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第138話 反対側からもやって来た

 鉱山の調査を終えて帰ると、エカテリーナ達が出迎えてくれた。子供達は騒ぎ疲れたのか、帰宅したら風呂にも入らず、ぐたーっと寝てしまった。寝室へ運ぶのに一苦労だ。


「あの鉱山は暫く封鎖しておこうと思うんだけど・・・?」

「行くにも時間が掛かるし、労働力も全く足らん。管理も難しいし、それが賢明だろーな。」


 グルさんの言う事は尤もだ。


「温泉が有って水にも困らないですし、生活するには地下とは思えないほど快適でしたねー。竈が有って火が使えるのはかなり強いですー。」


 スーの言う事もその通りだ。地下で何日も生活できる環境と言うのは、普通では珍しい部類だから。洞窟内に棲む魔物などにとっても水は必須だろう。魔物の存在は確認されなかった訳だが・・・。


「しかし、あの閉鎖空間で長期間生活するとストレスで頭がおかしくなりそうですけどねぇ。」

「閉鎖空間ですか?」

「外部との連絡に時間が掛かるのと、太陽の無い所で生活するように人の身体ってできてないんですよ。・・・普通は。」

「昔じゃなくても地底を好んで生活する種族は確かに少ないですねー。」


 とにもかくにも、道具を作るだけではなく、地下でもちゃんと住めるように道具も揃えなければならない。雨の心配が無いのは素晴らしい事だと思うが、水路も作り方次第では頭の上を通る可能性だってある訳だから、その辺りはしっかり造りたい。


「地下の事は俺らに任せてくんねーか?」

「グルさん達に?」

「ダメか?」

「こちらからお願いしたいくらいですけど、まだ3人ですよね?」

「外部から募集したいが・・・おめーの許可が無いと拙い。」


 なんで俺の許可が・・・。


「おめー、この村の代表だろ?」


「確かに太郎君ね。」

「太郎さんですー。」

「そんな表情しちゃって、太郎は諦めたんじゃないの?」

「みんなで言わなくても解ってますけども!」


 ポチとグリフォンが無言で俺を見詰める。


「・・・犯罪者じゃなければ今のところは良いですけど、無条件に集めると絶対おかしくなるからなあ。」

「なんだ、けっこー考えてんじゃねーか。」

「魔王国とここが直接つながるルートを整備しなおしているくらいですし、何年後かは分からないけど旅人だって来る時代がいつかは来るだろうから・・・。」

「以前住んでいたのはスズキタ一族だけ・・・という訳でもなかったから。少数だけど商人とかが勝手に家を建てて住んでいたわ。まぁ、一族とは知り合いの人達だったみたいだけど。」

「旅人も来たもんね。」

「ここが村と呼ばれたとしても規模を拡大する気は俺には無いから。」

「少数精鋭か。」

「・・・平和が一番なんです。一流の人材だけが来れるという訳でもないですよ。俺が一流じゃないんだから。」

「めんどくせーな。」

「そういわれても、そういうもんです。」

「どっちにしてもすぐに人数が来るわけでもねーし、地下生活に耐えられる奴を選ぶのを優先するだけでかなり絞られるからな。」

「エルフの人達って地下生活はどうなんです?」

「わ、私達は出来れば外の生活をお願いしたいです。」


 なんでそんなにビクビクしてるの。


「あ、強制するつもりは無いから安心してください。」


 ホッとした息を吐いているところを見ると、予想通りだったようだ。全員がそうという訳では無いが、後から来る人達は勝手に格付けをして、上下関係を作りだすのは予想出来ている。少なくとも俺はそんなこと望んでいない。以前にもみんなの前で言った事は有るが、やはりというか、この世界の住人には慣れない事だろう、太郎の言うようなことは理想に過ぎないのだから。


「タローの言う事が現実になったら本当に世界は平和になるだろうなー。」


 と、呟いたのがグリフォンだったのは意外だった。




 いつも通りの生活が再開され、フーリンは家に帰り、ヒンヤリと冷たく感じる寒さを忘れるように作業に勤しむ。やる事はまだまだ沢山有り、これからやってくるエルフの人達の家の建材も沢山必要になる。ベッドに必要な布なども少なくなってきてしまったので、これは買ってくる必要が有る。裁縫が出来る人がいたとしても、布を作れる人がいないのだ。


「機織りの道具が有れば・・・。」

「機織り機は材料が有れば作れる?」

「それほど難しい機具ではないので作れます。ただ、糸の素材がありません。」

「あーっ、そっか。」


 パッと思いついたのはウールとコットンだ。こっとん・・・こっとん・・・?


