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悪魔公女 〜ゆるいアクマの物語〜【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三章・獣の花嫁

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34/76

3-00 暗い祈り(済)

第三章の始まりです。

 



 その国は荒んでいた。大地も。空も。人の心でさえも……。

 

 この痩せた土地は“人”が住むのに適した場所ではなかった。その為に、遙かな昔から各国の王達はそこを【流刑地】と定め、【開拓】の名の下に、大量の【人材】を送り込んできた。

 罪を犯した者と、罪を犯した“名目”で捕らえられた者がその地へ送られたが、それ以上に多かったのが、異種族との混血児であった。

 

 人とは違う異形の者達。獣の風貌や鱗の皮膚を持つ者。額から角を生やした者や、は虫類の瞳を持つ者。

 彼らは“人外”の血を引いていても、片親は人間であり、人の心を持つ者が大半だ。

 それでも人間達は彼らを疎み、荒れ果てた僻地へと追いやった。

 

 この荒れた土地で生き残る為に、彼らは同じ境遇の“仲間”を、殺し、奪い、犯して、歪な混血は進み、新たな種族となる。

 

 黒い髪、黒い肌に銀の瞳。……彼らはいつしか【魔族】と呼ばれるようになった。

 

 生まれつき人外の血を受け継ぐ彼らは、魔力が人間より強く。荒廃した土地で生きる為に他を思いやる心を忘れ、争いに明け暮れる彼らの流した血は、怨念により大地を汚し、発生した障気は天に昇って太陽の恩恵さえ遮り、さらに大地を荒廃させていった。

 

 そんな国を古びた王城から見つめ、その男は微かに溜息をつく。

(この国はもう限界だ……)

 強い者は弱者を虐げ、弱者はそれを当たり前のように受け止め、奪われることを当然のように受け入れている。

 強者も何も考えず、弱者が居なくなれば、国が強くなると思い込んでいる。

 このままでは数百年も経たないうちに、魔族は弱体化して滅びてしまうかも知れないと言うのに。

 

 男は荒んだ街から目を逸らし、王城の廊下を一人歩く。

(……強い“力”が必要だ)

 今更、魔族達の意識を変えるのは不可能だ。奪うことしか知らない魔族達に、奪わないことを教育するのは普通に考えて無理だ。

 従わせるしかない。

 強者も弱者もまとめて従わせる強大な“力”がいる。

 

 男が赴いた地下の祭壇がある場所に、巨大な召喚魔法陣があった。

 大きさだけでも、悪魔召喚事件で使われた物の数倍の規模を誇るだけではなく、数百人の魔族が、かれこれ10年以上も魔力を注ぎ続けている。

(だが、まだ足りない…)

 アレ(・・)を呼び出すのならば、さらに数年は魔力を込めたほうがいい。

 

 永い時を経た【大悪魔(アークデーモン)】の中から現れると言われる、三種の【支配者級(マスタークラス)】……。

 

 その中のひとつでも呼び出そうとするなら、どれだけ準備しても安心は出来ない。わずかでも油断をすれば、その日が魔族の滅亡の日となるだろう。

 

「滞りなく進んでいるか?」

 男が召喚陣に魔力を注ぐ作業中の者達に声を掛けると、その監督をしていた大柄な武将が男の前で跪く。

「現在は最低規定量の七割程かと……。現在の魔力蓄積量でも大悪魔(アークデーモン)級なら10体程度は呼び出せるでしょう」

「……そうだな」

 武将の言いたいことも理解できる。

 存在するかも定かではない“伝説級”の存在に頼るよりも、たった一体解き放つだけで人間国家に多大な損害を与える大悪魔(アークデーモン)のほうが扱いやすい。

 知性が高い為に繊細な仕事を任せているが、彼は武人であり、大悪魔(アークデーモン)を解き放つことで現れるであろう人間の【勇者】と刃を合わせることを望んでいる。

 

 だがそれでは駄目なのだ。

 ただ人間を滅ぼし、奪うだけでは問題の先送りにしかならない。

「…………」

 男は疲れていた。

 人間共の領地を奪って豊かになれば、魔族も争うこともなくなり、きっと穏やかに過ごせるようになると言う期待は、とうに捨てた。

 男は魔族自体に期待するのを止めていたのだ。

 

「作業を続けよ。計画に変更はない」

 男は鋭く言葉を放つと、魔族随一と言われる自分の魔力を召喚陣に注ぐ。

 その自暴自棄なまでの振る舞いに、幼い頃から仕えていた武将は寂しげに俯き、新たに決意して男の命令を受ける。

「この命に代えて……魔王様」

 

 魔族に崇める神は居ない。魔族の中で最強の存在である【魔王】こそが神であり、それに勝る者はいない。

 それでも武将はあえて祈る。

 その願いを聞き届けるであろう【悪魔】に、心から祈る。

 いつしか彼の心に平穏が訪れることを……。

 

    *

 

 その頃、とある【悪魔】は、学園にある普通の汎用召喚魔法陣に、こっそり無駄に大きい魔力を注ぎ込んでぶち壊し、その時に召喚された大量の【ワカメ】をどうしようかと、従者達と共にワカメを乾燥させながら、日々その使い道に頭を悩ませていた。



 

読了、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
わかめーーーーっ!? あれ? 何の話を読んでたっけ? 海藻と海草のハイブリッドの話だっけ?
[一言] 海苔じゃなくて乾燥ワカメあげたのか・・・
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