191話 小悪魔天使は懐かれた・前編
「あら?」
とある日。
街をのんびりと散歩していたイリスは、小さな猫を発見した。
茶の毛並みが愛らしい、子猫だ。
にゃーにゃーと、どこか心細そうに鳴いている。
「あらあらあら、可愛いですわね」
イリスはしゃがみ、そっと指を差し出した。
子猫はとてとてと歩み寄ってきて、イリスの指先の匂いを嗅ぐ。
それから、ぺろぺろと舐める。
「ふふ、いい子ですわ」
イリスは、もう片方の手で子猫の頭を優しく撫でた。
子猫はさらに甘えるようになり、小さな頭をイリスの手にこすりつけた。
さらに、ごろんと転がりお腹を見せる。
「まあまあまあ♪」
イリスは目をキラキラと輝かせて、子猫のお腹を撫でる。
すると、子猫はくすぐったそうに身をよじらせて。
でも、嬉しそうに鳴いて目を細くして。
そんな反応がたまらず、イリスは我を忘れて子猫をかまい倒した。
「……そういえば」
30分ほどじゃれあったところで、ふと気づいて周囲を見る。
親猫が見当たらない。
まさか、この歳で独り立ちしているわけではないだろう。
「飼い猫……ではなさそうですわね。首輪をしておりませんし。とはいえ、この人懐っこさは逆に気になるところですが……ふむ?」
どうしたものか、とイリスは迷う。
単純に、少しの間親猫と離れているだけなら、これ以上、構わない方がいい。
しかし、そうでないとしたら?
なにかしらの事情で親猫とはぐれていたとしたら?
子猫一匹では生きていけないだろう。
カラスに襲われてしまうかもしれない。
あるいは、馬車にひかれてしまうかもしれない。
「わたくしと一緒に来ますか?」
とても見捨てることはできず、イリスは、子猫に手を差し出した。
――――――――――
「「「ふぁあああ~~~♪」」」
カナデ達はとろけるような笑顔になっていた。
その視線の先で、イリスが拾ってきた子猫が、夢中になってミルクを飲んでいる。
よほど空腹だったのだろう。
家に連れて帰ってよかった、とイリスは笑顔になる。
「にゃー」
「あら?」
満腹になった子猫は、イリスのところへ。
ぴょんと跳んで、イリスの膝の上に乗った。
そのまま丸くなって、すやすやと寝てしまう。
「「「か、可愛いがすぎる……!!!」」」
その場にいた全員が、子猫の愛らしさに心を撃ち抜かれていた。
「それで……イリス、この子はどうしたの?」
「カナデさんの妹ではないかと思い、連れ帰りました」
「どういうこと!?」
「カナデの姉じゃないかしら? この子の方が賢そうよ」
「どういうこと!?」
「もしや……カナデさまの隠し子なのでしょうか?」
「どういうこと!?」
「冗談はここまでにして」
イリスがくすくすと笑う。
それから、子猫を見つけて、連れ帰った経緯を説明した。
「なるほどなー。先のことはともかく、保護するのはうちは賛成やでー」
「わたし……も」
「ボクも、それがいいと思うな」
他のメンバーも頷いた。
ただ、主であるレインがいない。
「レインさまはどちらへ?」
「冒険者の用事みたいで、今日は遅くなると言っていたのだ」
「タイミングが悪いですわね。この子のこと、色々と聞きたかったのですが」
ビーストテイマーであるレインなら、子猫が置かれている状況について、詳しく察することができるかもしれない。
それと、生態にも詳しいだろう。
育てるならこうするべき、などなど、色々とアドバイスがもらえたに違いない。
しかし、今はそれは無理で……
自分達だけでなんとかしなければいけないという、なかなか大変な状況に置かれていた。
「食事は、ミルクだけでいいのでしょうか? 固形物は……?」
「温かい方がいいのかな? でも、熱すぎるとダメ……わふー?」
「べ、ベッドなんて用意した方が……ああでも、いざとなればワタシのベッドを使っていただければ!」
「「「……」」」
なにもわからない。
一同、どうしたらいいのだろう? と顔を青くした。
結局……
レインが帰ってくるまで、ドタバタ騒ぎになるのだった。
そんな中でも、子猫はマイペースに過ごしている。
そういうところは猫なのだなあ、と一同、妙な感心をするのだった。




