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発症3日目 マスクを毟り取られてしまいました

お読み頂きましてありがとうございます。

 点鼻薬が良く効いたのか鼻水はなりをひそめ、咳とくしゃみが多くなってきた。熱も平熱まで下がっており、肺炎による重症化は無いと思われる。


 問題は血栓症による重症化だ。足の小指に出来たしもやけ症状はビタミンEクリームや保湿クリームを塗っても改善しないところをみると血栓症だ。


 他にも内出血箇所が見つかっており、脳梗塞や心筋梗塞に発展しないことを祈るしかできない。以前、境界型糖尿病が見つかった際に行った血管年齢検査で動脈硬化箇所が見つかっていないことだけが救いだ。


 あまりにも暇なのでベランダでストレッチを行う。7日間寝て過ごすと筋力が落ち、通勤時の階段の上り下りがつらくなることが目に見えているためだ。ついでに溜まっていた洗濯物を干す。


 シーツも替えたいが干したシーツも取り込む際にウイルスまみれになることを考えると8日目に部屋の掃除と共に行うことにする。発症から2週間目くらいから3ヵ月目が免疫抗体が高い時期なのでシーツなどのリネンはその時期に合わせて洗濯交換していくつもりだ。


 洗濯を干し終わったとき、救急車と消防車のサイレンが鳴りひびく。近いなと思っていると自宅マンションの前で止まった。妻が表に出て行くと直ぐに帰ってきた病人らしい。良かった。さすがに自己隔離から小火とか最悪すぎる。


 ここ数週間、休日の昼間は2、3時間おきに救急車のサイレンを聞くことが多い。コロナ重症化なら救急病院に体制が出来ているから良いが違う病気だったら大変だ。


 そんなふうにベランダから救急車の様子を窺っていると眩暈が襲ってきた。軽症とはいえ発熱直後に無理をし過ぎたのだろう。慌ててベッドに戻るとそのまま気を失ってしまったのだった。


















「アウレリウス王。勇者召喚、成功しました。」


 気がつくと4メートル四方の四角い石畳の中央付近に寝かされていた。夢では無いらしく石畳の冷たさが身体に伝わってくる。少なくとも意識喪失して救急車で運ばれたのではないことは確かだ。


「勇者よ。王の面前ぞ。ぼやっとせず早く起きぬか!」


 ひとりの爺さんが近寄ってくると揺り起こされる。頭を振り、非常に強い倦怠感を振り払う。嘔吐感も込み上げてくるが寸でのところで無理矢理飲み込む。周囲を見回すと奥にでっぷりと太り王冠を頭に載せた男が、剣を持った数人の兵士と棍棒のようなものを持った髭を蓄えた人が3名くらい見えた。


「ここは何処ですか?」


 まさか異世界転移?と思いつつ、目の前の爺さんに訊ねる。


「ボソボソと何を言っているか解らぬ。このマスクを外さぬか!」


 拙い。世間ではマスクをしていて喋った言葉が聞き取りツラくても問題視されない癖が出てしまった。必死にマスクを毟り取ろうとしてくる爺さんと攻防を繰り返す。


「いや。これは外せません。」


 ここが異世界でも現代世界でもコロナ感染者がマスクもせずに喋るのは重罪だ。


「王の面前ぞ。無礼であろう。それとも何か見せられないものでも隠しているのか?」


 何か疑われているらしい。そうこうしているうちにマスクを毟り取られてしまった。新鮮で冷たい空気が肺に入り込んでくる。拙い。くしゃみ3連発と止まらない咳を連発する。


 慌てて肘を使って口を塞ぐが、それも爺さんが押さえつけるので爺さんに向かって2発くらいの咳を、さらに周囲に向かって飛沫が充満していった。


 ゼーゼーと喘息の初期症状のような呼吸になる。それもやがて普通の呼吸に戻っていく。とりあえず喉や肺を痛めなかったらしい。


「何も無いでは無いか。何故其処まで必死に顔を隠したのだ。」


 爺さんの鋭い視線が飛んでくる。まるで罰を与えんばかりだ。こちらはコロナを感染拡大させないために必死にマスクを死守しようとしただけだ。それを毟り取った上で罰まで与えられては堪らない。


「いえ・・・あの・・・風邪を引いていまして、うつしてはいけないので、それで・・・。」


「風邪か。ここに居るものたちは風邪くらいで倒れたりせぬぞ。それとも何か特別な風邪なのか?」


 こちらの必死さがようやく伝わったのか質問攻めだ。だかあれだけコロナウイルスの飛沫を浴びているのだ。もう遅い。


「いえ至って普通の風邪です。」


 俺が経験した症状はどれもこれも普通の風邪症状だ。血栓症っぽい症状も出ているが専門家でもない俺は説明できない。


「どんな症状なのだ。異世界の風邪とこちらの風邪は違うのか? ここにある水晶に手を翳してから答えよ。嘘偽りを申せば、解っておろうな。」


 爺さんが懐から水晶の玉と小さな座布団を取り出して、その場に置く。嘘を吐くと解る仕掛けらしい。


「初め熱が出ました。その後、鼻水、鼻づまり、咳、くしゃみと続きます。平均寿命を超えた老人や身体が弱い子供は稀に死ぬこともあります。」


 自分の身に発生した症状だけを淡々と説明する。


 実際にコロナ感染症での死亡例は大半が80代以上で稀に基礎疾患のある人、さらに稀に健常者であるから嘘は吐いていない。健常者の死亡例も行政解剖を行えば、何か基礎疾患が発見出来たであろうが遺族が行政解剖を嫌がり、解剖医も感染者の解剖を嫌がるため、原因不明のままになっているのが現状だ。


「嘘偽りはないようだな。至って普通の風邪だ。このマスクは風邪をうつさないものだったのか?」


「ええまあ。少なくともくしゃみや咳といった水分を含む飛沫は通しません。」


 コロナウイルス自体は通すと言われているが咳、くしゃみのときに口から出る飛沫は通さないので間違いでは無いはずだ。まあそれを言ったら布マスクでも飛沫の大半は通さないのだ。


 コロナの初期に時の首相の名前の付いたマスクの悪名が叫ばれたが、布マスクでも一定の感染拡大効果を持つことが解っただけでも十分に予算を使った甲斐があったのだ。


 結局、あのマスクは日本製工業品の低品質を喧伝し世界に向かって恥を掻いただけで、製品を製造したメーカーと発注した行政担当者の頭がお粗末だっただけであろう。


異世界転移したところで今日の掲載分は終わりです。

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