第146話 払拭
太郎達が見守る中、スーはワンゴと一騎打ちをしていた。彼女が望んたことであり、太郎は最初から止める気は無かった。もちろん、危ないと判断したらすぐにでも止めに入るつもりでいるが、何時がそのタイミングなのか分からない。
果敢に攻めているように見えるスーは明らかに焦っていた。普段の冷静さが多少は残っていても、攻撃の手を休めたら反撃が来るのを予測している以上、止めることは出来ない。しかし、ジェームスやフレアリスらの所見は違った。
「そろそろ手詰まりだな、入るか?」
「そうね。」
スーは頑張って戦っているが、力任せな攻撃は苦手な上に、体力の消耗が激しい。
「いい武器持ってるな・・・おめーなんかにはもったしないだろ。」
金属同士が衝突しているので、どちらも刃こぼれは酷いが、スーの持っている剣の方が、刃こぼれが少ない。ワンゴの会話は一方的なモノで、スーは返答できず、これが余裕の差だった。
「あいつ・・・手を抜いてるな。」
「そうね。」
「殺すつもりじゃなくて屈服させるのが目的だったのか。そうか、なるほどな。」
ジェームスが戦況からそう判断した。ワンゴの部下の方も見ているだけで邪魔をしない事も、そう判断した理由の一つだ。もちろん、不穏な動きを見せればすぐにこちらも動く。と、眼力を強めている。
「我が参加すればすべて終わるのだがなー。」
「まだ・・・ちょっと早いかな。」
「俺も参加したいぞ。」
「そこで大人しく座っててくれると助かる。」
何故かグリフォンとポチが同じポーズで待機している。一方はどう見ても犬っぽいから問題ないが、もう一方は巨乳の女の子だから違和感が凄い。
「ボス、追手が来ます。」
「チッ・・・意外と早いな。」
この会話はスーには聞こえているが、聞こえただけで頭には入っていない。
「悪いが今回はココまでだ。」
スーの振り下ろした剣をしなやかに受け止めると、弾き返すのではなく、そのまま更に接近させ、横を抜けるように半身を回転させると、いつの間にかスーの首がワンゴの腕に包み込まれていた。
「巧いな・・・と、そんな場合じゃない。」
感心してしまうところをすぐにやめて、ジェームスは剣を抜いた。スーを腕に抱いたまま再び回転したワンゴが、まるで人質を見せ付けるように姿勢を変えた。その時のスーの表情は死人に近い。
「こいつの首が身体と切り離されるところを見たいのだったら近付くがいい。」
「・・・。」
誰も動かない。
「別にそいつがどうなっても我は気にしないが?」
そう言って動き出したのはグリフォンだ。
止める声など気にせず、前に進む。
しかし、胸はデカイが見た目は子供だ。
「こいつもお前の女なのか・・・?」
ワンゴが怪訝そうな表情で太郎を見る。スーはぐったりとしていて全く動かないので、少し動き難く、抱えて移動する気も無いので、片手でスーを持ち上げると子供に向かって投げつけた。
「受け止めて!」
太郎の声が聞こえなければ横に避けただろう。仕方がなく受け止めて、地面に横たわらせる。その時ワンゴたちは森の中に入るのではなく、宙に浮いて、飛んで行った。
その方向が迷いの森の方に向いていたので慌てて追いかける。
「あっちは拙い!」
太郎が傍に居た、先程助けたエルフの女性にスーを任せると、スーをそのままに残して飛行して追い翔ける。ワンゴに捕まったとはいえ、ここに住んでいるエルフ達は強いのでそれほど心配はしていない。
「なにがまずいのかしらね?」
フレアリスは飛ぶのがあまり得意ではないので、ジェームスに抱えられている。
「あー、蜂がいるからじゃないかな。」
「あんな奴にバレると色々と拙そうね。」
「巣を狙いに来るように成ると面倒だな。その前に吹き飛ばすのも・・・ん?」
太郎が追いかけながら水玉を幾つも投げている。後ろから見ていると、弧を描くように投げていて、巣の方に近寄らせないようにしているのが分かる。
「太郎君は本当に化物じみているな。飛びながらあんな魔法をポンポンと放つなんて常識じゃ考えられん・・・。てか、何であいつらあんなに本気になって逃げてんだ?」
確かに喰らえば墜落しそうなほどの大きさが有る水玉だが、あの魔法では特にダメージは無いだろう。
「堕ちたら痛いか。いや、その前に地上に降りればいいのにな?」
「そうね?」
「もう少し加速する。」
まるでカップルのように抱き付いているフレアリスが、その抱き付いている腕に力を入れると、一気に加速して最後尾だった二人が追い付いた。
太郎とグリフォンの会話が聞こえるくらい接近すると、太郎は水玉を投げるのを止めていた。
「よし、我に任せろ!」
「・・・思いっきりやっていいけど、当てちゃダメだからね?」
「わかってる!」
もの凄い重圧な魔力の流れを感じると、子供の口から空を焼き尽くすような炎が一直線に吐き出された。
これに驚いたのはワンゴだけではない。
「まるでドラゴンの炎だな・・・。」
