2-16 七歳になりました。……そして(済)
第二章の最終話です
あの【月夜の茶会】の後はなかなか大変でした。
上空で魔力が切れかかって大変だったけど、私に気付いたファニーがふわふわ飛んできて、無事に地上に降りることが出来ました。
あそこでミレーヌに降ろしてもらったら格好悪かったよね……。
それとあの地域で局地的な地震が起きたらしく、夜中に地域住民が起き出して、騒いだり、神に祈ったり、喧嘩が起きたり、宴会が始まったりして、領主代理のミレーヌが岩盤崩落でも生き残った侍女達を連れて、住民を宥めてまわっていた。
君達、ホントに真面目だなっ。
……え? た、たぶん、私のせいじゃないよっ。
一番困ったのが帰り道。
来る時、やけに速いと思ったら馬車のおかげではなく、馬を吸血鬼化していたおかげで、地震騒ぎのせいで色々やってたら夜明けが来て、帰れなくなった。
でもティナとファニーが魂の回収をしていたから、それで魔力を回復して、私は四人を掴んで全速で空を飛んで、帰ることが出来たのです。
吸血鬼の魂は美味しくない。
ちなみにその日、いくつかの町や村で、金色の光る未確認飛行物体の目撃があったらしい……。
そんな訳で、私達は朝食前にヴェルセニア公爵家に辿り着きました。
でもこっそり部屋に戻ったら、ヴィオが待ち構えていて、出掛けるとは言っておいたけど、朝帰りだとは思っていなかったらしく、ガッツリと叱られた。
……私、悪魔なのに。
「ユルお嬢様……」
「うん……」
ビシッと整列した従者達が、私の前で一糸乱れず跪く。
その顔には、以前のような弛緩したり、複雑な感情に張り詰めた表情を見せることもなく、あのファニーやニアでさえ、緊張感を持ちながらも、悠然と落ち着いた雰囲気を見せていた。
こんな子供は嫌だ。
「……一体、どのような“荒行”を行えば、こうなるので……?」
「……秘密」
乙女には秘密がいっぱいあるのです。
あの子達は、比較的平穏に受け入れられた。基本の部分が悪魔だからどうかな? と思っていたけど、魂の記憶も受け継いでいるみたいで、仕事も問題ない。
問題ないどころか“完璧”すぎる。
特にノアとティナは、婆や達が感心するくらいの仕事ぶりで、そろそろ“見習い”の文字が取れかかっているのですよ。
なんで私は何も出来ないんだろ……。
そして私は、ついに七歳になりました。
今回の誕生日パーティーは分割方式ですっ。……なんだそれっ!。
誕生日の二日前に王城で行い、翌朝すぐに出発して、当日にトゥール領でパーティーを行うと言う強行軍方式。
仕方ないので、シェリーやベティーも強行軍に巻き込み、どちらも参加させた。
ティモテくんやリックは王城のほうに来てくれたけど、去年よりも貢ぎ物の“質”が上がっていた。このボンボンどもめ……。
そしてトゥール領のパーティーには、ミレーヌを呼びつけた。夜だったし。
彼女が王都以外の催しに参加するのはほとんど無いらしく、最近では茶会ばっかりでミレーヌ自体が珍しかったので、【白銀の姫】の参加は結構な騒ぎになった。
予定通り、そのおかげで私への挨拶が減りました。
ありがとうミレーヌ。君の献身と犠牲は忘れない。
まぁ、彼女を“友達”にしたのは、こんな事じゃなくて、ちゃんとやって欲しいことがあったんだけどね。
*
「ユールシアっ、魔術学院の新入生代表の挨拶は、お前がすることになったからなっ」
……はい? 何をバカ言ってんすか、お祖父様。
年が変わり、魔術学院の入学する直前になって、国王陛下がそう言い放った。
本来、魔術学院の入学式に新入生代表の挨拶は無い。そりゃそうよ。
昔はあったらしいけど、七歳の子供に挨拶は難しく、当時のトラウマを抱えた貴族達が大人になって廃止させたのです。……どんな挨拶をしたの?
それをお祖父様が鶴の一声で復活させた。
じじバカですね、お祖父様。……迷惑以外の何ものでもない。
「オーベル伯爵領での地震騒ぎで、ユールシアも活躍したそうじゃないかっ。学園長も乗り気で、壇上で神聖魔法を使ってほしいとも言っておったぞっ」
「……うっ」
あの地震騒ぎの後、私も一応責任を感じて、怪我人の治療をしていたんですよ。
そこに悪魔召喚事件で捕まっていた子供がいたらしく、私があの場にいたことがバレてしまった。
私も最初は否定したんですよ?
でもその後に、地震で“事故死”してしまった伯爵の代わりに、ミレーヌが後を継いだんだけど、死体も残らない事故死は不自然で、問題が起こりそうだったんで、私が一晩中、彼女と一緒にいたことを証言する羽目になった。
エレア様にもその後、めっちゃ怒られた。
そんで学園長も噂の“私”に是非ともやってほしいと言う話になったらしいのです。
ミレーヌの相続で私の名を使ったから、お祖父様にも迷惑掛けちゃったしなぁ。
……仕方ないか。嫌だけど。
魔術学院入学式の当日。
入学するのはトゥール領の学舎ではなく、名のある貴族家のご子息ご息女は、みんな王都の学院に入学することになる。
私も例外ではなく、年が変わる前から王都の別宅に、お母様や婆や達や護衛騎士達と一緒に移り住んでいるのです。
お姉様方……? 去年からお隣の国の、伯母様のところに留学中ですわ。
「新入生代表の挨拶。ユールシア・ラ・ヴェルセニアっ」
「……はい」
かなりテンションは低めです。
歩くだけでハラハラしている、お父様やお母様の視線を受けながら壇上まで進むと、貴族席から私と同じ制服を着た、シェリーとベティーが小さく手を振ってくる。
二人とも、制服姿可愛いなぁ……。
同じ制服着ているのに、どうして私だけ同級生達が遠巻きに離れるのかしら……。
挨拶内容は割愛。たどたどしくて知り合いからは微笑ましい目で見られたわ。
知り合いからはね……。
私を初めて見るほとんどの人達は、驚くような顔をして、私の話を聞いているようには見えなかった。ちゃんと聞きなさいよ。いや、聞かなくてもいいけど。
私、この学校で上手くやっていけるのかなぁ。
でもね……私は【人】として【悪魔】としてこの国で生きていくと決めた。
聖王国の【姫】として表側に立ち。
貴族の裏側の一部から支持を受け。
この国の裏の裏……一番暗い処から【悪魔の公女】として、大事なものだけを守る。
この学園の生徒達も、私の今を形作る、大切で大事な“人間”達だ。
私が救ってあげるよ。……悪魔としてだけど。
愛しいあなた達に……。
「『皆に生の祝福を』……っ!」
私の【言葉】に、膨大な光が溢れ、入学式会場を無数の【光の天使】が飛び舞う中、【光の中級精霊】達が集まり、巨大な【光の大天使】さえ現れて、その場にいた全ての者達に【祝福】を与え……会場から悲鳴や混乱する叫びが響いた。
突然感極まった私の暴挙に、当然のことながら入学式はそこで打ちきりとなり、魔術学園の新入生代表の挨拶は、来年からまた廃止となった。
また、やってしまった……。
お読みくださってありがとうございます。





