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第171話 オリーブオイルとヒマワリ

 柿の種が届いたのは翌朝の事だった。

疲れて寝てしまったらしい。

早速植えて、うどんに大きくしてもらう。


「柿の花って初めて見たな。」

「そうなんですか?」

「実に成ったところしか見た事が無いからな。この花も蜂蜜になるのか?」

「蜜が取れればなるんじゃないんですか?」


 分からない事は聞いてみよう。


『この花の蜜ですか?』

『うん、採れるかな?』


 ビビビっと、咲いている花に近づく。


『問題なく出来ます。』

『ふむー・・・花が咲けばだいたいの蜂蜜は作れるって事なのかな。』

『我々は花なら何でも集めていた訳でもないので解らないですが。』

『棲んでいる環境にもよるだろうからねぇ。』

『詳しく知りたいのでしたら女王様に会えば宜しいのでは?』

『行くとスーとマナに怒られそうで。』


 種を持って来た妹は、太郎を不思議な目で見ている。

 キラービーを怖がらない事ではなく、会話をしているからだ。


「ここに住みたい。」

「ダメじゃぞ。」

「あの家なんにも無いじゃないのー。」

「必要な物は置いてあるはず、足りないモノは自給自足が当たり前じゃ。」

「たまにはココに遊びに来てもいいわよね?」

「たまに来るくらいなら構わんぞ。わらわもは世話になるだけじゃなく役に立つつもりでココにおる。お主も土産の一つは持ってくる事じゃ。」


 半分納得して、半分諦めた妹のツクモだった。

 その柿については、ナナハルとツクモしか知らなかったのか、俺以外の者達が物珍しそうに見ていた。

 ちょっとだけ実にしてもらっていいかな・・・マナ、じゃなくて、うどん頼む。


「これってどうやって食べるのですか?」

「基本的に皮は食べないから。」


 説明している横でマナとグリフォンが皮ごと食べていた。


「皮も甘いぞ。」

「かたくて食べ難いだろ。」

「ちょっとゴワゴワするわね。」


 太郎が幾つかもぎ取って、皮をむk・・・しかし、道具が無かった。


「太郎様、ナイフ持ってきました。」

「あ、じゃあ頼んでいいかな。」

「はい!」


 満面の笑顔で皮をナイフで綺麗に剥いてゆく。

 すげー・・・こんなに薄く剥けるんだな。

 木の皿もいつの間にか用意されていて、剥いた柿が積み上げられていく。


「ぱぱー、たべていいー?」

「いいよ。」


 子供達が優先して食べるのが普通で、マナとグリフォンが、ある意味子供扱いになっているのも困ったモノだ。

 どんどん無くなっていく柿。

 剥く係が一人から、二人に、二人から三人になった。

 エカテリーナとスーとナナハルが剥いているのだが、今度は柿が無くなった。


「あんまり食べると夕食が食べれなくなるぞ?」

「ひゃんふぉひゃへるひょよ!」

「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい。」


 ごっくん。


「ついに丸飲みしたな。」

「ちゃんと噛んだわよ。」

「そーいや、マナにも歯が有るんだよな。」

「なによ、当り前じゃない。」

「まー、そうなんだけど。」

「もうちょっと増やしますか?」

「いや、うどん、もういい。」


 花が咲くと実が成って直ぐにもぎ取られて食べられていたから、キラービー達も蜜を集める暇が無かった。なので花が咲いたところで成長を止めてもらう。


『蜜いただきますねー。』

『よろしく~!』


 ツクモが耳をピクピクさせていた。

 慣れないと気になる音らしいが、残念な事に俺には分からない。


「それにしてもなんか増えたな。」

「それは・・・まあ、一人犠牲になってますから。」

「そーいや、そうだったな。」


 しばらくは、キラービーの働く姿を何となく眺めていた太郎だった。





 キノコを育成する。

 忘れていたとはいわない。だが、その為の環境というモノをまるで知らない。

 シイタケ、しめじ、えのき、エリンギを見付けたのは良いのだが、何も出来ずに放置している。薄暗くてじめじめした場所と言えば、鉱山の中がぴったりなのだが、栽培するには少し遠い。


「余計な事はしたくないな。」


 グルさんに言われては仕方ないので鉱山は諦める。

 いや、新しく掘ればいいのか?


「太郎さんが一人で掘るんですよね?」


 他の案を考えるか。 


「育成なら私にお任せいただければ。」


 うどんはそう言って自分の身体にキノコをくっつけている。

 もの凄く異様な光景だ。

 いや、そうじゃない。


「収穫はどうするつもりなんだよ。」

「普通に摘み取ってください。」

「・・・。」


 肩に生えているシイタケを抜く。


「あんっ。」


 変な声を出すうどん。


「あっ・・・あぅっ。」

「この方法禁止な。」

「えーっ・・・。」


 さて、改めて考えよう。


「私の袋の中で育成したらー?」

「うん?」

「キノコを育てるにはじめじめしてて良いわよー。」

「あそこって時間の流れが普通と違うんじゃないの?」

「そう・・・なの?」

「どーせ、うどんか私が行かないと育たないんだったら意味ないじゃない。」

「そうなのー?」

「育つ理由も良く分からないんだけどなあ。」

「私にはキノコ菌というモノが解らないのだけどー。」


 魔女にもマナにも説明したのだが、正直俺も良く分かっていない。

 育てる事に関してはマナもうどんも大きくしてくれるから、何が違うのかも良く分からない。キノコは植物なのか?


