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悪魔公女 〜ゆるいアクマの物語〜【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第四章・デヴィル プリンセス

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4-13 アイドルになりました ②(済)

 



 魔王城にまで戻った私にはやるべき事がありました。これを行う為にリンネと戦い、危険な賭に出たと言っても過言ではありません。

 それ程までに“大切”なこと。

 私にはそれを行う“義務”と、実行する強い“意志”があるのです。

 

『もふ~~』

『……おい』

 

 リンネの声が聞こえるけど気にしない。

 私は11年ぶりにリンネの毛皮を全身でモフモフするのに忙しいのですっ。

 リンネも文句は言うけど、ちゃんとモフりやすいように寝っ転がってくれています。ふふっ、このツンデレさんめっ!

 私もちゃんとネコモードになってますよ。

 人型の素肌でモフるのも愉しいのですが、全身でリンネの毛皮に埋まるようにモフるのも捨てがたいのですよっ。

 悪魔だから汚れない毛皮はサラサラで、かき混ぜても絡まらず、さらりとしていながらふわふわで、お腹の部分は柔らかく、包まれていると安心感と癒し効果が半端無いのでありますっ。

 しかもこの良い香りはなんと言うことでしょうっ。

 何年も寝かせた甘~い果実酒のような芳醇な香りと酩酊感。魔界にいた頃よりくっきりはっきり感じるのは魂が繋がったせいかしらっ。

 これですよ、これっ。このモフモフがっ、この香りがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、

 

『いい加減にしろ』

『えっ』

 

 リンネの毛皮の中を泳いでゴロニャンしていた私は、突然宙に放り出された。

『あれ? あれ?』

 あの馬鹿でっかいリンネの姿が突然消えて、いきなり正気に戻された私は慌ててリンネを捜す。

『こっちだ、ユールシア』

『……へ? リンネっ』

 声のほうを振り返ってみれば、そこには私よりちょっと大きい、普通サイズの黒猫が得意そうな顔で立っていた。

『お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおお、リンネぇえええええええっ』

『ぉわっ』

 唐突なリンネ【黒猫】モードに、私の理性がぶち壊れた。

 可愛い可愛い可愛い可愛いっリンネ可愛い! なんてことザマショ!

 あの夢の世界の記憶から“ニャンコ”は大好きだったけど、自分がなるのと目の前にいるのとは違うのですっ。

 この世界の猫は、私の前に来ると『シャァアーッ』とか『ミギャーッ』とか唸って、逃げてくばっかりでさっぱり抱っこさせてくれないのですっ! だからっ!

 

『だから……いい加減にしろっ!』

 カプ。

 

 反省中………。

 

 すっかり壊れてしまったように見えますが、私は元気です。

 いやはや、モフモフニャンコの魅力は恐ろしいですな。お恥ずかしい。冷静な悪魔である私がこんなにも我を忘れてしまうなんて……。

 おかげでまたリンネに“カプ”っとされてしまいました。ちっちゃくなってもリンネの牙は痛いんですよ。すぐに舐めてくれたけど。

 その流れというか、反省したお詫びというか、今度は私がリンネにモフモフされています。……くすぐったい。

 

 ここは半分壊れた魔王城です。上の部分は私達が吹き飛ばしちゃったので、お日様の光が温かくてネコ的にゴロゴロしてしまいます。

『そう言えば、リンネはいつの間に【黒猫】になれるようになったの?』

『今更か……』

 リンネは呆れたように呟いてから、モフるの止めて本物の猫のように、ぐでっと床に広がる。

『おそらくは……お前に“名”を貰ってからだな。魔力も身体もだいぶ安定した』

 今のリンネには、魔界にいた頃やこちらに来たばかりのように、撒き散らすような暴力的な気配は感じない。

 余裕がある……とでも言えばいいのかな? 怒りや焦るような感じは消えて、初めて出会った頃のような……もっと大人の雰囲気が漂ってくる。

 こうやって落ち着いて聞くと、やっぱりリンネの声は大人っぽくて好みです。

 一時期は彼の束縛が強くて“家出”をしてしまい、強引なリンネに反発もしたけれど、やっぱり彼の側は落ち着く。

 落ち着いてはいるけど……。

『ねぇ……【顕現】はしないの……?』

 私も暖かな床に寝っ転がりながら尋ねると、リンネは少し微妙な顔をする。

 ……猫なのに器用だな。

『【名付け】のおかげで俺の存在も大きくなった。依り代を得る為にどれほどの生け贄が必要かわからん。それに……』

 リンネは【魔獣】の凶暴さとは違う【最上位悪魔】としての気品を漂わせる。

『ただ貪り、殺すだけが【悪魔】の本質ではない』

 

