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第164話 驚きの連続

 それからしばらく、フーリンとマナと、魔女のススキダ・マリアが雑談をしているのを、太郎とオリビアが聞いている。うどんは太郎の頭に大き過ぎる胸を乗せて立っているだけだ。話は聞いているようだが。

 喉が渇いたらしく、神気魔法で水を注いで飲むのを見たマナが興味を示した。


「それ、ちょっと頂戴。」

「いいわよー。」


 一口飲んだマナの表情が芳しくない。


「不味くない?」

「神気魔法ってこんなモノよー。」

「太郎のはすっごく美味しいわよ。」


 マナがフーリンに自分の飲みかけの水を渡し、受け取って飲んだ時の表情は、案の定といった感じだ。


「なんか苦いというか泥っぽいというか・・・。魔力は同じ感じですけど。」

「そーなのー?」


 三人に見詰められてから水を注ぐ。笑顔で受け取った後に飲み始めると、そのまま一気に飲んでしまった。


「ナニコレ、チョー美味いんですけどー?!」


 なんか急に変な言い方になる人だな。

 いや、魔女か。


「これが普通だと思っていました。」

「待って、今美味しくするから、同じのをもう一杯頂戴。」 


 もう一度水を出すと、じっくりと味合うように飲んだ後、目を閉じて集中して水を出す。そんなに気合い入れなくても良いと思うのだけど。


「今度はどう?」


 マナが飲む。


「あらー、確かに美味しくなったわね。まだ太郎の方が美味しいけど。」

「美味しい水を飲み続ければ同じくらいにはなるわー。」

「今までどんな水を飲んできたんですか?」

「閉じ込められていた間は自分の魔法でしか水を得られなかったからー。」

「不味くなった事に気が付かなかったと。」

「そうそう。」


 外のドアがノックされ、エカテリーナの声がする。

 遠慮して中には入ってこない。


「太郎様ー、お水くださーい。」

「今行くよー。」


 席を立った太郎に吃驚する。


「アナタも普段の生活に神気魔法を使ってるのー?」

「風呂も俺の魔法ですよ。」


 魔女の目が大きく開く。

 純粋に驚いているのだろう。


「・・・ちょっと見誤ってたわー。」

「魔女も食事は普通にするんですよね?」

「もちろんよー、お風呂も入りたいしー。アナタの水なら期待するわー。」


 太郎はそのままエカテリーナの所へ向かい、マナとうどんもついて行く。フーリンが何か言いたそうにして黙っているのを感じ取ったお婆様はそのフーリンに笑顔を向ける。その笑顔に向けて質問するフーリンの声は、心配しているといった感じだ。


「やっぱり、住むんですか?」

「んーふふー。」

「お婆様?!」

「あの子を見てたら私もまた子供欲しくなっちゃったー。」

「太郎君との子供?」

「あんな()()な普人なら逃す理由はないわー。あの子の好みがわかれば姿も変えるのだけどー。」


 優秀に反応するオリビア。


「やはり太郎殿との子供は優秀であるのですか?」

「抑えきれずに身体中から魔力が滲み出るような人よ、子供に少しでもその力が受け継がれれば、父親以上の子供が沢山出来るでしょうねー。」

「なるほど。」


 フーリンはオリビアについては何も言わない。何か言う立場でもなく、エルフ達が優秀な子孫を欲しがる理由も納得できるからだ。


「九尾の子供もいるのだからー・・・あーゆーのは押しに弱いはずよー。」


 オリビアが真面目に考え込んでいる。


「フーリンちゃんは欲しくないの?」

「せ、世界樹様のお相手なのですよ。」

「あー、子供好きなのかー・・・ちょっと意外ねー。」

「意外でも無いような?」


 三人が三様の思いで悩んでいる。フーリンは最初から諦めているので問題は無いが、オリビアにとっては今後のエルフの盛衰にも関わる。改めて考える必要に迫られていた。




 そんな事で悩んでいるとは露ほどにも知らない太郎は、神気魔法で水を創り、水瓶に溜めていく。手伝いに来たエルフ達も加わり夕食の準備で厨房が活気に満ちると、自分が邪魔になると感じ、外で遊んでいる子供達を迎えに行った。

 分かり易い場所で遊んでいたので、最初にグリフォンと合流すると子供達も集まってくる。一気に騒がしくなったが、ここからは畑を見て回り、世界樹の苗木に水をやり、倉庫の兵士達と挨拶をして、世界樹に栄養を与えると、鳥達とキラービー達がコレデモか!ってくらい一気に集まってくる。太郎の周りに集まったので子供達も近づけない程だ。


