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第125話 キラービー襲来 (1)

全3話です。

「え・・・マジで?」

「はい。世界樹様ほどの速度は有りませんが、全ての植物に対して影響が有ります。」


 その後、小さな声で「世界樹様は無理です。」と、付け加えた。今のところ育ち過ぎてしまうと困るので、現状維持だったり枯らせさない事が出来るのなら、利用価値は十分にある。実が成っても放置したら腐ってしまうのを防げるのだ。


「育てて欲しい植物が有るんだ。」

「お役に立てるのでしたらなんでも。」


 うどんは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。子供の様な喜び方なのだが、見た目は完全な大人なのですごく違和感がある。一緒に居る事の多いエカテリーナの影響かな?

 

「食物油が欲しいからアブラナとかヒマワリとかベニバナとか、育てて管理して欲しいんだよ。」

「一つも聞いた事の無い植物ですね。」

「ですよねー・・・。」

「どんなものか絵で教えていただけますか?」

「あー、植物図鑑ならあるぞ。」


 図鑑関係は買ってきたが使う事なく袋の底に沈められたアイテムの一つだ。なにしろ、持ち込んだ種でどうにかするつもりだったというあの頃の自分が居たからだ。

 植物を育てて油を抽出しようとか考えもしなかった。最初から計算通りに考えていたら・・・俺は一体何を造っただろう?


「これ・・・知ってますよ。」

「へ?」

「アブラナとヒマワリとベニバナじゃないですか。」

「は?」

「どうしましたか?大丈夫ですか?おっぱい触りますか?」


 俺の顔におっぱい押し付けるな。苦しい。


「・・・さっき聞いた事が無いって言わなかった?」

「太郎様、先ほど聞いたモノと名前が違いますよ。」

「あー、言語加護の弊害か。」


 俺の発する言葉がどこからか言語加護によって変えられるのだ。俺自身は何も変わっていないが聴いている方には変化が有る。


「まぁ、通じたならいいや。ただ、種がどこにあるか知らなくて。」

「種が無いと育てられません。見た目がそっくりなモノなら造り出せるかもしれませんが。」

「それ、結構すごくない?」

「そー言われるとそうかもしれません。ただし、植物に限ります。」

「植物を創造して新たな品種も作れるって事か。」

「・・・どういう事でしょう?」

「寒さに強いとか、水が少なくても育つとか。」

「それに適応した植物が出来るでしょうけど、食べられるかどうかは解りませんよ?」

「砂漠では食べられるモノがなかなか育たないって言う理由か。」

「そうだと思います。」


 うどんの能力はまだ不明な事が多い。それはうどん自身も理解していないようで、自分でも何が出来るのか分からない。人型に成った事で能力が上昇しているらしいのだが、空を飛べるわけでもないし、魔法も使えない。

 存在が魔法みたいな気がするのだが?


「とりあえずおっぱい触っておきますか?」

「・・・。」


 畑の前でうどんと話をしていると、突然鳥たちが騒めきだした。それは世界樹を宿にしている鳥たちで、マナもナニかに気が付いたようだ。


「なんか来るわよ。」


 太郎の傍にマナがやって来たと思うと、スルっとシルバも現れた。


「キラービーが大量に向かってきます。」

「え、なんで?」


 巡回していた兵士たちがこちらに向かって全力で走ってくる。気が付いたのは他にもいて、ポチ達ケルベロスも太郎の傍にやって来た。

 突然の事でキラービーに対抗する手段はなく、前回話をした事も有って、エルフも兵士も男は逃げ腰だ。そして、少し遅れてオリビアたちエルフの女性だけが太郎のもとに集まった。