「キノコ類の栽培は専門の農家がおるで、そこから買った方が楽じゃろう。」

「いるんだ?」

「妹の方がその農家に詳しいようじゃがな。」

「キノコ料理が美味しくて・・・ツイ。」

「キノコって山で採取した方が楽なんじゃないの?」

「種類によってはそのようじゃな。」

「じゃあ、とりあえずお金は・・・困ってないよね?」

「まだまだ余裕ですよー。と、いうか、報告する必要が無かったんで言わなかったですけど、兵士達が食べに来る分はきっちり代金を請求してますので、増えまくってますねー。」

「お手伝いしてくれた人達にはお給金も出してます。」


 そんな事までしてたのか。

 お金は有っても使い道が無いだろうけど。


「以前の商人の所為で物欲を思い出してしまってな、許可さえ貰えれば商人に来てもらうのではなく、こちらから街まで買いに行こうと思っている。」

「そんな事で俺の許可なんか必要無いから、オリビアさんの方で決めてください。」

「30日以上は不在になるが、構わないのか。」

「構いませんよ。」


 なんでも俺に許可を求めるつもりでいるのは、そろそろやめて欲しいんだが・・・。


「そうだな、確かに太郎殿を煩わせる必要も無いか。」

「そうそう。」

「いろいろと油も足りないし、来るのを待つのももどかしくてな。」

「油って・・・灯り用じゃないよね?」

「むろん、食用だ。我々の方でも料理はするのだから。」

「動物性の油ってなんかべたべたしますもんね。」

「しかし、植物性はなかなか高くて。」

「それなら、オリーブオイルとか作った方が良いかな。」

「作れるのならその方が良いが、種も無いだろう?」

「そーなんですよねー、オリビアさん達で誰か持ってませんかね?」

「加工済みのモノなら少量有るが。」

「ですよねー。」

「オリーブは我々よりも長生きする、種くらいなら直ぐに手に入ると思うんだが。」

「そういえば・・・。」

「なんじゃ、わらわか?」

「そう、米からも油ってとれたよね?」

「知らぬ。」

「あれ?」

「米のどこに油なんかあるのじゃ?」

「米ぬかを絞るって聞いた事が・・・。」

「米は確かに色々な物に使うが・・・油なんぞ取れたかのう?」


 ナナハルが首をひねっているくらいだから、この世界には米油なんて無いんだろう。


「魚油はあるよね?」

「あるが、臭くてかなわん。」

「魚醤もあるよね?」

「うむ。」

「発酵食品なら納豆もあるか。」

「あれは、わらわはちょっと苦手じゃ。」

「癖が有るからねぇ。」


 二人の話に入れなかった者達が集まって会話をする。ある意味太郎の品評会だ。


「太郎殿は本当に博識だな。私には何の話をしているのやら。」

「たまに意味の分からないことも言いますけどねー。」

「魔女として知識には自信があったのだけれど・・・。」

「太郎様には色々教わっていますから!」

「太郎はただのロリコンじゃないからね!」


 ロリコンだけが太郎の耳に届く。


「なんでマナは俺の事をそう言うんだよ・・・。」

「まぁ、それはさておき、太郎の知識の素を知りたいモノじゃ。」

「本なら有るけど・・・日本語だから俺しか読めないんだよなあ。」

「少しくらいなら読めるわよ。」

「漢字ですぐ読めなくなるじゃん。」

「文字の種類が多過ぎなのよ。」

「そりゃ、そうだけども。」

「あんなの、暗号より難しいじゃないの。」


 マナと太郎の会話にもついていけなくなる。


「それより、油の話はどうするんですかー?」

「忘れるとこだった、とりあえずオリーブを探すか。」

「オリーブが有るんですか!?」


 横から飛んできたのはカラーだ。


「オリーブを知ってるのか?」

「もっちろんです、好物ですから!」


 なるほど、食意地の方か。


「無いから探してるんだが、どこにあるか知らないか?」

「この辺りでは見ないですねぇ・・・。でもちょっと待っててください・・・。」


 カラーのボスが何かの号令をかけたのだろうか、カラー達が群れで集まって来た。

 何をしてるんだ?