「なになに、どーしたん?」

『私達、このままここに居て良いんですか?』

『そんな事で心配しなくても良いと思うけど、魔女が来たから?』

『あの人は魔女なんですね。』

『うん。やっぱり怖い存在?』

『はい。』

『流石にみんなに手を出したりしたら俺が怒るけど・・・勝てる自信はないなあ。』

『それだけでもありがたい話です。王女様にそう伝えておきますね。』

『よろしくー。』


 キラービー達が満足して帰っていくと、今度は鳥が体中にくっついてくる。磁石みたいだな。


「魔女の食事になりませんよね?!?!」


 こいつさっき肩にとまってたやつだな。


「あのまま肩に乗ってればカッコよかったのに。」

「そんなー、我々だって怖いんですよー。」

「俺も怖いよ?」

「せっかく安住の地だと思っていたのに・・・。」

「別に無理できないなら世界樹の枝にとまって隠れてればいいんじゃないの?」

「太郎様の一番弟子としてはー・・・。」

「一番に逃げたよね?」

「ははは・・・いやー・・・そのー・・・。」

「まぁ、俺の力で守れる程度の事なら守ってあげるから、ね?」

「たろうさまー!!!」


 鳥達の号泣って、恐いを通り越して気持ち悪いな。


「魔女一人で大騒ぎになったわね。」


 マナの言葉に重みを感じる。


「なー、タロー。」

「うん?グリフォンも?」

「我はそーじゃない。タローの為なら命を張っても良いぞ。ただ・・・。」

「張ってもらっても困るけど、なに?」

「こんなに自分が弱いと思い知らされて少しショックなんだ。」

「素直なのは良い事だよ。」

「そーゆ―問題でもないが、タローが良いなら良い。」


 グリフォンが鳥を払い除けて抱き付いてきた。これが波動の影響って事か。

 子供達が羨ましそうに見ていて、遠慮しないマナが太郎の頭に乗る。なんか、もう一つたりない気がして思い出した。


「魔女がこれほどなら・・・シルバも気が付いたんだよね?」


 するっとポン。


「・・・聞いていました。」

「なんか久しぶりだね?」

「必要な時に現れたり、呼ばれなければ数百年くらい姿を現さないことも普通ですので。」

「でも、聞いてたんだ?」

「とてつもない魔力を感じましたので見定めていましたが、太郎様と比べるまでもありませんでした。」


 なんとも言えない感想だ。


「ところで、あれほどの魔力の持ち主が突然現れたのも不思議なのですが?」

「魔法袋に閉じ込められた話は聞いてなかったの?」

「あの袋に人が入れるという事を知りませんでした。」

「好きで入った訳では無いみたいだけどね。」


 太郎の返答を聞きつつも、何かを気にして周囲を見渡すシルバ。


「・・・ウンダンヌも来たようです・・・。」

「どこ?」

「あそこです。」


 指し示す方に視線を向けると、水の塊が宙に浮いて子供達・・・いや、ハルオとハルマを捕まえて見詰めている。見定めるというより、品定めしているようだ。

 これは()()()的な直感が!


「・・・可愛い!」


 意味が違う方向になったが、イカンのは間違いない。


「なんかすっごいのが見えるんだけど気の所為かしらー?」


 食堂に行ったはずの魔女がフーリンと一緒にこちらを眺めている。


「太郎君が呼び寄せているようです。」

「なるほどねー。」


 太郎が慌てて子供の傍に近寄ると、ウンダンヌが気が付いたようだ。いや、最初から気が付いていたのに、意識は完全に子供に向けていたのだ。


「あら、主ちゃん?」

「その呼び方・・・結局俺が主になるのか・・・。」

「厳密にはまだ候補だけどねぇ。」


 子供達を自分の後ろに移動させても、ウンダンヌは覗き込むように見ている。身体が柔らかいというか、ほぼ水なので自由に形が変わって、ちょっと気味が悪い。


「・・・この子達、私が見えてる。」

「マナ、俺の魔力・・・吸われてないよな?」

「うん。」

「凄い素質ね・・・将来の主ちゃんになってもらう為に私が育てようかなー。」


 いつまでも子供の姿な訳ないのだが。


「子供達が自分の意志で育てられたいと思うのなら良いけど、少なくとも今はダメ。」

「なんかメンドクサイ言い回しね?」

「まだ子供なんだよ。」

「んー、早い方が良いわよ?」

「産まれてからまだ一年経ってないんだが。」

「へー、凄いじゃん。」

「凄いんだろうけど、他にも色々と覚えないといけない事が有るからね。意味も無く強くなったら魔物と変わらなくなるから。」


 それらの光景を少し離れた所で見物している魔女は、フーリンの腰辺りを叩きながら言った。


「私なんかよりフーリンちゃんがあの坊やとの子供を産んだ方が良いと思うのだけどー?」

「そんな気は無いので勘弁してください。」

「そぉー?」


 視線を感じた太郎の背筋がゾクっとする。急に変な動きをするモノだから、子供達が心配そうに父親を見ていた。





 暫く子供を口説いていたウンダンヌが、やっと、渋々、諦めると、シルバと共に姿を消した。それを観察していた魔女がこちらに近寄ろうと歩き始めたのだが、直ぐに歩みを止める。理由は食堂の厨房から良い匂いがしたからだ。


