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悪魔公女 〜ゆるいアクマの物語〜【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三章・獣の花嫁

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3-11 満九歳になりました ②(済)

 



 ガタガタゴトン。

「「「…………」」」

 どうしてこうなった?

 私は現在、コルツ領に向かう馬車の中にいます。

 

 カペル公爵と大司教様の要請によりコルツ領に向かう私には、沢山のお供や護衛が付いています。

 いつもの如く、ブリちゃん達女性護衛騎士団15名。私の従者が4名。お母様が付けてくれたヴィオを含めた公爵家侍女達が10名。リックの王室侍女達8名。聖騎士を含めた王室親衛隊精鋭騎士30名。文官3名。お父様が頼んだ傭兵団25名。王家のリックちゃんが居ますから、国内移動でもこんなものでしょう。

 それと、ば、ばる……なんとかさんは、なんと“熊さん”だったのです。

 お父様がいくつか所持していた貴族位を無理矢理渡されて【子爵】となった熊さんですが、困った顔をしながらも『仕方ねぇなぁ』と、笑って私の護衛を引き受けてくれました。

 その時に、独身だった熊さんは、なんとノエルくんを養子にしちゃったそうです。

 ナイスだ熊さん。これでノエルとも気軽に話せるかな? ご褒美に乾燥ワカメをあげたら、酒の肴にポリポリ食べたようで夜中に苦しんでいた。

 こうして悲劇は繰り返されるのですね……。

 

 普段馬車で移動する時は、八人乗り程度の馬車に私と従者達で乗るのですが、今回は乗っている面子が“アレ”ですので、従者達は他の馬車に乗ってもらい、気遣いの出来るヴィオが私の向かいに座っております。

 ガタガタゴトン。

「「「………」」」

 沈黙が重い……。

 私の両脇に座るのは二人の男の子。右にリック。左にノエル。二人は無言のまま、リックは私の右腕を掴み、ノエルは私の左手を握っている。

 どうしてこうなったっ?

「………、」

 ヴィオに視線で訴えてみるが、何故かヴィオは困っている私に慈愛に満ちた瞳を向けて、『分かっていますよ』とばかりに微笑ましげに何度も頷く。

 違う……。そうじゃない。本気でこの状況を何とかしてほしいんです。

 

 子爵となった熊さんが、ノエルをリックに紹介した時は普通でした。

 リックが12歳でノエルが11歳だから、二人はお友達になれるかなぁ……と思っていたのですが。

 それでは回想シーンに入ります。

 

 

『初めまして、リュドリック殿下。ノエルと申します』

『そうか。バルナバス殿の高名は知っている。剣技ならば聖騎士をも上回ると言われた子爵殿の子息は、非常に優秀だと聞いたが、ノエルは強いのか?』

『まだ修行中の身ですが……。傭兵団の中で、実戦で鍛えてもらっています』

『そうか。歳も近いことだし、旅の間、手合わせでもするか? 俺のほうが胸を貸してもらう形になるかと思うが……』

『本当ですかっ? リュドリック殿下の剣技は騎士にも匹敵すると聞きましたので、僕のほうがお願いしたいくらいです』

 そう言って二人は笑い合って握手しました。

 なんか若い男の子達の友情は癒されますね。ブリちゃんが鼻を押さえて蹲っていましたが、何かあったのでしょうか。

 それと、うちの侍女さん達、キャアキャア五月蠅いですよ。

 

 そこに、こっそり覗き見をしていた私が顔を出すと、何故か空気が変わりました。

 

『……ルシアっ!』

 どこぞの忠犬よろしく飛び出したノエルが、速攻で私の両手を握りました。

 以前にもそれをして熊さんに怒られたのに良いのでしょうか? ノエルも貴族になったのなら良いのかな?

『ノエル、お久しぶり……。大きくなりましたね』

『ルシアは……また綺麗になった』

 またそう言うことをさらりと言う……。ノエルも160センチくらいに背が伸びて、可愛らしくも格好良くなり、うちのメイドがまた騒ぎはじめる。

 夢の世界の記憶と違い、こっちの男の子は淀みなく女の子を褒めるのですね。

 

『ユールシアっ!』

 一瞬惚けていたリックがずかずか私達のほうへ歩み寄ると、いつものように私の腕を掴みました。

『行くぞッ』

『どこに!? じゃなくて、リュドリック兄様、痛いっ』

 またいつものように、私の腕を掴んだままリックが歩き出そうとすると、私は逆側に引っ張られた。

『殿下……ルシアが痛がっています』

 私の左手をしっかり握りしめたノエルが、低い声で言いながら、リックを睨んでいました。

『『…………』』

 無言のまま睨み合う二人。

 先ほどまで、あんなに和気藹々としていたのに、どうしてこうなったのでしょう? ……なんて、まぁ、私もそこまで惚けてはいません。

 恋心云々は勘違いだとしても、リックは私のことを“妹”のように思ってくれているのでしょうし、ノエルは“聖女様”として私を慕ってくれている。

 女の子としては少し寂しいですが、好意は好意です。ただ、二人とも独占欲が強いのかなぁ?

