第134話 鉱山
シルバを使ってフーリンと会話をしようとしたのだが、直接フーリンがやってくる事になった。シルバが到着した時に拒否されたのだが、理由は教えてくれない。
ついでに言うと、その日はまだダンダイルが兵を率いて帰る途中で、城に到着していないのに、頼るのも申し訳ない。
「使えるようで使いにくいな。」
「使い方次第じゃないの?」
「そうなんだけどね。」
のしのしとやって来たのは鍛冶屋のおやじ。名前を何て呼ぶのか悩んでいたら、若い頃はグル坊と呼ばれていた事を教えてくれた。
と、いう訳で。
「グルさん。」
「なんだ?」
「魔石を使った武具とかも作れるんですか?」
「材料が有ればな。だが、俺は魔石をあんまり使った事ねーからな。自信はねーぞ。」
ごろっ・・・ドスン。
「・・・やれって事か。」
「ダメでしたか?」
グルさんは後ろの弟子二人を指差した。なるほど、表情というか目が輝いている。
「魔石を使った武器や防具なんて普通は殆ど無い。まず魔石自体が手に入らないからな。用途としても強度が落ちるのを魔素でカバーするわけだから、それならミスリル銀の方が必要になってくる。」
その後も詳しく説明してもらったが、やはり不足しているのは金属なのだ。
「弟子は研究が出来るから満足してるし、俺もめんどくせー事が来ない分ココの方が楽だ。かわりっちゃーあれだが、鍋釜だって作ってやるぞ。」
エカテリーナが喜びそうだ。
「・・・面倒な事?」
「ちょっと名の売れた冒険者が来て、俺に作れってうるせーんだ。おれも研究する方が好きだからな。」
「なるほど?」
鍛冶屋として一流だが、既に魔王国の所為で色々と巻き込まれて嫌な事が相当あったらしい。毎日量産品を作る作業は辛かったとの事。
「好きに物が作れるのは良い環境だから感謝してるぞ。飯だってタダで食えるしな。」
自分で生活していれば料理も自分で作る。当り前の事なのだが、ここならエカテリーナが全部やってくれる。疲れたら寝れば良いし、汚れたら洗えばいい。
「おめーも訓練するのならちゃんとした武器の方が良いだろ?」
「武器もそうですけど、農具も欲しいです。」
「足らんのか?」
現在の人数に対して十分な量が有るのでそういう意味ではない。
「加工する道具に鉄が欲しいんですよ。」
「ふーん。」
それらは今後の為に必要になるモノで、取り急ぎ必要な事は今のところない。兵士達が帰らなければ鍛冶仕事は沢山あっただろうが。
その翌日、目が覚めてから食堂へ行くと既にフーリンが朝食を食べていた。
「太郎君、起きるの遅くないかしら?」
スーとマナも同じテーブルで食べていて、子供達もちゃんと揃って食べている。
「パパ遅ーい!」
子供に言われるとなんか申し訳ない気分になるが、この子供達は俺の事を父親だとちゃんと認識しているのだろうか?
なにしろ俺が気にすることなく、あっちこっちで遊んでいて、面倒の殆どはスーとエカテリーナがやっている。
夜になれば一緒に寝る事も有るのだが、気が付けば子供同士でも寝ている。育児に疲れないのは良いんだけど、何となく育児をしてみたくなる事も有る。
「なんか俺が一番面倒くさくなってるなあ。」
「何の事かしら?」
「何でもないです。」
意外にも子供達の評判が良いフーリンは、親戚の優しいお姉さんみたいに見える。ピュールを容赦なく殴っていた人と同一人物とは思えない。
「焼きたてのパンが食べれるなんて凄いわね。」
まじまじと見詰めた後、千切って口に含む。
「エルフの人達のおかげです。」
そのエルフ達は別のテーブルで食べていて、兵士達と似たような生活を送っている。
「これが・・・キラービーの蜂蜜ねぇ・・・。」
「高級品を毎日食べるって身体に堪えますー。」
「スーちゃんには贅沢な悩みね。」
「そーなんですよー。」
それ、褒めてないからな。
「それで、鉱山の事ですが。」
「せっかちねぇ・・・歩いて行くにはちょっと遠いけど、昔のハンハルトに繋がる道の方に有るわ。」
「どのくらい遠いんですか?」
「ん~・・・半日くらい?」
正確に言うと歩いた事は無いから分からないそうだ。しかも、あの事件以来全く使用されていないので、内部が崩壊していても不思議ではないとの事。
「地中蜘蛛が棲みついてなければ良いんだけど。」
「地中蜘蛛?」
「鉱山内でたまに問題になる魔物よ。」
「強いんですか?」
「強いかどうかは知らないけど、数が多いみたいね。」
「あー、蜘蛛の子を散らすって言うくらいですしね。」
「蜘蛛の子?」
そういう言葉は無いのかな?
