上がらない。怒りに満ちる。満ちてどこかに飛びそうだ。怒りで強くなるなんて妄想はしない。俺が今できる最強の魔法はこれしかなかった。


「奴隷女のお供が、ビビッて声も出ないだろう・・・な・・・んだ・・・?」


 犬獣人の声は耳に入らない。まだ冷静なマナが気が付いて、太郎を止めるのをやめた。無理だと判断して、草で足止めした者達をほっといて、スーとポチを伸ばした草で引き寄せた。犬獣人の視線が固定され、動けたはずなのに動かず、それを見て驚きを隠せない。


 でかくなる。


 デカくなる。


 更に大きく。



 俺の頭上には巨大すぎる水玉が一つ浮かんでいた。


「あいつだけ見て!」


 マナの声に反応して睨む。


「もっと集中して!」


 身体中にマナが流れるのを感じる。


「はじけて!」


 その声で俺の頭の中には、巨大なダムが放水する景色が浮かんだ。莫大な水が轟音を響かせて流れ込む。たった一人の男に向かって、水が流れる。一瞬にして男を飲み込み、流されてゆく。その途中でマナが男の足を草で掴む。がっちり固めて流されないようにすると、男は溺れる寸前の形相でもがいている。たっぷり1分近く強制的に溺れた男から水が無くなると、力なくその場に倒れた。


「大丈夫、死んでないわよ。」


 マナの声に安心すると、使い過ぎた魔法でマナを失い、その場に倒れた。






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