「そ、そうね。」
ワンゴ達がさっきより本気を出して逃げていて、ちりぢりになっていくところでグリフォンが広範囲に炎を吐き出した。
「あちちっ。」
実際太郎は熱くなかったが、思わずそう口にしてしまった。
ゲームの影響だなんて誰にも分からない。
「すまん、少し漏れたか?」
「いや、大丈夫。」
逃げて行くワンゴ達だったが、ピタリと止まった。その所為でグリフォンは次に吐こうとした炎を止めて悔しがる。
「何で止まったのだ?!」
「・・・あそこ!」
マナが指を差した先から、次々と人が浮いて出てくる。
「見つけたぞ、ワンゴ―!」
どう見ても兵士の服装をしている者達が何人も現れてワンゴ達の逃げ道を塞いだが、次々とワンゴの部下達に倒されて墜落していく。グリフォンがガッカリして呟く。
「弱すぎるな。」
「いや、あれは盗賊達の方が強いんだ。ワンゴの側近になるくらいなら相当な腕だろう。少なくとも一般兵士レベルでは勝てん。」
「一般兵士なんですか?」
「・・・一般じゃないな、ってあいつは将軍じゃないか・・・。」
ジェームスが驚いているが、どれが将軍か分からない。一番良い装備をしているのが将軍と考えるのが常識なのだが、その常識から考えると、一番小さく見える少女のような猫獣人しかいない。
「まさか、あの子ですか?」
「・・・あー見えてもかなり優秀だぞ。そうじゃなきゃ将軍に成れる筈がないだろ。」
そうこうしているうちに、ワンゴと兵士達が乱戦となって、少しずつ地上に降りていく。太郎達はキラービーの巣を守れたことで目的は達しているので、少し離れたところに降りた。
「トヒラか・・・俺も舐められたな。」
「この村に近寄らせるな!」
兵士達がワンゴ達を囲むが、すでに半数がやられている。
「妙な動きをするな?」
「俺達が逃げやすいように動いてますね?」
「お前もそう思うか。しかし、どちらにしても無理して進むような村じゃないな。」
キラービーの事を知っていればもう少し違う考えをしたかもしれないワンゴは、諦めて向きを変えた。倒せないような相手ではないが、倒したところでまだあいつらがいる。あんな炎を出すバケモノとの戦闘は御免だ。
「戦闘が得意とは知らなかったな、ん?」
ワンゴが嫌がらせのように言っているが、言われている方はいちいち応じない。
「囲め!」
「ふん・・・冗談の通じない奴らだ。」
ワンゴの部下達は戦うことなく逃げて行き、ワンゴ自身もトヒラ達にわざとらしく背を向けて歩く。それは絶対に捕まらないという意思を示すものと、追ってこないのを確認する為であって、トヒラとしては無理矢理捕まえるだけの戦力を保有していない事も有って、歯ぎしりしながら見送っている。
「結局逃がしちゃうんだな。どうする、今ならまだ追いかけられるが?」
「そうね?」
二人に迫られて太郎は困りながら応じた。
「関わらなくて済むんなら放置してもいいんじゃないですかね。」
「甘いな。けど、太郎君らしさでもある・・・か。」
「そうね。」
炎を吐いて今までの鬱憤を発散できたグリフォンは大満足ではなかったが、少しは太郎の役に立てた事を感じて満足している。ポチはいつも通り控えていた。
太郎はやってきた兵士達に近づこうとはせず、気力を失って倒れたスーの所に急いで戻った。
そのスーが目を覚ました時はエルフしかおらず、説明を聞いて更に落ち込んでいる。なにしろ自分の所為で逃がしてしまったような気がしてならない。我儘を言って失敗した事も悔しいが、勝てなかった事はもっと悔しい。
どうして勝てないのだろう?
スーは無言でしゃがみ込んでいてその場から動かない。
太郎達が戻って来るまで二人は無言で待っていた。
「スー、大丈夫?」
太郎の声が聞こえてもスーは顔をあげない。悔しさで滲ませた顔を見せたくないのだろうと思ったのだが、それだけでもないようだ。
「気にしちゃダメだよ?」
「・・・。」
「勝てないのを悔しがっていられるならまだましだろう。勝てない理由が分からないというのなら教えてやるが。」
スーがその声に反応して顔をあげた。
「勝てない理由・・・?」
「簡単な話だ。勝てないと思っているから勝てないんだ。勝ちたいと思っているが何をやっても敵わないとも思っている。無駄な考えを払拭する事が、ワンゴに勝つ為のスタート地点になる。」
「それって普通のことなんじゃ?」
「その普通の事に気が付くまでに時間が掛かる者と掛からない者がいるんだ。無意識にそうなってしまっている者は特にな。」
「・・・なるほど。」
スーの中にも何か理解出来るモノがあり、地面を睨み付けると、暫く無言のまま動かず、他のエルフ達が来るまでそのまま静かな時が流れた。
誤字報告いつもありがとうございます\(^o^)/
「もったしない」
は誤字ではないのですが・・・
もったいない
じゃなくて
もったしない
っていうジーさんいませんでしたか?
俺だけかな・・・(´・ω・)`?