 【悪魔】は【神】と根本的に違う。

 神というモノが本当に存在するのか知らないけど、神は信仰しても何もせず、不幸や災害を天罰として与え、ただ人間の“無垢な心”のみを求める。

 逆に悪魔は、……低級な悪魔は馬鹿ばっかりだけど……人間の“価値”を知っている上位の悪魔は、その価値を高めるために“禁断の知恵”を与え、育みもする。

 

 簡単に言えば、どっちもブラックな企業だけど、悪魔企業はきちんと社員に“餌”も与えるのです。私も与えた海産物の数なら悪魔の中でもトップクラスでしょう。

 それはともかく、顕現していないリンネは物質界に長く留まれない。

『どうする? 言っておくけど、私はあと数百年は魔界に帰らないわよ?』

 我が儘という無かれ、こればっかりは譲れないラインなのですよ。

 私の強情さを諦めているのか、苦笑気味に牙を見せる。

『数百年で戻るなら、たいした時間ではないが……、名付けのおかげで数年くらいなら保つだろう。何か考えるさ』

『そっか……』

 何とかならないものかなぁ……。

 とりあえず、厄介ごとが片付いて気分が落ち着いてしまっているから、小難しいことは後で考えよう。

 

 リンネも同じ気持ちなのか、お日様の陽が注ぐ床で、二人でぐでぇっと広がっていると、私は唐突に誰かの視線を感じた。

 ……私の恥ずかしいモフり姿を覗かれたっ!?

 

   *

 

 ヘブラードは困惑していた。

 魔王城の中に入り、【魔獣】の気配を追っていたのだが、感じ取れたその気配は、現れた時のような怒り渦巻く凶暴さが薄れ、落ち着いていながらも強大さを増していた。

「もう一体……だと」

 それと寄り添うように感じられる“気配”は何者なのか。

 フランソワが目撃し、見捨てられた魔族達が崇める【黄金の天使】かとも思ったが、その気配は凶暴さや粗野な感じはなくても、恐ろしく禍々しい、純粋な“不吉”さを漂わせていた。

 ヘブラードには、それが悪魔かどうか分からなかったが、おそらく【魔獣(ビースト)】と同格の“邪悪”な存在に思えた。

「天使か悪魔か……」

 どちらにしろ、ここで対応を間違えれば魔王領は滅ぶ。

 

 魔族全体の為に一度は見捨てた魔王領。それを最後で見捨てられなかったとは、魔王失格だとヘブラードは自分を笑う。

 自分を裏切った“人間社会”への復讐のみでこれまで生きてきたというのに、最後の最後で“人間”らしい甘さを捨てきれなかった。

 復讐の道具として使うために、改革を施し、必要以上に関わったせいで愛着を持ってしまったのが間違いだったのか……。

 ならば、最後くらいは魔族の王である【魔王】として、魔族の為に死のう。

 そう決意して“死地”へと向かったヘブラードだった。……が。

 

「……………」

 

 のんびりと日向ぼっこをする二匹の“ネコ”に、あんぐりと開いた口を閉じることが出来なかった。

「…………二体の……【魔獣(ビースト)】…っ?」

 見た目も雰囲気もただの猫……。それなのに感じられる“気配”は凶悪なまでに禍々しく、ヘブラードの頭を混乱させた。

 伝説の存在である【魔獣(ビースト)】が二体とは、何の冗談なのだろうか。

 常識を覆されてヘブラードが呆然としていると、金色の猫のほうが慌てたように動き出し、それまでの緩やかな空気が嘘のように【悪魔】の威圧を解き放った。



 

モフモフ回です。主人公が壊れ気味でした。



読まなくても問題ない設定。


物語りに深く関わらないテンプレストーリー。


【お姫さまのために勇者を目指すのは間違いですか?】

【侍女無想・お嬢様に近づきたいのですか…?】


テンプレストーリー大好きです。

長編だとひねくれてしまいますが、べたべたのテンプレ短編も途中まで書いた物がありますので、そのうち投稿できればと思います。

モチプルンとお姉様の話も、あげたいですね。


それではご感想お待ちしております。


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ヘブラード、胃に穴が開いちゃう。 ぱっと見は猫同士のいちゃいちゃだけど。
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