「ちょっと気になるモノが多くて疲れる村だけど、何年生きても好奇心って衰えないモノねー。」


 空腹には魔女もハーフドラゴンも勝てない。


「この村の食事は絶品ですよ。」

「それは期待しちゃうわー。でもあっちも気に成るのよねぇー。」

「どれですか?」

「あれ、世界樹よねー?小っちゃいけどー。」

「やはり、危険ですか?」

「当り前だけど今は危険じゃないわー。それよりお腹空いたわー。」

「エカテリーナは料理が得意なんですよ。」

「美味しい水に、美味しい野菜。肉も有って調味料も有る。そして何より腕のいい料理人。」

「お婆様?」

「あー、羨ましいわー・・・。」


 羨望の眼差しを向けられ、太郎はなんとも言い難い表情になった。しかし、子供達に引っ張られながら食堂に入ると、そんな事を忘れてしまうくらい豪華な料理が並べられていた。

 フーリンとダンダイルがいる時でも普段は普通の食事なのだが、商人達が持ち込んだ食材にはエカテリーナが欲しくても手に入らなかったものがあり、それを知っているスーが、巧みな話術とボディタッチで手に入れたのだ。


「これってカレーの匂いもするな。」

「そうなんです、太郎様の教えてくださった料理が遂に完成しました!」

「あの商人達ってちゃんと商品を持ち込んでたんだな。」

「バカ商人だけじゃないですよー。ちゃんとした人もいるのでー。」


 語尾を伸ばして喋るのはスーだ。

 魔女の方は伸びているというよりおっとり喋っている感じで、声の質も違えばおっとり感も違う。スーは割りとセッカチかもしれない。


「あらあらー・・・見た事の無い料理がずらりとあるわねー。」

「サラダも艶々。」


 珍しくフーリンがつまみ食いをする。もちろん誰も止めはしない。ダンダイルは兵士達と食事をするつもりで兵舎の方へ行ってしまっていたが、それを連れ戻すのに多少の時間を必要とした。

 久しぶりにグリフォンも一緒に食事をし、ポチ達ケルベロスもカレー味が染み込んだ肉をガツガツと食べている。


「うまい!」

「おいしい!」


 あちこちから聞こえるが、口は会話よりも食べ物を欲し、会話は続かず、次々と料理が消えていく。

 実は食堂の隅の席に商人達も居るのだが、ダンダイルが居る事を知って大人しくしていた。その商人達が持ち込んだものにワインが有り、食前にも食中にも食後にもワインが振舞われた。


「太郎様はワインを飲まないのですか?」

「アルコールがそれほど得意では無いからね。酒を飲むくらいなら、エカテリーナの作ってくれた料理を食べた方が良いし。」


 エカテリーナが嬉しそうに恥ずかしそうに、モジモジする。

 マナが汚れた口の周りをスーに拭き取ってもらった後、子供達に食べ方を注意している。確かにマナはこぼしたり落としたりはしないが、口いっぱいに頬張るモノだから、直ぐ汚れる。どっちが子供なのか、と、小一時間問い詰めたい。





 お腹がいっぱいになれば眠くなる。どんな生き物でもそれは同じだ。

 片付けも終わり、みんなが寝床へ向ころ、残飯処理しているうどんを眺めながら、テーブルの隅でモソモソと一人で食べているエカテリーナを知っている太郎は、本日の功労者を無視して寝ることは出来なかった。


「今日は大変だったね。」

「ありがとうございます、でも色々と新しいモノを作れて楽しかったです。」

「カレーは今後も作れる?」

「あと数回ぐらいです。それにしてもカレーって癖になる味ですね。」

「毎日食べても飽きないくらいではあるかな。」

「さすがに三食続けてはしないですよ。」

「俺は一人暮らしだった頃は一週間ぐらい連続で食べてたな。」


 安く済むからとは言わない。


「そんなにですか。」

「ナニに付けてもイケるんだよね。」

「なるほどー・・・確かに・・・イケそうですね。」

「食材がいっぱいあるからココではやらないけど、困った時はカレーに柔らかそうな新芽や根っことか煮込んで食べるのもアリだしね。」

「へーっ・・・。」

「長旅にもカレールーを作っちゃえばすぐに食べれるように出来るし。」


 ルーについて簡単に説明すると理解してくれた。


「幾つか作ってみましょうか?」

「グルさん達が洞窟生活するかもしれないし、あってもいいかな。」


 その後は他愛もない会話をいくつか交わし、食後のお茶を二人で楽しんだ。

 何故かうどん以外と出会わない二人は、そのまま朝まで一緒だったのは言うまでもない。






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