「誰か隠し持ってるやつはいないか?」

「あー、こいつが隠し持ってます!」

「何でばらすんだ、俺の宝物だぞ!」

「お前ら喧嘩スンナ、太郎様がオリーブを育ててくれれば毎日好物が食べられるんだぞ!」


 鳥達のどよめきってなんか怖いな。


「大切にしてたんならそのまま持ってても・・・。」

「ほら、早く出せ。」


 太郎の肩にとまり、羽根をパタパタすると、3粒のオリーブの種が落ちてきた。


「今はこれが精いっぱい・・・。」


 どこかで聞き覚えのあるセリフだが、こいつらが知っている筈はない。


「これ発芽するのかな?」

「やってみよっか?」

「ココではヤメテ、果樹園に行こう。」




 果樹園の一番隅っこにオリーブの種を3粒地面に置く。種とはいえ死んでいるかもしれない可能性が有るので、無理なら返すつもりだからだ。だが、そんな心配も杞憂に終わって、マナがモリモリと育成させると、あっという間に花が咲いた。

 普通は実に成る為に必要な事が有るのだが、そんな事も関係なく一気に実が成った。カラー達が大喜びしている。


「食べる分とは別にしてもらわないと。」


 食べても良い木と採取用の木と分けて、カラー達には害虫から守ってもらう役を任せる。とは言っても田んぼの方でも仕事を任せていたので、害虫駆除はカラー達の仕事になっている。

 その中の一匹が太郎の肩に乗ってきた。


「あ、あっあの。」

「どしたの?」


 羽根をパタパタさせると、落ちてきたこの種。


「ヒマワリの種か。」

「僕の好物なんですけど増やしてもらえませんか?」

「いいよ。って言ってもマナ次第だけど。」

「ヒマワリの種って・・・何の役に立つの?」


 マナの質問に鳥がしょんぼりしている。


「まあ、一応、人でも食べられるし、その種から油も採れr・・・あー、ヒマワリから油取れたな。」


 マナが驚くと、鳥も吃驚。


「採れるんですか?!」

「うん、まあ搾っちゃえば基本的にはだいたいの植物から油は取れる筈なんだけど、含有量の問題が有ってね。」

「じゃーこれも一気に育てちゃう?」

「あんまり無理矢理育てると背丈が大きくなり過ぎるから。」

「じゃー、これでどう?」


 効果音が有るとしたら、ズン!っといった感じだろうか。

 ドラム缶みたいな茎の上にヒマワリが咲いている。

 これではまるで・・・。


風車ふうしゃみたいだね。」

「たねがぎっしり・・・詰まってる!」

「既に零れてるんだが。」

「食べて良いですよね?」

「ヒマワリだからねー・・・植える分を残してくれれば。というか、まだ夏にもなってないんだが?」

「マナ様に言っても無駄だと思いますよー。」

「うん、しってた。」


 カラー達が溢れて落ちてくる種を拾い集めて・・・羽根の中にしまい込んでいる。そんなに入るのかってぐらい詰め込んでいる。


「そんなに慌てなくてもまた増えるから。」

「あっ、あー、そうですねっ。」


 と、言いながら詰めている。

 そんなので飛べるの?

 太郎の心配を他所に、カラー達がどんどん群がってきて、ヒマワリの種が綺麗に無くなってしまう。

 いや、5粒ほど残っているか。


「もっかいやる?」

「今日はやめとこ。」


 案の定飛べないカラーが居て少し零している。

 なんか不安になる鳥達なんだよな。

 うん。






「・・・気付かれているわね。」

「そうなんですか?」

「気配を消すにも限界は有るわ。」

「結界を張っても?」

「こんな所で結界を張ったらその時点でバレるわ。」

「確かに・・・。」

「気付いているのはあの人だけ・・・のようだけど。」

「あの人?」

「もう少し離れて様子を見ましょう・・・って、何をやっているのか分からないけど、あんなに集まっているとやりにくいわ。」

「何をやっているんですかね?」


 山の上から見下ろしているだけではハッキリと解らない。

 ただ、見下ろした大地はドラゴン達の炎で焼けた後になっているから、見晴らしだけはとても良い。要するに視線を遮る木が殆ど無いのだ。


「何回見ても意味の分からない村よね。」

「そう言われるとそうなんですよね・・・あんなにデカい木と幾つかの家。それにしては小さ過ぎる畑。」

「あれ、キラービーじゃない?」


 近付いた分だけ新たな発見は有る。


「雄殺しの?」

「あの水を張った枠は何かしらね?」

「あー、アレは田んぼですね。」

「思い出したわ、米でも作る気なのかしら?」

「あれ、なんかキツネが増えてませんか?」

「良く気が付いたわね、九尾が二人いるわ。」

「子供も増えてます。」


 報告書の資料に目を通し、確認しつつ村を見下ろす。


「兵士の数が全然違いますし・・・。」

「一度、隠れ家に行きましょう。」

「隠れ家・・・ですか?」

「ええ、迷いの森に有るのよ。」

「そんなところに・・・ですか?」

「もうそろそろ気が付いてくれても良いんじゃない?」

「・・・。」


 二人はゆっくりと歩いて下山し、森に向かって行った。






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