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悪魔公女 〜ゆるいアクマの物語〜【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三章・獣の花嫁

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3-03 満八歳になりました ①(済)

 



 ついに八歳になりました。

 今までと何が違うの? と思われるかも知れないけど、なんとなく【幼女】ではなく【少女】っぽい感覚は大切なのですよ。

 本当に普通に成長しているけど、私の身体ってどうなっているのかしら?

 

 さて……恒例の誕生パーティーですが、私が王都に来たことで、分割にすることもなく一カ所一回で済んでいる。……それが普通ですが。

 王城ではやりたくない。そう思っていても、公爵家令嬢として以上に“噂”が広がってしまい、すでに王都の公爵家別邸では出席者を収容しきれない。

 なにせ、この国にある宗教関連の大司教クラスが、妙に見栄えの良い男の子神官達を連れて私をチヤホヤしにやってくるのです。

 懐柔したいのか、距離を置きたいのか、どっちなの?

 

 それに、少しだけ思うところがありまして、私は今回の誕生パーティーを、さくっと終わらせるために王城でやることに決めた。

 だって、あいつと、どんな顔して話せばいいか、分からなかったんだもん……。

 

 

 それから数日後、私は【姫】としての権限をフルに使い、王都から出発した。

 言っておきますけど、サボりではない。

 お父様は外交のお仕事で他国に招かれることが多いのですが、なんと、その予定がかち合ってしまったのです。しかも結婚式とお葬式。

 そんな、お父様がお困りのところを、私が名乗り出て【姫】としてのお役目を果たそうと思ったのです。

 に、逃げた訳じゃないのよ?

 

 もちろん聖王国の外交の顔である【姫】ですので、学院も公休扱いになります。

 学院編? そんなの始まりませんよ?

 

 でも私は、お祖父様である陛下が孫贔屓するために任命された、名目だけの【姫】でしたので、お祖父様やお父様には反対されました。

 それでも孫娘には檄甘なお祖父様です。お祖母様やエレア様に裏から話を通して、お膝の上で、きちんと“説得”すれば、ちゃんと分かってもらえました。

 そこでやっとお父様も折れて、私は伯母様の居る隣国シグレスで行われる、王弟さんの結婚式に参加することになったのです。

 

 

「姫様ーっ、傭兵団の方が来ましたーっ」

 出発の当日、私の護衛騎士団の副団長になったサラちゃんが報告に来る。

 いつの間にか、サラちゃんが副団長になっていたんですよ、……殴り合いの末に。

 そんな基準で選んでほしくなかったわ……。

 聖王国で唯一の女性騎士団が、なんで、そんなに血の気が多いのよ……。

 

 傭兵団とは、いわゆる荒事専門の“何でも屋”さんです。

 なんと言うことでしょう、この世界には【冒険者】という職業はないんですよ。

 村に魔物が出たら普通に領主が兵士を派遣するし、迷宮なんて気の利いた物は存在しない。……夢のない話です。

 その代わりにあるのが【傭兵団】で、旅商人の警護や、貴族の頼み事を引き受けてくれる人達なのです。

 

 王都にある傭兵団はいくつかあって、私がシグレスに行く条件として、お父様が信頼している傭兵団も連れて行くことになりました。

 結局、今回の結婚式に参加する私の護衛は、護衛女性騎士団15名。公爵家の兵士20名。料理人や世話係8名。傭兵団28名。そして私の従者4名の、総勢75名。

 ……多いよっ。

 いや、国の代表として行くのなら、多くないのかな?

 お世話係の中には、お母様の希望でヴィオも付いてきてくれるそうです。

 無難な人選だね。どんなに有能でも、ノアやティナはまだ子供ですし。

 ブリちゃんやサラちゃんは、私をシグレスの騎士達に“自慢”する為だけに、格好いい並び方をずっと練習しているし……。

 うん。お父様やお母様が、不安になるのも仕方ないね。

 

 ま、いいや。とりあえず、来てくれた傭兵団の代表に挨拶しましょう。

 実を言うと、どんなダンディーなおじ様が来てくれるのか、楽しみではあるのです。

 

 熊五郎でした。

「姫さんっ、俺達が付いているので、旅の安全は任せてくださいよっ」

「よろしく、熊さん」

 速攻で沢山のモノを諦めた私は、傭兵団の団長さんを、素で『熊さん』と呼んでみたら、逆に喜ばれた。

 でも神様は私を見捨てたりしなかった。

 悪魔である私が神に祈ろう。ここに救いはあったのだと。

 

「ルシアっ!」

「ノエルっ?」

 そうなのです。あの健気にも私を守ってくれた、あの可愛いノエル君がいたのです。

 二年ぶりの再会です。ノエル君も10歳になって、背も大きくなって男らしくなっているではありませんか。

「また……逢えた」

「う…うん」

 ワンコのように駆け寄ってきたノエルが、私の両手をそっと自分の手で包み込んで、可愛らしい顔で微笑んでくれた。

 な、なんか、スキンシップが激しい……。

 