 太郎の近くまで走ってきた兵士達が後ろを振り返ると、たくさんのキラービーが羽音を鳴らしながら急接近してくる。


「・・・あれ?」


 向かってきたはずのキラービーの大群が、くるっと180℃向きを変えて森の中へ逃げて行く。

 現れたのはグリフォンだった。


「たろー!やっちゃって、いーいー?」

「ちょっとまってー!」

「えー・・・。」


 急いでグリフォンに駆け寄ると、森に逃げ込んだキラービー達はこちらの様子を窺っているようだが、先ほどの勢いは失っている。


「あいつらなんで攻めてこないんだ?」

「我が威圧してるからな。」


 マナが上から降ってきてグリフォンの頭を叩く。

 ぺちっと良い音がした。


「その威圧止めなさい。」

「あいつら調子に乗って攻めて来るぞ。」

「それはあいつらがチョッカイ出したんじゃないの?」


 あいつらと言うのは巡回中の兵士達の事だろう。今は先ほどまで太郎が居た場所に肩で息をしながら座り込んでいる。


「縄張り意識が強いって事は、その領域に触れたって事だろ。」

「縄張りには十分気を付けていた筈ですよー。」

「そうなんだ?」

「そうでなければもっと早く攻め込まれたと思いますし、居る事を知って以降は注意していましたから。」

「ってことは、キラービーの方が領域を広げに来たって事か。」

「でも、このまま睨み合いが続くのも困るな。」

「おっぱい触ります?」

「・・・うどんは戻った方が良いな。」


 素直に従ったうどんが戻ると、入れ替わるようにエルフ達がやって来た。


「森を消滅させても困るし、グリフォン殿と協力して我々が攻めましょうか?」

「太郎さんには遠慮してもらいます。」


 スーの口調が真面目になったという事は、そう言う事だ。


「マナと大人しくここで待ってるしかないかな。」


 男は太郎に限らず、他全てがキラービーに近寄りたがらない。それはポチも同様だった。チーズが子供を連れて遠慮がちに近寄ってくる。


「一緒に行きたいの?」

「役に立ちたい。」


 ワルジャウ語で応じるチーズ。流石賢い。


「子供は俺の傍から離れないでね。」

「わふん。」


 既に剣を抜いたエルフ達が準備を完了していて、グリフォンも自慢の爪が両手から出している。睨み続けていると、キラービーの羽音が凄い音量で聞こえてくる。


「なんだこの量は?!」

「威圧しすぎたかな・・・。」

「グリフォン殿はここからあの木を斬れるか?」


 オリビアが指で指し示した木は森の入り口の一番手前にある大きな木で、枝葉が揺れ、隠れているのが解る。それを頷きと共にグリフォンが腕を強く振り下ろすと、真空波の様な筋が地面を這いずるように木に向かって放たれた。

 大木がメキメキと音を立てて倒れると、太郎の頭とほぼ同じ大きさのキラービーが群れを成して向かってきた。

 素早さだけならスーよりも早く急接近して来て、人型のグリフォンは全てに対処しきれず、慌てて口から火を放った。


「躱されたな。」


 冷静な口調でオリビアが言う。

 スーが俺の前に躍り出てきて、庇うように立ち塞がったが、それすらも迂回して太郎に急接近してきた。しかし、そこから先に進めず空中で動きが止まる。偶然一番近くに居たエルフがキラービーの羽を斬ると、バタバタと暴れながら地面に落ちた。

 動きが止まったのは、マナが防御壁を張ったからで、土魔法ではなく水魔法でそのまま包み込んだからだ。実は太郎も魔法壁を張ろうとしたのだが、いつの間にか頭の上に座っていたマナが先に張ったのだ。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう。」


 雄殺しと呼ばれるキラービー。なにをどうされると不能になるのかは知らないが、とりあえず針で刺されなければ大丈夫だと思いたい。

 接近に失敗した仲間を見たからなのか、近づけないと思ったからなのか、他の蜂達の動きが変わる。


「魔法?!」


 驚いたオリビアが魔法壁を張った。蜂達の魔法は、衝撃波の様な、カマイタチの様な、目視では確認しにくいもので、グリフォンはその魔法を身体で受け止めていたが、エルフ達が喰らってしまえば、吹き飛んだり身体が傷付いたりする程度の威力は有るようだ。