「たくさんの人達がいっぺんに逃げる事を例えた言葉なんですよ。」
「あー・・・なるほどね。蜘蛛が坑内に居るとその駆除に一苦労すると、聞いた事が有るわね。」
「地中蜘蛛は面倒ですよー・・・。」
「また、あの時みたいに水攻めする?」
「うぐ・・・いや、とりあえず内部を確認してからにした方が・・・。」
「元々稼働していた鉱山だから、もしかすると道具とかもそのまま残ってるでしょうが・・・まあ、使えないか。」
「ですねー。そういうのは職人がいるので作って貰った方が良いですよー。」
「職人?」
「俺の事ですよ。」
妙に丁寧な口調だな。
「あら、あなたグル・・・何だっけ?」
「グル・ボン・ダイエです。」
「あー、ダンダイルちゃんの知り合いの。」
「はい。」
「貴方なら確かに安心ね。」
「はい。」
なんでそんなに震えてるんだろう・・・。
「直接の知り合いじゃないんですか?」
「ダンダイル様からな。」
そういえば、ダンダイルさんがいる時はほとんど姿を見せなかったな。
「あー、思い出したわ。城の武具を担当してたって話。」
「その前から知ってましたけど。」
「あぁ、勇者退治の時の?」
「ダンダイル様に対勇者用の装備を作れないか依頼されていた時に。」
「それって私がフーリン様の所に行く前の話ですかー?」
「そうなるわね。」
何か積もる話もあるだろうから、少し退席しようとしたら引き留められた。
「おめーがいないと話が進まんぞ。」
「太郎君が決める事なんだから。」
「ですよー。」
何故か子供達やエルフ達も残されただけじゃなく、ポチ達とグリフォンも呼ばれた。ウルクとうどんもいる。要するに勢ぞろいだ。
「鉱山と言えば聞こえはいいけど、500年以上使われてないし、掘る人も選ばないとならないのよ。」
「採掘ってやっぱり専門技術なんですか?」
「いちおー、俺は採掘もするぞ。弟子はやったことが無いから教えないとならんが。」
「他に経験者っていますか?」
「我は穴なら掘った事あるぞ。」
「グリフォンなのに?」
「理由は詳しく知らないけど、普通のやつは長時間穴の中に居られないって言う話で、我が掘る事になったんだ。」
長時間居られない・・・?
「あー、なるほど。空気が薄いからか。」
「くうきってなーにー?」
子供の質問はこの世界なら当然の事なのかもしれない。と、言うか空気って言葉が無いのか?
「みんな呼吸してるでしょ?」
「呼吸って学者から聞いた事が有るわね。普人に限らず動物ならみんな当り前のようにしているって。」
「学者ですか・・・。」
「おめーの言う意味が解らんのだから説明しろ。」
高地に行くと空気が薄くなるという話をしたが、そんなに高い所へ行く事は無いし、ドラゴンはもっと高い所を飛行しているという。説明していて分かった事は、フーリンさんとマナとグリフォンは呼吸をしなくても平気という事だ。
どうやって声を出しているのか不思議に思ったが、声を出す前に空気を吸っているようで、無意識に行っている動作らしく、気にした事が無いらしいし、そもそも、息を止めて苦しくなるような事を自ら行う理由がない。ただ、学者の話が有るくらいだから、一般に浸透していないだけで、常識として息が出来なければ死ぬくらいの知識は有るんだろうと思う。
・・・たぶん。
自分の分かる限りの事を一通り説明した後、なぜかみんなが深呼吸をする。
「水の中に潜る時に息を止めるって事ですねー。」
「私はしてもしなくても平気です。」
「うどんは・・・植物だからな。」
そう言って気が付く。
「うどんって、水と同じ感覚で空気を出せる?」
「意味が解りません。」
マナも植物だよね?