「綿花なんて有ったかなぁ・・・?」

「そんな高級な物を使うのですか?」

「高級って言うか、他になにかある?」

「カイコが一番安いです。量産もされているので。」

「あー、なるほど。って、カイコってその辺りに居るの?」

「一応探した事は有りますが、この辺りでは見かけませんでした。」

「そーいや、麻も有ったなぁ。」

「大麻でしたら雑草のように生えていました。」

「じゃあ、作れるモノで糸は作っておくのもアリかな。」

「・・・動物の毛で糸も作れますが。」

「羊がいるの?」

「いえ、羊でなくとも毛がたくさん生えている動物でしたら作れない事も無いです。」


 ポチとチーズの毛が多いな。モフモフして気持ち良いという事は・・・。


「ケルベロスの毛でも糸が作れるって事か。」

「もちろんです。」


 ポチとチーズがいつの間にかいない。

 なんでだ。

 まぁ・・・とりあえず、俺が出来ない事をやってくれる人がいるのは助かる。


「機織りと糸作りはお願いしていいかな?」

「はい、お任せください。」




 畑を拡張するために、周囲を見渡す。更に広げようと思ったが、春からは米作りをする予定なので、田んぼを作る場所を確保するだけにした。


「ブドウが有ればワインも作れたのか・・・、種も無いんだよなあ・・・。」

「ワインですかー・・・ブドウで作れるのは知っていますけど、作り方を知らなければ、ブドウ自体をほとんど見かけないんですよねー。」

「見かけないの?」

「そーなんですよー。ガーデンブルクでたくさん育ててるんですけど、野生種ってあるんですかね?」

「そりゃ、ある筈だよ。」

「ですよねー・・・。」


 突然、辺りが騒がしい。カラフルな鳥がバタバタとしているかと思ったら、キラービーがやって来た。


『川の向こうから誰か来ます。』

『だれかって?』

『男一人と女二人です。』

「みみがぁー・・・。」

『グリフォンが楽しそうに駆けて行きました。』


 無茶はしないと信じておこう。


『マナは何処にいる?』

『世界樹様でしたら木の上で寝てます。』

『こんな時に教えないと後で怒られるから呼んできてもらえる?』

『了解しました。』


 ブーンと飛んで行き、それを追いかける。その間にいつものやつだ。


「シルバいる?」


 何も起きない。


「来ませんねー?」

「常に傍に居ると思ったんでけど、いない事も有るって言ってたしなあ・・・。まぁ、特に問題は無いからいいや。」

「そーですねー。」


 マナが空から降ってきた。久しぶりに俺の肩に座ると、頭をぺちん。


「勇者が来たわよ。」

「勇者?」

「ほら、ハンハルトで会ったじゃない。」

「あー・・・って、なんでこんな方向から?」

「それなら、急がないとまずいですねー。」

「グリフォンは知らなかったなぁ。」


 急がないと戦闘になるか。


「急がないんですかー?」

「あの三人なら負けないと思う。」

「一応グリフォンなんですがー?」


 突然、地面が揺れたような気がした。その後、衝撃波と言うほどではないが、強い風が吹いた。これは戦闘が始まったと言うべきだろう。


「やばい、急ごう。」




 まだ睨み合いの段階ではあったが、グリフォンの目の前には三人が立っていた。服装はボロボロで、荷物をたくさん抱えている男が一番前に立っていたが、威圧を感じ取った段階で身体が震えていた。


「見た目だけなら子供にしか見えんのに、何という・・・。」

「マギは下がってなさい。」


 言われた方は返事も出来ずに身体を震わせて座り込んでしまっている。


「我の威圧で逃げださないとはなかなかの奴らだな。」

「俺達は戦う気はない。」

「この土地に勝手に来た奴と関わると碌でも無い事しか起きてないからな、帰ると言うのなら。」

「それは無理よ。この先に用事が有るの。」

「おまえ・・・鬼人族だな?」


 グリフォンが何故か微笑む。


「お前だけ平然としているようだが・・・周りをチラチラと見て何を探している?」

「森を抜ければ見える筈なんだ、世界樹の木が。」


 威圧が消えた。


「タローの知り合いかぁ・・・。」


 凄くガッカリとしているのがとても不思議だが、フレアリスは警戒を解かない。

 どうあがいても子供にしか見えない相手に、ジェームスは真面目に質問する。


「太郎君を知っているのか?」

「タローならもうすぐ来ると思うぞ。」

「こっちに?」

「せっかく一番に気が付いたから駆除しようと思ったのになー・・・。」

「駆除って、こんな子供に負ける訳が・・・。」

「ほぅ・・・たかが鬼の癖に我に負けないだと?」

「鬼人族の強さを知らないのかしら?」

「我に喧嘩を売ると後悔・・・いや、やるならやろうか!」


 何故か嬉しそうになる。


「なにこの子、気味が悪いんだけど。」


 突然、3人に襲いかかる恐怖。もの凄いスピードで一直線に繰り出される拳を受け止めたのはフレアリスだった。

 立っていた位置から数メートルを後方に引きずられる。地面の土がえぐれ二本の筋が出来た所で止まった。


「よく止めたな!」


 続いて繰り出されたのもただのパンチだったが、フレアリスにはその拳を受け止めるのが精いっぱいで、反撃する余裕などない。

 こんな時の為に訓練していたマギは動けず、ジェームスは攻撃を躊躇っていた。相手が子供と言うのも有るが、太郎の知り合いと言うのならここで戦う訳に行かない。

 どうしにかして止めようと剣を抜くか悩んでいた時に、木々の枝の間から人が降ってきた。見覚えのある姿を見てホッとしたジェームスが声を掛けた。


「太郎君。」


 その太郎の肩から降りた少女が、フレアリスに襲いかかった少女の頭をぺちんと叩いた。


「なにを・・・あっ!」

「アンタはもうちょっと考えて行動しなさい!」

「え、あ、う~・・・。」


 グリフォンが大人しくなったところで、太郎が応えた。


「ジェームスさん、お久しぶりです。」






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