 スーが羽を斬りおとされて動かなくなった蜂にとどめを刺そうとした時、変な声が太郎に聞こえた。


『タスケテ。』

「スー!」


 刺そうとした動きがピタリと止まる。不思議に思って太郎を見ると、その表情は険しい。キラービー達の魔法攻撃は更に増えて、魔法壁を張っているマナの傘の中に逃げ込んだ。グリフォンが木を焼くほどの火炎を吐くと、また森の中へ逃げて行く。

 事情をすぐに理解したマナが太郎に問う。


「言語が有るの?」

「助けてって聞こえた。」

「太郎の能力も困ったモノね。」

「とにかく話しかけてみるか。」

「早くしないと怒ったグリフォンが森を焼いちゃうわよ。」

「お、おおぅ・・・。」


 羽をバタバタさせるのも諦めたキラービーが、歩いて逃げようとしているが、包み込まれた魔法壁の中では動けない。これが魔法で包むって事かと、太郎は感心していた。


『なんで攻撃してきたの?』


 太郎の言葉を聞いて明らかに動きがおかしい。


「ミミガー。」

『なんで?』

『うん?』

『なんで言葉が解る・・・?』

『そういう加護持ちなんだよ。』

『加護持ちでも我々の言葉を喋る奴は初めて見た。』

『そんなに長生きしてるんだ?』

『・・・助けてくれ。』

『助かるの?』

『蜜さえ飲めれば羽は生える。』

『じゃあ改めて聞くけど、なんで攻撃してきたの?』

『・・・我々は竜血樹を守っているのだ。』

『そんな植物が有るのか。』

『やっと見つけた安住の地なんだ。』

『とりあえず答えになってないけど、俺達はそんな木が有るのすら知らないぞ。』

『竜血樹を奪いに来たのではないのか?』

『・・・ちょっと待って。』


 一呼吸置いて頭の上のマナに問い掛ける。


「竜血樹って何?」

「竜の血を吸った樹木ね。特に綺麗な花が咲くっていわれてるわ。」

「なるほどね、それでハチが守っている訳か。」

「高級蜂蜜の秘密がそこに・・・。」


 スーがちゃんと聞いている様だ。


「あ、また攻めてきますよ!」

「とりあえず吹飛ばすわね。」


 マナがそう言うと、魔法障壁を消して、接近してくるキラービーの群れに突風を送り付ける。先頭に居るグリフォンがそれに気が付いて、地面に爪を突き刺して、飛ばされないように身体を支える。

 オリビアたちエルフも気が付いて範囲外へ逃げると、襲い来る蜂達が身動き出来なくなり、前へ進む力を失うと、風に吹き飛ばされてゆく。

 その光景を見ていた片羽根の蜂が身体を震わせた。


『なんだこの力は・・・。』

『殺さないから安心して。』

『・・・何故だ・・・何故お前のような人の言葉を信用してしまいそうになる、この不思議な感覚は何だ・・・?!』

「あらかた吹飛ばしたわよ。」

「じゃあ、次は交渉だな。」

「太郎さん、本気ですか?」

「ちゃんと会話が成立するのなら解決する方法もある筈さ。」


 片羽根を失った蜂は太郎の姿を見詰めている。人の姿にこれほどの安心感と不思議過ぎる多幸感が襲ってくる。

 それはマナが傍に居る所為も有るが、太郎の持つ不思議な波動が蜂を刺激し、不安感を消し去っている。片羽根が無くなった事も忘れて、太郎の傍に寄ろうと飛ぼうとして転ぶ。それを見た太郎が羽根を触らないように背中を掴んで、元の姿勢に戻した。

 たったそれだけの事なのに、凄く助けられたような気がした。






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