 痛がる我が子の手を先に手を放したほうが本当の母親……なんて話がありましたが、ここで私がそれを言ったら、間違いなく残念そうな目で見られるでしょう。

 それで喜ぶのは、うちの侍女か女性騎士達くらいです。ブリちゃんの足下に、さらに赤黒い水溜まりが出来て、サラちゃんが後頭部にチョップを繰り返しているのですが、何かに取り憑かれたのでしょうか?

 

 

 回想終わり。

 その後に熊さんが、気を使って(・・・・・)私達三人を同じ馬車に乗せてくれましたけど、それは違う。少年二人を気遣うんじゃなくて、私に気を遣ってくれ。

 

「「「…………」」」

 ダメだ、何も言えない。『手を放して』の一言が言えない。だって二人とも私が心配だから手を掴んでいるのだと思うから……。

 でも何が心配なのでしょう? 二人とも態度が子供で聞くに聞けない。

 

 王都からコルツ領まで馬車で五日……。

 結局到着するまで馬車の中はずっとこんな感じで、夜は約束通り二人で手合わせしていたみたいだけど、異様に白熱した熱心な稽古風景だったらしい。

 私はガーガー寝ていたから知らんけど。

 

   ***

 

 あれほど周りの人から心配されたコルツ領行きでしたが、そろそろ胃が痛みを訴えはじめていた私は、到着に喜びました。

 あの空間から解放された喜びは凄まじく、どのくらい嬉しかったかというと、迎えに出てくれたカペル公爵が嫌味を言っているのに、私が満面の笑みで30分以上一方的に会話をしていたと言えば分かるでしょう。

 

 到着したその日に、私は夜会に出席することになりました。

 名目は歓迎会ですね。子供が数日掛けて旅をしてきたのですから、本来なら今日は休ませるべきだと文官さんや騎士さん達が仰っていましたが、私が喜んで受諾したので、カペル公爵のほうが呆気にとられていました。

 このギスギスした空気に耐えられない、ひ弱な悪魔を許してください。

 

「「「…………」」」

 夜会には出席しましたが、挨拶に来た人達が、不機嫌そうなリックとノエルに挟まれている殺伐とした空気を感じ取って、そそくさと退散していく。

 手を掴まれていないだけで、状況が変わらない……。あ、

 

「カペル公爵様っ」

 

 私の顔を見て一瞬で背を向けたカペル公爵を目敏く見つけた私は、二人の隙を突いてカペル公爵に満面の笑みで近づいた。

「こ、これは、ユールシア嬢、愉しんでいらっしゃいますか……」

「私のような子供の為に、このような盛大な夜会を開いていただき、誠にありがとうございますっ」

 私の晴れやかな笑顔と挨拶に、カペル公爵の顔がわずかに引きつる。失礼な。

「……そうですな。ユールシア嬢のようなお子様が、ヴェルセニア公爵の娘と言うだけで、不相応に担がれるのは大変でしょう」

「まぁ分かってくださいますかっ。国王陛下のご命令ですもの、私にはとても逆らえませんので、カペル公爵様からガツンと言ってくださいませっ」

「……そ、そうですか、それは大変ですな……。ではユールシア嬢は、ご自分の【姫】の称号は荷が重いと……?」

「決められた当時は四歳でしたが、騎士のほとんどの方が賛成なされたみたいで、いつの間にか決まっていましたわ。他の公爵家のお嬢様方はどうして何も仰らなかったのですか?」

「それは、……血筋の問題で…。そ、そうだ、【聖女】の称号は重くはありませんか?ユールシア嬢の誘拐に、子供が多数巻き込まれたと聞いておりますが」

「リュドリック兄様やノエルも誘拐された子供ですのよっ。お話し聞きたいですかっ、呼んできましょうかっ?」

「い、いや、結構です。それで……本当に【聖女】と呼ばれるほどの神聖魔法を使えるのですかな? もちろん【祝福】程度は使えるのでしょうね……?」

「あ、見せますか? やりますか? 【祝福の宴】の上位魔法も使えますよっ。多分、【光の大天使】とか舞い踊ると思いますけど、そんなに“被害”は出ませんからっ」

「えっ!? いや、止めてくれっ、……し、失礼、急用を思い出しまして」

「そうですか……」

 

