50話 偽物参上!・その7
「じゃあ、次はあたしの試験ね!」
真打ち登場とばかりに、タニアが胸を張って言う。
その身から放たれるオーラは、圧力さえ感じてしまう。
ロックは自然と身構えた。
「あたしの試験は単純明快よ」
あ。
なんとなく、この後の流れを予想できた。
「決闘よ!」
やっぱり。
「決闘……ですか?」
「そう。あたしと戦って、勝利をもぎとってみせなさい。そうすれば、試験は合格よ」
「タニア殿と……」
ロックの顔が強ばる。
それはそうだ。
相手は、最強種の中でも戦闘力に優れている竜族。
そんなタニアと戦うことになれば、苦戦は必須。
下手をすれば大怪我をしてしまうだろう。
「タニア、あまり無茶は……」
「……大丈夫。ちょっと脅かしてやるだけだから」
俺にだけ聞こえる声で言いつつ、タニアはパチリとウインクをした。
なるほど。
タニアは色々と考えているみたいだ。
決闘をすれば、タニアが負ける可能性はゼロパーセントと言ってもいいだろう。
そうやってロックに負けを突きつけて、弟子入りを諦めさせる、という考えなのだろう。
うん。
カナデと違って頼りになるな。
「なんか今ディスられたような気がする!?」
鋭いな。
でも、食欲を優先していたから、仕方ないと思うぞ?
「ほら、ついてきなさい。家の中で暴れるわけにはいかないでしょう?」
「はい!」
やる気たっぷりのロックと一緒に、タニアは外に出た。
俺とカナデも追いかける。
裏庭でタニアとロックが向き合う。
「ルールは、そうね……どちらかが負けを認めるか気絶するまで。武器と魔法はアリ。時間制限は十分。こんなところでどうかしら?」
「はい、問題ありません」
「そう。なら……」
ぶわっと、タニアを中心に熱風のようなものが広がった。
タニアの闘気だ。
戦闘モードに入ったタニアは、不敵な笑みを浮かべる。
「来なさい」
「くっ」
ロックはタニアの覇気に飲み込まれて、足を止めてしまう。
それが大きな隙となる。
タニアが動いて、一瞬でロックの横に回り込んだ。
その場でくるっと回転して、尻尾の一撃を叩き込む。
「ぐはぁ!?」
巨漢のロックが嘘のように吹き飛ばされてしまう。
何度も地面をバウンドして、ようやく止まる。
「ぐっ……」
「あら、驚いたわね。まだ意識を保っているなんて」
「こ、これくらいのことで……負けて、いられませんから……!」
ロックは立ち上がる。
が、今の一撃で相当なダメージを負ったらしく、足が震えていた。
「勝負は……これからです!」
「ふーん……いいわね。そういうの嫌いじゃないわ」
タニアが笑う。
その笑みは、獲物を狙う猛獣のようだった。
――――――――――
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「……ここまでね」
ロックは意識を失うことなく、負けを認めることもない。
ただ、立っているのがやっとの状態だった。
そうして十分が経過して、決闘が終わる。
「決着はついていないけど……どうする? 延長する?」
「……いえ」
限界だったらしく、ロックは膝をついた。
そのまま頭を下げる。
「私の負けです。己の未熟さを痛感いたしました」
「そう……それを理解できただけでも、あなたは見どころがあるわ」
「ありがとうございます!」
ロックは感謝の言葉を口にして……
次いで、予想外のことを口にする。
「私は、タニア殿の強さ、心……そして、懐の大きさに感服いたしました!」
「そ、そう? まあ、あたしくらいになればそれくらい……」
「なので、まずはタニア殿に弟子入するべく、精進したいと思います!!!」
「へ?」
タニアがぽかんとして……
ややあって我に返って、どうしてそうなるの!? という顔に。
「おかしくない、その結論!?」
「いえ、いきなりレイン殿に弟子入りしようとした自分が浅はかでした……まずはタニア殿から、ですね!? そういうことですね!?」
「そんなわけないでしょ!? あんたの思考回路、どうなってんの!?」
「タニア殿……いえ、師匠! これからは師匠の真似をして、がんばりたいと思います!」
「がんばらなくていいわよ! っていうか、人の話聞きなさいよ!?」
「では、これにて! 次に会う時は、成長した私の姿を見ていただきたい!」
どこにそんな元気が残っていたのか、ロックは素早く立ち去ってしまう。
その背中に向けて、
「だから、人の話を聞きなさぁあああああいっ!!!」
タニアの叫び声が響くのだった。
――――――――――
後日……
竜族のタニアを名乗る巨漢が出没するようになったらしい。
うん。
俺達はもう知らないぞ。