「こらっ、ノエルっ!」

 ゴチンっ! と、見るからに痛そうな拳骨がノエルの頭に落ちた。

「……~~~っ」

「いきなり姫さんの手を握るたぁ、どういうこった!?」

 熊さん、おかんむりです。

 この場合は熊さんが正しいけど、もう一発、拳骨を使おうとしたので、思わず私も手が出てしまった。

「ていっ」

「どぉおおおおおおっ!?」

「ひっ」

 私のデコピンに、熊さんと、ついでにティナが額を抑えて蹲る。

 ノエルが私の手を取った辺りで、ティナが異様な目付きで私に迫って来たので、ついデコピンしてしまった。

 ちなみに熊さんとティナで、デコピンに込められた魔力は500倍ほど違う。

 危ない危ない、左右間違えたら大惨事だったね。

 

「熊さん、ノエルは友達だから、許してあげて?」

 しおらしくお願いしたのに、熊さんもティナもノエルさえも蹲って動かず、ブリちゃんとサラちゃんは手を取り合って怯え、誰も私の話を聞いてくれなかった。

 

 

「いや、さすがは聖女様だなっ! あんな、いい一撃貰ったの十年ぶりだよっ」

 意外と早く復活した熊さんが、豪快に笑っていた。

 ビバ、聖女様。

 ある程度の非常識も『さすがは聖女様』で許される素敵な世界です。

「だが、ノエルっ、いくら友達でも【姫】さんにあれは駄目だ。すんません、こいつは新人なんで」

「ご、ごめんなさい、ルシア……様」

 怒られて、しゅん……とうな垂れるノエルは可愛い。

 

 突然で驚いたけど、傭兵団長の、ば、ばるなばす……? ――熊さんが言うには、ノエルは一年前に加入した期待の新人なんだって。

 まぁ、ノエルは無茶苦茶才能あったから当たり前だね。

 

「ところでノエルは、どうして傭兵団に……?」

「う、うん……その、強く……なりたかったんだ」

 ノエルは私をチラチラ見ながらそう言った。

「どうしたの……? 男の子なんだから強さに憧れるのを、私は恥ずかしいとか思わないよ?」

「ぁ……、うん」

 小動物のようにモジモジと照れているノエルに、熊さんはニヤリと笑って彼の頭を乱暴に撫でていた。

「男はそういうこともあるのさっ、姫さんも応援してやってくれ」

「うん、わかったー。がんばってね、ノエル」

「は、はいっ」

 私が応援すると、ノエルは真っ赤な頬の良い笑顔でそれに答えてくれた。

 やっぱりノエルは可愛い。……引き抜きできないかしら?

 

   *

 

 それから私達の旅が始まった。

 隣国シグレスまで、普通は馬車で二週間。でも私に野宿はさせられないと、点々とある宿場街を経由するので三週間の道のりになる。

 順調で平穏な旅に思えたけど、十日ほどしたある日、ついに私達は【もんすたー】に遭遇してしまったのです。

 

『グボォ』

 

「はぐれ“カバ”だっ、気をつけろっ!」

 熊さんの声に傭兵団と兵士が前に出て、護衛騎士団が私の周囲を固める。

 ノエルも前に出なくても、中衛として剣を構えながら、熊さん達に支援魔法を掛けていた。

 ノエルには旅の途中でヴィオが、神聖魔法や普通の魔法を教えている。

 ちなみに私は教えていない。私の説明はアバウトすぎて、理解してもらえなかったのよ……。くすん。

 黄色いカバはそこそこ強かったけど、なんとか撃退できた。

 しかし……本当にカバが出るんだね。本気で旅人を襲うとは思わなかった。

 

「森でエルフから追い出されたのかもしれねぇな……」

「……え?」

 熊さんの話によると、この近くの森にエルフの集落があり、大規模な農地開拓で森を切り開いているらしい。

 君臨すれども統治せず。それでいいのか、森の住人。いい加減にしろ、塩大福ども。思っていたエルフと、なんか違うわ……。

 

 まぁ、そんなこともありまして、三週間後、無事にシグレスに到着しました。

 私にとっては初めての異国です。シグレスはどんな国なのでしょう。

 結局、ノエルとはあまりお話できなかったなぁ……。



 

誤字等のご指摘ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
ああ、そういえば塩大福………。 ああ、塩大福塩大福。 おいしそうな種族名だけど、悪魔的にはおいしいのかなあ?
[良い点] 勇者を骨抜きにした大聖女(悪魔属) [気になる点] 大規模な農地開拓をする塩大福、なんか違う!
[一言] 忘れていた設定、”塩大福”
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