 何故か分からないけど、カペル公爵は嫌味とも言えない可愛らしい遣り取りだけで、足早に私から離れていった。

 私も思わず()で返してしまった……。しくじった。もっとドロドロの嫌味の応酬をして、“魂”の熟成具合を調べるつもりだったのに……。

 気疲れしていたので、もっとカペル公爵でリフレッシュしたかったのになぁ。残念。

 

 その後、私はどういう訳か二人に心配(・・)されて、ガッチリ拘束されました。

 

   *

 

「…『光在(ひかりあ)れ』…」

 

 大聖堂に担ぎ込まれた、見るからに重傷の子供に神聖魔法を掛ける。

 全身に包帯を巻いているけど怪我……ではないね。おそらくはやばい病気か、へたしたら【呪い】の類かも知れない。

 この世界に【呪い】は存在する。

 大抵の場合は【悪魔】絡みだけど、魔術でも似たようなことは出来るのです。そのほとんどは“罠”系かな。宝箱や道具に、自分以外の者が触れたら発動するように仕掛けるんだけど、術者が死んでも発動するから厄介なのですよ。

 この子供の場合は病気か呪いか分からないけど、【治癒】では無理っぽいので、オリジナルの魔法を使います。

 イメージするのは、私がゲームでも使ったことのない【ラストエリクサー】。

 アイテムじゃないから無くなったりしないけど、庶民的なのか貧乏性なのか、使うとドキドキするので、その分だけ効果は絶大だ。

 子供が瞬く間に、病気もわずかな怪我の痕さえ残らない、すっぴん状態に戻る。

 病気だったら怖いので、その子の母親や周りの神官にも掛けたけど、この世界に整形美容とかあったらやばかったね。元に戻しちゃうし。

 少し離れたところで何か女の子が混乱しているみたいだけど、私は関係ない。

 

「ありがとうございます、聖女様っ」

「おねーちゃん、ありがとー」

 いえいえ、どういたしまして。小さな男の子は良く分かってないようだけど、お母さんのほうは、もの凄く喜んで、だばだば涙を流していた。

「……あの、お布施なのですが……」

 あ、そう言うのもあったね。

 涙を拭いながらも、お母さんがおどおどしているのは、高額なお布施を払わなければいけないと思っているのでしょう。

 宗教施設と言っても、やっていることは病院と一緒なので、お布施と言いつつも金額の決まりはある。

 骨折くらいなら、月のお給金の三割程度が相場だけど、私が使った神聖魔法ぐらいになると、夢の世界での『数ヶ月間、集中治療室での入院治療費』程度が相場になる。

 

「神の御心のままに……」

 そう言って、おっちゃん神官の一人が請求書のような紙を持ってきた。

 ちらりと見ると、あきらかに“0”がいっぱい並んだ金額が書いてあったので、

「ていっ」

「どぁあああああああああああああああああっ!?」

 デコピンでツッコミを入れて、おっちゃん神官を数メートル吹き飛ばした後、私は母子にニッコリと微笑む。

「私は修行中の身です。お布施はいりませんわ」

「で、っでででで、でも」

 やばい、怯えられてしまったっ。……いつもの事だからいいけど。

「ここは聖教会ですが、私の使った魔法は、修行中の私が作った(・・・)魔法なので、それでお布施をいただくのは、神の御心に叛します」

 ね? ……と周囲の教会関係者を視線で【威圧】すると、全員がものの見事に視線を逸らした。……ちょっと、お母さんまで逸らさないでください。

 

「おかーさん、おかし……」

「ちょ、ちょっと、静かにしていなさいっ」

 子供のほうは飽きたのか、母親の鞄からお菓子を捜している。子供は自由だなぁ……と思っていたら、その子は見つけたお菓子を私に差し出した。

「おねーちゃん、あげるー」

「あらぁ、貰っていいの?」

「うんっ」

「ふふふ、素敵な“お布施”を貰っちゃいましたっ」

 甘いと言うなかれ、お金なんてカペル公爵(有るところ)から毟り取ればいいのです。

 

 神官達が怯えた視線を私に向ける中、良い笑顔で手を振る子供を連れて、引き攣った顔の母親は何度もお辞儀をしながら帰っていった。

 カペル公爵には何か言われるかも知れないけど、そろそろ彼にも気合いを入れて私に突っかかってきてほしいと思っているので、何の問題もない。

 それに……

「……」

 この貰ったお菓子……ちょっとおかしい。……駄洒落ではなくて。

 何故か知らないけど、あの子の“想い”…? “魂”の残滓のようなものを感じる。

 コレってもしかして、お布施じゃなくて、私に対する【供物】なんじゃないの?



 

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公爵の嫌味が一服の清涼剤! カペル公爵の嫌味の引き出しが空になる勢いでお話しよう!!
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