「私もやったことが無いから分からないし、何か出せるかもしれないけど、それが太郎の必要としている空気かは分からないわよ。」
「植物って酸素とか二酸化炭素とか・・・止めよう、これは面倒な話になりそうだから。」
何故か子供達が揃って俺を見る。知らない言葉に興味津々なのかな?
でも、これを説明すると俺も解らない事が多いのでやめたい。
ねぇ、頼むからそんなキラキラした目で見詰めないで。
「洞窟毒って病気があるんだが、アレは空気が無かったという事だったのか。」
「酸欠の事を毒と間違えても不思議じゃないかな。」
この世界の常識が分からなくなる。
何しろ魔法で治療してしまえば済む事も有るし、ポーションで解決してしまう場合も多いからだろう。
便利な道具の所為で人体の研究が進まないのだろうか?
「とりあえず行って確認しないとダメですね。」
「そうだな。」
崩落だの、落盤だの、土の中に閉じ込められるのは御免被りたい。
フーリンさんの案内で鉱山迄飛n・・・歩いて行く事になったので、それなりに準備する必要が有る。
長い旅に出る訳じゃないが、冒険に行く準備って何故かワクワクしてしまう。
エルフの人達が留守番をしてくれるそうなので、とりあえず二泊三日の予定を組む。穴だらけのテントは修理してあるし、そこそこの人数でもかたまって寝れば何とかなるだろう。
メンバーは出発前に決められた。
俺
スー
マナ
フーリン
グリフォン
ポチ
グル
俺の子供全員
ウルクは旅をするのはこりごりだと言って残る事になった。弟子二人は遠慮した結果で、チーズ達親子も付いてこない。うどんは当然の様に動かない。ウロウロ歩き回るけど夜になったら池に戻らないと落ち着かないそうだ。
一緒に行けると分かった子供達のはしゃぎっぷりが凄くて、こちらは違う意味で落ち着いていない。
「私が行っても足手まといですし。」
と、寂しそうに言うのはエカテリーナで、俺は当然の様にメンバーに入れていたのだが、食材の管理をするのがエカテリーナなので、あまり離れたくない。エルフの人達は全員残るし、少しぐらい代わってもらっても良いと思うのだが。
「パパー、魔法使ってもいい~?」
どういう事だろう?
もちろん危ない事はして欲しくないが。
「九尾の子供って事なんでしょうけど、魔法の才能が凄いですー。」
臨時講師のスーが言うには、魔法について教えられる事は殆ど無いらしい。何しろ最初から使えただけではなく、何人かはスーよりも魔力で優っているとか。まだ不安のあるコントロールさえ完璧になったら、どこの国でも一流の魔術師として仕官を求められるかもしれない。
なるほどね、寄ってくる子供の頭を撫でながら眺める。
仕官させる気はないけどな。
「まぁ、怪我しない程度にしてくれればいいけど。」
子供の成長を妨げる親にはなりたくない。
自分の親のようにもなりたくない。
子供はもっとのびのびと成長するべきだし、こんな世界なら自立も大切だ。
いや・・・まだそんな先の事を考える必要も無いか。
そんな俺を見てフーリンが苦みを込めて言い放つ。
「親バカにならなければ良いのだけれど?」
フーリンさんに言われてしまえば反論する気もなくなる。
誤魔化す訳でもないが、話題を進める。
「明日、明日出発しましょう。」
「わかりましたー!」
スーと一緒に子供達も返事をする。
少し騒がしいけど、子供はこのくらい元気な方が良い。
洞窟対策を考えつつ、準備を始めるのだが、グルさんは自分のモノは自分で準備すると言って部屋に戻り、スーも自分でやると言っているので・・・マナとグリフォンは準備というモノが無く、フーリンさんに至っては準備する必要がない。
結局は食糧と道具の幾つかを確認をして、明日に備えて寝るだけになってしまったのだった。




